二話
翌朝早く、僕は、村の門の前に立っていた。
「坊主、気をつけて行けよ。」
アルフさんが声を掛けて来る。
「おじさんも、ね。」
「ああ、わかってる!それじゃあ、達者で、な。」
「達者で。」
僕は、門から出る所で…
「レイ君!」
聞きなじみのある声が聞こえた。
「水臭いな、お姉さんに出発の声かけしてくれないなんて…。」
村長さんの娘さん、リンネさんである。
「いや…、朝早いですから、わざわざ見送りして頂かなくても、と思いまして…(お姉さんというよりお母さん位の歳だけどね。)」
「ミナちゃんやルーク君も、そのようなこと言ってたわね。後、私に対して、失礼なこと考えてなかった?」
僕の答えにぷくっと頬を膨らますリンネさん、子供かよ。
「いえ、マッタクカンガエテマセン。」
「片言なんて、ますます怪しいわね…。とにもかくにも、無茶しないで…って言う方が無理難題でしょうけどね、命は大事にするのよ?」
「はい。善処します。」
「じゃあね、気をつけて行って来るのよ?」
抱きしめて、声を掛けて来るリンネさん。凄い久しぶりに感じた人の温もり…。この世界の父さんや母さんは生きているだろうか。まあ、今更、会ってもな…。
「はい、ありがとうございます。母さん。」
「母さんって、やっぱりそう思ってたんじゃない!」
「リンネさん、凄いです。僕の心読んでたなんて。」
「褒めたって何も出ないぞ?私が納得するまで抱きしめられてなさい。」
「はい。リンネさんの身体柔らかくて温かくて気持ち良いです…。」
「それはよかったわね…。」
僕達は、10分位、そうしていた。今生の別れじゃあ、あるまいに。
「はあ…、俺も抱きしめられてみたいぜ!」
「「…」」
空気ぶち壊しの発言したのはアルフさん…。場が白けた。
「とにかく、頑張ってきなさい。」
「はい。リンネさんも早く、伴侶見つけて、お父さん安心させて上げて下さい。」
「人が気にしていること言わないで頂戴。さっさと行ってらっしゃい。」
「行ってきます!」
僕は、村を後にした。
「かわいい嫁さん連れて来るのよ!」
「期待しないでよ、母さん!」
「私は、まだまだお姉さんよ!」
リンネさんの声がしなくなるまで続けられた。何とも、緊張感に欠ける出立であったと、後々、アルフさんは記したとかしなかったとか…。