派遣先は魔法世界でした。その18
がやがやと船乗りやら商人やらで賑わう町、エーゲス。
この町がエーゲスと呼ばれるのには何も理由はない。
もともと名のなかったこの町がエーゲス海近郊であるということだけである。
ここ数十年で港として急激に発展したエーゲスは、船乗りにとっては重要な土地である。
貿易所、造船所、市場としての役割を持つエーゲスではあるが、ものの数か月前からとある問題がでてきた。
ディープネレイス、深海に潜むニンフ。
それによる被害である。
毒をもっているわけでも、飛べるわけでもない。
彼は、ただただ多大な魔力を持ち、知能を持つ。
もともとはそこの土地に住む人々によって信仰されていた存在であり、数年に一度大量の供物をささげられていた。
しかしここ数年、町はにぎわう一方で彼に対する信仰心は薄れていった。
供物はささげられなくなり、密かに怒りは募っていった。
そんな中で出会ったのが、現魔王である。
食料を分け与え、長い期間魔王とネレイスは共に過ごした。
そしてある日、ネレイスに承認を得て魔王への柱の一部を担うことになった。
生きることに対して苦労がなくなったネレイスは、それでもエーゲスの人々を許せなく時折近くを通る船を沈めたりし始めた。
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エリサ「以上がここエーゲスに伝わる話だそうです。そしてこの話のように実際に船が沈められたり近くで人が襲われたりしているようです。」
五十嵐「なるほど、土地神が信仰心の薄れからその土地を襲うというものはよく聞くが、この世界でもそうなのか。」
なによりも、エリサが感じた感情は悲しい、そして怒りであった。
長年付き添い、信仰され、その度に人々への恩恵を与えてきた。
それがいまや、何もなかったかのような人々の態度。
今の人たちは何も知らないとはいえ、すくなくともずっとここに住んでいる者たちはいるはずなのである。
そんな人たちが信仰を伝えないどころかなくしてしまったのだから怒るのも仕方がない。
エリサ「でも、怒るのもしょうがないですよね。・・・、五十嵐さん本当に倒すべきでしょうか?」
五十嵐「仕方がない。仕事なんだと割り切るしかないのだ。魔王だとか仕事を抜きにして考えるならば別なのだが…」
あくまで言い伝えだとしても、そんなものを倒しに行くというのは気が引けてしまう。
エリサ「もしも、怒りを鎮めて話し合うことができたら・・・」
五十嵐「なるほど、それならいいのかもしれないな。話し合いで解決できぬのならやむおえんが。」
エリサ「とすれば、もう少し聞き込みが必要・・・ですよね。」
聞き込みによって伝承以外の何かがわかるのかもしれない。
ひょっとしたら古くから住み続けている人物に会えるのかもしれない。
そうして信仰をまた復帰させることで平和的解決ができるのかもしれない。
きっとなんていう希望的観測ではあるが、信じて聞き込みをするしかない。
無用な殺傷を避けるためにも・・・