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第1話:夏の風

のじゃロリ狐と夏のひと時、そんな物語です。

「えっ、お母さんが倒れた!?」


それは今から10年以上前のこと。

当時小学生だった僕は、間近に控えた夏休みをどう過ごすかで頭が一杯になっていた。

しかし、その夏休みを前日に控えたある日、修業式終わりの教室で唐突に担任の先生から伝えられた。


「今、涼太のお父さんから電話があって救急車で病院に運ばれたって、すぐに帰りの支度をしなさい。」


僕の名前は"涼太(りょうた)"当時、都内の小学校に通う、ごくごく普通の小学5年生だ。

担任の先生に言われた通り、僕は考える間もなく急いでランドセルに少ない荷物を詰め込み、友達に軽く

挨拶を済ませ、足早に学校を後にした。

朝来た道を走って帰ると、家には朝速くに仕事へ行ったはずの父の車と玄関には靴が置いてあった。


「ただいま。」


手も洗わず、リビングの戸を開けると父が何やら荷物をまとめていた。


「あぁ、お帰り。先生から聞いたか?」


父の顔は今まで見たこと無いほど焦っているように見えた。


「うん、お母さんが倒れたって。」


僕はまだ、この事実を受け止めきれていなかった。


「あぁ、朝お隣さんから会社に電話があってお母さんがゴミ捨て場で倒れてたって。」


そう言いながら父は母の着替えや、入院手続きに必要な物をまとめていた。


「とりあえず涼太も荷物置いて、これからお母さんの病院に行くから。」


荷物をまとめ終わった父は車に荷物を積み、僕を乗せて都内にある大きな病院に車を走らせた。

病院に着くと母はすでに検査を終えて病室のベットで寝ていた。

当時の僕には良くわからなかったが、母は癌に侵されていた。幸い進行が大して進んで居らず、医師から手術をすれば助かると聞き、どういった物か分からないながらに僕は安心していた。

母を病院に残し、家に向かう車の中で父から夏休みの間、僕を父方の祖母の家に預けると言われ、その日のうちに、祖母の家に持って行く物をまとめ夕食を食べた後、早めに布団に入った。

そして次の日、朝食を済ませると支度をして父の車に乗せられ、2時間ほど走り祖母の住む家に着いた。

そこは僕の住んでいる都会とは正反対の自然豊かな田舎であった。


「それじゃあ涼太をよろしく。」


父はそう言って、足早に来た道を戻っていった。


「涼ちゃん、遠いところからよう来たねぇ。顔を見るのはお爺さんの葬式以来だったねぇ。」


僕の頭を優しく撫でながら祖母はそう言った。

住んでいる家から遠かったため、父方の祖母には中々顔を出すことが出来ず会うのはこの時3回目だった。


「さぁさぁお上がり、お昼ご飯にしよう。」


祖母は当時、一人でその家に住んでいた。祖父は数年前に他界しそれ以来この家に一人で住み、裏の畑で野菜を育てながら暮らしている。

靴を脱いで祖母に家に上がると、古い家独特の匂いが鼻を通る。

都会の車が通る雑音は一切なく、ゆっくりとした時間が流れるこの空間を当時の僕は異世界のように感じていた。

居間に通されると、祖母がそうめんを運んでくる。

風鈴の心地よい音を聞きながらつるつると啜るそうめんは、いつもより遥かに美味しい気がした。

お昼ご飯を食べ終え、持ってきたリュックを漁ると、無い。持ってきたはずの携帯ゲーム機が無い。

多分、急いでいたため入れ忘れたのだろう。田舎に来てまでゲームをするのが今どきの子供らしいといえば子供らしいが、宝物であるゲーム機を忘れた僕はこの時相当落ち込んでいたと思う。

しばらくして、退屈になり、広い祖母の家を見て回っていると祖母が台所で何かを作っている。


「おばあちゃん、何作ってるの?」


僕は聞く。


「お稲荷さんだよ、お供え物さ。」


「ふーん」


"お供え物"、家を見て回っている時祖父の仏壇には僕が先ほど食べたそうめんがべつのお皿で供えあったはず。祖父はそんなに食べるのかと、思っていると。


「涼ちゃんも作ってみるかい?」


祖母にそう言われ、退屈であった僕は喜んで祖母が作るそれを真似て、稲荷寿司を作った。

僕がいくつか作り終わると作ると、祖母は


「じゃあ、ちょっと留守番を頼むね。」


と、皿に盛った稲荷寿司を持って外へ出かけていった。

30分ほど経ってから、祖母は帰って来たが手に先ほどの稲荷寿司は無く、皿だけを持っていた。


「おかえり、どこに行ってたの?」


帰ってきた祖母に聞くと


「ただいま涼ちゃん、作ったお稲荷さんを裏手の山にある神社の(ほこら)にお供えして来たんだよ。」


ふぅ、と手ぬぐいで汗を拭く祖母。

なんだ、お爺ちゃんのじゃないんだ。と僕が言うと祖母はクスっと笑って


「あんなに食べたらお爺さん、お腹を壊すよ」


と、言った。

それからは縁側でスイカを食べたりして、あっという間に夏休み一日目が終わった。

次の日、起きてみると祖母が居ない。ふと、居間にある机に目をやると一枚の紙が置いてある。どうやら置き手紙のようで、"町の役場に行ってくるから、起きたら台所にあるお稲荷さんを神社までお供えに行ってきてほしい。"と書かれていた。

台所へ行くと、昨日と同じく、皿に盛られた稲荷寿司と祖母が手書きで書いた神社までの地図がおいてあった。

時刻はお昼前、そんなに寝ていたのかと思いつつ着替えて祖母が別に用意してくれていたおにぎりを食べつつ神社へと向かった。

家の外周りはほぼ畑しかなく、ポツポツと家がある程度。

今のところ、車が通ったのはたった1台だけ、それも多分地元の軽トラックだった。

地図に書いてある通り、家の裏手の畑道を通って川を渡り山へ通じる道が見えてくる。

道と言っても舗装がされている訳でもなく、車1台がやっと通れるほどの道幅である。

そこを少し上がると、脇手に神社へと通じる長い階段がある。一段、一段と数えつつ、不意に飽きて数えるのをやめると階段もそこで終わった。登り終えた先に見えたのは、古い小さな神社だった。

地図を見ると神社の脇にある祠がお供えをするところのようだ。

地図の通り神社を歩くと、少し小さい赤い鳥居の元に坪鈴が付いた祠が構えていた。

しかしここで一つ不思議な点に子供ながら気付いてしまった。


「昨日おばあちゃんが持って行ったお稲荷さんが無い...」


祠の前にある皿、これは昨日祖母が持って行った皿の柄だ。しかしその上に、昨日持って行った稲荷寿司は乗って居なかったのである。

ふと、急に周りの木々が風でガサガサと揺れ始める。そちらに振り向くと、今度は自分の前を誰かが通りすぎるような気がして元の祠の前に目をやる、すると持っていた皿から一つだけ、稲荷寿司が消えていた。

落としたかと思い足元を見てもその1つは見当たらない。


「お主、見ぬ顔じゃな。」


何処からともなく声がした、周りを見ても誰も居ない。


「どこを見ておる、此処じゃ此処。」


不意に上から声がして、自分より少し背の高い祠の上を見ると赤色の着物を羽織った女の子の姿をした、しかし銀色の髪をして祠を包むように同じ色の人間とは思えない大きな尻尾が伸びていた。


挿絵(By みてみん)


「うぅん~、やはり稲荷寿司は美味じゃのう~。」


手には先程僕が持っていた皿から取ったであろう稲荷寿司が一つ握られ、それを食していた。

その日は、だる暑さだったのを僕は覚えてる。

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