008 ちょっと跳んでみ?~隠してるのはわかってんだからね!
予定では主人公に仲間を!という予定だったのですが、その前振りで終わってしまいました。
「え~、このように外の世界には皆様の見たことのないような生物。通称、モンスターがウヨウヨいます」
今日は騎士団長の提案で、モンスター討伐を見学することに。
騎士団長もだけど、率いている騎士たちも地球では見たことのない巨大なイノシシをあっさりと倒していた。ビッグ・ボアって言うらしいけど、牙とかはともかく角や身体の表面にある宝石みたいな石ぐらいしか違いがない。
「あのっ、……普通の動物はいないんですか?」
今まさに、喉元に剣を突き立てトドメを刺した様子に戸惑いながらも委員長がおそるおそる尋ねる。
こういう時率先して質問をするのは勇者(笑)だと思うんだけど、勇者(笑)はさっきからゲーゲーと汚物ならぬ吐瀉物……(笑)だから汚物でいっかを撒き散らしている。
騎士団長に勧められるままにビッグ・ボアに例の短小の剣で挑んだ恐怖もあったんだろうけど、自分も命を奪う要因となったとでも思ってるのかもしれない。彼が与えた傷って舐めときゃ治る程度のかすり傷なんだけど……。
「いえ、いないことはないですが……魔王の影響でしょうかね。野生だとすぐにモンスター化してしまうんですよ。中には、スライムやゴブリンのように生まれつきのモンスターもいますがね」
「そ、そうですか……」
『う~ん、爽やかに言ってるけど血を振り払いながらの説明は減点!』
委員長が怖がってるじゃん!
「ですが、元が動物のモンスターは凶暴性や身体能力、それに食性以外は変化してませんから食べても美味しいんですよ?」
『えっ、それ食べるの?』
目の前で殺されたのを食べるのはちょっと……。
それによりも気になったんだけど、食性って何? 凶暴なのとかは見ればわかるけど、他に何が違うの?
「あの、食性ってことは、もしかして……」
委員長もそこが気になったんだ。
やっぱり、私のことを思ってくれているだけあるね!
「そうですね……簡単に言うと基本的に雑食になります。例えば、このサイズのビッグ・ボアならば人間でも軽く食べますよ」
委員長の言いたいことを察した騎士団長はさらっと衝撃の事実を教えてくれた。
うぎゃー。
人間も食べるイノシシがいる世界とか、ないわっ! ないない。
『っと、そんなこと言ってる場合じゃなかった』
私にも仕事があるんだよ。
委員長しばし傍を離れるよ!
『ほっ! はっ、とぅえりゃ!』
青褪めた委員長を放っておくのは気が引けるけど、再び姿を現せた白い煙。これは私にしか見えていないらしいんだから、私が対処しないと。
今回は騎士メインに漂って行ってるみたいだけど、ほんの少し勇者(笑)の方にも流れてるし、面倒だけど全部回収しとかなくちゃ。
『それにしてもこれ、どうしようかな』
また墓地に捨てに行ってもいいんだけど、例の自称勇者なお子様に会うかもしれないからできれば行きたくないんだよね。
「騎士団長ー!!」
そんなことを考えていたら、モブ顔の兵士がなにやら慌てた様子でやって来た。
「どうしたのだ? そんなに慌てて……」
騎士団長はどうも私たちに事情を知られたくないのか渋面を浮かべながらの対応だ。
ただ、兵士はそれに慣れているのかはたまた普段からこんな対応なのかこそこそと耳打ちをしていく。
「っ面倒な。――勇者殿、すみません。部下が失態をしたらしく、その対応に当たらねばなりませんので私はここで失礼させていただきます。部下は残していきますのでごゆるりとお戻りください」
用件だけ伝えるとこちら側の対応を待たずに走り出して行っちゃった。
本当に勝手な人。
『だけど、なんか面白そう』
これは追いかけない手はないよね!
《委員長ことダブタチ》
「(……今の見た?)」
騎士団長の後ろ姿を見つめながら残された騎士に気付かれないように小声で確認する。
騎士はともかく、男子たちにまで気を遣うのはしんどい……ということで仲間である女子たちには察してほしいのだが……。
「見た見た! あのお尻の筋肉……サイッコーだったね!」
「えぇ~、鎧に隠れたけど、その隙間から窺える肩甲骨周りの筋肉こそが至高だと思うわ」
「あなたたち……」
がっくりと来た。
何のために小声で話しかけたと思っているのやら……。
「違うわよ。私が言ってるのは騎士団長の態度のこと」
「態度? 別に普通じゃない? うちのお父さんも工事現場で監督してるけど、あんな感じだよ?」
「あなたのお父様のことは今は置いておいて」
下手に地球の話をすると、辛くなる。
不意に涙腺が緩みそうになったのを堪えると、女子的にちょっとアウトな顔になっていて男子に引かれてたが、本人が気付く前に女子たちが睨みを利かせていたのでセーフ。
ただ、立花が言いたかったのはそう言うことではなく、兵士が来た時の態度を言いたかったのだ。
もうこれ以上言ってても、怪しまれるだけだと腹を括る。ちょうど男子たちは先程泣きかけたのが怪我の功名となって、女子に近付こうとしていないので彼らをバリケード代わりにすれば怪しまれてもなんとかなるだろう。
「ちょっと、男子! あっち行ってよ!」
「えぇっ!? いきなりなんだよ委員長?」
「横暴だぞ!」
「いいからあっち行きなさいよ! じゃないと……」
「な、なんだよ」
「あんたたちの誰かと騎士さんたちを絡ませるわよ?」
最悪の脅しが炸裂し、男子たちは悲鳴を上げて女子を囲うようにさっと離れる。ただ、逃げた先に騎士がいるので前門の女子、後門の騎士……肛門の騎士はダメだ! 余計に貞操が危ない!
男子たちの怪しい行動は女子たちを守ろうとしているのかと騎士たちに勝手に好解釈されていた。
何はともあれ、これで女子たちは堂々と内緒話が出来るとがっつり円陣を組んでいた。
「(いい? この世界は今魔王の脅威に晒されているのよ?)」
「(……? 知ってるよ?)」
返って来たのはそれがどうしたのという表情。
「(おかしいでしょ! 普通、魔王の脅威が迫って来てるんなら兵士が慌てて来たら敵が攻めて来たと思わない? それなのに、迷惑そうにしてたわよ)」
あの顔はこちらに情報を与えたくない、弱味を見せたくないという顔だと確信している。
「(やっぱり、この国は怪しいわよ)」
女子たちがこの国を離れる日はそう遠くないのかもしれない……。
作中、委員長のことを立花と表現したのですがわかってもらえますかね?
主人公以外は基本一人称にしたくないと思ったのでこういう風にしてみたのですが・・・。勇者(笑)は別です。