001 異世界に降り立つ~加齢臭を添えて
はい、ということで始まりました。
基本的にコメディチックに進めて行くので一話辺り短めですが、テンポ重視でいきたいと思っています。
「――我が国に迫っている危機は理解してもらえたと思う。君たちにとっては突然のことで戸惑うことばかりだろうが、どうか我々に力を貸してくれないか?」
「お任せください! 僕たちがきっと世界を救って見せます!!」
「おおっ! やってくれるか! では、三十四人の勇者たちよ、頼んだぞ!」
『ブッブ~、34人じゃありませんよ~。私を忘れてもらっちゃあ困りますって』
……ってまあそんなこと言っても聞こえないんでしょうけど。
それにしても、前々から思ってたけど本当に勇者に成っちゃうなんてねぇ~。
私は下にいる三十四人の勇者として認定されちゃったクラスメートたちを見つつ、その先頭でやる気に満ち溢れた雰囲気イケメン君に視線を向ける。
『ほら、後ろで何人か勝手に決めるなって睨んでるよ?』
そりゃあ、魔王とかいうガチでファンタジーな存在がいて生死がかかっていることを勝手に決められたくないよね。
本当だったら今頃は眠たくなるような授業を受けてる時間だったのに、誘拐されて命懸けで戦えって頭おかしいでしょう。それを簡単に受ける方もどうかしてる。
『う~ん、巻き込まれないのはありがたいけど無視されるのはキツイなぁ』
目線を落としたすぐ先にあるのは王冠と若干薄くなって、心なしか加齢臭が漂ってくる王様の頭頂部。
そう、私は王様の頭の上にいる。
けど、クラスメートどころかこの場にいる誰も私のことを注意なんてしない。
それどころか存在そのものに気付いてないみたい。
影は薄い方だけど、こんな目立つ真似をしてまで気付いてもらえないほどじゃないと思う。
『……はぁ。その前に私、浮いちゃってるなぁ』
存在がじゃなくて! いや、存在も浮いてるんだけど……身体がね!
まるでユーレイのように。
もしかしてこっちの世界に来る時に運悪く死んじゃったとか?
死んだ後ってこんなに意識ハッキリしてるものなの!?
『その割には透けてないんだよね~』
男子が喜ぶような服だけスケスケってこともないし、自分で手を見ても普段通りの手があるだけで向こう側の景色が見えるってわけでもない。
ただ何故か他人には認識されない……まあ、もっと根本的な何かにも認識されてないような気がするけど。
いきなり知らない場所に来てパニックになってるところで現れた案内人っぽい人たちについて行ってたら、私の前で扉が閉められたし。
扉を叩こうとしたら手がすり抜けてそのまま転がるようにこの広場にいたし、終いには飛べるし。
『ユーレイってか、ゲームのキャラみたい?』
一人だけキャラの姿がなくて、でも視界だけはある的な? そんな主人公ポジションにいつの間に納まっちゃってた? モブキャラを自称するこの私が!?
『……いや、それでも飛べるのはさすがにおかしいか』
冷静に考えなくてもわかることだったわ。
というか主人公キャラなんて荷が重い。
そういうのは味方の憎悪を一身に背負ってる勇者くんに任せましょう。
大丈夫、物語だと君みたいなのにはこっちの世界でモテるはず! 私は嫌いだけど!
「とはいえ、いきなり戦ってもらうというわけではない」
おおっと! ここで方向転換!? 懐柔? 懐柔なのね?
「異世界の勇者たちよ、そなたらにはある特別な力が与えられているはずじゃ」
特殊能力キターーー!
そうだよね。異世界召喚物だったら、特殊能力ぐらいないとキツいよね!
「それを確かめるためにも『ステータス』と唱えてみてくれ」
うっわ、ありきたりっ!?
いきなりそんなこと言われてもシャイな日本人には……。
「ステータス!!」
……勇者よ。そなたこそ、真の勇者よ。
えぇ~、普通言っちゃう? クラスメートに囲まれた状況で、あんな中二丸出しな……。
一人だけで堂々としてるけど、周りは牽制しながらボソボソと言ってる程度だよ?
「出ましたっ!」
嬉しそうだね。だったら、いいか?
『ほら、皆もそんなに縮こまってないで堂々とやろうよ!』
皆がやらないなら、私がお手本を見せちゃおっかなぁ?
どうせ見えないんだしね!
恥ずかしくなんかないない!
『レッツ、スッテータ~~スオープン!! 出てこいやぁあああああ!!』
『……………………アレッ?』
おっかしいなぁ、私だけステータスちゃんが出てこないんですけど?
ステータスちゃん? ステータスさん? ステータス様? ステータスたん? お願いだから出てきておくれ~。
『――ガッデム!」
ふざけないでよ!
ただでさえ、一人だけ除け者なのに、こんなところでもハブるの!?
あんな恥ずかしがってる奴らさえ出せるものが、堂々と宣言した私に出せないのはなんでだああああ!!
「……して、勇者と表示されているのは誰かな?」
「あっ、僕です!」
「おおっ、そなたであったか!!」
私が悲嘆に暮れている間にも話は進んでいく。
王様、嬉しそうだね。
まあ、そりゃ一人だけ張り切って引き受けた奴が勇者だと使い易そうだもんね?
頭の上にいるから小声で「やはり」って言ってたのは聞こえなかったことにしておいてあげるよ。
『だから、私のステータスなんとかしてぇ……』
くっそー!
透けないくせに殴っても当たらないなんて反則だ~!
こうなったら、夜枕元に立ってやるからな~。呪ってやる~、祟ってやるぅ~。
「むむっ……!」
「王よ、どうなされました!?」
「い、いや……なんでもない。少し寒気が……」
はっは~天罰ぅ!
「ま、まあよい。将軍、勇者殿たちを修練場に案内してやってくれ」
「かしこまりました」
うっわ! 日本の体育教師なんて目じゃないくらいマッチョなおっさん。
勇者ドン引きっ! 女子たちは大興奮! 数人の男子も大興奮……? これは鎧とか、剣に興奮してんだよね? じゃないと女子が腐女子に変わっちゃうよ?
「勇者殿、ではこちらに。装備を用意させてございます」
「は、はい」
勇者よ、そんなに名残惜しそうに見ても綺麗どころはついて来ちゃあくれないみたいよ?
『それにしても、いきなり修練場とかいったいどんなことやらせるつもりなんだろ?』
ちょっと楽しみ♪
面白いと思っていただけるように頑張ります。