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短編

勇者募集中なのです!

作者: 暁える

勇者なのに銅の剣と100ゴールド。つらたん。

絢爛たる煌びやかな宝箱の中身が薬草だった。つらたん。

世界の為に働いてるのに諸費用すべて自腹。つらたん。

死んだら死んだで怒られるしかも無給。つらたん。

やることは使いッパシリばかり。つらたん。

世界の半分のほうが良かったのに。つらたん。


そんな僕にもゆるさることがある。


不法侵入してはタンスや宝箱を漁っても誰も文句を言いません。

……誰も文句を言いません。

大事なことなので二度言いました。

でも……ゴミばかり。


つらたん。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


         海 ●ユーグリット王国 ◆大空洞 海 ┏━━●ベルベット王国       

         海 ┗┫   ▲白竜山脈     海 ┗━━━━⇒魔大陸

         海 海┃     ●村      海海海海海海海

●ファリアス帝国 海 海┃      ▲火吹き山  ■神聖王国ヴァンミリオン

         ┃ 海┗━ ●ミッドガル王国 ●竜王城

  ━━━━━━━┛ 海海海海┗━━━━━━━━━━━━━━

              ●魔法都市エンディミオン

    海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海海


       ┏━━━━━━━━

       ●砂漠の王国カシュナール         

          

 ※おまけ:地図ぽいものです(笑

  大まかな方角だけで実際の距離感ではありません。

  画面サイズが合わなかったらゴメンナサイヾ(。>﹏<。)ノ゛✧*。


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☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



 冒険者を初めて早十八年。

 十五歳でこの稼業に足を踏み入れて、今年で三十三歳。

 ようやく冒険者ランクの最高峰、S級ライセンスを獲得できた。

 駆け出し冒険者であった頃の俺は、まだ見ぬ未来に胸を膨らませるだけの、危なっかしい死に急ぎ野郎でしかなかった。


 そんな俺が今こうしていられるのは、数々の仲間の死を目の当たりにし、彼らの屍を乗り越えてきたからだ。冒険者は常に死と隣り合わせ。

 陽気に酒を酌み交わし、熱い夢を語らう奴らが、明日も無事でいられる保証はない。儚い稼業だ。


 大切なものを守るため、大切なものを失わないために剣をとる。

 いつしか俺の剣は金や名誉欲のためではなくなっていた。


 だが、それはその誰かのために振るう剣ではなく、友を失うことを恐れ、耐え難い苦しみと悲しみから逃れるためだけの自愛の剣と化していたのだ。


 臆病風に吹かれてしまったのだろう。

 そろそろ潮時だ。


 前々からそれなりの仕事の話は転がり込んでいた。

 少年たちに剣技の指導を施す指南役であったり、培ってきた経験や知識を活かして教壇に立つ講師など。給金もけして悪くない無難な仕事であったが、その全ての申し出をその都度断ってきた。


 なぜなら故郷の田舎でのんびりと余生を過ごそうと考えていたからだ。働かなくても田舎なら一生涯食うに困らない金は蓄えてある。


 冒険者ギルドで最後の酒を呷った俺は席を立ち、これまでお世話になった顔見知りの冒険者たちに別れを告げる。皮肉交じりの奴らもいたが、ほとんどの奴らが快く俺の門出を祝ってくれた。


 そして最後に冒険者ギルドで俺の担当であった受付嬢の元へ。

 もう二度と冒険者に戻るつもりはない俺は、取得して間もないS級冒険者の証であるプレートを彼女に返却しようとしたのだが。


「申し訳ありませんがアレン様、お受けできませんわ」

「なぜだ?」

「勇者様が魔王に敗北されたのはご存知ですよね?」

「ああ、知ってるが、でもそれが俺の引退となにか関係があるのか?」


 すると、受付嬢が一枚の紙切れを、カウンターの上にそっと差し出した。

 懐かしい書類だ。十八年前、冒険者登録時に交わした契約書だ。


「アレン様、ここの条文を確認して頂いてよろしいかしら?」


 受付嬢が指で示した箇所を確かめる。

 S級冒険者に関しての条文が記載されていた。


 第一項:S級冒険者は冒険者ギルド施設内での飲食の全てを免除し王国負担とする。


 第二項:S級冒険者は、あらゆる税金が免除され、冒険者ギルドで発生する様々な手数料等も全て免除される。


 第三項:S級冒険者は、王国があらゆる危機に直面した時、その身柄は一時的に王国に帰属するものとする。


 ああ、なるほど、条文の第三項に抵触していると、彼女は言いたいわけだ。


 勇者が魔王に返り討ちの憂き目に遭い、命を落とした話は記憶に新しい。

 冒険者なら誰もが耳にし、酒の席でも、あーだこーだと盛り上がったものだ。


 だがしかし、魔王という存在は脅威であるのは事実だが、魔王など俺がこの世に生まれてくる以前から存在している。大昔からありきの存在なのだ。

 少なくとも俺がこの世に生を授かりし日より、脅威に感じたことは一度たりともない。


 むしろ、王国は魔王対策という名目で、庶民に重税を課し、貴族と庶民との貧富の差は広がる一方だ。庶民から巻き上げた金で、やりたい放題の門閥貴族の方が、よっぽど魔王よりたちが悪い。


 今回の件にしても、魔王に勇者をけしかけたのは王国の陰謀だともっぱらの噂で、魔王の脅威を庶民に訴えかける巧妙な宣伝活動に他ならない。圧政を敷き、庶民の力を吸い上げることによって、上流階級の者たちの地位は盤石なものになるのだ。


 その庶民の反動の矛先を逸らすために利用されているのが魔王軍だ。

 なので魔王の不興を買い、王国騎士団が壊滅させられたのは自業自得だろう。


「アレン様、ご確認して頂けましたでしょうか?」

「ああ、読んだ」

「ですので、アレン様の引退をギルドとしては、認めるわけにはいきません」

「それで?」

「王国騎士団が壊滅させられたのですよ。もはやアレン様しかこの窮地をお救いできる者はいません。実は、アレン様宛ての書簡も届いております」


 蝋封されている丸筒を受け取った。

 開封し中の手紙を取り出す。


『拝啓、アレン殿。

 先の魔王軍との戦いで、王国は若き獅子である勇者を失った。

 更にその後、魔王軍の猛攻に遭い、王国騎士団は壊滅的な打撃を受けた。

 実に由々しき事態である。

 いずれは総力戦へと激化し、血で血を洗う熾烈な戦いに突入していくであろう。

 またその戦いの余波は王国全体を震撼せしめ、国民全体を苦しめる結果に繋がるのだ。

 まさに英断の時である。

 よって王国は魔王軍に提案を持ち掛けた。

 一対一による決闘により判決を下す決闘裁判である。

 心して挑まれよ。

 貴殿の勝利の暁には莫大な恩賞と最上の爵位を約束しよう。

 スレイマン・ヨセフ・ヴァレリア三世』


 なんとも身勝手な内容だ。

 決闘裁判には引き分けも降参もない。

 生き残りが正義なのだ。

 言うまでもなく、恩賞や爵位にも興味はない。


「断ったらどうなる?」

「逃走の罪に問われます」

「わかった引き受けよう」


 国王の命令だ。

 逃れる手段などない。

 俺があっさり引き受けたので、受付嬢は逆に不信感を抱いたようだが。

 よく考えてくれ、逃亡生活など長続きはしない。

 いずれは捕縛され、さらし首だ。

 

「決闘の日はいつだ?」

「追ってご連絡させていただきます」




◇◆◇




 魔王城で、対峙する俺と魔王。

 ――戦いは既に最終局面を迎えていた。

 俺が生きて戻れば、それが勝利の証だ。


 魔王の風貌は予想に反して、妖艶な雰囲気を漂わせる少女の姿。

 彼女の武器は漆黒の瘴気を纏う大鎌だ。

 序盤はその少女の姿に戸惑い翻弄され、いらぬ痛手を被ってしまった。

 

「ハァハァ……これほどまでとは」

「妾は弱者には興味はないよ。逃がしてやってもよいぞ!」


 満身創痍の俺を見下すかのように、けらけらと嗤う魔王。

 俺は剣で体重を支え、立っているのがやっとの状態だ。

 気力も体力も限界に近い、もはや起死回生を狙う一撃に懸けるしか。

 実力差を埋めるためにも、相手を出し抜かなくてはならない。


 まずは、


「フィールア・ノーパイン!」

 

 痛覚を完全に消し去る身体強化系の魔法だ。


 そしてさらに、


「ボーン・アーマー」


 数ある系統の魔法の中で、身体強化系の魔法だけが、俺が扱える唯一の手札だ。

 ボーンアーマーの効果により、俺の骨格は一時的に鋼鉄並みの強度に変化する。

 これなら骨までは砕けまい。


「全身が光るなんて、どんな身体強化をしたのかな?」


 関心を示すかのように目を剥き、あどけなさの抜けきれない声を発する魔王。

 ボーン・アーマーの効果で骨格そのものが強烈な光を放つので、おのずと全身がぼんやりと赤く光る。赤い理由は体内を循環している血液の影響だ。


 よし、前準備は整った。


 強く強く猛然と踏み込み、一気に魔王との距離を詰める。

 そして敢えて隙を作るため、左手に握る盾を無造作に投げ捨て──


「アジリティ・イノセンス!」


 敏捷度が増す身体強化系の魔法だ。

 増した敏捷度で加速しつつ、右手の剣に全身全霊を注ぎ全てを託す。


「スピード勝負なの? でも左半身がガラ空きなのよ!」


 大鎌を振り上げる魔王。

 陰惨な双眸が恍惚の境地に至った瞬間、半円の刃が俺の首を目指して、烈しく振り下ろされた。


 だが、その攻撃を俺は左腕でがっしりと受け止める。


「ぐぅっ!? どうして!?」


 自慢の大鎌で俺の肉を抉ったものの、戸惑いを見せ、動揺を隠しきれない魔王。

 魔王の膂力なら腕ごと首を刈り取ることも容易であろうが──俺の骨格は鋼鉄の強度にまで、強化されているのだ。


「残念だったな」


 痛覚を無効化している俺に痛みはない。

 全ての意識を握る剣に向け、魔王の心臓目掛けて刃を差し込む。

 すると、哀れにも呆けたように半開きしている魔王の口から血が滴り、彼女の掌から大鎌が離れ落ちた。

  

「この勝負、俺の勝ちのようだな」

「そうかしら?」


 心臓を刺し貫いているのだ。

 ああ、でも相手は魔王だ。

 常軌を逸した存在かもしれん。

 首を刎ねるべきか。


 しかし剣を引き抜こうにも彼女が俺に詰め寄り、引き抜かせてくれない。

 やがて剣尖は彼女の背中から顔を出し倒れこんできたので、おのずと俺は片膝を付き、彼女の身体を支える態勢になってしまった。


 しかも、なぜだか魔王は俺の後頭部に腕を回し、うっとりした双眸で俺を見つめ、


「んぐっ!」


 ふわりとした唇の感触が俺を襲った。

 

「なんの真似だ?」


 この期に及んで、接吻をしてくる魔王の意図が理解できない。


「あなたの魂に、妾の全てを捧げたの」

「言ってる意味がわからん」

「いいの、いずれわかるわ」


 そう言い残して、彼女は煙のように消滅した。

 



 ◇◆◇




 王国に凱旋した俺は英雄として称えられた。


 一介の冒険者でしかなかった俺が、どういう訳か王国の姫君を娶る話まで持ち上がってきた。


 もとより俺は田舎でのんびりと暮らし、余生を送るつもりなので、丁重にお断りしたのだが、姫君に甚く気に入られてしまった。


 しかも少々長居し過ぎてしまったのか、姫君は暇を持て余す度に会いにくるので、お断りしたにも関わらず、あやふやな関係になってしまったのだ。十三歳の姫君に対して、俺は三十三歳のおっさんだ。


 歳も離れすぎてるし、国王もおっさんに可愛い娘を嫁がせる気はないだろうと、高を括っていたのだが、スレイマン国王は世にいう女好きのハレム国王で、後宮には数えられないほどの側室と子供たちがいた。


 姫君の本音にしても怪しいもので、時折見え隠れる言動から察するに〝魔王を倒した英雄に興味を抱いている〟というだけの話で、ハナから恋愛対象としては俺を意識していない。迂闊に関わると厄介事を持ち込んできそうなタイプだ。


 ここでの俺の価値は魔王を倒した肩書のみ。


 ご機嫌伺いしてくる奴らも、様子見の奴らも同様だ。

 俗物同士の駆け引きや、政争に巻き込まれるのはうんざりなのだ。

 嫉妬心で妬む奴らの方が俺にはまだわかりやすい。

 

 はあ、心身共に休まる暇がない。環境だけで疲れ果ててきた。


 という訳で夜会の時間だ。


 国王も参会すると小耳に挟んだので、今夜こそはきっぱりお断りして、明日の早朝には颯爽と立ち去りたいものだ。


「どうぞアレン様」

「どうも」


 給仕人にワインを渡された。

 王宮のワインはどれもが最高級品で香りは絶品なのだが、無骨な酒のほうが俺には──


「うっ……」


 なんだこの味?

 毒を盛られたのか? 


「ぐっ! だ、誰か……」


 ……でもどうして? いったい誰に? 


「げはっ!」


 ──全身が痺れて動けない。

 胸の底から熱いものがこみ上げてきて吐血。

 もはや声も出せない。

 俺の手からワイングラスが滑り落ち、パリンと音を立てて割れた。


「アレン様っ! お気を確かに!」


 会場の演奏やざわめきが段々と遠ざかって──

 意識が遠ざかっていく──

 死ぬのかな──俺、


 死ぬときは、あっけないものなんだな。




《死亡が確認できました。ユニークスキル【魔王の転生】を、獲得。魔王ルナリンの呪いにより36回、魔物に転生する権利を与えられました》


 ──なんだ突然? 

 脳内に無機質な声が響き、文字が浮かび上がってきた。

 これが魔王の呪いなのか?

 奴が死に際でほざいていた〝いずれわかる〟とは、この事象を指していたのか?


《それではスライムへの強制転生を開始します》

 

 ちょ、ちょっと待て! 強制ってなんだよ!

 スライムなんて嫌だ!!

 うわああああああぁぁぁ!!!




 ふと、我に返る。


 すると俺は、だだっ広い草原にぽつんと佇んでいた。

 ぷるんと弾むスライムボディ。


 ──嘘だろ? マジでスライムに転生したのか?

 

 しかし魔物転生は始まったばかり。

 ほんの序章でしかない。


 残り35回か……


 脳裏に響く声が、俺にそう伝えるのであった。


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