電気3 その眼差しで
その日仕事が終わった後、Kと一緒に近くのバス停まで帰った。工場地域の通り道を二人で一緒に歩く。コツコツと靴が響き、Kの心も落ち着いただろうと思い、僕は話を切り出した。
「今日は大変やったな」明るい感じでKの顔を見ずに言った。
「そうっすねー。今日はもう電話が多くって、それで自分でも何が何だか訳がわかんなくなって…っでミスしたんですよねー」
「どんなミスしたん?」
「いやー、得意先からお客様へ連絡しろって言われたんですけど、後でもいいかなーと思って放っておいたんです。そしたらまた問い合わせが来て、それを上司が取って」
「で、怒られたんや」
「うーん、そうですね。でもあの言い方はないですよー。やる気なくなりますよ」
「そうやなー、ミスした事について怒られるのは仕方ないけど、みんなの前で怒るのと過剰な言い方は辞めてほしいな」
「明日あの人が出勤かどうか気になりますもん」
「あーわかるわかる。でも気にし過ぎても良い事ないよ。そういう時はもう右から左へ聞き流すしかないって。ミスした事については反省して、それ以上言われたら聞き流したらいいねん」
「いやー難しいですね。僕に出来ますかね?」
「出来るよ。そのつぶらな眼差しで持って頑張ったらいいねん。見てる人は絶対支えてくれるって」
「あっ! バス行っちゃいましたね、すいません」
バスは無情にも僕たちを置いて行ってしまった。冷たい風だけが現場へ残る。
「そういう時もあるよ、人生なんやから。明日は今日よりちょびっと良い日やったらいいのにな」
落ち込んでいた自分を元気に励ましてくれた本たち。その経験を活かして少しでも後輩に教えられたらと僕は思ってた。




