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まいしすたーおぱんつ

作者: 餠丸

 葉山 潤は学校に来て、HRで健康診断があると知り、そして更に更衣室の中で着替えているとあることに気がついてしまった。

 やばいどうしよう。どうすればこの危機を乗り越えられるかと脳内で様々な自分が憶測を飛ばし合いながらいるが、それでもはっきりとした答えは出てこない。

 やばい、間違えた。

 何を間違えたのか、それは自分の股間を見れば分かる。


(やばい…!! 何故か間違えて妹のパンティーを穿いてきてしまった…!)


 嘘だろ…と下着(しかも妹のパンツ)を間違えた間抜けな自分を自分で殴り倒したい気分になった。

 いや、そもそもなんで間違えたのか、そこが一番の謎である。

 昨日風呂に入って、上がってから着替えるまでは普通だった。ちゃんと自分のパンツを履いていたのは間違いない。この記憶は正しい。

 そこで潤はあることを思い出す。


(そうだ…!今日に限って俺は…朝風呂に入ったんだった…)


 よりによって、健康診断のある今日この日に朝風呂に入った。

 そこまでは良いとして、問題なのは着替えている時。

 潤は朝に弱く、朝御飯を食べている時でさえも寝惚けていたりする。朝風呂に入っている時も潤は寝惚けていたのだ。それが原因だったのだ。


(何で俺は健康診断の事すらも忘れてしまっていたんだ…! 俺の馬鹿野郎!) 


 そしてまだ問題が1つ…。


(そして妹よ…!どうしてお前は紐パンなんか持っているんだッ。そして俺はなにを血迷ってそれを穿いて、しかも御丁寧に蝶々結びで紐まで結んでしまっているんだよッ!?阿呆!)


 紐と小さな布生地が支えるソレはモッコリとした男の魂。それは(まさ)しく言うなれば男魂(だんこん)。そのサイズは日本人のサイズ平均より数センチ上。

 不味い。どうにかして切り抜けなければと潤は険しい顔つきで、ジャージを腰に巻き、クラスメイトの友達達の疑問を含んだ視線を背中に浴びながら体操服に着替えた。


「そういや潤。今日の健康診断は下着姿で受けるらしいぞ」


 !?

 潤は地球滅亡を告げる巨大隕石が降ってきたかのような、絶望的な表情を浮かべた。それを見た友人は「変顔やめろ」と笑ってきたがこれは決して変顔ではない。絶望している顔である。

 どないしよ…脳内に存在する様々な潤は皆して絶望を打破するべく知識を練り始めた。


(打開策はあるはずだ…)


 今、自分が履いている紐パンティーはピンク色で、縁が白いというカラーバリエーション。柄物では無いにしろ色が不味い。いや妹と言えど女の子であって、可愛い色を選ぶのは当然だろうか…。

 今尚ジャージのズボンの中ではモッコリとムスコがはち切れんばかりに「ポジション具合がいつもよりいい感じ」だと主張している。その主張通り、確かに具合が良い。

 と言うよりか、この紐パンのサイズがまさかのピッタリフィット状態であるという事が1番の謎なんだが…。


 妹の体格は女子の平均身長より少し上くらい。

 それなりに美少女で男子からは人気があるみたいだが…そんな妹が持っているパンティーの中には紐パン…。男子が知れば妹の事を「ビッチ」であると仮定し、勝手に結論付けて次々に告白からの「やらせて」コールだろう。


 潤は1人で勝手にそんな考えに至って、それと同時に打開策を考えることにした。


 今日の健康診断は下着姿で受けるというもの。

 そして下着姿になる場所はカーテンの中…だと思ったら大間違いだった。


「カーテンがない…だと…!?」


 潤は今度はニュース越しに地球が崩壊していく様子を眺めているかのような…そんな顔をしながら保健室の中を見やる。

 それを見て笑い転げる友達の腹に1発拳を打ち込んでから、保健室の中に入った。

 流石に男と女、診察の時間は別ではあるが、男子の中に唯一厄介な存在である人物がいたのだ。その名は山中 (はじめ)という人物で、彼はお世辞にも口が堅いとは言えず、人の嫌がる噂話をしようものならインターネットの如き情報の広がりを見せ、被害者は数週間くらい教室では孤立する。


「はーい。皆ここで脱いでね〜」


 保健室の先生(女性)が笑顔でこちらに悪魔の提唱をしてくる。

 男子達から一時期は告白されるという事があった程に美人な彼女のその笑顔は潤にとっては悪魔が命を刈りとる武器を持って、笑みを浮かべているに等しい。


「おい潤。どうしたんだよ早く着替えようぜ〜」


 隣でぺらぺら喋っているコイツは親友の橋本 (しょう)。今日のこの出来事で、親友かどうかが決まってゆく存在だ。

 そんな彼はもう既に下着姿、かっこいい柄のボクサーパンツに、灰色のタンクトップは少しの期間鍛えられた程度だが、筋肉が付いた肉体にとても似合っている。

 

 自分は黒のタンクトップにピンク色の紐パンだと言うのに…。


 対してこちらもそれなりに鍛えてはいる為、女子であるなら大胸筋と腹筋に目がいく程の筋肉量。自慢じゃないが…ベンチプレス80kgはイける。

 そんな俺が…妹のパンティー(紐パン)を穿いている!!

 何度も言うが色はピンク色。よく考えてみれば妹はお年頃な訳でありそういう物を履きたいと思う時期もあるのだろう。お兄ちゃんは否定しない。

 だが…。


 その兄である葉山 潤は妹のパンティーを穿いているのである!!


 なんということでしょう。

 男から見ればムキムキな男の紐パン(ピンク色)姿など目の毒どころか目に濃硫酸だろう。ここで興奮してしまえば更に見た目はえげつない事となる。


「どうしたよ? 早く脱げよ〜」


 そこで潤は考えた。

 この健康診断、終わった者から退出するという至極単純な健康診断なのだ。この方法を使えば自分は助かる。コレだ…と潤は不敵な笑みを浮かべた。


「え、こわい」

「ぬ…?どうした大胸筋と上腕二頭筋、タンパク質が足りないのか…? よしよし落ち着くんだ。暴れなーいのっ!」

「どうした潤」

「仕方ない…先生! 少しトイレに行ってきてもよろしいですか!」

「どうしたの? 葉山君、お腹でも痛いの?」

「いえ、俺の大胸筋と上腕二頭筋がタンパク質に飢え、その飢餓に苦しんでいるようなのですが…生憎この場にはタンパク質がありません。落ち着かせてきてもいいですか!」

「…え?」

「すいませんコイツ体調が悪いみたいです。それか多分寝ぼけているみたいっすね〜」

「そ、そう? とりあえず…いいわよ行ってらっしゃい」

「ありがとうございます! ほーら良かったな大胸筋と上腕二頭筋!」

「それまだ続けんのかよ」


 ナイス翻訳だ翔大好きだぞ(はぁと)等と心の中で親友に愛を呟き、潤は保健室を出てトイレに向かう。若干、健診していた内科の先生が笑いを堪えていた気がするがどうでもいい。

 今健康診断を受けている田中は出席番号16番。出席番号23番である潤。そして翔は32番で最後…。女子は抜けているからあと3人で俺の番である。

 女子の多いクラスになっていて良かった…。と潤はトイレに向かいながら不敵な笑みをを浮かべる。


(今なら…どんな驚異でも乗り越えられる気がする…)


 潤と創の出席番号の間には男子が5人。

 1人当たりの健診が2分程度かそれを数秒程超える程度。16分間程トイレの個室の中でウンウン唸っていれば、確認しに来た生徒や先生達を欺けるだろう。

 トイレの個室に入り、足音がした場合には「ウゥゥゥゥンッッ!!」と発する為の発声練習をして、喉の調子を整えてから、いざ紐パンを脱。

 両肘を膝に、顎を両手に乗せて、便座の上のゲンドー。

 

(来た…!! 足音)


 トイレに入ってきたであろう先生か生徒。

 潤は作戦を実行した。


「ヌゥゥゥゥゥオォォォォッッ…!! フゥゥ…ッッ!!」

「うわっビックリした葉山大丈夫かッ!?」


 トイレに入ってきたのは先生だった。

 声からして体育教師の安達 (りょう)だ。奴はノリのいい教師で、騙されやすくもある為この踏ん張りヴォイスを聞けば「アイツ…便秘だったのかな…」と騙されてくれるだろう。

 ドアの音がした事からトイレから出ていったと判断し、潤は唸り声を止める。


『先生どうだったー?』

『いや…アイツすんげー捻り出してたぞ…すげー唸ってた』

『は? アイツ大胸筋と上腕二頭筋がケツん中にあんの? ヤバくね』


 俺の演技力、ヤバいな。などと考える潤はそれから十数分間同じことを繰り返した。

 色々失った気がするが今はそんなことどうでもいいのである。


「ふぅ…そろそろか…」


 乃木山高校3年葉山 潤! 紐パン(ピンク)を履いて、いざ尋常に内科の医師の前へ!


「他の人はもうやってるから、葉山君が最後ね」

「はい」

「じゃあ私は次の学年の点呼をするから、看護婦さんとお医者さんに名前と出席番号を言ってから健診受けてね?」

「はい」


 そう言って保健室から出ていった保健室の先生をキリッとした顔つきで送り出し、潤は体操服のシャツをカッコよく脱ぎ去る。

 おぉー、と看護婦は感心しているが、内科の医師はぽかんとしていた。

 そして、潤はズボンに手を掛ける。

 ずるり。


「「!!?」」


 二人共目をあらん限りに見開き、こちらの下着事情に驚いている様子だった。


「よろしくお願いします。出席番号23番、葉山 潤です」

「「…ぐふっw」」


 腕を組み、仁王立ちをして挨拶をする潤に笑いを堪えられずに吹き出す二人に潤は気にした素振りもなく、笑いながら健診をする医師の前で、タンクトップも脱ぐ。そして潤は紐パン一丁となり、キリッとした顔を崩すこと無く聴診器のひんやりとした感触を肌で受けた。医師が笑いで集中出来なくなり、何度もやり直しをくらった。


(終わった…俺はやり切った…無事に乗り越えたであります)


 毅然とした態度で保健室を退出、潤はある事を忘れている事を忘れていた事に気が付かなかった。


「ん?」


 保健室を出た瞬間に、キャーキャーと黄色い悲鳴が聞こえてきたのだ。

 

「どうした! 不審者でも現れたか!?」

「不審者は貴方よ葉山君!? その格好は…一体…!?」

「潤…お前…それ…」


 目の前で保健室の先生、横山 穂海(ほのみ)と翔がこちらを見て仰天していた。

 下を見る。そこで潤は気付いた。


 潤は紐パン一丁だった。

 そう、彼は達成感と安心感と満足感からタンクトップと体操服のズボンとシャツを着忘れていたのである。


「…む!? どうした長橈側手根伸筋(ちょうとうそくしゅこんしんきん)!」

「その言い逃れは無理があるぞお前…」


 何とかする為に色々と考えていると、ふと視線を感じて潤はちらりと見やる。

 そこにはこちらを見て口を開けながら、固まった様子の妹、穂乃香(ほのか)


(まずいな…このままでは穂乃香の学校生活においての沽券に関わる! 安心しろ穂乃香、お前がこの紐パンを持っていた事は誰にも気付かせやしないさ…ふっ)


 潤は妹思いであった。


「…ア〇ゾンで…買ったんですよ。横山先生」

「…」


 横山先生はこの世のものではない何かを見るような目をこちらに向け始め、そして翔は棒立ちだった。


「紐パンを侮ってはいけない…。翔! お前なら分かるはずだ…男とは常に象徴のポジションを気にする動物…そしてポジションが悪ければとにかく気分は優れない…そうだろう!? …そんな時俺はこの紐パンに出会ったのだ。ア〇ゾンで上質なプロテインを模索中であったところ、ふと「これを買った人はこんな商品も買っています」の欄にこの紐パンがあった事に気が付いた。む!? と気になった俺はその紐パンのレビューを見ていると星5という高評価がたくさんあった事に気付く。そしてつい目を奪われた俺はふと気付くとそのレビューの内容を読んでいた。その内容はどれもこれも素晴らしいという文章が書かれていたのだ。例えば…「この紐パンには大変お世話になっております! 普段この下着は女性用であると私も思っていたのですが、恥を捨てていざ買ってみて履いてみると今までポジションの事で元気を無くしていた息子ポジションが気にならなくなり大変元気に! 今では脱衣所の下着収納は紐パンでいっぱいです! 紐パンを創りし紐パンの神様はどうして今まで私にこんな代物を隠していたのでしょうか!」という文章があった。それを見て衝撃を受けた俺は「カートに入れる」をクリックすることなく、そして迷いもなく「今すぐ購入」! 2度言うが先生、翔。紐パンを侮ってはいけない。 カラーについては気にするな。こう見えて俺は可愛いものが大好きでな? 枕の横には幾数ものキテ〇ちゃんとけろけ〇けろっぴが並んでいる。だからこそ俺はこのピンクを選んだのだ」


 すらすらと早口で出てきた言葉に横山先生と翔は開いた口が塞がらない状態であり、潤はそれでも続けた。


「翔! 横山先生! 是非紐パンを穿いてみないか! それを教えるべく俺はこの姿のまま保健室から出てきたのだ…。もちろんこの鍛えし筋肉を見せつけたいという気持ちもあったのだが…俺はそれよりも紐パンの素晴らしさを伝えたい…」


 返答は沈黙。

 

 痺れを切らした潤は最終手段として、瞬時に思いついた方法を発動する。


「さぁ皆! 俺を見て紐パンの素晴らしさを身をもって知れェッ!!」


 この落ち込んだ空気感に何時までも潤とて耐えられる訳では無い。


「ハイッ!!『フロント・リラックス』!!」


 『フロント・リラックス』とはボディービルのポージング。リラックスポーズの一つである。


「『左サイド・リラックス』からのッッ『リア・リラックス』!!…『右サイド・リラックス』!!」


 空気はひんやりと醜悪なものになってきているが、それでも潤は笑顔で続けた。


「お次に規定ポーズ!『フロント・ダブル・バイセップス』ゥ!『フロント・ラット・スプレッド』!!…ハイッ!『サイド・チェスト』!!そしてッ…『バック・ダブル・バイセップス』!!」


 『バック・ダブル・バイセップス』を終えた後は時間も推していることを考えに入れて、『バック・ラット・スプレッド』と『サイド・トライセップス』『アブドミナル・アンド・サイ』『モスト・マスキュラー』を早い切り替えで繰り出し、そしてチャイムの音と共に保健室の中にある体操服を着用し、何も無かったかのような顔をして廊下を歩き去る。

 妹の方は見ない。


 唯一良かったのは、妹穂乃香の兄が自分であると言うことを学校には明るみになっていなかった事である。


「コレが…圧倒的めでたし」


 それから数十日間。潤の渾名は「紐パン診断モスト・マスキュラー」。

帰り次第、玄関で家で真っ赤になってこちらを睨む穂乃香には「最っ低っ!」と罵られ、潤はこれからは朝には早く起きることを決意した。


(でも…ポジション維持力は良かったな…紐パン…)


 携帯の通知が鳴り、そこにはSNSで横山先生から「悩みがあれば聞きます。力になります」という文章と翔の「わかるよ…ポジション…とにかく俺はお前を応援する」という労りの言葉が書かれていた。

朝、朝風呂に入る時は、完全に目が覚めた状態で、気持ちよく入りましょう。

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[一言] 妹への家族愛、そして紐パンへの愛を感じました。 理解力ある先生と友達に脱帽です。
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