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曖昧な矛盾だけど

作者: 20世紀

「今日で自分を変えるんだ」

そんな虚ろな決意を心に浮つかせたのは、これで何度目か。

別に変わりたい理由が明確にあるわけではない。このままではいけないだろうという漠然とした不安感が定期的に訪れる。

定期的に訪れるということは、「本当の自分」の真意であると思ってもいいかもしれない。とにかく、すべて明確ではない。

自分をどうすれば変えられるのか、何のために変わるのか、いつから変えるのか、どうなったら変わったと言えるのか、

これら全て分かっていない自分には、変わる資格さえない。


自分の悪いところは分かっている。それは何事も考え過ぎてしまうこと。全て頭の中で考えて、悩んで、自分にとって優しい

結論を導き出す。それが自分の欠点であり、自分の最も嫌いなところ。


「考えるより、まず行動すればいい」

そんな言葉はよく分かってるし、実際そうだ。でも考えるより先に行動すべきだと、考えている自分に嫌気もさす。

自分が悪いと責めるのは良くない。もちろん周りの環境にも「自分嫌い」の原因はあるだろう。

ただ、「全て自分が悪い」と思うことで、少しでも自分を慰める。心を安定させる。そして考えることは

「どうすれば悪い自分を変えることができるのか」


そろそろ考えるには少し長い時間が経ってしまった。私の年齢はもう若いとは思わない。

今日は特に自分のことが好きになれない日。今日で終わらせたい。そうして夜中までずっと悩み続けた。


思いつく方法は二つ。

一つ目は、環境を大きく変えることで強制的に自分を変えようとすること。

二つ目は、自分のこれまでを反省して、意識を変えようと努力すること。

どちらの方法にも、欠点はある。前者は環境を変えることに多大な手間と費用と時間を要すること。さらに、環境が変わったとしても自分の本質が

変わっていないことに気付く可能性すらある。そして後者の欠点は単純に、今までその方法で「成功」したことがないこと。

どちらの方法がいいのか、また悩んだ。

「今回は本気だ」「今回は今までとは違う」という、どこかさびしい意志を持って、決断したのは夜中の3時ごろ。

そして思うことは、

「よし、頑張れ、自分」


今回が今まで通り失敗してしまうという不安を抱きながらも、その日は眠りについた。


それから良く覚えていないが、手にはどこかで買ってきたロープが握られていた。

「そうか、結構バッドエンド」

今まで死のうと思ったことは一度もない、これだけは明確に言える。そして、今だってそんなことを思ってはない。

ただ私の人生は、アニメでもドラマでもない。誰かと運命的な出会いをして自分の成長に気づいたり、誰かとの

悲しい別れが心の決断を呼び起こしたりすることは憧憬の対象にすぎない。

「自分が自分の人生の主人公だけど、その物語はバッドエンド」


確か小さい頃からバッドエンドや悲しい終わり方は好きだった。なんか綺麗な感じがしたし、現実の世界の酷と結びつけてくれる気がする。

もちろん小さい頃はそんな理由まで考えていなかっただろうけど。


そしてロープを握りながら思った。

「また自分に優しい道を選んでる」

自分の好きなこと、自分の美学に独りよがりになっている。

本当は寂しいのに。本当は人間が関わりあうこの世界で楽しく生きていきたいのに。

そんな風に考えていたら、自分の中の矛盾に面白くなってきた。


「もういいや、めんどくさい」

実際この思考さえも毎回のループであるけれど、今回はロープという果実付き。

そして最後にして、割と大きな命題を思い浮かべた。


「今の自分を受け入れてあげることが大切」

確かに、そう納得できる。でも初心に戻るとすれば、私は変わりたい。変わることで自分を好きになりたい。

好きになれない自分を受け入れてしまったら、一生自分を好きになれない。

「好きではない自分を受け入れるべき」

その提案に素直に応じることができない自分はやっぱり未熟で、そしてかけがえのない者だと私は信じたい。


そうしてこのループを断つことにする。

「バッドエンドは時としてトゥルーエンド。でも今回は」


結局、生きる理由とか生きる希望とか生きている意味とか、そんなことは生きている自分にとってそれほど大事ではない。

自分に不満を持っているのは、当事者の自分に他ならず、客観的に見れば幸せかもしれない。

だからと言って、その当事者は幸せではない。


ただその当事者である自分にとって必要だったのは、

社会に適応しようとするわずかで足る勇気や、自分を認めてあげる包容力、自分を支えてくれる輝かしい過去でもない。

本当に必要だったのは、

「気づかないこと」

いや正確には

「自分に優しくすること」

であった。それは明確だ。


涙がこぼれたと同時に、自分の「好きな人」が部屋に入ってくる。


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