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007 知らず知らずの背後霊~フラグの折れた百合の花

『い゛い゛んぢょう~!!』


 まさか、この世界に来てまで私のことを心配してくれていたなんてっ!

 向こうにいた頃は、鬱陶しいなとか思っててごめんねー。


『あっ、でも、私そっちの気はないから……ごめんなさい』


 だけど、そっか……。

 一人だけ理不尽な目に遭っててそれをなんとかしたいと思ってたけど、皆だって突然召喚されたんだもんね。理不尽は平等だよね。


『よっし! 決めた!!』


 私が、陰ながら皆を守るよ。

 特に委員長、あなたは絶対に守ってみせる!


『実際には、見えないだけですぐ傍で守るんだけどね!』


 それはまあ、気にしない方針で。

 委員長には『真の勇者』が傍にいると思ってもらえれば十分。


 と言っても、何が出来るかな?

 私、今のところあの少年、おじさん? やっぱり、見た目が少年だから少年かな……にしか触れないんだよね。


『う~ん……あっ、そうだ!』


 昼間、スライムの燃え跡から出てきた変な白いヤツ!

 あれなら触れるからあれから皆を守ろう!

 そうだ。それがいい!


『結局、あれって何だったんだろう?』


 よくわからないうちに捨てちゃったけど……。でもでも、お墓だからいいよね? 魂だとしてもちゃんと供養したってことだもんね!


 よ~し、そうと決まれば城の中を探索して危険な物や場所がないかチェックしなくっちゃ!

 待っててね、委員長、皆っ!!



《真の勇者》


「あれでよかったの?」


「……まあ、ファーストコンタクトとしては上々だと思うよ」


 お墓であったガンファーレ王国の『真の勇者』。彼女には帰ると伝えたが、実際にはまだガンファーレの王城が見える位置にいる。

 昼間の成果が芳しくなかったことで、おそらくガンファーレはすぐにでも行動を起こすと考えたからだ。


「……だけど、珍しいわね。そんなに疲れてるなんて。新入りさんはそんなに手強かったの?」


「……手強い、言い方を変えればそうなのかもね」


 見た目はともかく、実年齢としては一回り近くも上な立場から見てもあれは異常だと思った。

 突然異世界に召喚され、まるで幽霊にでもなかったかのように存在を認識されない。そんな事態になれば常人だったらもっと取り乱す。

 しかし、彼女は取り乱すどころかその状況を楽しんでいるようでもあった。


「……あれは、大物になるよ」


 放置すれば手が付けられない存在になる。

 そう確信したからこそ、この早い段階で接触を図った。

 本来の計画では、彼女あるいは彼女らが国を脱出しようと考えてから接触しようと思っていた。そこで恩を売って、取り込みやすくする計画だった。


「それは敵に回したくないって意味?」


「そうだね」


「……へぇ、あなたがそこまで言うほどなのね」


「肝っ玉の太さや神経の図太さ、何があっても動じないような態度……それらは僕たちが持っていなかったものだ」


 それがあれば、召喚された時もう少し上手く立ち回れたのだろうか?

 考えても仕方のないことだとわかっていても、時折胸に回顧する思い。それは後悔であり、それ以上の憎悪……この世界に対する始まりの感情といえるもの。


「ただ、それ以上に僕が危険視しているのは彼女の能力だよ」


「能力? 『真の勇者』なんだからおかしなチートを持っているのはわかるけど、まだレベル0でしょ? あなたが気にするほどとは思えないけど?」


「いや、あれはそういう類じゃない気がする」


 首を横に振り、昼間見た光景に思いを馳せる。

 スライムを焼き払い、レベル上げをする。かつてほとんどの勇者やその仲間たちが通って来た道のり。

 ただ一点、過去の勇者たちとは大きく異なった。


「スキルは目に見えて効果を発揮するタイプとそうじゃないタイプがある。僕は前者で、彼女は後者」


 何をしたのかはわからない。

 だが、彼女が何かをしたのはわかる。


 まるで勇者を何かから守るような奇妙な動き、それをしたかと思えば勇者はレベルが上がらずに一日目を終わらせた。


「……彼女には一体何が見えているんだろう」


 異なる世界を見ている少女。

 最後の『真の勇者』。

 彼女の行動は今後、世界の命運を大きく左右する。そんな予感がしてならない。


 直接見ていない者に言えば笑われるような感想だが、そう感じてしまった。

 そして、この世界では知識や常識よりも時に直感が大きな意味を持つということを知ってしまっている。


「……ひとまずは彼女を敵に回したくない」


 どんな力を持っているのか、少なくともそれを確かめるまでは。


「だから、彼女に力を見せなかったの?」


「そうかもしれないね」


 見せる必要性を感じなかったというだけではなかったのかもしれない。

 見せて変に警戒されることを無意識に恐れていたのでは……そんなバカバカしい思いも湧いてくる。


「とりあえず、ガンファーレ王国の動きに目を配っておいてほしい」


 すべては『真の勇者』に恩を売るために。

 そして、あわよくば道を誘導するために。


「了解。ついでに他国にも気を付けておくわ」


「そうだね。僕らが気付いたように、他の人たちも気付いている可能性が高い」


「そうなれば、絶対に介入して来るでしょ? 勇者たちは」


 勇者、『真の勇者』ではなくステータスに表示されただけの存在。

 国に良いように使われている道具であり、傀儡。

 彼らは己の正義を疑わない。

 その正義が他人から植えつけられたものだということにも気付かず、ただ言われるがままに戦争をしている。


「厄介な存在だよ。同郷のよしみで助けたいと言っても、耳を貸さない。魔王がこの世界にとっての災害だとすれば、勇者は害獣だ」


 存在することが罪。

 勇者なんて所詮はこの世界にとっては異物でしかないのだから。

 せっかく、前回名前を出したのに今回は名前を使う機会がなかった・・・。

 ちゃっかり暗躍している『真の勇者』たちについても今後の働きに期待大ですな。

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