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第4話:芽生え

前回よりまた少し長く。

神社に居た白いワンピースの子は狐の少女では無くて、何より僕よりも少し背が低い。この辺に住んでる子かな?と思って声をかけようとすると向こうも僕に気づき、でもすぐに走って神社の別の階段から降りて行ってしまった。


「知っとる子か?」


上からいつもの声がした。狐の少女だ。

階段を上がってすぐにある鳥居の上に座って僕を見下ろしていた。


「ううん、知らない子。」


「お主よりも少し早くに来てこの辺を散策していた様じゃが。」


狐白(こはく)が見えてたんじゃない?」


「こはく?誰じゃそれ。」


白狐(びゃっこ)様なんでしょ、白狐の字を入れ替えて狐白(こはく)、どう?」


小学生の僕が精一杯頭を絞って考えた彼女の愛称である。漢字は当時書けなかったけど。


「ふむ、狐白(こはく)か、良い名じゃな。」


「よかった、変な名前だったら怒られると思ってた。」


「それ位じゃ怒りはせぬ。それにしても先程の娘、なかなか可愛い顔をしておったのう。」


「そうなの?僕はよく見えなかったけど。」


「お主に惚れて、恥ずかしくなって逃げたんじゃないかのう〜。」


「まさかぁ。」


とは言いつつ、少し恥ずかしかった。

その日もお供え物の稲荷寿司を手に、僕は少しメニューを変え、おにぎりを持って来た。2人でそれを一緒に食べてまた彼女、狐白と遊んだ。

夕暮れになり、狐白と別れ家路に着くと先程の女の子と、祖母が話していた。


「ただいま。」


「あら、おかえり。ほら夏実(なつみ)ちゃん、この子が涼太だよ。」


"夏実(なつみ)" この女の子の名前だろう。

どうやら、祖母から先に紹介されていたらしい。


「どうも。」


僕は素っ気なく挨拶をする。


「こんばんは、さっきはごめんね?」


"さっき"、多分神社のあれだろう。


「ううん、気にしてない。」


「なんだい、2人とももう会ってたのかい。夏実ちゃんはもう少し先に行った所の家のお孫さんでねぇ、涼ちゃんと同い年だってさぁ。涼ちゃんと同じで夏休みいっぱいはこっちにいるみたいだから、仲良くするんだよ。」


そう祖母に言われ、その日は軽く話をして彼女は帰って行った。

話では僕と同じ東京から来た子で、親は母親だけとの事。仕事で忙しく休みの取れない母親に変わって、夏休みの間だけここの町に住む祖父母の家に預けているという事らしい。

次の日、僕が神社の階段を上ろうとした時、後ろから声をかけられた。


「何してるの?」


夏実だ。昨日と同じような純白のワンピースに、今日は肩がけのポシェットをしている。

神社の階段を稲荷寿司が乗った皿を持って駆け上がろうとする僕が気になって声をかけたのだろう。


「お供え物を持って行くんだ。」


「お供え物?」


「うん、神社の横にある祠に狐の女の子...あっ...」


つい口が滑ってしまった。


「狐...?」


彼女は首を傾げている。


「う、うん 狐の神様が祀られてるんだ...。」


「へぇ〜、じゃあ昨日居たのもそれで?」


「まぁね...。じゃっ...!」


そう言って、僕が再び階段を駆け上がろうとすると。


「ねぇ、涼太君。私も一緒に行って良い?」


「えっ...?」


「その祠、私昨日見て無いなぁと思って私も一緒に連れてって欲しいなって、駄目?」


「駄目じゃ無いけど...。」


もしもこの子を狐白に会わせてしまったら、大騒ぎになるんじゃ無いかと僕はこの時思っていた。


「駄目じゃ無いけど?」


「いや...うん、良いよ...!」


狐白が出て来ない事を願いつつ、階段を夏実と一緒に登って行く。

すると、階段の頂上の陰に隠れていた鳥居が顔をのぞかせた。

しかしその鳥居の上に、あろう事か狐白は横になって寝ていた。どうやら僕を待っていたらしい。


「あっ...!」


僕はつい声が出てしまった。


「?、 どうしたの?」


それに気づいた夏実が僕を覗き込む。


「い、いや何でも無い...! 行こう...!」


夏実は僕を見て、変な奴と思っていたも知れない。

鳥居で寝ている狐白に気づかないでくれと心の中で念じながら階段を何とか登りきった。彼女はまだ狐白の存在には気づいていないらしい。

夏実を祠まで案内して、お供え物の稲荷寿司を置く。


「こんな所にあったんだ〜」


と、いう夏実を他所に鳥居の上で寝ている狐白が気になっていた。

しかし改めて鳥居を見ると、狐白の姿は無い。ほっ、と胸をなでおろしたのもつかの間。


「昼飯はこの娘と食べるんじゃな。」


と、後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。

僕は慌てて振り向くと、そこにはさっきまで鳥居で寝ていたはずの狐白が立っていた。


「えっ...!?ちょ...!」


僕が狐白の登場に戸惑っていると


「お弁当持ってきたんだけど一緒に食べない?」


と言って彼女がこちらを振り向く。

終わった、と思って僕は目が泳いだ。


「涼太君?」


あれ、狐白は確かにここに居るはずなのに、夏実はあたかも、それが存在しないかのように僕に話しかけている。

もしかして、夏実には見えていないのか...?そう、頭を過る。


「涼太君?大丈夫...?」


「えっ?、あぁ...うん...!平気...!」


僕は夏実にそう言いながら、その手前にいる狐白に無言のメッセージを送っていた。"どうしてそれを早く言ってくれないんだ"と。

夏実に誘われた通り、僕たち2人は一緒にお昼ご飯を食べた。

夏実は自分で作ったというお弁当をおにぎりと稲荷寿司だけの僕に分けてくれた。僕もお返しにと、自分で作った稲荷寿司をあげた、おいしいと言ってくれたのでなんだか安心した。

その後、神社を降りてすぐにある小川を散策したり、夏実が教えてくれたひまわり畑を見たりした。夕暮れが近づいて、夏実は早めに帰ってくるよう言われているらしく、神社の上り階段の前で僕と別れた。


「今日は楽しかった!同い年の子がいるなんて思ってなかったから!」


「うん、僕も。」


「じゃあね〜!」


彼女は元気に手を振って山道を下っていった。


「可愛いじゃろ?」


後ろから声がした、狐白だ。


「まぁ...うん。」


確かに今思い出しても可愛い子だった。


「ありゃ完全に涼太の事を好いとるのう、儂ゃ今日1日中ずっと後を付けていたわい。」


「えぇ...。」


本当にこの白狐様とやらは神様なのかと、この時僕は思った。


「まだ会って1日しか経って無いよ?」


「あほう、女は一目惚れをするんじゃ。」


「うーん」


僕はただ単に、夏実はここに来て初めて会った同い年の女の子で、友達としか思っていなかった。


「同い年の友達、いや嫁候補か?どちらにせよ良かったのう〜、人間でありんせん儂より人間の、それも同い年の女の子の方が良かろうて。」


僕はこの時、胸の中でもやもやした何かが蠢いていた。

人間とか人間じゃ無いとかそんなのは関係無い。

考えた、そして心に漂っていたもやもやが晴れた時僕は気づく。


違うんだ狐白、僕は...。

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