電気5 夕暮れの涙
「ちょっとここに居てもいいでしょうか?」
翌日夕方頃、Kが倉庫のシャッターを開け、部屋へと入ってきた。Kの涙顔と共に冷風が部屋に入り込み、私は身を縮ませた。
「何があったん?」
僕はKの顔を窺いながら、ラジオのFMを切った。部屋内にはKのすすり泣きが聞こえる。
「(上司に)朝怒られて、さっきも怒られて、本当どうしようもないですよ。本当に辞めたいです」
悔しい涙が机の上にボタボタと落ちる。少年のように泣きじゃくった顔がしわだらけで、心が痛々しかった。
「そうなんや、ガァーって怒られたの?」
「いやそんな怒られ方はしませんでしたが、隅っこでネチネチと……もう、どうしようもないんです」
「そっか辛かったんやな。でもきっとその辛さが後になって生きてくるで。俺もそんな時期あったから」
あったからと言いながら励ます言葉が見つからなかった。自分も同様にKの感情が乗り移り、心が弱々しくなる。
「僕は出来ない奴なんです。何回も同じ事で怒られたり、ミスしたりして、処理がおっつかないんです」
「いっぱいいっぱいになったら誰かに助けてもらったら? それか電話を取らないか」
「うーん」
Kは考え込み、頭を抱えた。感情的になっている人に対して論理思考を突き付けるのは駄目だ。シャッターが開いた外から日差しが入りこむ。寒空には嬉しい温かい日差しだ。だがKにとってその温かさがさらに涙を誘った。母のような温もり……一人暮らしのKにとって今一番必要なのかもしれない。
「ありがとうございます……少し楽になりました」
Kは涙を払い、メガネを掛けた。
「そうか……」
「ただ……あの人はもう死んで欲しいなって思いました」
真面目な奴の言葉の暴投。真意ではないにしろ、Kからその言葉が出るとは思わなかった。
「案外……俺と似てるな」私はその言葉を否定しなかった。




