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第7話:遠い夏の日 (前編)

今回は年を遡って過去の話

今から何十年も前、でも今と何一つ変わりない蒸し暑い夏の日。


千代(ちよ)〜!置いていくぞ〜!」


「待ってよ(つとむ)〜!」


元気良く神社の階段をかけあげる、小学校高学年位の丸刈り頭の少年とおかっぱ頭の少女。

この小さな田舎町に住む2人は幼馴染であり、よく一緒に遊んでいる。


「1着〜!」


「早いってば...もう〜!」


永遠続くように思える階段を駆け足で登った2人は遊び場である神社の敷地で今日も鬼ごっこやかくれんぼなどをして遊んだ。暫くしてそれに飽きたのか、丸刈り頭の少年、"孜"が神社の木に登り始めた。


「孜、危ないよ...?」


心配そうに木の下から見守るおかっぱ頭の少女、"千代"を他所に


「大丈夫だって!」


孜はそう言って登り、枝木まで登るとそこに座った。


「千代もやってみろよ!」


孜は上から千代を見下ろしながら言った。


「無理だよ!怖いし...。」


千代が首を横にぶんぶんと振りながら答えた。


「ちぇっ、つまんないな。」


そう言うと孜は再び枝木に立とうとした時、ボキッっと音がして枝木の一部が折れた。


「うわっ!!」


枝木が折れ、バランスを崩した孜は枝木から足を踏み外し、落ちた。


「孜!」


千代はどうすることもできず、その光景を見る事ができずに顔を伏せた。

ふと、急に風が千代の前を通って行くような気がした。孜が落ちた音がしないと思った千代が視線を上げると、そこには1人の少女が孜を抱えていた。


「怪我は無いかのう?」


孜を抱えているその少女は、背丈は2人と同じ程であるが獣のような耳と尻尾が生えており、白銀の毛をしていた。


「...。」


孜は落ちたショックと助かった安堵、そして自分を抱えているこの人間らしからぬ何かを考えるので言葉が出なかった


「孜...!」


千代が駆け寄る、その獣の姿をした少女は孜を地面に下ろして立たせた。


「お、お前は..?」


孜が獣の少女に聞く。


「儂はこの神社でこの田舎町を護っておる、お主らの言葉で"神様"というやつじゃな。」


「「神様...?」」


孜と千代は同じ事を言って、2人で顔を見合わせた。そう言えばこの神社では昔この町で起こった川の氾濫を収めて、穀物と農業で再びこの田舎町を復興させた神様がこの神社に祀られていると、そしてその神様の姿は狐のような姿をしていたと2人は両親から聞いていた。


「本物...?」


孜はその少女に聞いた。


「本物も偽物も居らぬ、儂は儂じゃ」


「でも孜を助けてくれたんだから本物じゃない...?」


千代は孜にそう言った。


「うん、それもそうだ。」


「分かってくれて何よりじゃ!それにしても、儂の事が見える人間何てもう何百年ぶりかのう?」


「えっ、他の人は神様のこと見えてないの?」


「うむ、参拝に来る者は儂が目の前に居ても気づかないからのう。」


狐の神様はそう言うと


「立ち話もなんじゃ、それにここでは誰かに見られてしまうからのう。神社の裏の広縁に座って話でもしようじゃないか。話し相手が居らぬので暇なんじゃ。」


そう言って狐の神様と孜、千代は神社の裏の広縁へと回り、そこに腰掛けた。


「さっき神様、数百年見える人がいなかったって言ってたけど、今いくつなの?」


孜が狐の神様にそう聞くと。


女子(おなご)に歳を聞くとは無礼な男じゃのう〜」


「そうだよ孜!」


「えぇ...」


2人の少女達に責められる孜


「そうじゃなぁ、産まれてこの方700年以上はずっとここに居るかのう。」


「「700年!?」」


2人はそれを聞いて驚いた。


「何じゃ?700年なんてちっとも...あぁ人間はそう長くは生きれんのじゃったな。」


人間にしてみれば700年はそれはそれは遠い話だ。

そんな話を3人で話していると、日はとっくに落ちて蝉の鳴き声が鈴虫に変わっていた。


「ほれ、もうこんな時間じゃ。2人とも早う家に帰りんせい。」


「うわ本当だ、また明日学校が終わったら来るよ!」


「うん!私も!」


「そうかそうか、あぁそうじゃ。儂に会ったことは皆に秘密にするんじゃぞ?」


「えっ、どうして?」


「うむ、お主達は物分かりが良いようじゃが。そうでは無い者もおる、ここで会ったことは

儂らだけの秘密じゃ。」


「孜は口が緩いから絶対言っちゃダメだよ?」


「うっ、うっさい!」


「ふふ、ではまた明日な。」


2人は急いで家へと帰って行った。

次の日も学校が終われば神社に行って、今日会ったことを2人で狐の神様に話して談笑したりした。

それからは時間があれば2人は神社に行って、狐の神様と遊んだり、話をして帰る日が続く。

夏が過ぎ、秋を迎え。それが終われば雪積もる冬、それも過ぎて桜咲く春。

孜と千代は大きく成長するが、狐の神様は何一つ変わらず、いつも笑顔2人を出迎えた。

しかしずっとそれが続く事は無かった。

年は過ぎて、1941年12月8日、日本の真珠湾攻撃を皮切りに太平洋戦争が勃発。

最初は優勢だった日本側は次第に不利になり、兵の数が減った日本側は1943年に学生を兵士として徴兵する

学徒出陣を発令、成長した孜もその対象であった。

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