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白雪の陰陽師  作者: 桃姫
大森西園編
178/370

178話:幕間・それぞれの春休み(真田)

 3月某日、東京都内にある某スタジオの控室では、ライブ終わりのアイドル達が汗を拭きながら、休憩していた。ハナミナプロダクションプレゼンツ、春の大大大感謝祭という3日に及ぶライブが終了したのは、つい先ほどのことだった。


 初日のライブのメインが野戸理乃と戸松姫燐の2人よる「LillyPureCats」であり、2日目のメインが伊達花美、そして最終日のメインが真田郁であった。本来、トリともいうべき最終日は、一番盛り上がるように、集客の見込めるアイドルを使うものだ。なので、通例であるならば、「LillyPureCats」が最終日なのだが、最近売り出し中で、かつ、スポンサーがついたことで注目度が上がり、今だけでも集客力がかなり高いと思われる郁が最終日を担当することになったのだ。


「牡丹餅ちゃん、お疲れー」


 今回も3日続けて司会進行を担当した北枕牡丹餅は、歌や踊りこそ、他のアイドルに比べて歌ったり踊ったりしていないものの、そのスケジュールはハードで、裏での機材トラブルなどにも合わせて、臨機応変な対応が必要になるのだ。そういった意味において、牡丹餅は、今回のライブの一番の功労者だろう。


「おつおつさんです」


 彼女なりの「お疲れ様です」という言葉である。付き合いもそれなりな面々は、慣れたものでまったく気にしていない。


「それにしても郁さん、凄いっすね。こないだ方向転換したばっかなのに、新曲2曲も披露って、曲が出来上がったこともそうっすけど、歌と振り付け覚えるのも相当きついっすよ?」


 宮下八が、水をあおりながら、そんな風に言った。彼女の言うことももっともであり、方向転換から1ヶ月程度で曲が2曲完成していることと、それを覚えて、踊れるというのは普通に考えれば難しいことであった。


「新曲って言っても、1曲は理乃ちゃんのファイナルバケーションのアレンジだからね。そう難しくないよ。だから実質1曲だもん」


 それでも1ヶ月というのはかなり難しいものであるが、スポンサーが金を弾んだことと、今回のライブが決まるよりも前にすでに曲を発注していたことで、どうにか間に合った形である。


「それにしてもようやく一息つけますよ。郁さんは、休みとか何してるんです?」


 八とコンビを組んでいる高末木剣珂が、郁にそんな風に問いかける。このライブまではレッスンなどでずっと休みがなかった。


「休み……、うーん、わたしは、ほとんど休みとかなかったからなぁ……。大きな休みは旅行とか行くけど、それ以外は家で寝てたと思うよ」


 基本的に、大きな休みが取れず、地方巡業が多かった郁は、帰ってきたら次の日の朝でその日は休みでも翌日仕事、とかそういうことが多いため、ロクな休みができなかった。しかし、少なくとも今日、このライブに出演している面々は、そんな郁よりは売れていたので、もっと都心での仕事が多く、休みは一応しっかりとれていた。


「ええ……、郁さん、趣味とかないんですか?体動かしたりとか」


 剣珂は、どちらかといえば、体を動かすのが好きな質であり、あらゆるスポーツを体験してきて、ダンススクールでスカウトされたことがアイドルデビューのきっかけである。趣味は運動といっても過言ではない。

 そもそも、剣珂の実家は剣道場であり、剣珂も幼少期は祖父に剣を習っていた。その辺の経験から間合いの感覚、相手との物理的距離の取り方に慣れており、ハチャメチャに動く八と息を合わせられるのだ。


「うーん、運動とか全然してこなかったからなぁ」


 一方、高校までなんとくなく生きてきて、唐突にアイドルを目指し上京した郁は、特にこれといって打ち込んできたこともなかった。よくも悪くもそこそこである。


「テニスとかどうっすか?剣珂なんかは、めっちゃガチですけど、そうじゃなくても楽しいし、縦と横にかなり動くんで、結構な運動になるんすよ」


 八も運動は得意、というよりも好きである。アイドルになったのは、妹が勝手に応募したという漫画のような話であるが、実際、彼女は、運動しかしてこなかったため、いいきっかけであったと笑う。


「そうですね、郁さんに向いてると思いますよ、テニス。他のスポーツと違って、少なくともあと1人でもいればできますし」


 郁に向いているといったのは、何も人数の話だけではない。サッカーやバスケットボールのような団体競技では、運動をしているしていないがはっきりと出てしまう。簡単に言ってしまえば、ドリブルの上手い人にボールを回せば得点できる。そうなると、残りの面々は、ボールをカットして、上手い人に回すことになる。大会などに出るならまだしも、普通に趣味でやるのにそんなことでモチベーションは上がらない。かといって、そういう人だけを集めるのも難しい。やるからには勝つという人も多いからだ。


「んー、でも、テニスって難しいでしょ?多分できないよ?」


 当然ながら、どんなスポーツも一朝一夕にできるものではない。しかし、郁の中のテニスのイメージというのは、もはやテニスとは呼べないものだ。


「ブラックホールとか出せないし……」


「ブラックホール?!テニスにブラックホールは関係ないですよ?!」


 郁の中では、テニスはブラックホールでボールを包んだり、光るボールで壁を破壊したりするものである。


「そりゃ、中学生がテニスやる漫画のはなしでしょーが。あんなん現実にできるやつはいないわよ」


 机に突っ伏している牡丹餅からツッコミが入る。なお、ブラックホールを設置するのは高校生である。


「あぁ……、あれ漫画の中の表現だったんだ……。実際、あんななのかと思ってたよ。牡丹餅ちゃんは、休日なにやってるの?」


 ちなみに、郁は牡丹餅を「ちゃん」付けで呼んでいるが、牡丹餅のほうが先輩である。年齢はほぼ同じなので、仲がいい。


「あたしは、そうね、ぶち殺しまくってストレス解消してるわー」


 おおよそアイドルから出るとは思えない言葉。また、司会進行時とのテンションの落差も激しい。だが、彼女はいつもこのような感じだった。


「ぶち殺……って、ありを一匹ずつつぶすとか?」


 郁は漠然としたイメージで答えるが、牡丹餅は、「あぁ?」と不満そうな声を漏らした。


「真田ァ、あんたの中のあたしのイメージってのを一回ちゃんと確認しとくべきか?そうじゃなくてゲームよ。ネトゲとか狩りとかFPSとか」


 郁も八も剣珂もゲーム関係には明るくない。社内であれば、夜匣棺哭がそちらに詳しいが、他はそれほどといった感じである。


「ふぅん、ゲームかぁ……」


「あぁん?今、バカにしなかった?あ?やんやん?こちとら常日頃から全面抗争の準備ばっちりだぞオラ」


 牡丹餅は疲れているせいか若干テンションがおかしくなっているが、いつものことなので結局皆スルーする。


「馬鹿にしてないよ。でも、ゲームも難しそうだしなぁ……」


 やっていない人間からしたら、たいていのものは難しそうに映るものだ。もっとも、牡丹餅のやるゲームは確かに初心者には難しいものが多い。ネットゲームと一口に言っても、様々あるが、彼女の「ぶち殺す」という発言からもわかるように、対人、もしくは敵を倒すという仕組みがあるものだ。


 その手のゲームは最初期こそ一人で遊ぶこと(ソロプレイ)も可能だが、進めていくうちにギルドなりチームなり表現は様々であるが、集団に所属しないと難しくなる。特に大型の敵を倒すようなレイド戦にはパーティを組む必要がある。いわゆる野良と呼ばれるような人種もいるが、基本的にはグループで行動する。しかし、そのグループに入るには、ある程度のログインが確保されていることやプレイの技量が一定水準に達していることなどが必須となる。初心者がいきなりそれをこなすのは難しいだろう。

 FPSとは、ファーストパーソン・シューターの頭文字をとり合わせたものであり、プレイヤーの視点で動くゲームである。大半がシューターの言葉でわかるように、ガンシューティングゲームである。もっとも、ナイフやソード、といった近接武装があるゲームもあるため、一概に銃だけというわけではない。基本的には対人戦闘を繰り返したり、NPCとの戦闘をしたりするゲームだ。これも対人戦闘では、上手いプレイヤーがいると、どうあっても殺され続けるしかなくなるため初心者には難しい部分がある。


「別にあたしのやってるの以外にもゲームはたくさんあんのよ。それこそ、スマホ持ってんだからいくらでもできるでしょ」


 スマートフォンの革新はこの現在にも続いている。それこそ、今までパソコンという形で存在していたものをそのまま持ち運べるレベルにまで進化しているのだ。アプリケーションの種類も豊富であるし、ブラウザーゲーム、ダウンロード専用ゲームなど様々な種類がプレイ可能。もはや、スマートフォンを持っていない人のほうが少ない勢いな現代において、ゲームやアプリというのは無料かつ身近なものになりつつある。これに加えて、アーケドやコンシューマとゲームの幅も広いのだ。


「そうなんだけどね、本格的にやるっていうか、休みの日に一日やるっていうのには、むまないじゃん。牡丹餅ちゃんはゲーム以外にはないの?」


「ゲーム以外にはって、あたしはゲームだけでできとんのか?やんやん?」


 しかしながら、基本的にゲームが多いというのは確かなことであった。それ以外となると、やはり、


「それこそ、漫画かアニメだね。あたしは、そっちはあんま詳しくないけど。てか、テニスの漫画知ってるんだから真田も漫画読むんでしょ?」


「あれは、弟の読んだことがあるだけだけどね。丸の漫画は、まあ、いろいろと偏ってたけど……」


 愛も丸も家業を手伝うべく打ち込んでいたため、丸が漫画などを集めていたのは中学生のころであった。ジャンルも様々だが、スポーツものが多かったのは、運動が好きだったためかもしれない。


「え、真田の弟は丸って名前なの?大河かよ」


 笑う牡丹餅だが、牡丹餅以外はその意味が分かっていないようだった。牡丹餅も牡丹餅で知識の偏りがひどい。


「というか、郁さんの弟さんってどんな感じなんですか?」


「あ、それ気になる。どんな感じなんす?」


 休日の過ごし方から趣味、そして真田丸の話へと話題が移ろいながら、アイドルたちの一日は終わりに向かっていくのだった。

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