非王国の現実で
おお、誓ってくれ 目の前を阻んでいる鉄格子の 最大の包含物は自分自身なのだと
おお、誓ってくれ 誰にも向けられていないその祈りは 自分を開き裂く切っ先なのだと
異端の少女を次々と惨殺した 罪深き咎人は 読者によって解き放たれた静寂の怪物だった
全ての物々を 恍惚の波の泡粒に沈黙させ 全ての言々を 顔のない現実に歿しせしめた
彼の疼く精神は 一冊の書物でもあり 詰問され神経の極弦に至った皮膚感覚でもあった
喘いで唸り続ける 傷ついた獅子の仔よ お前が足を引きずってまで見たいものはあるのか
いや きっとそんなものはないのだ あるのは非存在の王が命令して築いた建造物だけだろう
入口も出口も見当たらない疆域門 生まれ落ちたのはここで あなたが死んだのもここだから
圧し掛かる終焉でも崩れえぬ楼閣 開けられない屋根の蓋は 永遠に死んだふりをしている
透明な漆喰で塗られた壁のなか 隠れた者は誰なのか 見ないようにしている者も誰なのか
実弾の込められた銃身を抜いてでも 並び立つ少女たちの剥製を傷つけることは許されない
取り換えの利くような専属殺人を犯した少女たちの 精神内在にも似たその場所の在り様は
治療者がいかようにも解釈できる 典型夢でも架空の戦記でもない ましてや虚構ですらない
どのような過去にも未来にもない 無の有のあいだにそっと佇む ひとつの偉大なる王国だけ
少女たちが甘んじて受けたのは 弾け散った従者の心臓か それとも病んだばかりの荊歌か
不在の王国に住んでいる唯一の国民は 少女の死を乞い願うだけの作業に従事させられている
瀕死の王国に敷かれている唯一の道標は けして血の流されていない屍に捕縛させられている
行き場のない人間じみた獣たちの たったひとつの ああ 美しすぎる消えゆく厳かな命
死んでも死にきれない魂の群れよ 非常灯で仄かに照らされたのにも気づいていないのか
闇が腐敗したのちに残されるのは 異形の光と 手首を切り落とした時の密やかな象徴音
貴族でもない 下賤な民でもない あなたの唯一の身分は 敵対相手のいない戦争の肯定者
鏡に映った自分ですら 苦しめることのできない苦しみよ 傷痍も欠損も 引き受けられない
寝起き狂った頭を どう引っ掻き回しても 紛失した現像写真の駒絵を思い起こせないように
愛すべき隣人や共同労働者のない土地では あなたは何も信じられない 脚の悪い馬と同じ
歩くことも身動き一つもできないような 世界の停止者 首を絞められた生身の生存者なのだ
相克の不可能性 修羅の不到達性 闖入者の時間はなく やはり遠く離れた場所でもなく
これ以上なにを知りたいのだ 埋めるものも零すものも持たない 少女の完全な月経周期
明確な境界があるとでもいうのか 聖なる不具の領域に もはや生贄を必要としない祭壇に
捧げられ 自ら敗北し 投降した者だけが行くことのできる 美しすぎる非王国の現実で
もう行く涯すらもない 戦うこともできなくなった 異端者ゆえ普遍者であるあなたこそが
今まで辿り着くことのできなかった 真の王国に 亡命者として無条件で受け入れられるのだ
ようやく諦められるのだ ようやく喪に服せるのだ 深き水底に崩折れた神の塔のごとく
喜ばずにはいられないだろう あなたが酸鼻きわまりない少女たちの死体を創ることを
これからあなたは殺人者 愛する少女たちを殺すことのできる 王国内の唯一無二の殺人者
それが非王国の現実なのだ 救いも救われもしない それだけが 非王国の現実なのだ!