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第6話:御守り

少し長め

祖母が受けた電話の相手は父だった。

母の検査をより詳しくしてみると、中々手強い癌だそうで、転移が一箇所と、手術をした場合60%の確率で後遺症が残る可能性があるとか。

かと言って手術しないわけにもいかず、予定が早まり、明日が手術となった。

父は忙しい様で、僕を迎えに来ることはできず。待つしか出来ない僕に、再び不安が押し寄せる。

朝食もまともに口に入らず、時間がただ過ぎてゆく。


「...そうだ...!」


僕はすぐさま着替えて、神社の方へ向かった。

昼食も持たずに。

僕は神様である狐白に頼もうとした。母の手術が成功するのは勿論の事、神様の力で、母の病院に飛ばしてもらえるかも知れないと。

彼女に縋るしか無かった。


「狐白〜!」


神社の階段を駆け足で上りながら、狐白の名を呼んだ。

登り終えると、神社の境内で寝ている狐白を見つける。


「狐白!」


僕は寝ている狐白を呼んで駆け寄る。


「うぅん...?なんじゃ騒々しい...。」


狐白は欠伸をしながら僕の事を見た。


「母さんが明日手術で、僕お母さんの病院に行きたいんだ!それに手術も100%成功するわけじゃないみたいで...!」


「病院に行く...?お主の父親は?」


「忙しくて迎えに来れないって...。」


「うーむ...連れて行って欲しいと言われてものう...。儂ゃあくまでこの土地を守る神で涼太を母親の病院へ連れていける様な能力は無いんじゃ...。」


「えっ...」


「それにのう...100%成功させるって言う願いも、儂にはちと...」


「神様だったら...神様だったらなんでもできるんじゃ無いの!?」


「落ち着かんか...!言っとるじゃろ、儂はただの...」


僕は不安に潰されて、何も考える事ができなくなっていた。そして僕は狐白に。


「神様の癖に!!役立たず!!」


と言ってしまった。


「あっ...!これ!待たぬか!」


止める狐白を他所に、そう言って僕は神社を泣きながら駆け下りて行った。

しかし、自分の当時のおこずかいだけで祖母の家から病院のある当時自分が住んでいた近くの病院までは電車で片道約8000円、当時の僕からしたら中々の大金である。勿論そんなお金があるわけも無く、泣いて帰る先は祖母の家。

祖母に「どうしたんだい?」と聞かれても、返すこと無く僕は自分の部屋に籠って、たたんであった布団を広げて布団に再び入った。

無力な僕には母に何も出来ず、そんな僕は狐白にまで八つ当たりして、ひどいことを言ってしまった。無力な自分の愚かさと、あんな事を言った僕に狐白はもう会ってくれないだろう、と思って僕は枕を濡らした。

僕は昼食も夕食も食べずに、そのまま寝てしまって、時間は夜の9時。

祖母はすでに別の部屋で寝ているだろう。

ゆっくりと起きた僕の腹がぎゅるると鳴った。

自分勝手ではあるが、何か祖母が作って置いてくれてると思い。静かな夜の家の中を歩いて今に向かう。

すると、縁側に人の気配を感じた。

お化けか何かと思って寝ぼけ目擦り、ゆっくり目をこらすと毛がふさふさとした見慣れた尻尾の様なものがゆらゆらとしている。


「狐...白...?」


僕はそのゆらゆらとする尻尾に恐る恐る聞いた。

すると、尻尾が動きを止めてその主がこちらを向いた。


「涼太、起きたのか。」


その声は紛れも無く狐白だった。

狐白と分かって安心する反面、朝の僕の発言から、合わせる顔が無かった。


「ここへ座るか?」


狐白は自分の隣を手で叩く。

僕は首だけで返事をして、彼女の隣に腰掛けた。


「今朝はお主に何もしてやれなくてすまんのう...。」


それを聞いて僕は


「僕の方こそ...あんな酷い事言ってごめんなさい...。」


僕がそう言うと、狐白は僕の頭を自分の胸の方に寄せて包む様にして僕に頭を撫でた。


「母親の命がかかっておる涼太の様な歳の子が取り乱さぬ訳が無い。気にするな。」


優しい声とゆっくりと頭を撫でる手に僕は包まれていた。


「嫌いになって無い...?」


僕は確かめる様に聞いたが。


「なるものか。」


と、狐白は言った。

そのままの状態で少し経って、「そうじゃ」と狐白が袖口から何かを取り出した。


「涼太が去ってから、儂に何か出来ぬかと思ってのう。そう言えばと思って知り合いの病の神に頼んでな、素奴にお守りを作って貰ったのじゃ。」


袖口からから出てきた手には、難しい漢字が書かれたお守りがあった。


「これを涼太が持って明日の手術が上手くいくよう、ここから祈るんじゃ。さすれば願いも届くじゃろうて。」


狐白はそのお守りを僕に渡した。


「ありがとう...!」


「なぁに、礼など...わっ?!」


僕は無意識に狐白に抱きついていた。

そのまま僕は彼女の胸の中で再び夢のなかに入る。

朝起きた僕は、自分の部屋の布団で寝ていた。昨日のはもしかして夢だったのかと思い、日めくりカレンダーを見ると次の日になっていて枕元には昨日の夜、狐白からもらったお守りが置いてあった。

聞くには今日のお昼ごろから手術が始まるとのこと。

いくら直接神様、狐白からもらった最強のお守りがあるとはいえ不安な気持ちは変わらない。

朝食を食べ終えて、昨日書き忘れた絵日記をつけて祖父の仏壇に手を合わせ、いつもの挨拶と共に母の手術が行くよう見守ってほしいと手を合わせた。

お昼になって僕は昨日のお礼を言いに狐白のいる神社へ、いつもの稲荷寿司と自分の昼食を持って出かけた。

狐白はいつもと同じく階段を上がってすぐの鳥居の上に居た。


「昨日はごめん...!」


「それは昨夜も聞いた、気にしておらんから心配するで無い。」


僕は作った稲荷寿司を狐白に渡す、今日はお守りのお礼も込めて5個増やしてある。それに気づいて狐白は尻尾を振り「こんなに食べて良いのか!」と驚いていた。

狐白と一緒に昼食を食べて、その後はずっと母の手術成功を一緒に祈っていた。

そして夕方、祖母の家に帰ると玄関で祖母は待っていた。


「ただいまおばあちゃん...もう連絡来た?」


結果は父から連絡が来ると聞いていた。


「おかえり涼ちゃん、さっき来たよ。」


僕の心臓の鼓動が一気に早くなった。


「手術は大成功、奇跡的に神経に癌がくっついてなかったから後遺症も残らないだろうって、でもまだお母さんの麻酔は切れてないから寝てるそうだけど目が覚めたらまた連絡くれるって。」


「よかったぁ....。」


僕の不安は滝のように流れ去り、力がすっと抜けて足が一瞬ふらついた。


「さぁ、涼ちゃんお夕飯にしよ、今日はお母さんの手術成功のお祝いにハンバーグだよ。」

祖母が作ってくれた少し小さな夕飯のハンバーグは大きさの割にとても美味しくて、母の顔を思い出しながら食べて泣いた。

あのお守りが無かったら今頃どうなっていたかと思うと考えたくは無い。

昨夜に狐白が持ってきてくれたお守りのお陰でもあり、僕は改めて狐白は神様なんだと実感した。

しかし、着々と狐白との別れの日が近づいていた。



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