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リンド邸での話し合い

 住宅地の一角の目立たない場所に馬車を止め、しばらく待つ。薄暗くなり始めた頃に、灰白の髪にあごひげのがっしりした男が現れた。

 「あの人です」ローズが言って馬車を降りる。

 「リンドさん」男に声をかけた。

 「ローズ嬢ちゃん。無事だったのか。よかった。」

 「こちらのレディク様に、助けていただきました。」ローズ私をが紹介する。しかし『レディク様』はやめてほしい。

 「レディク?話題のトリプルSか。」また、その話題かよ。

 「中で話そうか。さあ、中に入ってくれ。」すぐそばにあったけっこう立派な屋敷のドアを開け、リンドが我々を招じ入れる。


 客間に通された後、これまでの経緯とリンドに会いに来た理由を話した。話し終わった後、リンドが重い吐息つく。

 「いろいろ信じがたい部分があるが。特に魔人の話など。しかし、思い当たる節もないではない。なぜ常に警備の裏をかかれたかなど。」

 「お疑いになるのは無理もないかと思います。証拠として、魔人の死体を持ってきましたが、ごらんになりますか。」

 「何?死体があるのか。見せてくれ。」

 「ここでは床が血で汚れますが。」

 「なるほど、外で・・。いや。誰かに見られるとまずいか。待っててくれ」席を外し、しばらくすると、古びた大きな板と布を持ってきて床に敷いた。

 「さあ、この上に。」

 魔法のバッグから板の上に魔人の死体を出した。リンドは死体に近寄り、特に頭部の角のあたりを子細に調べる。やっぱりそこがポイントなのか。

 「信じがたい話だが、確かに魔人だ。だとすると、これはゆゆしき事態だ。国王に、いや、他国にも連絡しないとならないか。君らは今日はここに泊まってくれ。部屋に案内させよう。私は少し考えをまとめて、手紙を書く。後でまた話そう。」


 部屋に案内された後、使用人に手と顔を洗う水が欲しいと頼むと、「ご入浴の用意をいたしますか」と、聞かれたのでありがたく風呂を使わせていただくことにする。入浴後にリンドが部屋にやってきた。魔人の住み処に目を引くものがあったかどうか、質問されたので、少し話をし、持参した書類を見せた。まもなく客が来るので、その時にまた話をして欲しいと言い、戻っていった。しばらくして夕食に案内された。食堂に入るとリンドの他に、数人の男達がおり、話をしている。


 「君が緊急事態と言うからには、なにか本当に重大な事件があったのだろう。君は大げさなことは言わないからな。しかし、私はまだ何の報告も受けていないぞ。」と、丸顔の中年の男。

 「わしは、非常に珍しいものを見せてもらえると聞いたぞ。是非私の見解を聞きたいとな。」と、白髪の老人。

 「緊急の報告があり、また非常に珍しいものもお見せします。ただし、いささか食欲がなくなる内容も含みますので、始めに軽く食事を済ませておくことをお勧めします。悪い話ばかりではなく、少し良い話もありますので、はじめによい話を、食べながらお聞きください。」リンドが男達をテーブルに案内する。

 「良い話は歓迎です。それに食事も。今日は忙しくて昼食を食べ損ねました。最近悪い話ばかりで。」軍服らしいものを着た、精悍な顔つきの男がテーブルに腰を下ろし、さっそくパンを一つ手に取ったが、いったん動きを止め、リンドに問いかける。

 「初めてお目にかかるご婦人もいらっしゃいますが、リンドさん、ご紹介していただけないのですか。」

 「そうですね。ご紹介は済ませておきましょう。こちらのご婦人は私の知人、エクセル博士のご息女、ローズ嬢です。」

 「エクセル博士は、例の盗賊に襲われてなくなられたと聞いていましたが。ローズ嬢はご無事でしたか。」頭のはげ上がった初老の男。

 「はい。幸いにも救出されました。詳しい話は後ほどいたしましょう。それからこちらの方はレディク殿。優れた魔法の技量をお持ちです。」リンドは続けて、我々に同席の男達の紹介をした。丸顔の男はエドリン周辺の領主エドリール男爵、軍服の男はエドリンの警備隊長アンドール卿、白髪の老人は冒険者ギルドの顧問で、魔物・魔人や古伝承にも詳しい碩学ヘルミ博士、はげ上がった初老の男は商業ギルドの嘱託職員で、古文書や暗号も含めた文字の翻訳・解読の専門家ケアン。


 全員が食べ始めると、リンドが話し始めた。

 「まずは良い話をいたしましょう。先ほどもお話がありましたが、高名な魔道具研究者であるエクセル博士は、盗賊に襲われてなくなられました。そして、同行されていたローズ嬢も誘拐されて、盗賊団の隠れ家で監禁されていたのです。しかし、こちらのレディク殿に救出されました。」

 「盗賊団の隠れ家が判明したのですか。」警備隊長が興奮して立ち上がる。

 「すぐに討伐軍を・・」エドリール男爵も言いかける。

 「隠れ家にいた盗賊団は、すでに死ぬか捕縛されており、盗賊団は壊滅に近い状態です。」興奮する男達を制してリンドが言った。

 「冒険者ギルドで秘密裏に討伐隊を派遣されたのですか。」警備隊長が言う。

 「いいえ、レディク殿とレディク殿のご友人達が襲ってきた族を返り討ちにし、逃げる族を追撃した結果、捕らわれていたローズ嬢を発見して救出した。おおよそ、そのようなお話でしたね。」リンドがこちらを向いてにこやかに同意を求める。

 「はい、おおむねその通りです。」と答えておく。襲ってきたのはオークで、ご友人はゴブリンだけど、確かにだいたいあってる。

 「それは、すばらしい。」とケアン。

 「レディク殿とご友人方は、驚くべき手練れ揃いなのですな。是非武勇伝を拝聴したい。」警備隊長が言う。

 「確かにこれはよい話だな。」エドリール男爵もうなずく。

 「しかし、ここまで聞いた限りでは良いことずくめの話ですが、ここから悪い話につながるのですか?」警備隊長が問いかける。

 「先ほど、盗賊団は壊滅に近い状態とおっしゃいましたな。」ヘルミ博士が確認する。

 「そのとおりです。」リンドが答える。

 「つまり、まだ少し残っている。しかし、残り少ないにもかかわらずゆゆしき事態であり。少人数で緊急の会合が必要。とすると、町の中の責任ある立場の人間が盗賊に通じていましたか。」と、ヘルミ博士。

 「さすがヘルミ博士。ご慧眼です。」リンドが言う。

 「ローズ嬢が見聞きしたところでは、アスターとエドリンの町で公職に就く者の中に、盗賊団に情報提供するものがあり、盗賊団では金目のものを持った旅行者が何時街道を通るか把握していたようです。さらに。」話し続けながらリンドは懐から紙を取り出し、エドリール男爵に渡す。

 「これは、盗賊団の隠れ家で見つかったものですが、その紙と筆跡、ご記憶にありませんか?」リンドがエドリール男爵にたずねた。

 「これは、我が館で発注している紙、それに筆跡は秘書官の一人のものだ。おのれ、すぐに引っ捕らえて・・・。」エドリール男爵が怒りのこもった声とともに立ち上がり、歩き出そうとする。

 「お待ちください。まだ続きがあるのです。というよりも、これからが本題なのです。」リンドが止める。

 「これ以上の問題があるのですね?」

 「そうです。ヘルミ博士にごらんいただきたいものはこちらにあります。」リンドが一同を導いて客間に移動した。


 客間に移動した全員が驚愕の表情で動きを止める中

 「これは・・・まさか・・・本物か・・。」ヘルミ博士が一人ふらふらと魔人の死体に近寄り、鞄の中から手袋、虫眼鏡など取り出すと死体をつつき始めた。

 「魔人の生き残りが居たとは。」誰かがうめくようにつぶやく。

 「これは生き残りではない。新しく生まれたのだ。おそらくまだ生まれて十数年にしかならない。魔人としては若く経験不足であったろう。」ヘルミ博士が答える。

 「生き残った魔人が子を産んだと言うことか?」

 「魔人がどのように生まれるのかは、まだはっきりとしていないが、魔人から生まれるのではないということはわかっている。しかし、今はそんなことよりも、重要な事実があることを指摘せねばなるまい。」ヘルミ博士は一度言葉を切って、全員の顔を見回した後、ゆっくりと続けた。

 「過去の歴史上、魔人が現れた時にはかならず、前後して魔王も現れている。」


 その世は深夜まで話し合いが続けられた。魔王の対策については、地方の町だけで出来ることなど限られているので、判明した事実を報告し国の判断を待つことにする。今すぐ手を付けるべき事はいろいろあったので、一つずつ検討し、以下のことが決められていった。

 首都とアスターの町に使者を送ること。首都には魔人の死体と、魔人の文字で書かれた文書、おおよその翻訳結果なども送ること。

 アスターの町の信用のおける人間に、町の中から盗賊団に情報提供を行っているものが居るらしいことを伝え。エドリンの町で行っている対策も教えること。

 信頼できる警備兵100名ほどを選抜し、警備と訓練の名目で町の西に1日ほど進んだところに宿営させ、捕らえた盗賊の尋問などを行う拠点にすること。灰の森に出入りするものが居ないかも監視すること。盗賊の隠れ家に人員を送って調査を行うこと。

 冒険者ギルドで過去にゴブリン討伐依頼を達成した冒険者について、秘密裏に調査すること。怪しい冒険者を捕らえるため、冒険者ギルドにダミーのゴブリン討伐依頼を、『必ず警備隊の宿営地に立ち寄ること。宿営地で説明を聞かなかった冒険者には報酬が支払われない。』という注釈つきで掲示すること。警備兵だけでは手の回らない仕事は、信頼の置ける冒険者パーティーに秘密裏に依頼すること。

 盗賊団とつながりのある犯罪組織について調査すること。

 盗賊団の残した偽情報で騙された結果、ゴブリン族を殺傷するなど、多大な被害を与えているため、責任ある立場のものを派遣し謝罪を行うと同時に、食料その他の物資を提供すること。同時にゴブリン族の被害状況や、灰の森内でのオークの活動について聞き取り調査すること。今後誤解による争いが起きないように、盗賊の残党が捕獲された後には、公式の発表を行い、ゴブリンが旅人を襲ったという事実はなく、盗賊が流布した偽情報であることを周知すること。

 情報漏洩を防ぐため、今はまだ返却できないが、被害届の出ている盗品を返却する準備を進めておくこと。

 証拠として重要な魔人の所持品以外の、盗賊の所持品、持ち主の死亡等で返却先のない盗品等は、ゴブリン族とレディクに提供すること。それとは別に、盗賊討伐の報奨金も提供すること。


 翌朝、ローズとともにエドリンの町を出た。出発前にリンドに挨拶しに行くと、昨夜は眠らなかったようで目の下にくまが出来ていた。一緒に行きたいが片付けないといけない仕事が多すぎて、とても無理だと残念がっていた。町から西に進み、警備隊の宿営地の近くで野営した。警備隊の宿営地近くなら安心感があるため、同様の行動をとる旅行者が複数居た。翌日さらに西へ少し進んだところで街道から離れ、森の手前で馬車を止める。感知範囲内にゴブリン達が居ることが感じ取れる。すでにこちらには気がついているだろう。しばらく待つと、距離を開けて追尾していた20名ほどの警備兵が到着した。少し待ってもらい、ゴブリン達のところに行って警備兵が同行することを説明する。その後、全員で合流し盗賊の隠れ家に移動した。


 隠れ家に戻ると、レスリーもすでに戻ってきていた。テーブルの上に草を乗せて何かしている。何をしているのか聞くと、移動中に採集した薬草を選別していたそうだ。興味があったので、少し手伝いながら薬草の種類や判別法について教えてもらった。

 その後数日間は、盗賊の護送、物資の輸送、盗賊の隠れ家の調査、盗品の確認選別などを行った。もっとも、ほとんどの作業は町から来た職員がやってくれたので、私のすることはそれほどなかった。あちこちの作業を少しずつ手伝ったり、魔法の練習をしたり、周辺に猛獣などの危険がないか巡回したり、魔法の練習をしたり、レスリーと一緒に薬草採取のまねごとをしたり、魔法の練習をしたり、子供達の遊び相手をしたり、魔法の練習をしたり、ゴブリン達と一緒にアベリアの作る料理をつまみ食いしに行って怒られたり、魔法の練習をしたり、それなりに忙しく過ごした。


 女達に灰の森を出た後どうするか、何か希望があるか聞いたところ、ローズがオロンゴール遺跡に行きたいと言った。祖父のエクセル博士が最後に進めていた研究を、少しでも続けてみたいらしい。もちろん最後まで続けるのは無理だが、いくつかの課題はローズにもわかるため、出来る範囲の調査を進め、残りはエクセル博士の知り合いの研究者に任せたいという話だ。

 レスリーは採集した薬草を売るためにアスターの冒険者ギルドに行きたいそうだ。アベリアは特に行きたい場所はないが、もうしばらく一緒に行動したいと言った。

 私の方からは、どこかに図書館のような場所がないか、という質問をする。いろいろと知りたいこと、調べたいこと、勉強したいことがあるので、灰の森を出たら出来ればそういう場所に行きたいことを話した。ローズによると図書館は王都シリンまで行かないと無いが、冒険者ギルドにも資料室があり、魔法などの本はある程度そろっているらしい。また、レスリーの話では、近くにダンジョンとオロンゴール遺跡があるアスターの冒険者ギルドは、規模が大きめで資料室も大きいそうだった。

 灰の森を出た後は、まずアスターに行ってみよう。


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