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依頼

必要最低限のものだけが置かれた簡素なワンルーム。

彼は、『発現者』だということが発覚した七歳の時以降、ここ、国の施設にて生活している。

『発現者』は自らの身体能力の制御がうまくいかない場合があるため、国による保護が必要なのである。

というのは建前で、突如現れた異能力者よる犯罪行為、暴動を未然に防ぐ、また、『発現者』自体を研究材料とするため、彼らをここに実質的な監禁状態にしているのだ。

彼らは『発現』することを許されていない。『発現』の兆候を見せたり、『発現』をしたことが確認されれば、体に装着された、機器から高圧電流が流れ、行動を制限させる。

彼ももちろんその例に漏れない。彼は常に首輪を嵌められている。

別にこの部屋に閉じ込められているわけではない。

『発現者』は囚人ではない。同年代の『発現者』を同じ教室に集めて授業も行われる。

彼の年齢は18歳。本来なら高校生であるが、高校相当の教育を同年代の『発現者』とともに受けている。

食事も自由にとることが出来るし、テレビや新聞を見ることもできる。

出来ないことは、施設の外に出ること、『発現』をすること、外の人物と連絡を取り合うことくらいである。

「神田、特殊な要件が出来た。講義室へ来てくれ。」

職員であることを表す制服を着た男が、彼を呼ぶ。

この施設では『発現者』ひとりひとりに、担当の職員が付く。

「あっはい。なんですか、特殊な要件って?」

「ちょっと特殊だ、詳しくは部屋についてからだ。」

職員と『発現者』は、主従関係を作っているわけではない。

彼は幼少期からここにいるからか『発現』もする気はないし、職員もそれをわかっている。

「ああ、そうなんですね。」

今まで、研究台になったりしてきた彼にとって、特殊というのはもはや普遍であった。

講義室には彼にとってみなれた『発現者』の友人、彼より少し大人、二十代ほどの人も何人かいた。

「ねえ、何か聞いてる?」

「いや、なんも聞いてねえ。」

彼は、友人と話すが、講義室に集められた理由は誰も知らない。

ざわざわとうるさい講義室であるが、マイクのハウリング音が響く。

「あーあー、ちょっと静かにしてくれるかな。」

すっと静かになる『発現者』達、主従関係ではないとしても、行動は職員に握られている事が、体に刻み込まれている。

「えー、半年前に、わが国で警察でも拳銃を所持することが出来なくなったのは知ってるよね?」

初老の職員がつらつらと話す。

この国では警官の汚職が相次いでいる。さまざまな実例があるせいで、この銃の無い社会への法案を止めることはできなかった。

「まあ、この国は比較的平和だからねえ、犯罪率は別に上がってないんだが.......」

少し言葉を詰まらす。

「『発現者』の犯罪を止めることが出来なくなってしまった。」

『発現者』の犯罪率は極めて高い。自分の力をうまく利用できない人が多い。

「『発現者』の犯罪を止めなければ、君たちのような善良な『発現者』まで、社会進出が難しくなってしまうだろう?」

研究のために、『発現者』を監禁している職員が、当たり前のことのようにそう言った。

「そこで、善良な『発現者』である君たちに依頼がある。」


「『発現者』である君たちの手で、『発現者』の犯罪を止めてほしい」


「ウソだろ.......」

彼の隣に座る友人が、そう呟く。小石を投げ入れられた池の水面のように、講義室はどよめきだす。

「静かに静かに。なに、今すぐに全員がって話ではない。」

先ほどのようにすぐに静かにはならない。皆、この依頼に対して、様々な思いがあるのだ。

「まずは試験的な導入だ。すぐに現場に配属されるのは4名だけだ。」

多くの『発現者』は自分は関係ないだろうと、やや落ち着いた。

しかし、彼は違った。

銃器を使用できない警備活動に、自らの『発現』が、非常に優れていることが分かっていた。

「まあ、ここに呼ばれた皆さんは全員近々どこかに配属になるとは思うがね。まだ公になってないけど、そろそろ国でもこういうことが可能な法案が可決されるはずだ。」

堂々と国家の闇を話した。閉鎖されているこの施設でなければマスコミが群がってくるだろう。

「詳しい事や、質問等は後で担当職員を通して聞いてくれ。とりあえず、さっき話した4名をここで発表してしまおう。」

彼の心拍数が急速に上がる。スクリーンに4つの名前が映し出されて、それを職員が読み上げる。


「『海野 小綿(うんの こわた)』」


「『大角 志津(おおすみ しつ)』」


「『神田 経一(かんだ けいいち)』」


「『山口 壮牙(やまぐち そうが)』」


「以上。4名は後で個別に職員が説明に行くので、それをよく聞くように。では、解散。」

名前が映し出されなかった大半の『発現者』達はぞくぞくと講義室から出ていく。

神田 経一。彼の名前は、はっきりと映し出されている。

そして、彼の隣の友人、大角 志津も。

ほかの二人も、彼らの同い年で、彼らと同じレベルの教育を受けている者だ。

「経一、お互い苦労が多いな。」

志津は、彼にやさしく呟いた。

「そうだね。」

経一も、多くは語らない。

二人とも、幼少期からこの施設にいる。これから起こることは今までで一番危険で、無茶な事だというのがわかっていた。

それと、十数年振りに施設の外へ出るという期待感もあった。

「じゃあ、またあとでな。」

「うん。」

二人は、素っ気ないいつものあいさつをして、講義室を去った。


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