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笑ゥ転生神~異世界スマホはチートでござる、の巻~


「転生……ですか?」

「はい、転生ですよ」

 そう言われて、須磨保太郎すま・やすたろうは軽く眉根をしかめる。

 あくまで「軽く」だ。

 

 挿絵(By みてみん)

 

「おや。あまり驚かれないようですねェ」

 保太郎と相対している全身黒ずくめの男はというと、その大きな目鼻立ちをした肉厚な顔の表情を変えることなく続ける。

 黒い男だ。黒いフェドラーハット、黒いスーツ、柄付きの黒いネクタイ。

 肌の色だけは妙に色白で、まるで禁酒法時代のマフィアを彷彿とさせる不穏な出で立ち。しかし大きな顔に人形のように変化のない表情を張り付かせ、達磨みたいな丸々ふっくらとした体つきは、不気味さと滑稽さをちょうど足して半分にしたかのようだ。

 

 その二者が向き合っているのは四畳半一間の古い昭和な一室。小さめのこたつがあり、かごに入ったみかんがあり、アンテナのついたモノクロのブラウン管テレビでは何故かプロレス中継。音は小さいが賑やかしい。

 

「まあ、実感がないと言えば実感が無いですし、あなたの言うように本当に僕が死んだというのなら、今更慌てたり騒いだりしても意味無いですしね」

 保太郎はそう無感情に返答する。そしてそれは虚勢でも嫌味や当て擦りでもなく、保太郎の偽りなき実感であった。

 

 気が付いたらこの四畳半一間で、ぬくぬくとこたつに入り、黒ずくめで顔の濃い腹の出た男と向かい合い座っていた。

 それから男は、保太郎が不慮の事故で死んでしまったことと、別の世界へと転生することが可能であるということを告げる。

 態度も丁寧で礼儀正しく思えるものの、やや慇懃すぎる男の言い分は相応に胡散臭く、普通に聞けばただのイかれた戯言でしかない。

 それをこうもあっさり受け入れる保太郎とはどんな器の大きな人間なのか? 

 

 答えをここで言ってしまえば、「自分を含めた人生そのものにあまり興味のない男」であった。

 

「いやはや、あなた、かなりの人物ですなあ。

 たいていの人は、自分が死んだなどと指摘されれば取り乱すか相手の正気を疑うか、現実逃避をするものです。

 あなたのように泰然自若、落ち着いて自分の死を受け入れるような人は、そう多くはありません」

 黒ずくめの男はそう感心したかに目を閉じて頷く。

 なんとなく誉められてることは分かるが、当然保太郎にはピンと来ない。


「それにあなた、自らの命をかけて人助けをなさった。

 本当に希有なお方ですよ」

 これも、保太郎にはよく分からない。

 保太郎の死因は、「歩きスマホをしてて車に跳ねられる」というものだ。

 実感はない。死んだ瞬間を覚えてないのだ。

 なんとなく覚えていることを並べて繋げると、歩きスマホをしていてつまづいてしまい、その際に誰か……小さな子供を蹴飛ばしたような気がする。

 たまたま蹴飛ばしたその子供が、たまたま車にひかれる寸前で、蹴飛ばしたことでたまたま助けた形になり、そしてたまたまその子供の代わりに車にひかれた。

 実際はそんなことなのだけれども、保太郎はその辺りを何も覚えてない。

 

「はあ、まあ……」

 なので、こんなぼんやりとした返事になる。何を言ってるのだろうかこの黒ずくめのおじさんは? という感じだ。

 

「それでですな。

 そんな貴方に、ご希望する望むような転生の仕方をさせてさしあげるか、特別な力を差し上げたりしようかと……そう思ったわけなのですよ。

 最近は何ですかな? チート……とか、そんな言い方をするのでしたかな?」

「あ、じゃ、スマホで」

 

 即答である。

 異世界転生してチート。保太郎のよく読むweb小説にあがちな展開である。

 そして保太郎はいつも思っていた。

 異世界とか転生しても、スマホなくちゃヤバくね? と。

 保太郎にとって、スマホの無い人生は考えられない。

 どこに行く? スマホで検索。

 調べ物? スマホで検索。

 何か暇だなー。スマホで動画かweb小説でも読む。

 買い物もスマホ。店の評価も商品の評価もスマホで確認。

 スマホの中には全てがある。何をするにしてもスマホが必要だ。

 

「ほう……。スマホ……ですか?

 さすが、面白いことを言いますなあ」

 またも感心されるが、面白いも何も当たり前のことだ。

「あ、その異世界がどんな世界か分からないけど、その世界でちゃんと使えるスマホじゃないと意味ないんで、そういうのは出来ます?」

 スマホの本体のみがあっても意味はない。機能がきちんと備わってこそのスマホだ。ネット環境も含めての。

「転生先は所謂『剣と魔法の世界』とでも言うような世界ですな。

 そこには魔法もありますし、あなたの世界のハイテク機器をも超える魔法の道具も製作可能です。

 そうですね、あなたの世界のスマホの機能を、その世界の魔導技術をベースに再現し、それ以上のものにしてさしあげましょう」

 黒ずくめの男はそう言って、黒スーツの内ポケットへと手を入れると、保太郎の持っていたスマホにソックリなスマホ……いや、魔法の道具を取り出した。

 

「これ……ですか?」

 見た目には今までのスマホと何ら変わらない。

 触ってみた感触も全く同じ。

「出来るだけ手に馴染んだものを再現してみましたが、如何でしょうか?」

 再現も何も、全く今まで通り。細かな傷や汚れ、塗装剥がれまで今までのものと同じ。これが魔法の道具なのだと言われても、出来の悪い冗談にしか思えない。

 

「おお、そうでした。

 先ほども言ったように、これは魔法の道具なので電気ではなく魔力で動きます。

 ですので、決して魔力の補充を切らさないでくださいね。

 約束ですよ───」

 

 保太郎がスマホを手にして確かめていると、不意に辺りが暗くなり、同時に意識も遠のいてゆく。

 そこで初めて、保太郎は自分が本当に死んだのだという実感を得た。

 

 

◆ ◇ ◆

 

 意識を取り戻したとき、そこは古代の遺跡のような場所だった。

 石造りで古びており、薄暗く埃っぽい部屋の中。

 手にはスマホ。つまりは例の黒ずくめの男の言うとおりに転生をしたのだろうか?

 周りを見回すと、壊れた金属の破片が散乱している。金属は鈍い金色で、一瞬黄金の塊かとも思うが、なんとなく違うような気がした。

 

 円形のホールのような部屋の中央に台座のようなものがあり、小型の宝箱が開いている。

 そして保太郎の手にはスマホ。

 保太郎のよく読むweb小説での転生では、生まれたばかりの赤ん坊になるか、自分自身が若返ったような新しい肉体を与えられての転生というのがよくあるパターンだが、保太郎が自分自身を見てみると、鎧を着て剣を腰に吊した、まるで冒険者のような出で立ち。

 テンプレ的には転生すると冒険者になるのだが、フル装備の冒険者として転生するというのはなかなかに珍しいパターンだな、と思う。

 

 保太郎はふと思い立ち、スマホを開いてカメラアプリを立ち上げる。

 自撮りモードで自分の姿を映し出すと、元の自分とは似ても似つかぬ偉丈夫が居た。

「うわ! 誰!?」

 思わずそう声に出してしまうが、よくよく見るとなかなかのイケメンだし、似ても似つかぬ……という程ではない。

 黒髪黒目で、元々の典型的日本人ののっぺり醤油顔からすればかなり濃いめの彫りの深い顔立ちだが、保太郎自身決して不細工ではなかった。

 平凡と言えば平凡。けれども子供の頃には「まるで女の子みたい」なんて誉められる程度には整っていた……と、思う。

 その「平凡だがそれなりに整っていた」保太郎の純和風弥生顔を、この世界の───というか、西欧人的な彫りの深い顔立ちへと変換させれば、なるほどこういう顔になるのかもしれない。

 長い髪を後ろで軽く纏めていて、やや面長で大きめの目尻が下がった垂れ目。優男とでも言える柔和な面差しだが、弱々しさは感じられない。

 様々な角度を自撮りして確かめていく内に、保太郎は今のこの体への違和感はあまり無くなった。

 元より、保太郎は自分の身体や外見にはあまり興味が無いのだ。

 

 それから軽く体を動かしてみると、思った以上にスムーズに動き回れる。正直、へろへろのもやしっ子だった前世の保太郎からは考えられないくらいに身体能力はアップしていた。

 身体頑強で、すらりとした筋肉質。柔軟性もあり俊敏。かなり鍛えられた戦士、という感じだ。

 なるほど、これも転生特典か。保太郎はそう納得する。

 スマホの機能を使えるだけでは、『剣と魔法のファンタジー異世界』ではどんな不測の事態に陥るか分からない。

 そこで、あの黒ずくめの男は「この世界の人種に近く、身体能力も高いイケメン痩せマッチョ」な肉体を作り出して転生させてくれたのだろう。

 しかも、冒険者としての装備付きで。

 自分自身にすらあまり興味のない保太郎があまり考えていなかった所なので、そういう意味ではサービス満点だと言える。

 

 しかしこの周りの状況は何なのだろうか、とも思う。

 転生した直後に襲われたのか? にしては何者かと戦ったり倒したりした記憶もない。

 というか周りのこの鈍い金色の残骸が何なのかもよく分からない。

 手に取ってみると、硬くて重い。本当に金なのかな? 等とも思うが、まあよく分からない。

 色々考えもよく分からないと言うことしか分からないので、保太郎は考えるのを止める。

 そして徐にスマホを手に取り、「金色 金属 遺跡 残骸」等と、思いつくキーワードをパパパッと打ち込み検索。

 元の世界のネットに繋がっていたとしたら答えはでないだろうが、ものは試しだ。

 そしてそのお試しは大成功。検索結果からなんと、「古代ドワーフ遺跡 ドワーベン・ガーディアン」等と言ったそれらしい単語が表示される。

 

 古代ドワーフ遺跡というのは、呼んで字の如く、古代のドワーフ達の遺跡だ。

 そしてその遺跡によく存在している、鈍い金色のドワーフ合金という特殊な魔法金属で作られた機械仕掛けの自動人形を魔力で動かすゴーレムとしたものが、ドワーベン・ガーディアンと呼ばれる遺跡の守護者達。

 それらの詳細情報は「神pedia」と名付けられたらページに諸々記載されていた。うーむ、確かに「スマホっぽい機能のある、この世界にあわせた便利な魔法の道具」になっている、と感心する。便利だがこの名前ちょっと間抜けだな、とも思ったが。

 それから「Godgle map」というアプリを使うと、この遺跡の地図から近くの街までの経路を表示。歩いて半日は結構面倒だなあ、と思いつつ、使えそうなものや価値のありそうなものを拾ってから保太郎は移動を開始した。

 

◆ ◇ ◆

 

 遺跡のあったところは深い森の中であったが、そこを抜けると広い草原と疎らな木々のある平地。

 Godgle map で順路を探すと石畳の街道にでる。なかなかインフラの整った世界のようだ。

 新しい身体はかなり体力があり、スマホの時計で三時間ほど歩き続けてもたいして疲れを感じなかった。

 勿論疲れてはいる。しかし保太郎の前世の感覚からすれば、これだけ歩き続けていたらへろへろになって座り込んでいるのが普通なのだ。

 水やちょっとした食料も持っていたし、時々休息をとりつつ神pediaでこの世界の情報を検索していく。

 そうするとこの世界は正に『剣と魔法のファンタジー』とでも言うかのような世界で、エルフにドワーフ、獣人に魔物と、まるでwebノベルにあるような世界だな、と感じられた。

 

 ただ色々と残念なこともある。

 一つは、この世界では一般的な異世界もののノベルに比べると、魔法が簡単には使えない、ということだ。

 所謂人間という種族はこの世界ではかなり魔法への適性が低い種族らしく、初歩的な魔法ですら使えるようになるのは10人に1人居るかどうか。

 その中で魔術師と呼ばれるようになるほどの使い手になるのはさらに少ない。

 保太郎も「とんでもない魔力量を誇り、全属性魔法を自在に使える!」などという都合の良い無双チートまでは得られていないようだ。

 

 しかしものは考えよう、でもある。

 魔法の使い手が少ないと言うことは、魔法のスマホアプリが使いたい放題の保太郎は、それだけでかなりのアドバンテージを持っていることになる。

 調べ物も簡単。道順もすぐ分かり迷うことはない。その上色々なアプリを調べてみると、実は魔術を直接行使できるアプリまで有ることが分かった。

 まるで魔法のような、ではなく、魔法そのものを使えるアプリ。

 魔法アプリを立ち上げると、選択した魔法が実際に使えるのだ。

 これ、結局は魔法が使えるってのと同じじゃね?

 保太郎はそう考え、幾つかの魔法を試してみる。

 すると、スマホから火炎が飛び出し、また光り輝いて暗い道を照らしたりもする。

 そうして、町へと向かう道すがら、馬車に乗った人々が狼のような獣の群れに襲われているのを軽く撃退し手助けしてやると、お礼にと町まで乗せてくれた。

 

 それからもう一つ残念なことは、この世界には所謂「冒険者ギルド」というものが無いらしい、ということだ。

 そうなると、web小説にありがちな「入っていきなり高ランク魔物を狩って受付嬢に驚かれる」みたいなイベントは出来ない。

 いや、出来なくても何も困らないし、そんな手垢の付いたつまらないエピソードをわざわざやる必要は何も無いのだが、とは言えこの世界に着たばかりで頼る伝手も何も無い自分にとって、web小説のような誰でも入れて仕事も受けられる冒険者ギルドは保険にもなるだろうと考えていたので、少々当てが外れた気もする。

 そんなことを考えつつ馬車に揺られて町へと着くと、入り口で検問のようなことは受けるがさほど問題なく町へと入れた。実際には入場税を払うことにはなったのだが、手持ちのお金で十分払える額だったのだ。

 

 時間は夕方になり始め。

 町はそれなりの規模のようで、城壁に囲まれた城塞都市というものだった。

 建物は石造りの土台に木の梁と柱に土壁といった感じで、保太郎の中にあるぼんやりとした「古いヨーロッパっぽい町並み」を彷彿とさせるが、保太郎は海外旅行になど行ったことはない。テレビか、せいぜいスマホを使ってネットで見た画像か、もっと言えば「ゲームで見たような気がする」くらいの感覚である。

 

 ある路地の近くを通りかかると、いかにもという風体の、人相の悪いチンピラ達が、ソックリな顔立ちをした美少女2人に難癖を付けていた。

 厳密には難癖……というか、いかにもという風体の人相の悪いチンピラ達に、2人の美少女が文句を付けていたのだがその辺はあまり興味もないしどうでも良い。

 保太郎は、「あ、これ、webノベルでよくあるイベントじゃね?」と思い、介入してチンピラ達を撃退。美少女2人に感謝をされて、手頃な宿屋も教えてもらった。

 

 宿に部屋を取りその2人と夕食でも、という段になって灯りの元で改めて見てみると、美少女というのは過剰な表現だったような、と保太郎は思った。

 実際のところ十分以上に整った顔立ちなのだが、保太郎は元々自分にも他人にも余り興味が無い。

 なので前世でも現実の人間と接したりよく観察したりする事が無かったため、頭の中にある「美少女の基準」が、ネットで見かけるアニメやラノベのイラストなのだ。生身の人間ではない。

 2人は姉妹だと言い、リタと名乗ったほっそりとした姉の方は弓使いで、シャープな顔の作りで濃い茶色の髪の一部を後ろ頭頂部で纏めている。

 表情に乏しく、雰囲気もやや硬い。それは姉としての責任感と警戒心故なのだが、保太郎は「クールデレなら青髪ショートだろJK」等と考えている。

 逆によく話す妹はカイーラと名乗り、何でも格闘を中心とした近接戦闘の使い手らしい。勿論格闘オンリーではなく武器も使う。軍隊格闘術みたいなもんかな、と保太郎は解釈した。

 そのカイーラは、なんというか豪快でざっくばらんとした性格で、妙に押しが強く、保太郎はやや辟易していた。「勝ち気系のデレキャラなら赤髪ツインテが常道だろ。何で今時ショートカットのボーイッシュキャラなんだよ。流行らねえよ」とか考えている。

 当たり前ながら、実際にそれらしい出来事に遭遇してそれらしい事をしたからと言って、webノベルそのままのステロタイプな美少女キャラが都合良く配置される等と言うことはない。しかし「スマホで読んでたwebノベル基準」で異世界転生を捉えていた保太郎からすると、「なんか違う」という感覚になる。現実とwebノベルとは違って当たり前なのだが。

 

 しかしこの状況は、傍目に見れば間違い無く「美少女2人と夕食を共にするイケメン」の構図なのだ。

 普通ならのぼせ上がったり、調子に乗ったりしてもおかしくない。

 しかし保太郎はあくまで2人から情報を得ることに勤め、浮ついたりのぼせたりという様は全く見せなかった。

 その理由は、一つは前述の通り、「何か予想していたアニメやwebノベルとちょっと違うなあ」という失望感からで、もう一つは神pediaやGodgleで「検索」するにも、その検索ワードとして使える基礎情報が無いと色々面倒くさいということに気付いていたからだ。

 

 例えば2人は自分達を「駆け出しで修行中の探索者」と名乗った。

 この「探索者」というのを神pediaで調べると、「遺跡や辺境を探索し、その調査情報や古代の遺物、文献など取り引きすることで金銭を得るもの達」などと書かれていて、それは保太郎のイメージしていた「ファンタジー世界の冒険者」にやや近い物だった。

 戦働きをする傭兵でもなく、君主に仕える騎士や兵士、隊商の護衛兵等ともまた異なるものらしい。

 ただ、場合によっては害獣魔獣やゴブリンの群れの退治なんかも引き受けることもあり、その辺は人により曖昧なようだ。

 要するに、力頼みの荒事請負人、といったところか。

 

 そういったこの世界での基礎的な知識を2人から得て、保太郎は夕食を終えると自室へ戻り、スマホでそれらの整理と再検索をする。

 また、ちょっとばかしマメに記録でもつけるかな、と考えたものの、面倒くさいので単文箇条書きでだらだらと呟く。

 特に誰とも繋がっていないので、文字通りに独り言を呟いているだけだった。

 元の世界に動画配信とか出来れば面白いのになあ、などと考えつつ、異世界転生後初めての夜を過ごした。

 

◆ ◇ ◆

 

 保太郎はリタとカイーラの2人と行動することが多くなった。

 この世界での常識や振る舞い方をあまり知らない保太郎としては、冒険者ギルド代わりに情報や依頼を見つけてきてくれる2人はかなり便利であったし役に立った。

 また、遠距離戦闘を得意とする弓使いのリタと、近距離戦闘のカイーラに、遠近万能で魔法も使える保太郎は、組み合わせの相性もバッチリだった。

 スマホアプリを使った魔法に、二人は大層驚きまた誉めてくれたので、保太郎は悪い気はしなかった。

 「いや、すげえのはお前じゃなくてスマホだろ?」と突っ込む向きもあるかもしれないが、保太郎としてはそれこそ「転生特典にスマホを選んだ自分の先見の明」が誉められていることにもなる。

 まあ、表向きクールぶりつつも内心ヘラヘラ喜んでいる保太郎は、そこまで考えて喜んでいるわけではないが。

 

 しばらく行動を共にして、二人は自ら修行中だと言っていた通り、仕事を金額ではなく「自分たちの今後の糧になるかどうか」基準で選んでいるらしいことが分かった。

 なので、一見すると下らなくつまらない依頼を受けることも多かった。

 特に姉のリタはその意識が強いらしく、奔放で自由闊達な妹のカイーラとは度々揉めることもあった。

 

 保太郎は

「女の揉め事に関わるとろくなことはない」

 と、思っている。それはある意味事実だが、女二人男一人のグループで一切知らぬ存ぜぬを決め込んでいれば、それはそれで信頼性に関わる。

 何より保太郎としてはこの二人との関係を切りたくはない。情報源としても、この世界での接点としてもまだまだ有用だ。

 なので保太郎は揉め事になりそうな気配を感じると、コッソリとスマホで問題解決の方法を検索していた。

 知識、情報で済む揉め事は簡単だった。

 けれども問題は「どちらが正しいと言うわけでもない」と言うような揉め事の時だ。

 どちらかを立てても角は立つし、実際どちらでも良いこともある。

 

「だーからさー。姉さんは堅すぎなんだよねえ。

 そんなぎっちぎちに課題こなしてばっかじゃつまんねーじゃんさー」

 宿屋のベッドでだらしなく横になりながらカイーラが言う。

「あなたは緩すぎなんです。

 私達は実績を積んで実力を示さなければなりません。

 遊び感覚の仕事をやってる暇は無いんですよ」

 

 お堅い。実にお堅い。とは思うが、保太郎がここでカイーラに肩入れするのはよろしくない、ということは既に分かっている。

 ここでスマホの出番である。

 周辺地域での問題トラブルをざっくり検索しつつ、そこから条件に合うものを絞り込んで行く。

 

「リタの言うことも分かるけど、退屈な仕事ばかり続けていると逆に緊張感を無くして気持ちも緩むと思うよ。

 ここから西に2日程行った村で、はぐれゴブリンの群れが見かけられてて困っているらしいから、調査か討伐で行けば気分転換にもなるし良い経験にもなるんじゃないかな?」

 

 両者の言い分を汲み取りつつ立てて、「退屈だ、もっと派手な仕事をしたい」というカイーラと、「きちんと実績になる仕事をすべき」というリタ双方の要望を満たす。

 保太郎もなかなか慣れてきたものである。勿論スマホの情報検索が役に立ったのは言うまでもないが、保太郎自身もこの世界に来てから色々経験しこなれてきた。

 自分にも他人にも興味が無く、ただただスマホを通じてのみ世間と繋がっていた前世では考えられなかったことだ。

 

 

 保太郎の案は2人に受け入れられ、「さすがヤスタローだな!」「なるほど、ちょうど良い案件かもしれませんね」と好評だ。

 2人合わせて「さす、なる」である。保太郎も表向きクールぶりつつもご満悦だ。

 

 翌日、乗り合いの馬車で西への街道を行く。

 乗り合い馬車はかなり尻に負担がかかり、身体もこわばる。

 街道がそこそこ整備されているところはマシだったが、場所によってはかなりのものだ。

 保太郎はスマホで馬車の揺れを軽減する方法を検索して気を紛らわせた。ここで調べたことを元にして新しい装置でも作って大儲けしてやる、とも考えていた。さらには、自分自身の創意工夫は全く必要ないので楽なものだ、とも考えている。実際に作るのはどうせ職人かドワーフだ。ドワーフとはまだ合ってないが、この世界のドワーフも鍛冶細工に長けた種族らしい。

 改めてスマホ検索知識無双の今後を考えると笑いが止まらない。表向きクールぶってはいるが。

 

 村に着くと、一見すると簡素な木の柵で囲まれただけの長閑な田舎の農村という感じで、事件や怪異とは無縁そうだった。

 麦畑が広がり、山間に近い斜面には葡萄畑もある。この世界でも葡萄酒は広く飲まれていて、保太郎もけっこう好んで飲んでいる。前世では未成年だったし興味もなかったので酒も煙草も無縁だったが、この新しい身体はなかなかに飲める方だ。

 

 村人達に話を聞くと、確かに最近はぐれゴブリンと思われる連中が近辺で見かけられており、鶏が盗まれる等の被害が出ているらしい。

 まだ人が襲われるという事態にまではなっていないが、王都にも念のためと報告はしているものの、取り立てて危険視されるということもない。

 保太郎とカイーラは、思いの外小さな事件だと落胆したが、リタは「どっちにしろ大きな群れなら私達だけでは対処出来ない。調査だけして問題の規模を確かめるくらいが経験としてはちょうど良い」なんぞと言う。

 保太郎はまだ、所謂亜人タイプの魔物とは戦った事が無かったので興味があったが、まあ遠出したこと自体は気晴らしになったので良いだろうと考えた。

 

 村長に会い話を付けて、翌日から調査をすることになる。

 支払いは結果次第。勿論きちんと報告しても「信用できない」と払いを渋るかもしれないし、向こうからしてもこちらが嘘をついて金だけせしめようというならず者の類ではない保証はない。何せこの世界には、間に立って報酬と任務の遂行確認をしてくれる冒険者ギルドなんて便利な組織はないのだ。

 個々個人同士でのやりとりと信用のみ。

 いかにこちらが信用されるよう振る舞えるか。全てがそれにかかっている。

 

 保太郎は交渉の基本はリタに任せていた。

 リタの生真面目そうな雰囲気は、こういうときには役に立つ。

 ただしその前に、スマホ検索でこの村と周辺地域の情報を調べあげ、適切な話題をリストアップして教えてある。

 彼らの興味関心のある事柄や、日々の些細な悩みなどを話題に混ぜ込むことで、親近感を抱かせて信頼を得る。

 見方を変えれば詐欺師がよく使うテクニックではあるが、これらのテクニックそれ自体が犯罪的なわけではない。

 検索したハウトゥテクニックまんまではあるが、スマホでの下調べをリタ達は巧く活用していた。

 

 目撃情報を元に場所を絞り込み、Godglemapに位置情報を追加していく。

「どうもこの辺りに古い忘れられた遺跡があるみたいだ。

 そこに住み着いた連中が悪さしてるんじゃないかな」

 と、所見を述べる。

 実際にその遺跡近辺をGodglemapの画像でつぶさに調べたら、出入りしているゴブリンらしき連中の姿も確認出来ていた。

 誰が撮ったんだ。てか写真なのか。その辺りは不明である。

 

 遺跡、しかもおそらく手付かずの、となると、保太郎としては有り難い。

 そこが特に古代ドワーフ遺跡なら、魔晶石が手に入る可能性が高いからだ。

 ぱっと見は様々な色をした水晶のように見えるそれは、この世界に転生して最初に居た遺跡の中にもけっこうな数落ちていた。

 これもスマホの検索で詳細を調べたのだが、この色鮮やかな水晶のような“魔晶石”は、魔力の結晶なのだという。

 モンスターを倒すとポップするのかな? と思ったが、実はそういうのは滅多に無いらしい。

 

 ゲームと違って、この世界のモンスター、というか魔物、魔獣は、素材を剥ぎ取ったり、その魔晶石のようなものを常に落としてくれるような、「積極的に狩りに行くことで利益を得られるお得な獲物」ではないらしい。

 皮とか骨を加工することは出来るが、手間暇かかる割に「魔物素材だからそれだけで特別に強力」になるとも限らないし、食肉としては魔力が籠もってるため、生まれつきの耐性が無い人間にとっては毒のような作用もする。適切な処理で魔力を抜けば常食にも耐えるが、リスクと手間暇を踏まえれば、敢えて魔物を狙って狩るよりは、普通に鹿や山鳥を狩る方が良いし、家畜化した動物の方が便利だ。

 魔物を手軽に狩れて常食出来るなら、食肉用の家畜を飼う文化はあまり発展してないかもしれない。


 いずれにせよ人間社会にとって魔物、魔獣というのは「とにかく面倒で厄介で関わりたくない存在」でしかないのが殆どだ。

 唯一、動力源として、またはコアとして利用されている古代ドワーフのドワーベンガーディアンや魔術師の作るゴーレム、存在そのものが魔力の塊のような魔法生命体である幻獣等からは、頻繁に採集する事が出来る。

 

 で。

 自分自身ではごくわずかな魔力しか扱えない保太郎にとって、「魔力で動くスマホ」の動力源としての魔晶石は必須の消耗品。

 これがなくなると「スマホの充電」が出来なくなるのだ。スマホが使えないというのは保太郎にとって致命的だ。

「スマホという便利な道具が使えない」と言うだけではない。何せ「異世界に何を持って行く?」の問いに「スマホ」と即答するくらいだ。

 色々確かめてみて簡易魔法と呼ばれるごく簡単な魔法だけは自力で使えることまでは分かっているので、いざというときは自前の魔力でも充電ならぬ充魔力出来るのだが、あくまでほんのわずか。間に合わせの一時しのぎにすぎない。

 万全を期するためにも常に幾つかの魔晶石を確保しておきたい。

 

 ただこの魔晶石、買うとけっこうお高いのだ。

 ごく小さな物でも数日分の生活費相当。単純に言うと、今後も今のペースでスマホを使い続ける前提で居るならば、通常の二倍から三倍の生活費がかかると言って良い。

 今はまだ最初の遺跡で手に入れた物のストックがあるから良いのだが、これらが切れたら今みたいなのんびりした仕事ぶりじゃ間に合わない。

 かなり積極的に金を稼ぐつもりにならないとやっていけなくなる。

 

 なので、忘れられた遺跡が見つかり、そこで魔晶石まで手に入る……となれば、保太郎的にはかなり助かる。

 この時点で、保太郎の主目的はゴブリンの調査より遺跡にあるかもしれない魔晶石の回収になっている。

 とは言えそのことを二人にはわざわざ言わない。特に必要だとも思えない。

 考える必要があるのは、売れば結構な金になるだろう魔晶石を優先的に貰う口実くらいだ。

 

 村には宿などなかった為、村長の紹介で番小屋の宿舎を借りる。

 村の青年団達が交代で見張りをするときの詰め所の一つで、いまいち信用しきれないよそ者の見張りも兼ねている扱いだが、こういうケースの中ではかなり好待遇でもある。村長の屋敷の納屋だとか客間なんてのは、相当信用されなきゃ借りられない。宿屋が無ければ馬小屋か野宿が普通だ。

 

 翌日、3人は昼になる前に装備などを整えて目的地へと向かうことにした。

 元々現代日本の生活環境に慣れていた保太郎的には野宿も馬小屋も番小屋の汚いベッドもキツいものがあったが、今ではかなり慣れてきている。何よりよく眠れなくても、スマホの安眠アプリがあるし、警戒する為のアプリも、衛生環境を良くするアプリもある。魔法のスマホの魔法アプリは、戦闘だけでなくかなり便利で快適な生活を個人で営むのに向いたものも多数あるのだ。

 

 目的地はそう離れては居ない森の中だが、元々危険な魔獣や獣の多い場所ではないらしい。狼や熊は居るかもしれないが、それとて人里に来るほどでもない。

 逆に言えばそういう場所だからはぐれゴブリンの群れが住み着く事が出来たのかもしれない。

 熊や狼のテリトリーにはゴブリン達も近寄らない。シャーマン等が居ると狼を家畜化していることもあるらしいが、それは比較的大きな群れの場合くらいだ。

 

 索敵はこれまたスマホのアプリで出来る。生命体、または生命力を持たない魔物や魔法の創造物等々など、近くにいるそれらの動きがGodglemapの拡大周辺地図にマーカーで表示される。

 それらをきちんとチェックしつつ移動すれば、不意打ちをされることもないし、むしろ一方的に攻撃するのも容易い。

 異世界に来てまでも歩きスマホの保太郎である。しかもこの世界には彼を跳ね飛ばすトラックは存在しない。

 

 

 数時間程の探索でそれらしき群れは簡単に見つかったが、それはゴブリンではなかった。

 鼠と犬とモグラを足してぶん殴ったみたいな顔をした小鬼、コボルトだ。

「何だよ、コボルトかよ。

 しかも4、5匹程度の本当にちっぽけな群れじゃねーか」

 いかにもつまらなさそうにカイーラがボヤく。

 

 コボルトとゴブリンは一般的には混同されがちだが、生態から見た目からと全く異なる。

 ゴブリンとは違い、コボルトはたいていの場合人を襲うようなことはしない。特に大きな群れならまだしも、数匹単位のはぐれの群れならなおさらだ。

 臆病で小心。その代わりこそこそと隠れて物を盗むようなことをよくする。

 鶏を盗んだのは確かにこの群れなのだろう。

 そのくらいのことはするが、結局は軽く脅しつけてやれば簡単に逃げ出す程度の容易い相手だ。

 

 暫く様子を見てから、群れの数も今確認できている数匹のみと確信できたので、保太郎達はコボルトを脅かして追い払う。

 隠れ家が「怖い人間にばれた」と思えば、コボルトの群れは別の所へと逃げ出すから、村にちょっかいを出すことも無いだろう。

 保太郎達は彼らの巣を探り、盗まれた鶏の骨やら雑貨類を証拠として回収する。

 同時に遺跡の奥に魔晶石が無いかと探ってみるが、奥へと続く道は完全に崩落して進めなくなっており、保太郎としては完全に当てが外れてしまっていた。

 

◆ ◇ ◆ 

 

 挿絵(By みてみん)

 

「あーあ。思ってたよりかショボい仕事だったなあ~」

 帰りすがらそうボヤくカイーラ。

「なーんかさー。最近こう、戦いらしい戦いもしてねーし、腕が鈍っちまうぜ」

「鍛錬は大事よ。けどそれは安易な刺激のためにやるものではないでしょ」

「くぁーーー! 堅い! 堅いよ! 我が姉ながら堅すぎる!

 な、そう思うだろ、ヤスタローもさ!?」

 またもや二人の言い争いに巻き込まれる保太郎。このパターンはうかつな返答をするとまた面倒なことになる。

「ヤスタローさんはカイーラよりちゃんとしてます。

 あなたのようないい加減な姿勢ではいずれ大きな問題に直面しますよ」

「うぇぇぇぇ、信じられん程に堅い!」

 

 確かにリタは堅い。しかしカイーラはその真逆に何事もおおざっぱで適当過ぎる。正直二人を足して二で割るくらいが丁度良いんだけどなー、などと思っているが、それは口にしない。

 

「なーー、ヤスタロー!

 ヤスタローだってこんなお堅いことばっか言ってる女より、アタシみたいな方が気楽で付き合いやすいよなーーー!?」

 言いつつ腕を保太郎の肩に回して身体を寄せてくるカイーラ。

「何故そういう話になるの!? そ、それに、そんなにく、くっついたら、ヤスタローさんが歩きにくくて困っているでしょう!?」

 右からカイーラ、左からリタと、全力で挟まれる保太郎。何だか雲行きが怪しいぞ、と思っていると、スマホがブルルと震える。

「あ、敵だ」

 これもまたスマホアプリの索敵警報、邪魔者警報Jアラートの機能である。

 

 Godglemap上に表示される場所へ向かうと、飾りのある高価そうな馬車と、それを囲む賊の群れだ。

 賊は10人前後だろうか。多くは小柄で、数人ほど体格の良い者が居る。棍棒や斧、まれに剣で武装し、毛皮か皮の鎧、ボロボロの盾などを装備した姿は、典型的な山賊野盗という風体。

 馬車の周りには数人の護衛らしき兵が居て、奮戦はしてるが数的に劣勢。中に一人だけやたらと動きの早い黒装束の者が居るが、全体としては並みの動きだ。

 

「おお、居たじゃん、はぐれゴブリン!」

 カイーラの嬉しげな声で、保太郎はそれがゴブリンの群れだと分かる。成る程、実物はあんな感じなのか、と。保太郎は今までスマホの画像でしかゴブリン達を観たことはなかった。

「数が多い……。ここはまず私の弓とヤスタローの魔法で牽制し分断さ……せぇぇぇ~~~!?」

 リタの分析と立案などまるで聞きもせず、カイーラは雄叫びをあげて走っていた。

「カイーラ! 待ち……」

 止まったところでもう遅い。ゴブリン達の数人がすでに気づいて居てこちらへと向き直り身構え、数人は武器を振りかざしてこちらへ走り出している。

 

 保太郎はカイーラの後を追いつつ、スマホの魔法アプリを立ち上げる。

 使うのは水属性と土属性の複合魔法で、【泥濘ぬかるみの生成】。

 指定した地面の区画を大雨のあとのような泥濘へと変えて足を滑らせる。

 勢いよく走り出していた最初の数人はそれで見事に転び、後続も不安定な泥濘に慌ててバランスを崩している。

 

 その動きの鈍った群れへと矢継ぎ早に射掛けるリタ。カイーラは泥濘の前で方向転換し、回り込むように移動。

 保太郎はそれに合わせて魔法アプリでさらに援護と追撃。

 状況の異変に気づいた護衛たちは、ゴブリンの隙をついて反攻に出る。

 篭手の拳を巧みに使い、攻撃を受けて流しカウンターに殴り飛ばすカイーラの動きは、他の魔獣や魔物相手の時よりも、二足歩行で人型のゴブリン相手の方が鮮やかで巧く決まっていて、保太郎は補助以外殆どやることが無いまま敵を無力化出来た。

 

 始末がついて三人は、護衛の者達に礼を言われる。 

「助力、感謝する。

 我々は故あって旅路を急いでいたため少数だった。

 貴殿等の助けがなくば危うかったかもしれぬ」

 

 あー、来たな、ようやく来たな、貴族令嬢を助けて惚れられちゃう展開ね、と保太郎。

 最近は「Webノベルならこういうときはこーだろ」みたいな思考もしなくなって来ていたのだが、ここまでお膳立てされてはそう思わざるを得ない。

 しかし、

「貴殿等の名と逗留している宿等を教えて貰えれば、後程改めて謝礼を渡しに行く」

 あれ? 貴族令嬢は?

 等と思っている間に、さっさと支度をして去ってしまう。

 なんだよ! イベントねえのかよ! と内心ふてくされつつも、村と街のそれぞれの宿と名前を教えておいた。

 結果的にはぐれゴブリンの討伐も出来たし、それでこの件はまあ終わりかな……と、思いきや。

 

 

「……君は何だ」

「のおおおぉーーー、バレてしまったのにゃ!」


 背後の木陰で何やら変な調子でそう返すのは、体のラインがあまり出ないタイプのぶかぶかで手首足首などを紐で締めたような黒装束姿。ぱっと見は判断つかないが多分女だ。

 そして本人的には隠しているつもりなのか、覆面や装束の上からも分かるくらいに、尻尾と尖った耳がある。

 尖った耳といってもフード………というか頭巾の上の方からはみ出ていて、動物のような毛に覆われている。

 つまり、いわゆる獣人というやつだ。

 

「あー、あんた、馬車の護衛してた奴だろ?」

 カイーラが指摘する通り、彼女は先ほどの護衛達の中で最も素早く動いていた覆面黒装束の人物。

「何のことだにゃ? マーは護衛なんかしてないにゃ。マーは密偵で忍者だにゃ。

 そこの怪しげな男を追跡してたんだにゃ」

 そこの、というのは勿論保太郎のことだ。

 

「……密偵が密偵だと自分で言って良いのですか?」

 リタがもっともな疑問を口にする。

「しまったにゃ! 今のは秘密だにゃ! 聞かなかったことにして欲しいにゃ!」

 全く秘密になってない。

 

「はァ~? 怪しげなっ……て、ヤスタローの何がどう怪しげなんだよ?

 そりゃあ確かにめったにいねーよーな色男で強くて、性格も頭も良い奴だけどよ」

「そんなことは関係ないのにゃ。んにゃ、関係あるけど関係ないのにゃ!

 コイツからは変な魔力のハドーが出てるのにゃ! 凄く変なのにゃ! 

 めちゃめちゃ怪しいのにゃ! あと名前も変なのにゃ!」

 変な魔力の波動、と言われれば、それは間違いなくスマホからだろう。

 あと名前は確かに日本人名をそのまま使ってるから変かもしれないが、恐らく一人称のマーという名前らしい奴に言われたくない、とも思った。

 

 保太郎はこの自称密偵が何を考えているのかと訝しんだ。あの馬車の周りで護衛をしてたのは間違い無い。実際彼女の戦いぶりはすごかった。

 しかし密偵を自称するにはぶっちゃけ間抜けすぎるし、変な魔力の波動とやらを調べようと言う理由も分からない。

 そしてこれは助けた馬車の中の“偉い人”やらの命令なのか? つまりそれは……?

 

「……何にせよ、助けた後にこの様に探られる筋合いはありません。お帰りください」

 普段以上に丁寧な態度でそう追い返そうとするリタ。

「にゃ!? それは出来ない相談だにゃ! マーはきちんと調べて報告する義務があるにゃ!」

「んだとてめー、しつけーぞォ!?

 ヤスタローが迷惑すんだろーがよー!?」

 かなりヤンキーかレディースの暴走族みたいな対応のカイーラ。

「分かったにゃ! 迷惑かからないようにもう少し離れて後をつけるにゃ!」

 いや、そういう問題じゃないだろう……と思うが、しかし保太郎的には結構どうでも良かった。

 

「いいよ。探られて困るようなこともないし、特に害意もなさそうだし」

 素っ気なくそう言うと、マーと言う彼女は

「ありがとうにゃ! 助かるにゃ!」

 とか言いながら、確かに適度な距離を置いて木陰に隠れた。

 かつて尾行、調査対象に尾行させてくれるお礼を言った密偵など居たのだろうか。

 

 

 村までの道中、マーはしっかりきちんと尾行を続けて来た。

 コボルト達の件と、その後のはぐれゴブリン退治について村長に報告し、一応の証明としていくつかの戦利品にゴブリンの耳を見せる。

 ゴブリンの耳はエルフとも形状がやや異なる独特の尖り耳をしていて肌の色も暗緑色で特徴がある。なので倒した場合の証明としては、耳を切り取るというのが一般的だと言う。

 状態の良かった武器防具類なども持ってきており、事前の取り決め通りの謝礼に、それら戦利品の買い取りで幾らかの報酬を得る。

 ゴブリン達からの戦利品はひとまず村長の蔵に納められ、幾つかは適宜補修された後に必要に応じて行商人等へと売り払われる村の資産となるだろう。

 

 屋敷で晩餐を頂いてから、再び番小屋を借りて休む。屋敷と言ったところで保太郎の感覚からすれば田舎の粗末な農家程度の建物だ。客間も番小屋も大差ないように思える。

 翌日、それなりの収入に気の大きくなった保太郎とカイーラは、村人から聞いた話とスマホ検索から見つけたある場所へ行こうと言う話になった。

 最初はリタも難色を示しはしたが、結局は折れて、半日ほど歩いて山間の宿へと着いた。

 

「にゃ、にゃ!? 何故おまえ達はそっちに行くのだにゃ!?」

 もはや尾行どころか同行している自称密偵のマーがそう聞いてくる。

「何だよ、文句あんのかよ?」

「べ、別に無いにゃ! 聞いただけにゃ!」

「美容……いえ、健康と体調の保全に良いというからには、後学のため試してみる必要はあるとは思いますからね」

「いーんだよ。旨いもん食ってのんびり休めるっつーならそれでよ!」

 

 たどり着いたところは所謂「温泉宿」だ。

 この国では元々入浴文化が盛んで、大きな街には必ず公衆浴場があるくらいだ。

 先ほどの村でも、街のものより小さめのものが設置してあったし、使わせても貰っていた。

 衛生面もあるが、何より健康とリラクゼーション効果が求められ、また公衆浴場という場所自体がある種の社交場として機能していた。

 

 で、温泉にはより高い薬効があるとも知れ渡っており、温泉の出る場所にこういった宿、保養地が造られるというのもここ何年かの流行なのだと言う。

 

 挿絵(By みてみん)


「おっひゃー! すげえな、何だよこれ!」

 そうはしゃいだ声をあげつつそのまま湯に飛び込むのはカイーラだ。

「ちょっと、やめなさいはしたない! あと、ちゃんと身体を洗ってから入りなさい!」

 濡れて身体にぴったりと張り付く湯浴み着を押さえつつ、遠慮がちに入ってくるのはリタ。

 筋肉質で引き締まりつつも適度に肉付きの良いカイーラは、保太郎の語彙で言えば「むっちり巨乳」系で、鍛えられつつもしなやかな痩せ身のリタは「くびれスレンダー」系。

 この世界での価値観では、前世の日本よりも肉付きの良い事が女性の美の条件と思われているので、一般的にはリタよりもカイーラのスタイルの方が好まれる。

 二人の態度の違いは、そもそもの性格のみならずそういう価値観からくる自信の差もあるのもしれない。

 

 そんなことを考えている保太郎は、既にこの露天温泉の中。

 混浴だ。しかも個室の貸し切り。

 宿には大浴場もあるし、雑多に雑魚寝をする安い大部屋もある。

 あと当然ながら大浴場は混浴ではない。

 

 しかし今居るのはこの宿の中でも最高級の部屋の一つで、部屋に隣接した露天温泉まである。

 部屋付きの温泉には別に男女の区別があるわけではなく、結果混浴に……て、いやおかしいだろ!? と、内心思わなくもないが、基本クールキャラを演じてる……というか、元々は単に周りへの興味関心の薄さからクールだと思われ、そう思われている内にそういう自分を演じるような流れになってしまっている保太郎としては、そんな事で慌てたり騒いだりは出来ない。

 あくまで「や、別に女性との混浴なんて慣れてますけど、何か?」という顔をしたままだ。

 当然慣れてなんか居ない。

 というか、生前はただの学生かつほぼほぼ友達もいなかった保太郎は、こんな近くで半裸の女性と接したこともない。

 湯浴み着とされるのは浴場で着られる薄い布地を紐でかるく縛ったようなもので、覆っている面積としては所謂ワンピースの水着に近いものが多いが、水着と違って濡れると完全にぴったりと肌に吸い付き透けて見える。

 

 要するに、保太郎にとっては肉体的な生々しさがとてつもなく際立って見える格好なのだ。

 特にカイーラの方はというとリタとは違いやたらと保太郎に絡んでくる。

 いくら「俺、人間にあんま興味ないんで」な保太郎でも、こうなるとまた話は違う。内心はいっぱいいっぱいである。

 勿論態度には出さない。

 出してないつもりである。

 出てるかもしれない。

 

「ふぅ~ふっふっふ、極楽にゃ~」

 その保太郎の横で呑気にぷかぷか湯に浮かんでいるのはマーと名乗った例の自称密偵の獣人。

 マーは保太郎が前世で暇つぶしに読んでいたWebノベルによくある「猫耳と尻尾のついた美少女」みたいなタイプではなく、かなり獣っぽい外見をしていた。

 身体付きはほぼ人間だし、顔立ちは人間っぽい猫、叉は猫っぽい人間という感じ。全身を短毛種っぽい猫の毛で覆われていて、滑らかでしなやかな毛並み。

 というか当たり前に全裸になり風呂に入る辺り、一体今まで何故ああまで頑なに覆面黒装束を貫いていたのか。

 

 当たり前の顔で同じ部屋に泊まって居るが、何故そうなったのかと言えば、そもそもこの高級個室を取れたのがマーの口利きによるからだ。

 保太郎達には元々こんな高級個室を取るつもりはなかった。雑魚寝の大部屋は流石に取らないが、中の下くらいの個室をとり、大浴場に入れれば……との予定でいた。

 それが実際に来てみたところ、先入りしたマーが宿の人間と何事かを話していて、いつの間にやらこの部屋に決まっていた。

 

「あなた、この宿の常連か何か?」

「もう何度も来てるにゃ! 温泉は超最高なんだにゃ! お前らにも味合わせてやるにゃ!」

「おい、奢りか!? 奢りだよな!? こんなすげぇ部屋の宿泊料払えねーぞ!?」

 厳密には払えなくもないが、今後の生活が立ち行かなくなる。

 

 そしてマーの言う通りに温泉は最高だった。いろんな意味で。

 

 

 保太郎達は数日温泉でまったりとしていた。

 早く新たな仕事をしなければ、と言うリタではあるが、マーのお陰で高級個室をただで借り続けられている為ついつい長居してしまう。

 

 その日もゆっくりと湯に浸かった後に部屋でのんびり食事をとる。食事も部屋代と込みで、長椅子、ソファに座ったり寝そべったりしながら食べる。旧帝国貴族風の食事スタイルだ。

 羊や鶏のスパイシーローストに生ハムとチーズ、シンプルな蒸し野菜。インドのナンに似た薄焼きのパンに様々なフルーツという、オーソドックスなメニューだが、味は良い。

 保太郎も魔晶石のストックを増やさねばとは思いつつも、女性二人と……あと一人の獣人とだらだら混浴する日々に浸りきっている。

 温泉のおかげでか精神的にもかなりゆるくなり、初めから全裸上等なマーはもとより、密着度の高かったカイーラに、三人の中では最も常識的だったリタまでもが、かなりのラッキースケベ状態を日々露わにしてきてくれた。

 これは既にもはやハーレム状態と言って良いはずだ、とは思いはするが、かと言って巧いこと手を出そう……とか考えてそれを実行出来る保太郎ではない。いくら見た目が良くて実力派で魔法のスマホというチートアイテム持ちでも、中身はただの高校生にすぎない。

 保太郎に出来たのは、一見電子機器だが魔法のアイテムである異世界スマホを温泉に持ち込んでの隠し撮りくらいである。

 

 そんな風に数日を過ごしていると、保太郎一行の部屋を客人が訪れる。

 

「先日の件でお礼に参りましたわ~」

 お礼参り……ではなく本当のお礼だ。

 妙にのんびりした調子で従者を連れた若そうに見えるご婦人。細面で柔和なたれ目の顔立ちは、おっとりとした品の良さが感じられる。

 

「おおー、来たにゃ!

 こいつのことはマーがしっかりと見張ってたにゃ!

 今のところは問題ないのだにゃ!」

 寝転んで鶏もも骨付き肉をかじりつつマーが言う。

 部屋に来たのは例の馬車の護衛とその主と思われるご婦人だ。

 自称密偵でありながら速攻で尾行がバレ、その後はほぼ同行者としてつきまとっていただけのマーに一体報告できる何があるのかは疑問だが、ともあれマーによる身許調査では合格のようだ。ほぼ温泉でだらだらしてただけだが。

 

「え? マジでコンティーニ将軍の?」

「カイーラ! 言葉を改めなさい!

 失礼しました、奥方様」

 二人が驚き恐縮するのも無理からぬ。

 保太郎達が助けたのは、この国では英雄と呼ばれているリッカルド・コンティーニ将軍の12歳になる娘エレナ・コンティーニであり、今来たこのご婦人がその母でありリッカルド将軍の夫人のラーナ・コンティーニだからだ。

 

 神pediaによるとリッカルド将軍は二年ほど前に起きた“血の髑髏事件”に端を発するクトリア邪術士討伐とやらで功名を成し新貴族となった新進気鋭の時の人。

 要するに「超有名人」だ。

 そしてこの温泉宿を経営してるのも実はコンティーニ家で、保太郎達が高級個室を借り切れたのも常連客のマーによる口利きではなく、奥方であるラーナによる口利きだった。

 これは偶然……というよりは当然の成り行きで、保太郎達が馬車を助けたときに向かっていたのがこの宿で、あの村の近辺で貴族が向かう場所など有名な保養地であるここしかない。

 この地へ向かおうとしたときにマーが変に慌ててたのも、身元確認のとれる前にバッティングしてしまう可能性があったからだ。

 

「夫はお二人の父上であるエリスとも懇意にさせてもらっていますのよ~」

 鷹揚とした、というか、のんびりとした口調の奥方のラーナ夫人はそう笑いながら言うが、カイーラもリタも父親についての話はしていない。保太郎に対しても、だ。

 なのでこっちに張り付いていたマーとは別の誰かが、この数日でカイーラとリタの身元確認を済ませてきたと言うことなのだろう。

 しかし……。

「こちらのヤスタローさんも戦団の方なのでしょうか?」

 そう問われても保太郎としては戦団とやらを知らない。


「あ、いえ。ヤスタローは違います。以前私達も助けてもらった事があり、それ以来の道連れです」

 リタとカイーラにしろ、このコンティーニ家の馬車の件にしろ、保太郎からするとかなり「テンプレ通り」なイベントだ。

 今回の件にしては、一度助けたという後にこちらの身元確認という一手間が入りはしたが、結果からすれば想定通り。

 ただラーナは貴族の奥方で、その娘はまだ顔を見せていないが12歳というからまるっきり子供。前世の保太郎は高校生で、その感覚からすれば12歳は小学生。年齢が近い分余計に「子供」という感覚が強くなる。

 この世界の一般的な成人年齢は15歳で、リタとカイーラもその年齢、つまり成人したて。立派な肉体を持って転生した保太郎も、恐らくそんなものだろう、と自分では思っている。

 貴族ともなれば政略結婚が基本というこの世界では、12歳で婚約なんてのもそりゃ珍しくはないが、かと言って保太郎が12歳のエレナ相手にどうこうというのはおかしな話だ。

 

 ───等と言うことをぐだぐだ考えているのは、勿論保太郎が前世のWebノベル的観点で「このテンプレの場合、エレナちゃんハーレムインするよな? けど12歳をハーレムインとかって、リアルに考えるとかなりヤバくね?」という所からだ。

 人間にあまり興味が無く、ネットを通じたバーチャルな生活に浸かっていた頃は気にもしていなかったが、異世界で生身の人間……や亜人等々と関わることが増えた事で、その辺りをむしろ意識する様になってきている。前世ではなかった事だ。

 

 それに、実際この世界の人間の身体的成長度は前世の日本より遅い。

 成人してる者達も体格に優れた者はそう多くはないし、12歳なんてのは10歳以下くらいに見える。社会的には成人してるリタとカイーラも、前世の感覚で言えば女子中学生くらいに感じる。前世年齢が男子高校生な保太郎的にはそのくらいなら「だいたい同年代」な感覚でさほど問題無いが、流石に小学生低学年くらいに見える女子に性的な妄想は抱けない。

 ついでに言うと、体型“だけ”ならば全体にほっそり小柄なラーナ夫人よりも獣人のマーの方がむっちりグラマーだ。あまり関係ないが。

 

 と、傍目には「変に出しゃばったり、武勇伝自慢をしたりせず神妙な顔つきで控えている」ように見える保太郎の頭の中は、こんな感じであった。前世より他者との関わりについて考える事が多くはなったとは言えこの程度ではある。

 

「それはそうと、先日の馬車でも少ない供の者でかなり急いでおられたようですが」

 保太郎の内心とは無関係に場の会話は続いていた。

 リタ達の戦団とやらが何かは知らないが、直接の面識はなかったとは言え縁はあるからか、細かいことにも話題は及ぶ。

「ええ、それなんですけどもねェ~……」

 あまり緊張感の感じられないラーナ夫人によると、ここへ来た理由は療養で、娘のエレナの具合が長らくよろしくない事からだと言う。

 原因がはっきりせず、微熱と倦怠感が続きときおり痛みがある。

 症状自体は重篤ではない。ただそれが数ヶ月前から徐々に起きて長引いて居るのだという。

 

「え? もしかしてヤバいやつ?」

「いえいえ、それほどでは無いのですよぉ~。

 でも今はエゼリオも居ないし、大事をとってるので」

 柔和な笑みを崩さずにラーナ夫人が言う。

 エゼリオというのはコンティーニ家の長男で、光魔法に特性を示し神官騎士として修行中の身なのだという。

 この世界には属性ごとに様々な回復系統の魔法があるが、光魔法は特にそれらに特化された魔法が多い。エゼリオが居れば長引くこともなかっただろうが、あいにくそうではない。

 

 リタはあまりに不躾なカイーラを後ろでつねり、つねられたカイーラは無言でリタを睨む。

 保太郎はというと、聞きながらこっそり弄っていた異世界スマホで検索をし、その症状から幾つかの検討をつけていた。

「あのー、奥方やリッカルド将軍にはその症状はありますか?」

「いいえー、エレナだけなのよー」

 感染症は違う。

「どこか彼女だけで旅に出たり、滅多に行かない場所へ行ったりとかは?」

「あの娘は余り外には出ないのよねえ」

 風土病の可能性も薄い。

「食事や飲み物の偏り等は?」

「あら、ご存知なのかしら? 最近東方のものを取り寄せてますのよ」

 特殊な食事、食材……寄生虫や菌類?

「でも私も食べてますのよ~。変わった風味ですけど、なかなか美味しいの~」

 ……なら違う、か。

 

「ヤスタロー、何か分かりそうか?」

 脳天気に、というか多分特に何も考え無くカイーラがそう聞く。

 分かるかな、とも思ったが、今の所検索で調べた症例で当てはまるものはない。

 後は───。

 

「直接お会いする事は出来ますかね?」

 

 

 護衛の男やお付きの従者が色めき立ったが、その空気の変化を読みとれるほどには保太郎も世慣れてない。

 ラーナ夫人は保太郎の後ろに居たマーと視線で会話しているが、それにも気が付くことはない。

「お、それなら分かりそうか?」

 同じく空気を読まないカイーラがそう続け、リタは慌ててそれを止めようとする。


 保太郎辺りが現代日本人感覚で持っている中世ヨーロッパ風世界のイメージと比べると、この世界の……いや、この国の貴族と市民との垣根は高くはない。

 元々帝国の前身は共和国で、帝政となってからも長く元老院による合議制の政治体制が続いており、貴族達も荘園や鉱山などを所有し経営することで財を成している者がほとんどで、今の王国でも地方を領主が統括する封建制ではない。一部の辺境伯等を除いては、だが。

 それに軍人であり英雄のリッカルド将軍が新貴族として新たに貴族位を得るなど、貴族というもの自体、ある種の名誉を現す称号のような意味合いの方が強い。

 しかしだからこそ、初対面で新貴族であるコンティーニ家の奥方やその娘のエレナにあまり不躾な態度で接するのは、「新貴族“だから”軽んじている」と受け取られる可能性もある。

 リタとしてはそれを避けたい。

 

 しかしラーナ夫人は相変わらずののんびりした口調、態度で、

「そうねぇ~。加減の良いときがあれば、改めてお礼を出来るかもしれないですわね~」

 と言いながら笑う。

 新貴族だから、なのか、元々の彼女の気質なのか、なんとも呑気な対応だ。

 

 そんなことは気にもせず、保太郎はこの新規クエスト攻略の為にスマホをどう活用するかを考えている。

 先ほど使ったのは“異世界医学”のアプリ。異世界、と名付けられているのは主体がどこなのかと疑問に思えるが、このスマホはあくまで保太郎用にカスタマイズされたものなので、あくまで「この世界に転生する前の保太郎」の目線なのだろう。

 現時点で重篤ではないとは言え、症状が長く続いていて、それが徐々に重くなっている、と言うのがポイントだろう。

 貴族だからこそ気付けた、とも言えるが、平民なら「最近ちょっと怠い」くらいで無理に働き続ける、ということになり易いだろうし、その分症例のデータとしての蓄積が少ない。

 この世界の医学、医術の範囲ではなかなか見つからない。

 

 夫人と別れてからもあれこれとスマホで調べていた保太郎は、そこで視点を変えてみることにした。

 そしてその結果が、まさに大正解だったのだ。

 



「あー、なる程。これですねえ」

 開口一番そう告げる保太郎。その不躾な態度に周りの者は色めき立つが、その場において最も地位ある立場のラーナ夫人が咎めない以上それに倣うしかない。

 

 結論から言ってしまえば、エレナの長い体調不良は病ではなく呪いであった。

 強力な呪い……ではないが、“しぶとい”呪いだ。

 軍人家系のコンティーニ家には三人の男子がおり、彼らはそれぞれの適正により別々の任務で各地を渡っている。

 その中でも最も軍人としては貧弱と見られている次男ニコラウスはそれらの評判を退けようとしてか、現在北方の属国周辺での反乱や賊徒、魔獣等を相手とした鎮圧、討伐部隊に従軍し転戦を続けているという。

 

 で、時折そちらで得た様々なものを「戦利品」として送ってくるらしいのだが、その中の一つが、エレナの身に付けていた首飾りだ。

 見た目はシンプルな十字架だが、この世界にはキリスト教もないので特定宗教のシンボルではない。それでも意匠としての十字架にはある種の魔術的シンボルとしての意味はあり、例えば上下左右に均等な長さのものは四元素の調和と安定を現す。

 エレナが持っていたそれは、保太郎の見る限り前世でよく知っていた下の部分が長いタイプの十字架。この世界ではやや独特のものになる。

 

「これ、ゆるい呪いのアイテムですよ。

 効果そのものは低いけど、持続性だけはめちゃ長いんで、数年かけて持ち主を弱らせます。

 呪いそのものは死にいたるほどではないけど、まあ身体も心も弱ってけばちょっとしたことで呆気なく死んだりしちゃうから、ある意味効果的ですよね」

「まあ、それはそれは……」

 ゆるい呪い、という言葉も保太郎の物言いもゆるいが、それを聞くラーナ夫人の反応もゆるかった。全てがゆるゆるである。

 

 医学関係のアプリでイマイチそれらしいものが見つからなかった保太郎は、まず直接会って確認しようと考え、そして鑑定アプリで状態を見てみると、エレナのステイタスに小さく【ゆるい呪い】との表示。

 そしてさらに詳細を見て、その根元が胸元の十字架だと判明した。

 

「まさか……! お渡しする前に教会で聖別を行っております! 呪いの装飾品など紛れ込む余地はありませぬ!」

 使用人の言うことももっともで、それなりの寄付とともに呪いや危険性の有無を調べてもらっている。特に辺境で手に入れたものならなおさらだ。

「まあ、これゆるいやつだから教会とかだと逆に分かり難いんじゃないすかね?」

 保太郎はけっこう適当にそう返すが、これもあながち間違いでもない。聖別で見分けるには呪いの力が弱すぎたのだ。

 詳しく調べれば分かっただろうが、たいていの場合教会ではまとめてさっと見るだけで、特別な寄付でもない限り事細かに調べたりはしない。コンティーニ家では長男のエゼリオが光属性魔法の使い手な為、教会に詳細まで調べてもらう事をしていない。一年に数回戻ってくるときにエゼリオが調べ直すからだ。

 それが今回は仇になったと言える。

 

「なあ、ヤスタローは【解呪】まで出来るのか?」

 解呪、つまり呪いを解くことは出来るのかとカイーラに聞かれるが、出来るかどうかで言えば出来なくもない。その手のアプリも異世界スマホにはインストールされている。

 ただ魔力コストがかなり高いので、あまりやりたくはないというのが本心だ。


「やっていただけるのでしたら、相応なお礼をいたしますわ」

 ラーナ夫人のその一言で、保太郎は一も二もなく解呪を請け負った。

 

 

 保太郎達はその後十分以上の謝礼を貰い、またこの宿でのしばらくの滞在を許された。

 かなりの厚遇だが、テンプレと異なり「貴族のロリ娘がハーレムイン」する事はなかった。

 当たり前である。いくら助けられたからと12歳の娘をどこの者とも知れぬ男に差し出すなんてのは狂気の沙汰だ。いや、そういう文化の所も絶対にないとは言えないが、この国はそうではない。

 仮にあるとしたら、極端なまでの家父長制で、当主の男以外は“当主の財産の一部”と見なされるような文化の国だろうし、その場合も側室が沢山居て娘も大勢、という場合くらいだろう。

 この国も一応は家父長制が一般的なのだが、女性であるリタとカイーラが元々二人旅をしていたことからも分かる通り、女性の社会的地位もさほど低くない。

 政治的には貴族による合議制だが、その元老院貴族にも女性貴族は少なくない。ある面では前世日本より女性の社会進出が進んでいるとも言えるが、その理由の一つはおよそ27年ほど前に起きた大災害で人口、特に貴族階級がかなり減ったことにもあるらしい。

 

 その辺りのことは保太郎の現状にはあまり関係ない。

 今回の件は保太郎のこの時の感覚では「Webノベルみてーな異世界転生したけど、いまいちWebノベルみてーなイベントはポンポン起きねーな。てかリアルに直面すると、12歳ロリ貴族娘をハーレムインとかあり得ねーわ。あれ、ノベルだから読めるんだよな」程度の事であったのだが、実はこの後の活動には大きく関係してた。

 

 

 まず、自称密偵のマーが当たり前の顔で同行しだした。

 本業どーすんだ、お前コンティーニ家の密偵じゃないんか、と聞きたくもなる……というか聞いたが、

「マーは自由契約の密偵だから、自由に怪しい奴を探るのにゃ!」

 等と意味不明な証言をしており、全く何を考えているのか分からない。

 

 しかしマーが保太郎達に同行することをラーナ夫人も了承しているらしく、それで問題が起きると言うことはなかった。

 それどころか、マーの同行は探索でも町中での交渉でも助けになり、索敵及び戦闘での活躍は見ざましく、また彼女の同行であちこちの町や村で有利になった。

 保太郎達は言わば「コンティーニ家の後ろ盾」を得たのに等しい状況になっているのだ。

 

 英雄と呼ばれる新興貴族のコネがある、というのは物凄いデカい。店での買い物でも良い商品を割安で買えるし、宿でも良い部屋を回してもらえる。中には露骨に賄賂を渡して「コンティーニ家とのご縁を結ばせて欲しい」と来る者達も居たが、そこはリタが丁重に断る。もしかしたら裏でマーが何かやってるかもしれないが、そこまでは関知できない。

 

 そしてそれらの縁もあってか、隊商の臨時の護衛、不穏な動きの見られる廃虚城塞の調査、山賊退治、魔獣討伐……と、様々な依頼を受けてはこなし、保太郎達はそこそこ名の売れた存在にまでなって行った。

 まさに、保太郎の読んでいた「異世界転生Webノベルみてーな」展開だ。

 

★ ☆ ★

 

「誕生日会?」

「そうだにゃー。エレナっちがもうじき13歳になるにゃー。

 まだ社交デビューはしないけど、その予行演習みたいなもんにゃー。

 内々と家の人脈作りを兼ねての宴会だにゃー。

 お前たちも来ると良いにゃー。旨いもんたらふく食えるにゃー」

 

 つっこみどころは色々あるが、元々社交性の高いわけではない保太郎にはそうそそられるイベントでもない。

 しかし「貴族とのコネ」がどれだけ有益かを知ってしまった今、無碍に断るという選択肢は無くなっている。

 端的に言って今の保太郎はかなりドヤっている。ドヤ顔でドヤドヤドヤっと街を闊歩している。

 

 リタとカイーラは会った当初より保太郎に対して親密な態度を見せている。親しくなったからというのもあるかもしれないし、また度々訪れる温泉での美容効果もあるのか、美人さにも磨きがかかり完全に「両手に花」状態だ。

 マーは……相変わらず良く分からないのだが、リタやカイーラとも今は巧くやっている。仕事の依頼を持ってくることもあれば、「面倒だから今日は寝てるにゃ」とまるで動こうともしない気紛れぶりも発揮するが、どうやら猫獣人(バルーティ)と呼ばれるこの世界の獣人は多かれ少なかれそういう気質らしく、本人の言うところの「自由契約の密偵」というのもあながちデタラメでもないのかもしれない。

 それでも保太郎から離れようと言う素振りはなく、つきまとい続けているのも確かだ。

 

 宿屋でも花街でも保太郎へと熱い視線を送る娘は日に日に増えている。

 勿論それらにほいほい手を出せるほど保太郎はすれてもいないし女性慣れもしていない。

 元々ごく普通の……との自認だが、どちらかというとやや内向的で学校でも友達の居ない非コミュ系の高校生男子。本人曰わく学校外には友達は多い。アメリカ大統領も日本国首相も友達だ。SNSでフォローしている、という意味で。相互ではないが。

 ただこちらではその非コミュ故の「素っ気ない」対応が、逆に女性からは「クールで素敵」とも捉えられている。

 見た目と評判の裏打ちがあれば、中身がただの非コミュでも受け取られ方は変わるのだ。

 そしてその状況は、保太郎自身に「この世界に転生した自分は、周りの人間、特に女性からちやほやされるのが当然の存在なのだ」という自己認識をさせるようになった。

  

 

 評判、実績、見た目の良さと三拍子揃った今の保太郎は、主を持たぬ放浪剣士としてはかなり特別な立場にいる。

 この世界には冒険者ギルドみたいな分かり易い評価軸を提示してくれるものはないが、その例に準えるなら「ギルド加入数ヶ月でS級冒険者に成り上がった」みたいな状況。

 つまり、次へのステップアップが求められる時期だ。

 「BOUKEN!」から「NAISEI!」のターンへ、と。

 

 実のところ保太郎に政治的野心があるかと言うと、それは特にはない。

 ただこれもまた「テンプレ的に言えば、次はそれっしょ?」というそれだけのことだ。

 冒険者として成功し、自分のことをちやほやしてくれる女子を周囲に侍らせたのなら、貴族と懇意になり現代知識で内政や商売に手を伸ばす。

 Webノベルで読んでいた異世界転生モノのテンプレ展開が保太郎の「教科書、マニュアル」みたいなもので、しかも異世界スマホを使えばいつでもそれらを再閲覧出来る。サイトへの投稿までできれば自分の実体験を元にして投稿したいくらいだが、さすがにそこまでの機能はない。

 まあ、読書感想文以上の文章等書いたこともないし、それとてスマホ検索した内容のコピペ切り貼りでしかないのだが。

 

 何にせよ所謂「現代知識チート」な金儲けをするのにも、この異世界スマホは大活躍するはずだ。何でも検索すれば出てくるのだから、むしろこれからが異世界スマホの本番とも言える。

 金稼ぎは保太郎にとってはかなり優先的課題だ。

 この魔力で動く異世界スマホを使い続けるのには、魔力を補充するための魔晶石が必須。しかし魔晶石は買うと結構高い。そのためにはいくらでも金が必要だ。

 自分自身、確かに見た目も良く戦士としての実力も高い方だ。しかし今の成功、評判の殆どはスマホありきでのもの。そのことは保太郎自身ある程度は自覚している。

 つまりこの世界での「周りからちやほやされる快適な生活」は、ひとえにこの「異世界スマホの十分な活用」にかかっていて、そのためには大量の魔晶石を買う資金が必要。

 常に現ナマをガンガンぶっ込んでいかなきゃならないのだ。

 

 世知辛いもんだなあ、なんてなことも思うが、とは言えぶっ込む現金に対してのリターンはかなり大きい。

 何せ前世の現代日本に比べて「情報」の価値がまるで違うし、魔法アプリまである。異世界スマホそれ自体には派手なところは何もないが、この世界の社会基盤を覆しかねないほどの価値がある。

 前世ではほとんど誰でもスマホを持っていたし、買おうと思えば誰でも買えた。しかしこの世界では保太郎しか持っていないし、その利便性を享受出来るのも保太郎のみ。

 返す返すもチートなアイテムを貰えたものだと思う。

 

 

 当日。

 エレナの誕生日会は、思っていたよりは質素でささやかだが、それでもかなりの人手だった。

 有力貴族に豪商、魔術師協会、遠くウッドエルフやドワーフ達に北方属州からの使者等々、今まで会えることもなかった存在とも会える。

 コンティーニ家の庭園で開かれたそれは、前世で雑にイメージしてた舞踏会とか夜会等とは違い、昼間の晴天の元での自由な会食だった。

 美酒美食が並べられ、開会の挨拶の後はめいめいに食事飲食や歓談をする。

 楽士達の演奏や芸人達の余興もあり、全体的にはゆったりとした気楽なホームパーティーのような雰囲気。

 そのため、元々非社交的な保太郎でもさほどの緊張もなかった。いや、非社交的ではあるものの、その理由は対人関係が苦手というよりも単に他人への興味が薄いだけの保太郎は、むしろそうそう緊張するようなことも無いのだ。

 

 本格的な社交の場、と言うこともあり、異世界スマホは大活躍をしている。

 事前に服や何かを入手するのにネット通販。何と魔力消費で「お取り寄せ」まで出来てしまう。

 新たに出会った人物は即座に検索。必要な個人情報に彼らの現状、出身地や好み家族構成。あらゆる情報が即座に手に入る。何百人もの密偵を抱えたところで、保太郎のこの情報量には適うべくもない。

 調べたことを即座にべらべら吹聴するほどには馬鹿ではない。しかしそれとなく匂わせることで、侮れない相手だと思わせるには十分すぎる。

 まさにこの誕生会での社交は、保太郎の独壇場だと言えた。

 

 

「ふん? 貴様は遺跡探索者か? 古代ドワーフ遺跡の様式についてきちんと理解できているか? 良いか、様式の違いは表面的な意匠のみならず構造全体の違いにも現れるのだぞ……」

 エルフらしい尖った耳と大きな目をした男が何やら言ってるが、異世界スマホで検索すれば分かる程度のことを並べ立てているので適当な相づちで誤魔化しておいた。いずれは役に立つかもしれないが、今のところはどうでも良い。

 

「かなりの腕利きで、光属性魔法の解呪まで出来るそうだが、仕える主はもう定めたのかな?」

 頭頂部の禿かけた壮年の貴族が聞いてくるが、少なくとも今の保太郎には誰かに仕えて生きるつもりはさらさらない。そうそう都合良く「誰かの手駒」になんかなってやるものか、とも思う。

 

「やあやあ、ふふん? リタとカイーラの言うとおり、なかなかの美丈夫じゃあないか」

 背の低い小人族の男がそう声をかけてくる。ずんぐりした丸っこい鼻と大きな耳で手足も大きい。

「ジョーイだ。戦団では副長をしている。二人の推薦もあるし、君が望むなら試験を受けることも出来るが、どうだね?」

 ここで言う戦団というのは、リタとカイーラの父が所属している戦士の互助会のようなものらしい。

 保太郎が前世で読んでいたwebノベルの異世界ファンタジーによくある冒険者ギルドに似ているが、あれよりも小規模で地域密着型。基本的に王国内でしか活動をしないし、何よりある程度以上の実績があり、推薦を受けていないと試験すら受けられない。金さえ払えば誰でも入れるwebノベルによくある冒険者ギルドよりハードルが高いが、だからこそ箔がつくとも言える。彼らの疾風戦団に所属して居ると言うだけでも、一目も二目も置かれるのだ。

 

 リタ達から話を聞き、そして彼女らが入団試験を受ける実績を積むため様々な仕事を請けていた事を知ってから、保太郎も今後の目標の一つとして疾風戦団への入団を考えていた。

 勿論、そこでのコネが有益だというのもあるが、それ以上に「やっぱ異世界転生モノならそーでなきゃ!」というのが最大の動機だ。

 よく知るwebノベルの展開からすると順番が色々逆だが、こういうところで頭角を現していく、という展開は分かり易い。


 

「貴方がヤスタロー殿か。

 お噂は聞き及んでいる。

 私はクリスティナ。戦団の“戦乙女”だ」

 

 そのジョーイの後ろから進み出てくるのは別の女性。

 この辺りでは珍しい金髪碧眼。肌も透き通るように白いすらりとした体格で、年も近そうだ。

 顔立ちは彫りも深く整っていて、派手さはないのにまるで前世で見ていたハリウッドスターのように圧倒される雰囲気がある。

 もし、前世の日本人的感性のままで見たら、やや……いや、かなり気後れするだろう威圧感すら感じられただろうが、今の保太郎は既にこの世界への慣れと実績と経験がある。あるが、それでも少しの間、見惚れたかのように口を開けて反応できずにいた。

 

「古い英雄の娘が、新しい英雄のご令嬢の誕生日祝いに来るってのは、またキツいジョークだね」

 なにやら含みのある言い方でカイーラがからかい、リタがそれを窘める。

 言われたクリスティナはというと表情も変えず、

「単に戦団の一員として来ただけだ」

 と素っ気ない返し。

 

 なんというか、保太郎としては非常に新鮮だ。

 リタの所謂“堅物”感とも違う、言うなればクールビューティーとでも言うところか。単純に見た目が整っているとかどうとかではなく、所作振る舞い態度等々、この世界に来て初めて接するタイプであり、存在感。

 

「は……じめまして、保太郎……です」

 やや上滑りな声でそうぼそぼそと返すも、我ながら足下も落ち着かない。

 そして落ち着かないまま特に気の利いたことも言えずに、誕生会は終わり夜になった。

 

★ ☆ ★

 

 コンティーニ家の離れの客間をあてがわれ、清潔で大きめのベッドで寝転がりつつ保太郎は状況を整理していた。

 学級委員長タイプのスレンダー弓士。

 活発系スポーツ少女タイプの格闘戦士。

 気紛れいたずらっ娘な猫獣人ニンジャ娘。

 今のところ関係性はまだ薄いロリ貴族娘。

 そして、凛とした高潔さを感じさせる聖女……戦乙女。

 これは、ロイヤルストレートフラッシュかと言えるくらいにカードは揃ってるんじゃあないか? と。

 

 リタとカイーラはもう確実。マーは……そもそも良く分からんが、まあイケる気がする。所謂ネコミミじゃなくて全身もふもふな獣人なんだけど、むしろ異世界なのにただのコミケコスプレと大差ないケモミミ系獣人よりアリなんじゃね? みたいにも最近は思えている。何より気まぐれで奔放、というのがそれっぽくてそそる。

 ロリ令嬢は……まあ、保留だよね。今後も接点はあるだろうし、時間の問題か。

 それより何よりクリスティナだ……と、保太郎は考える。

 

 異世界スマホで色々と調べたところ、クリスティナの経歴も多々ふるっている。

 父は王国の英雄で、クリスティナ自身も幼い頃から光属性の魔力に優れていることが分かり聖光教会からも聖女候補として認定される。

 しかしその父が邪術士に暗殺され、コンティーニ家の当主であるリッカルド将軍がその邪術士達の陰謀を打ち破ると世間の耳目評判は一気にそちらへと傾く。かつての英雄の娘の天才児は見向きもされなくなり、流れ流れた果てに戦団入り。

 そんな経歴だというのに、あの気高さは何だ? ただ単に地位があるとか血筋が良いとかの話じゃない。

 

 欲しい、と。この世界に転生して初めて保太郎は、自ら能動的かつ積極的に「欲しい」と思った。

 今の地位も名声も、金も女からの人気も、別に自ら手に入れようと動いて得たわけではない。

 ただ異世界スマホを使い、出来ることをwebノベルによくあるノリで適当にやっていたらついてきた。それだけだ。

 しかしクリスティナは違う。

 あの気高さ、凛々しさ、高潔さ。そういうものを含めてとにかく「欲しい」と……。いや、有り体に言えば「汚したい」と思った。

 高潔で気高い聖女候補を、他の俗な女たちとともに並べて“ハーレム”に入れてやりたいと、そう思った。

 その気持ちが一体何に起因するのかは本人にも分からない。

 ただ保太郎はそうしたいと欲望を抱いたのだ。本人もまた無自覚のままに。

 

 そのもやもやした感情を持て余しつつ、異世界スマホをいじくり回してはクリスティナについて調べ続ける。

 調べ物をしすぎて魔力の残量が減ってきてても、魔晶石を使い充填するのも後回しにするほどに、どうにかしてクリスティナを「手に入れる」為の方法が分からないかと考えている。

 

 

 夜もそれなりに深まって来た頃、その保太郎の部屋のドアをノックする音がした。

 思索……というより妄想を一時中断させられてやや苛立ちつつ、保太郎がどうぞと入室を促すと、既に寝間着姿のカイーラが居た。

 何か用か? と特に興味もなく聞くと、パーティーで騒ぎすぎて寝付けない、みたいなことを言いつつ入って来て、保太郎のベッドに座る。

 普段に比べると明らかに声のトーンが下がった調子のぼそぼそとした声で、昼間のパーティーのことやこれまでの仕事や探索のことなど取り留めもなく話している。

 何だこいつ、よく分かんないし面倒くさいなー、等と保太郎は上の空で聞いているが、そうこうしていると再び戸を叩く音。

 上の空でそれに答えると、入るなりあわて気味のカイーラを見て驚くリタの姿。

 

「……カ、カイーラ?」

 リタも夜会用の薄手のドレス姿だが、寝間着というほど大胆ではない。

 というより、保太郎自身が気にもとめていないだけで、夜に寝間着姿で男性の部屋に行くなどというのは、少なくともこの世界の「上品な常識」においては有り得ないし、その行為の意味することはただ一つ。


「な、何をその様な格好で……!?」

 絶句しつつも姉としての体裁を整えようとするが、寝間着姿ではないとは言えリタの夜会用ドレスもこの世界の常識としてはかなり誘惑的な薄着。カイーラでなくとも二人の目的が同じであることは一目瞭然だった。

 

「リ、リタこそ何だよ!? 普段お堅い事ばーっか言ってるくせによ!」

「それ……は、違うでしょ!? あ、あなたのは、寝間着じゃないの!?」

「そんな薄い胸や細い脚をめーいっぱいに出しといて、何言ってんだ!」

「ガリガリにゃ。食べられるところは殆ど無いのにゃ」

「薄いとか、ほ、細いとか、そんなの今は関係ないでしょ!」

「ムチムチーラは肉多めだけど筋っぽそうにゃ。固すぎにゃ。お酒につけて塩揉みして柔らかくするにゃ」

「あー!? 誰が筋っぽ……そ……う……?」

 

「スタイルとしなやかさと肉付きと、全てのバランスが完璧なのはマーだけにゃー。

 だけどマーは寛容だからお前達のことも受け入れるにゃー。

 器の広さは大海のごとしなのにゃー」

 

 いつの間にか紛れているマーが、何か身勝手なことを言っている。

「な、何だお前、何言ってんだよ!?」

「いつ部屋に入ったの!?」

「にゃふふん。マーは密偵にゃ。とっくに忍び込んで見張ってたにゃ。

 お前達からはハツジョーしたミダラなメスの匂いがするにゃ。マーの鼻は欺けないのにゃ。

 そんなことで揉めてないで、みんなでヤスタローを分け合えば良いのにゃ」

「わ、分け合うって何ッ……!?」

「み、みだ……ッて、い、意味わっかんねーよ!!」

 

 比喩的な意味なのか文字どおりの意味なのか。 この騒ぎになってようやく、内容はよく聞いてはいなかったものの自分の名が出たらしいことまでは聞こえていた保太郎が反応する。

「一体何の話?」

 こちらは文字どおりに何の話か分からずに聞いているが、その反応はそれとは違ったものとして受け止められる。

 つまりはいつものような、「余裕ある態度」として、だ。

 

 実際のところ、カイーラもリタも、それぞれにつたないながらも彼女たちなりのアプローチをしてきていたのだが、保太郎はそれらに全く応えてきていない。半分は単純に気がついていないだけだし、もう半分はどう対応すれば良いか分かって居ないだけでしかないが、それが「若いのに浮わつかず、落ち着いて余裕がある」との評価になっている。言い換えれば「大人の男感がある」という、完全に間違った評価だ。

 とは言え今日は既にそんな状況ではない。普通なら所謂恋の鞘当て、修羅場となる状況だ。一人よく分からない言い分の獣人が居るので何故かそうなっては居ないが、普通ならそうなる。


「今お前は肉欲まみれのメスどもに囲まれてるにゃ。

 選択肢はもはや二つに一つにゃ。はむはむかみかみのはむかみ地獄へ一直線か、おけつに帆を掛けて逃げ出すかにゃ」

「お、おめーの言ってることだけ意味分かんねーよ、さっきっからよ!?」

「変な話にしないで!」

 マーの言いように口々に反論するカイーラとリタ。

「お前達が違うと言い張るなら別にどぉーーーでも良いにゃーーー。

 マーがひとりではむはむするにゃー」

「な、何をッ……!?」

 

 マーの発言はさておいて、流石の鈍感系主人公……というか、他人にあまり興味がないため人の話をちゃんと聞いて無い系主人公である保太郎にも状況が分かってきている。

 勿論、ああ、そうかついにこのイベントが来たか、と言う観点でだが。

 つまるとこ、「みなしハーレム状態」から、「実質ハーレム状態」への転換期が来たのだ、と。

 

「やれやれ、そういうことか。仕方ないなあ」

 

 誰に言うとでもなくそう口にする保太郎。

 今までの彼の言動が傍目には「実力を秘めているのにガツガツとせず控え目」に見えていたのは、単に自分から女性にアプローチする経験の不足故でしかなく、時間はそこそこかかったものの「女の方から積極的に来てくれる」というwebノベルでお馴染みの入れ食い状態になってくれたのなら話は別だ。

 何せ変なことを言ったりやったりして引かれる心配もないし、もっと言えばこちらからは何もしないでも構わない。いつでもWelcomeでただ寝て待って居れば良いのだから気楽なものだ。言うなればマグロ系主人公である。

 

 保太郎は再びくつろいだ様子でベッドへと座り直す。

 その動きに三者ともに反応し、薄暗がりの中保太郎の様子をうかがった。

 表情までははっきりと見えない。見えないが、保太郎はいつもと変わらぬ魅力的な笑みを浮かべて居るはずだ。

 カイーラもリタも、それまでの言い合いのことなどすっかり忘れたかに押し黙り、ドクドクと早鐘を打つ心臓の音が静寂の中大音量で聞こえて来るかに錯覚をしていた。

 

「いつまでも立ってないで、まずは座りなよ」

 ポン、と軽くマットを叩く保太郎の声は、やはり何時もの爽やかで落ち着いたもの。

 指し示しているのは彼の両サイドで、2人は一瞬だけ顔を見合わせると、そろりと足を踏み出しそれぞれに座る。ちょうど保太郎を挟み込むかの形だ。

 マーは、というと、フフンと鼻をならすと軽く飛び跳ねるようにベッドに乗り、保太郎の背後へと回り込んでしなだれかかるかに身体を預ける。その自由奔放で大胆な振る舞いに、リタもカイーラも息を飲んだ。

 

 これからどうなってしまうのか。口にせずとも2人は期待と恐れのない交ぜになった緊張で意識を失いそうな程に身体をこわばらせている。リタはもとより、一見すると男勝りな態度をしているカイーラとてこんな事には不慣れだ。特に野営でもないのに肌も露わな格好で、夜更けに男とこんなに密着する事など有り得ない。

 顔を直視する事も出来ずに、けれども妙にふわふわとした非現実感を漂わせながら、二人ともが寄り添うように保太郎の体温を感じていた。

 厚い胸板に、しなやかな筋肉。汗の匂いが鼻孔をくすぐり、その男臭さにドキリとする。

 これからどうするのか。どうなってしまうのか。

 先ほどのマーの言葉を思いだして、再び緊張する。ふたりで? いや、三人で? まるで顔から火を噴くかに熱くなる。

 残されている理性的な部分を押し流すかのように、様々な感情と感覚が渦巻いて暴発仕掛けたそのとき……意識を失った。

 

 ───保太郎が。

 

 

 

 

☆ ★ ☆

 

 暗い。

 真っ暗だ。

 あらゆる闇、あらゆる汚濁をタールのように煮詰めて作り出した液体状の濃密な闇の中で身動き一つとれずに居る。

 どういう事だ? 全く理解の出来ぬ状況の変化に保太郎はパニックになり慌てて居るが、慌ててうろたえたところで、どこを見るのも何を聞くのも叶わない。思考すると言うことそれ以外のあらゆる事が出来ない状態だ。

 

「おやおや、これはまた困った状況になってしまったようですねえ」

 何処かからか声がする。聞き覚えのある妙に粘ついたようなその声は、保太郎が別の世界で一度死に、そしてこの世界へと転生する際に異世界スマホをくれた例の黒ずくめの男のものだ。

 何だ!? 一体何がどうなっている!? これはお前の仕業か!?

 そう抗議したいが声が出ない。

 縛られている……程度では無い。まるでそう、身体そのものが存在していないかのような───。

 

「だからはじめに言ったじゃないですか。決して魔力を切らさないで下さいよ、……って」

 魔力? 何で今その話が? 魔力と言えば例の異世界スマホだ。異世界スマホの魔力残量が切れそうになっていたのは覚えている。補充する前にカイーラやリタ達が来て、まさに俺tuee! チーレム展開になり出して、魔力補充どころでは無くなったのも覚えて居る。

「ああ、あまり状況が分かっていないのですね。

 では特別サービスです。感覚器だけ使える程度の魔力を差し上げましょう……」

 そう言うと例の黒ずくめの男から魔力が僅かに流れてきて、ぞくりとする悪寒とともに周りの音、光、匂い、そして声が聞こえ、認識できるようになってきた。

 

 

「───呪い……ってこと?」

「細かくはきちんとした聖別で確認しなければ分からないけれども、そう見るのが妥当でしょう」

 リタの戸惑いの声に応えているのは、戦団の戦乙女クリスティナ。

 

「ふうむ……。もう一度確認させて貰うけど、君はヤスタローではなく、ラシードという名なんだね?」

 低い位置から聞こえるジョーイの声に、そしてこれは……、

「ああ、そうだ。ラシード・ベルモンド。流れの剣士ってところかな。

 そこにある“呪われた古代遺物”を手にしちまう前までは……ね」

 

 俺の声だ!

 ヤスタローの、この世界に転生した肉体の声。何度かスマホで録音して聞いているのでよく分かる。やや低音だがよく通るさわやかな好青年とでも言うかの声で、保太郎ではない別の誰かが話している。

 

「古代ドワーフ遺跡の中に、その黒い手の平大の板があってね。

 普段ならこんな得体の知れない遺物は魔法布に包んで持ち帰り教会で調べて貰うところだけど、何だかそんときゃ妙ォ~に魅入られたみたいになっちまってさ。

 ふらふらっと手にしたらもうおしまい。意識を乗っ取られて、後はずっと夢でも見てるようだった」

 

「怨霊幻魔の類か、知性ある古代遺物なのかは分かりませんが、所持した者の身体を奪う呪物……。そういうことのようですね」

 

 冷静に……保太郎からすれば冷酷にそう告げるクリスティナの声。

 身体を奪う呪物? 何だそれは? このラシードとかいう奴が俺の身体を奪っているのか!?

 

「何を言ってるんですか。貴方ですよ、貴方。貴方が、彼の身体を奪い、操っていたんじゃないですか」

 

 黒ずくめ男の粘り着くような声に、まとわりついていた悪寒がじわじわと広がり、保太郎を絡め取る。

 呪われた古代の呪物? まさか、それが───?


「貴方ご自分でおっしゃったじゃないですか。

 転生するならスマホで、って。

 だから私は、貴方をスマホというものに良く似た呪物へと転生させてさしあげたんですよ?」

 

 保太郎はそのまま文字通りに、異世界スマホへと転生していたのだ。

 

魔力バッテリー切れさえ起こさなければ、ずっとあの男の身体を支配し続けていられたでしょうにねえ……」

 

 黒ずくめから流された僅かな魔力が次第に消えていくのが分かる。

 保太郎の意識がじわじわと闇の中に埋没し、散り散りになり拡散しついくのが感じられる。

 

「やっぱりにゃー。マーが怪しいと睨んで見張り続けていたのは正しかったにゃー」

「嘘つけ。お前どー見ても面白がってまとわりついてただけだろ?」

「にゃ!? 何を言ってるか分からないにゃー!?」

「身体は乗っ取られてたけど、意識は半分覚醒してたからな。

 そちらのお嬢ちゃんお二人の色んなことも、俺の方はきっちり覚えて居るぜ?」

「……なっ!?」

「てめっ、わ、忘れろっ!! とにかく色々、全部忘れろ!」

「いやー、悪いけどそりゃ難しいわ。こんな魅力的な美女達とそれなりの期間居たんだ。忘れろって方が無理がある」

「呪われてたときより口が巧いにゃ! コイツは信用出来ないにゃ!」

 

 聞こえてくる彼等の声も小さくなり、まるで遠くでのものに思えてくる。

 そして意識が完全に闇へと飲まれる直前に聞こえたクリスティナの声に、保太郎は自らの運命を悟った。

 

「何れにせよ、僅かなりとでも魔力を与えれば再び手にした者が支配されてしまう可能性があります。

 破壊するか、不可能ならば完全に封印してしまうしかないでしょう───」

 

 

 歩きスマホで車に轢かれて一度死んだ須磨保太郎が、異世界スマホへと転生した後に再び死ぬ。

 保太郎は最後の意志力を使い、黒ずくめの男へ向けて怒りの声を向けた。

 いったい、何故こんな酷い真似を……!?


「───何故、ですか?」

 黒ずくめの男はそう返して一区切りし、こう答えた。

 

「これが私の趣味なのです」

 

 それを最期に、保太郎の意識は完全に途絶えた。

 

 

 

 

 

 ───了───




 尚、本作品は連載中の


遠くて近きルナプレール ~転生オークと戦乙女と~ https://ncode.syosetu.com/n3581dr/


 と同一世界を舞台としており、登場人物の一部は共通しております。


 よろしければそちらもどうぞ。



 

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