六話
翌日、僕は、公会堂に向かった。
「おはようございます。レイです。どうぞ、よろしくお願いします。」
20半ばの赤髪の女性、村長さんの娘らしい、に挨拶をした。
「父から、話は聞いているよ。こちらこそよろしくね。私の名はリンネよ。」
女性、リンネさん、も挨拶を返してきた。
「じゃあ、教室には皆集まっているから、空いている席で待っててね。」
「了解しました。」
僕は、教室に向かった。
「失礼します…と。」
ガラガラ…と横開きの戸を開けると、30人位の子供、自分より年下の6歳位から年上の10歳位であろう、が席について談笑していた。こちらに一瞬視線が向いたが、すぐに逸らされ、談笑が再開された。
「空いている席は…。一番後ろが空いているな。」
僕は、空いている席を見つけて、向かう。
「よう、新入り!挨拶は無しかよ!」
がき大将らしい子供が声を掛ける。
「(は?)」
立ち上がり、近づいて来る。
「頭ついて…。」
僕の頭に手を伸ばして来る彼の手を軽く捻り、そのまま倒す。
「イテテ!何すんだ!」
こちらを睨んで来る少年。
「うーん、挨拶?僕に手を出してきたら、痛い眼に遭うって、さ。というかさ、君からやって来たんでしょうが。僕は、君の挨拶に返してあげただけだよ。」
「くっ!憶えてろ!」
忌々しげに言って、彼は、席に戻った。
「さて…、無駄な時間を使ってしまったな。」
僕は、席に向かいながら呟く。
「はははは…。面白いね、君。」
僕とがき大将のやりとりを見て、腹を抱えて笑っている少年がいた。
「ごめん、ごめん。僕の名はルーク。彼の名はボストン、っていうんだけど、彼に対抗できる子供って少なかったんだよね。しかも、圧倒的じゃないか、僕にも教えてくれよ。」
緑髪の少年、ルーク、が声をかけてきた。
「良いよ。教室の後で、ね。僕の名はレイ、よろしく。(減る物でも無い。全員という訳にはいかないけどね…)」
「レイね、よろしく頼むよ。」
僕は席についた。
「レイ君、凄いね♪ボストン君を一捻りなんて、今までいなかったから。」
前の席にいる金髪の女の子が声を掛けてきた。
「ふーん、まあ、僕は、彼より強い方々と日常的に相対してきたから…。」
「へえ、凄いな。騎士や勇者とか目指しているの?」
「いや…、僕は、国とか全人類を守るとか目指してないよ。僕は、目の前の大切な人達を、守りたい人達を守る、自分の大切な人達に刃を向ける奴らを倒す。それだけさ。そこに魔王とやらが入って来るならば、そいつを倒す、というだけ。」
「なるほどね。私は、ミナ、よろしくね。ルークとは、幼なじみなんだよね。」
「へえ。こちらこそよろしく。」
ガラガラ…。
「皆、おはよう!」
「「「「おはようございます!」」」」
大きな声で挨拶しながら、教室に入ってきたのは、教師たるリンネさん。
「早速始めるわよ。」
「君達は、少なくとも、自分の大事な者や街を害悪から守る力、欲しくないですか?僕は、国家や全人類を守るなんて、大それたことをしたいとか思わないし、それは不可能だと思います。しかし、自分の育った街、自分の愛する者達を守ることは可能、いや、するんです。そして、それは思っているんだけでは駄目なんです。守る為には、力が無くては、害悪を排除することはできません。その為には、他人の生命を殺めることも止む無しということも多くあるでしょう。あなた方に、その覚悟はございますか?」
結局、教室が終わった後、集まったのは、ルークやミナを含めた10人の子供達、僕も子供だけど。
「僕は出来ているよ。大切な人達、ミナ、を守る為ならば、どのような選択も受け入れるさ。」
ルークは語った。ミナの所だけボソボソとなっていたが、丸分かりだよ。
「私も出来ているよ。ルーク、や母さん、父さん、リナ(妹さんらしい)を守る為ならば、ね。」
両想いですか、青春だね!
「ん…。私も仕方ないと思ってる。」
「俺も出来ている。」
口々に、答える少年少女達。
「まあ…、今すぐ、と言っている訳ではないですけどね。しかし、害悪与える者達は、躊躇がありませんからね。あなた方が躊躇することにより、被害が大きくなったり、最悪、あなた方の大切な街や大切な人達が奪われることに繋がります。それは、しっかり憶えておいてください。」
僕は、少年少女達を見回す。
「レイ、お前は知ったようなこと言っているけど、お前はどうなんだ?」
一人の少年、レオン君が聞いて来る。
「これは、他の皆には秘密だけど、僕は、赤ん坊の頃に暗殺組織に誘拐されて、幸運にも逃げられたは良いが、魔境の森に転移されて、ね、あそこでは、凶悪な魔物達による命のやり取りが日常茶飯事だ。そして、僕はそこで幸運にも生き残ってきた。証拠?良いでしょう。“転出”!」
僕は、異空間から、三角ウサギの遺体を出す。子供達は、目を見開く。
「この魔物は、かわいらしい外見をしているが、性格はずる賢い。かわいらしい外見で、油断している所を、この鋭い三本の角で突き刺す。外見が何だろうが、優しい素振りしてようが、それは油断を誘うものだ。例えば、暗殺者が、わざわざ、自分が暗殺者ですよ、なんて見せるはずが無いでしょう。暗殺者は、相手を油断させる為に、色々な手を使います。それは、物語の中だけのことじゃないんです。魔物も同じです。」
「確かに、な。」
レオン君は唸って、納得させているようだ。
「話は戻しますが、僕と皆さんで、眷属契約を結びましょう。眷属契約を結べば、僕が得た経験値も皆さんに還元されますし、基礎能力の付加があります。僕が持っている能力も一部、皆さんに分け与えることが出来ます。まあ、選択は、皆さんの自由ですが。」
「僕は結ぶよ。」
「私も」
「ん…。私も。」
「俺も…」
口々に、返事をする子供達。
「よし。それでは、“眷属契約締結”!」
僕と子供達の周りを魔法陣が包み込み、契約締結は完了したようである。
「それでは、明日から、訓練開始といきましょうか。皆さんには、宿題です。魔力操作の訓練を、日課にしていただきましょう。」