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第3話:時の流れ

新しい人物が最後に登場

それから僕は毎日稲荷寿司を作って狐の少女が居る裏山の神社に持って行った。

同じくらいの歳の子供はこの町に居なくて、唯一の遊び道具であるゲーム機を家に忘れた僕は、狐の少女と一緒に食べるお昼ご飯を楽しみにしていた。


「涼太は儂と居て楽しいのか?」


「うん、ここには同じくらいの子は居ないしゲーム機も忘れちゃったしね。」


僕がそう言うと狐の少女は首を傾げた。


「何じゃ、その"げーむき"とやらは?」


「神様なのに、知らないの?」


知らないのは無理も無い、彼女が人里に下りる事は滅多に無く、この土地と人々を守る事が彼女の神様としての仕事なのだから。


「知らんで悪かったのう!で、何なんじゃ?」


狐の少女は尻尾を揺らしながら僕に嬉々とした目で聞いてくる。

僕は説明をしながら地面に枝切れで当時流行っていた携帯ゲーム機の絵を描いた。


「まるで小さな"てれび"じゃのう...。」


「テレビは知ってるんだ...。」


「それぐらい知っとるわ!まぁ何じゃ、もしも暇じゃったら儂が遊び相手になっても良いぞ?」


「でも、神様にも仕事があるんじゃ無いの?」


「最近は参拝者も全然来なくなってのう、来るとすればお主のようなお供え物を持ってくる者だけじゃからな、昔は荒れておった川も人の手が加わって災いも起こらなくなってしもうて、それは良いことなんじゃが儂も暇でしょうがないんじゃ。」


彼女が言う"昔"は多分100年以上前の事なんだろう。


「じゃあ、友達になってくれる?」


「何を今更、お主が来てから話し相手が増えて感謝しとるぞ。お主は既に"ともだち"じゃ。」


これで祖母に言った事は嘘にならずに済んだ。

この日は彼女と一緒に、かくれんぼをして遊んだ。まぁ、神様である彼女に対して僕がいくら上手く隠れたところで全部お見通しだし、対して向こうは絶対に見つからない木の上に登ったりして上手く(?)隠れていた。でも僕が「ずるい」と言うと、彼女は僕と同じように普通に隠れるようになった。ただ、大きな尻尾を隠しきれず、僕に見つかった。

時間も忘れ遊んでいると空はすっかり夕焼け色に染まり、煩いくらい鳴いていた蝉も少し静か。もう帰る時間だ。


「久々に体を動かしたわい...。」


「なんか、年寄りくさい。」


「誰が年寄りじゃ、たわけ!」


僕は彼女に大きく手を振って、彼女もまた、僕に手を振って見送った。神社の階段を駆け下りて、狭い山道を下る。途中の流れる川に反射した夕日がとても眩しかった。家の前に祖母が出ていて、「ただいま!」と言って僕は家に入る。

家に帰って少しすると祖母が夕食を作ってくれる、今日は僕の好きなカレーだ。

今まで僕が食べたカレーで、祖母の作ったこの時のカレーより上に行く物に、未だ出会った事は無い。祖母の


「美味しいかい?」


の言葉に、返事もそこそこにかき込んだ。それを見て祖母も笑っていた。

夕食が終わってお風呂に入って、僕はこの日、遊び疲れたのか早く寝てしまった。夢の中でも狐の少女と遊んでいた。






「最近はどうじゃ?」


「足が追いつかなくて腰も少し、もう年寄りですから。」


「む...余り無理はせぬようにな。そう言えば爺さんはどうした?」


「もう、逝ってしまいましたよ。」


「あぁ、そうじゃった...失礼したのう...。」


「いいえお気になさらず、そう言えば最近あの子と遊んでくださってるようで。」


「涼太の事か?」


「はい、あの子ここに来たばっかりの時は少し元気が無くて心配してたんですよ。」


「そうじゃ!、お主から涼太の母が病に倒れたと先日は聞いておらぬぞ!」


「ほら、大きな声を出すとあの子が。」


「あぁ...済まぬ。じゃが、おかげで彼奴こやつを泣かせてしもうたわい...」


「大丈夫、あの子は強い子ですから。」


「だと良いんじゃがのう...それで、涼太は儂の事を何と言っておる?」


「詳しい事はあの子からは特に、ただ"友達が出来た"、と」


「ふむ。」


「ふふ...。」


「む、何が可笑しい...?」


「いえ、ただあなた様のような方が遊んでいるのを想像しますと、ふふ。」


「ぐぬぬ...。」


「今はこの町に子供はいませんが、昔は良く、私やお爺さんとも遊んでくださいましたっけねぇ。」


「そうじゃったかのう?」


「はい、それにしてもまさか、あの子にもあなた様が見えているとは少し驚いております。」


「そうなのか?」


「ええ、私の息子にも見えてはいたようですが。怖くて神社の方には近付こうとはしませんでしたから。今はもう忘れているようですし。」


「今は確か、お主らしか儂の事を見えておらぬのじゃったな。」


「ええ、昔はこの周辺に住む者、皆が見えていたようですが歳をとると見えなくなる様で、しかし亡くなったお爺さんも晩年まで見えていたそうで、私もなぜか今でもあなた様が見えております。ですから、お供えも私が。」


「そうじゃったな、いずれ誰も見えなくなって、儂も忘れられてしまう日が来るのじゃろうな...。それにしても、あの寝顔を見ると、昔の爺さんの寝顔にそっくりじゃ。」


「ええ本当に。白狐様、あの子をよろしくお願いします。」


「なにを改まって、子供の遊び相手をするのも仕事のうちじゃて。さて、そろそろ御暇(おいとま)するかのう。」


「はい、ではおやすみなさい。」


「ん、おやすみじゃ。」






次の日も、僕はいつもの様に元気良く祖母の家を出た。

今日もいつもの様に日が照り、蝉は煩く鳴いている。

神社へ続く長い階段を駆け登ると、いつもと同じ、いや今日は違った。

神社の前に白いワンピースの女の子が立っていた。

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