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第5話:芸術の夏

短め

ある日の夜、僕は布団に入りながら今日の出来事を思い出しながら目をつぶった。

今日は夏実と一緒に少し栄えた街の方へ行ってみた。なんでも、夏実の祖父母にプレゼントを買うそうだ。祖母の家の近くにあるバス停から1時間に1本程度のバスに乗って、約15分。人通りもそれなりに多くはあるが、東京で育った僕から見れば都会とは言いづらい、しかし祖母の家がある田舎と比べてしまうとやはりここも都会になるんだろう。

とは言ったものの、そのプレゼントというのはバラの花で、小学生のお小遣いで買えるようなものと言ったらバラ一本。夏実はそれを大切に持ち帰って、その日に渡したそうだ。夏実の祖父母はとても喜んでくれたと、後々教えてくれた。


「僕も、なにかプレゼントしようかな...。」


花は...なんか真似になると思い、いろいろ考えているうちに僕は夢の中へと落ちていった。

次の日、今日も一段と蒸し暑い日だ。

僕はいつものように神社の裏の縁広にいた。


「うーん...」


昼食を食べながら、僕は昨日の続きを悩んでいた。


「何じゃ?何か悩み事かの?」


狐白が僕覗き込みながら聞いた。


「うん...実はおばあちゃんに何かお礼、プレゼントとかしたいなって...。」


夏実の真似になってしまうが、僕も祖母の家でお世話になってる事から祖母に何かお礼がしたかった。


「うーむ、お礼のう...花とかどうじゃ?」


「それも考えたけどなんか普通かなって。」


「手厳しいのう、そうじゃな涼太が得意なものは何じゃ?」


「得意なものは...うーん」


ゲーム、と言いそうになったがそれを我慢し頭の中でぐるぐると考えた。


「あっ...うーん...。」


一つ心当たりがあったが、僕は口に出すのを見躊躇った。


「思いついたか?」


「いや...えーっと...。」


「何じゃ、男ならはっきりせい!」


「じゃあ、笑わないで聞いてくれる...?」


「笑うものか、言うてみい」


僕は意を決して話した。


「実は...絵が...。」


「ほう、絵とな。」


僕は当時、学校の図工の授業で描いた地域の防災ポスターが最優秀賞に選ばれたことがあった。元々絵を描くのが好きで賞をもらった時は嬉しかった。しかし同級生の友達や女子から"男で絵が好き"と馬鹿にされ、あまり表には出さなくなっていた。この事を狐白に言うと。


「絵は芸術じゃ、芸術に男も女も関係無いじゃろ。涼太は自分に自信を持って良いのじゃぞ。」


実は恥ずかしくて、この事を両親に話したことは一度もなかった。

僕は狐白の言葉に救われたような気分だった。


「じゃあどうしよっか...?」


「婆様に絵をプレゼントするんじゃな。」


ということで、僕は一度祖母の家に戻って、自由帳の真っ白な1ページを切り、色鉛筆をリュックに詰めて、再び神社へと戻る。

すると


「あっ、涼太君!」


夏実だ、今日は薄い水色のワンピースに麦わらの帽子を被っている。

どうやら僕を探しに神社にやってきたようだ。

僕は夏実と共に、再び神社の縁広に座ってリュックから紙と色鉛筆を出し、絵を描き始める。

因みに狐白は夏実と反対の左側に座っているが夏実にはもちろん見えていない。


「何をするの?」


「夏実ちゃんみたいにおばあちゃんに何かプレゼントしようと思って、おばあちゃんに絵を描いてるんだ。」


「男の子で絵って珍しいね〜」


僕はその言葉に若干傷ついたが、もう今までの僕とはちがう。


「絵は芸術、男女は関係無いよ。」


僕は狐白が言ったことをそのまま真似て夏実に言い返した。狐白はこれを見てクスクスと笑っている。


「そうかなぁ?」


「うん、絶対そう...!」


僕は狐白と夏実にアドバイスをもらい、両サイドから2人にじっくりと眺められつつ無我夢中で色鉛筆を動かして、描き進めた。ふと気づくともう夕暮れ前の時間になっていた。夏実はいつも通り少し早めに、家へと帰って行った。

僕はその後も残って描き進め、1時間ほど経ち。


「出来た...!」


遂に満足の行く絵が出来上がった。


「うむ、どれどれ。おぉ~、いい出来じゃな!」


「うん...!」


絵には僕と祖母が居て、背景には先日に夏実と行ったひまわり畑を描いた。

僕が満足げにしていると、神社の表の方から


「涼ちゃ〜ん」


と、祖母が僕を呼んでいる。

なかなか帰ってこない僕を心配して探しに来たようだ。

僕は描いた絵を大事に持って祖母の方へ向かった。


「おばあちゃん」


「おぉ〜、やっぱりここにいたんだね。」


「遅くなってごめんね、はい、これ...!」


僕は祖母に描いた絵を渡した。

どういう反応が返ってくるか、僕はドキドキしていた。


「あら、これは涼ちゃんが描いたのかい?」


「うん...!」


僕は恥ずかしがりながら答えた。


「すごいねぇ、ありがとう。」


祖母は僕の頭を優しく撫でてくれた。

時間はもう遅くて、空の夕焼けも徐々に星空へと変わっていた。

祖母と一緒に家へ帰ろうとした時、祖母が神社の方に向かって軽くお辞儀をしている。その先に目をやると狐白がいて、でも僕にしか狐白は見えていないと思っていたので、祖母は神社に向かってお辞儀したのだと思って、僕もそれを真似た。




「白狐様、今日もありがとうございます。」




次の日、僕は祖母の家の電話の音で目が覚めた。

祖母が電話を取り、電話の相手と話している。僕は寝ぼけつつ、布団から起き上がって欠伸をし、顔を洗いに洗面台に行こうとすると電話を終えた祖母が僕の部屋に入ってきた。


「涼ちゃん、急遽お母さんの手術早まって、明日だって!」


祖母に表情は、いつもの柔らかな表情ではなかった。

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