小綿
「ねぇ、どうやってあの四本腕を倒したの?」
待合室で休む中、経一は直接そう聞いた。
小綿が四本腕を殴り倒した後、直ぐに応援の警官が駆け付け、四本腕は気絶したまま連行された。
その後、へとへとの二人は、小綿が乗ってきたパトカーに乗り、元居た交番に戻ってきたのだ。
「どうやってって、その、私の『発現』で......」
小綿は吐き気がしていた。
それは、『発現』の反動の貧血なのか、経一の直接的な質問からかはわからない。
「これ、触ってみて。まだ『分解』してないから。」
小綿は袖をまくり、経一の前に腕を突き出す。
「えっああ、うん。」
小綿の腕は体格のわりに少し太く、やや下に垂れるように肉が付いていた。
経一はそれを恐る恐る触った。
ふにふにとやわらかい。少なくとも贅肉ではなかった。
「それじゃあちょっと、ぼ....。大きくするね。」
すると、垂れていた肉が風船のようにみるみる膨らみ堅く、大きくなる。
先ほど、四本腕を殴り倒した時ほど大きくはないが、かなり屈強な印象を受けられるだろう。
そして、健康な青年である経一には、身に覚えのある感触だった。
「男の子だから分かったかもしれないけど.....私の『発現』は、海綿体。」
「あっ、なんかグイグイ聞いちゃってごめんね。」
「べ、別にいいの、お互いの能力の把握は大事だから.....」
海綿体は男性器のイメージが強いが、女性器にも存在し、女性である小綿でも問題なく『発現』ができる。
海綿体を膨張させる要因として重要になるのが血液である。
血液を排出するための静脈が狭まることにより、血液が溜まる。
それにより、海綿体が膨張し、堅く、大きくなる。
小綿は、腕にこれを『発現』させた。
腕を大きく、堅く、そして重くすることが出来る。
華奢な少女に油断した相手を、一撃で倒すほど十分な重量の血液を腕にため込むことが出来る。
しかし、彼女の能力も万能ではない。
男性器を大きくするのに必要な血液量は大したことはない。
しかし、彼女は腕の大部分を肥大化させた。
それは、あまりにも大量の血液を使うため、貧血を引き起こしてしまうのだ。
経一はその堅さを確認するように腕をにぎにぎする。
すると、小綿の腕は再びしぼんでしまった。
「さっきもそうだったけど、あんまりぼ.....大きくしてると貧血になっちゃうから.....」
「この腕であの四本腕を倒したの?」
「う、うん。あの人も油断してたから....」
その瞬間を見ていない経一にとっては信じられないことであった。
それと同時に、四本腕に完全に翻弄されていた自分自身が情けなくなる。
「小綿さんはすごいね、僕なんか飛び出していったっきり何もできなかった。」
「そ、そんなことないよ、経一くんの足が速くなかったら、もっと大勢の人がケガしてたもしれないし。」
小綿は本心から経一の行動を褒めたたえた。
しかし、経一の心には四本腕に対して何もできなかった、『発現者』として社会貢献がほとんどできなかった、ネガティブな感情が残った。
同日、都内某所。
大角志津と山口壮牙のいる待合室にも出動命令の警報が鳴り響いた。
ぼ、