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エドリン

ようやく人間の町に行きます

 女達はなるべく早く家に帰してあげたいが、町にいる盗賊の仲間を捕らえてからでないと逃げられてしまうだろうし、女達が狙われる可能性もあるのでしばらく待って欲しいと説明すると、女達は全員家がないという話を聞くことになった。

 アベリアは夫と夫の弟と子供達を含めて5人で行商を行っていたそうだ。「もう少しお金を貯めれば、町に店が買えるかもしれないと、話していた矢先に、夫達が殺されてしまいました。」と、うな垂れている。メリーという7歳の女の子と、タイという4歳の男の子の二人を連れていた。アベリア一人で子供二人連れた状態で、行商の暮らしを続けることは出来そうもないし、町に戻っても暮らしに困る状態らしい。

 レスリーは15歳の時に両親と死に別れてしまい、父親の友人の冒険者の世話になっていたそうだ。主に薬草採取の仕事をしていた冒険者で、荒事は得意ではないが薬草採取の腕が良いため、どこに行っても仕事には困らなかったらしい。レスリーもその手伝いをするため冒険者登録をし、一緒に旅を続けていた。しかし、その冒険者も殺されてしまった。レスリー一人では冒険者として生きていけるかどうか心許ないという話だ。

 ローズは唯一の肉親であった祖父と一緒に旅をしていたが、その祖父を殺されてしまった。祖父は魔道具研究者で、ローズも将来は魔道具研究者になるつもりであり、魔道具研究の基礎について教えてもらっているところだった。しかしまだ、とても独り立ちできる段階ではない。遺跡に入ることがあったため、一応冒険者登録はしているが冒険者らしいことは何もしていないという。実は祖父の持ち家があるのだが、たどり着くのに何ヶ月もかかるような遠い場所で、一人でたどり着けるとも思えないらしい。

 女達の境遇が深刻な物であったため、少しあわてた。とりあえず、ここにいる間は食べるものに困ることはないので、落ち着いて身の振り方を考えると良いと言っておく。ローズの知り合いという人に、これも相談に乗ってもらえるだろうか。


 盗賊の仲間を捕獲する準備と、ゴブリンの村やエドリンに移動する馬車の準備作業を割り振る。オークの死体も腐らないうちに焼いてしまいたかったので、外に運び出し、目立たない場所に木と一緒に積み上げておいた。それから女達に、「これから風呂の準備をするつもりなので、入らないか」とたずねる。少し驚いていたが喜んでいるようだ。屋内だと排水が出来る適当な場所がなかったので、建物の間の広めの空きスペースに目隠し用の板を立て、排水用の溝を掘り、板を敷いた上に桶を置いてお湯をためて風呂にした。久しぶりの風呂だ。ゴブリンは普段水浴びするだけらしいが、風呂は知っていて入りたいということなので、何度か湯を変えて、順番に全員で入った。



♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪

 ずいぶん後になって、教えてもらうまで知らなかったが、その時女達は、入浴しながらこんな話をしていたらしい。


ローズ:「お風呂。久しぶり。うれしい。」

レスリー:「私お風呂なんて入ったことないですー。ローズったら、実はけっこう良いところのお嬢様だったんですねー。」

アベリア:「私もすごく久しぶりです。お風呂は温泉付きの宿に泊まった時以来です。石鹸もあるなんて、贅沢ですね。メリー、滑るから気をつけるのよ。」

メリー:「アワアワ、ブクブク、ヌルヌルー」

タイ:「ヌルヌルー」

レスリー:「温泉って何ですかー?」

ローズ:「水ではなくてお湯が湧いて出る泉。聞いたことはある。」

アベリア:「お湯がたくさんあるから、お風呂に入り放題なんです。毎日2回もお風呂に入っちゃいました。そういえば、旦那と結婚した日にもお風呂に入りました。初めての時には、きれいにしておきたかったから。」

ローズ:「レディク様。きれいにした後、私たちを抱くつもりかな?」

レスリー:「ええっ?!大変ですー。しっかりきれいにしておかないと。」

アベリア:「まあ。レスリーもレディク様に抱いて欲しいのね?」

レスリー:「いえっ、・・あのっ、・・確かにちょっといいかなーとは、思ったけど。・・も?」

ローズ:「レディク様はすごい人。あんな人始めてみた。ちょっとおかしいところもあるけど、そこもまたいい。」

アベリア:「私も、はじめはゴブリンさんを連れていて驚いたけど、子供達にも優しいし、すごくたのもしいし。」




♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪



 風呂に入ってさっぱりした後で、魔人が使っていたらしい部屋を少し詳しく調べる。かなり多くの硬貨と魔道具、手紙や書き付け、本などが見つかった。文字が読めるかどうかは危惧していたが、ほとんどの文字は問題なく読めた。しかし一部読めない文字で書かれた書類もある。読めない文字について女達に聞くと、ローズが魔人の文字かもしれないという。

 貨幣の種類や価値がわからず、買い物をしようにも支障がありそうなので、金銭感覚の高そうなアベリアに質問する。見つかった貨幣の大部分は、今我々が居るエルロンという国の貨幣で、流通量が多くエルロン国外でも隣の国なら利用できるそうだ。エルロンの硬貨は白金貨、金貨、銀貨、黄銅貨、銅貨の6種類があり、銅貨20枚で黄銅貨1枚、黄銅貨5枚で銀貨1枚、銀貨40枚で金貨1枚、金貨5枚で白金貨1枚の価値があるらしい。宿屋で食事する時の食事代は銅貨18枚前後、パンを一個買うと銅貨3枚から8枚、宿屋で一泊すると銀貨1枚と少しかかるそうだ。

 ローズがあちこち調べて、十数個の魔法のバッグを見つけてきてくれた。容量の大きい物を、ゴブリンの村への荷物運びに使ってもらうことにする。


 昼前に外で見張りをしていたゴブリンから合図があった。まもなく、3人の馬に乗った人間が接近してくることを感知する。

 「おーい。開けてくれー。」門の外に立った男の一人が叫ぶ。

 「また、見張りがサボってやがるな。」という、声も聞こえる。

 門を開けてやり、ゴブリンを見て驚いている男達の表情をしばし楽しむ。すでに男達の背中には。外で待ち伏せていたゴブリンの槍が突きつけられていた。

 3人とも牢屋に放り込む。


 昼食を食べた後、盗賊の仲間一人を道案内にし、馬車でエドリンに出発した。はじめは森の中を街道に向かって南下する。途中で1カ所、目に見える樹木の配置と、魔法で感知した樹木の配置が違う場所があり、目がおかしくなったかと自分を疑ったが、盗賊の仲間が御者をする馬車が、絶対通り抜けることが出来ないように見える木の隙間を通っていくのを見て、幻影魔法のようなものかと気がついた。

 「たぶん、幻影を発生させる魔道具がある」と、ローズが言ったので探してみる。目では見えなかったが、魔法で探るとわずかに感じられる魔力の流れの中心に箱のような物が置いてあった。かなり高度な魔道具らしい。盗賊の仲間がまた来るかも知れないので、置いたままにしておいた。

 2日目の午後には森を抜けた。後は1時間ほど南下すれば街道に着くようなので、同行したゴブリン5人にはそこに残ってもらった。連れてきた、盗賊の仲間を監視し、同時に他に森に入ろうとする者がいないかどうか監視してもらうように頼む。

 ローズと二人で街道に出て、そこから東に進む。エドリンに着いたのは翌日の夕方近い時刻だった。


 エドリンは町の周囲に石の防壁を築いた、かなり大きな町だった。縦横の広さは2キロメートル弱くらいだろうか。町の入り口に数台の馬車の行列が出来ていた。検問はそれほど厳しいものではなく、お尋ね者や明らかに怪しい者の出入りを制限する程度らしい。実際に私も、レディクという名前で冒険者ギルドに登録に行く、と答えると、銅貨1枚払うだけで通してもらえた。

 人間の町に来るのは初めてでどきどきする。普通の人がたくさんいるし、いろいろな商店がある。用事が片付いたらあちこちじっくり見て回ろうと心に誓う。ローズの案内でまずは冒険者ギルドに向かう。

 冒険者ギルドは町の中央近くにあるけっこう立派な建物だった。入ると左手に冒険者が幾人か座っているテーブル席、右手には複数の受付窓口。正面奥にはいろいろな張り紙が貼られた掲示板がある。少し掲示板を眺めると、『常時依頼』と書いてあるものもあった。事前に受注しなくても報酬がもらえる依頼で、ランク指定もないため、レスリーが「私のような見習いでもうけられる」と言っていた依頼だ。今回はざっと目を通して置くにとどめる。

 次に、町の入り口で申告しておいたとおり、冒険者登録をしておく。窓口に行き、8級の冒険者登録を申し込んだ。

 「ご存じでないといけませんので、一応ご確認させていただきますが、8級では見習いや雑用の仕事しか出来ません。受けることの出来る仕事も少なく、少額のものが多いですが、それでよろしいでしょうか。」受付の職員がたずねる。

 「かまいません。とりあえず身分証として使えれば良いです。この後予定があって試験を受ける時間が取れませんし。」

 「わかりました。それでは、こちらにご記入ください。」と、登録用紙を取り出して、カウンターに置く。

 内容を見る。名前と性別はよいとして、年齢、出身地、住所はどうしよう。とりあえず適当に書いて様子を見るか。

 「年齢不明、出身地不明、住所不定、ですか?念のため、お話ししておきますと、登録証発行の際には虚偽の申告を判別する魔道具を使用します。申告内容に虚偽があると登録を行うことは出来ませんし、犯罪行為と見なされることもありますが、よろしいですか。」全く表情が動かないところがプロっぽいけど、職員さんもしかして怒ってる?

 「嘘はありませんので、問題ありません。」

 「では、この上、平らな部分に手を置いてください。」職員が黒い板のようなものを取り出した。A4を縦に二つ並べたくらいのサイズで厚さは3センチくらい。真ん中に水晶玉のようなものがついている。

 手を置くと、職員が向こう側に記入した用紙を置いて何か操作した。水晶玉が光り始める。よく見ると手の周りに魔力の流れのようなものが感じられる。そのまましばらく待つ。3分くらいは経過したが変化が見られない。

 「けっこう時間がかかるものですね」

 「おかしいですね。普通は20秒くらいで終わるのですが。」

 「調子が悪いのでしょうか。」

 「今日も2回使って、特に問題なかったのですが。」

 さらにしばらく待つと光が消え、中からICカードのようなサイズの白いカードが現れた。

 「終わりました。ではこれを・・・・・」職員がカードをこちらに渡そうとした動作を停止して、カードを見たまま固まっている。

 「ありがとうございます。・・・・・どうかしましたか?」こちらもカードを受け取ろうとしたが、固まってしまった職員を見て首をかしげる。

 「あの、レディク様。魔法の研修を受けられたことはございますか。」

 「ないです。そういうものがあることも知りませんでした。」

 「では、これから受けて行かれませんか。」

 「時間がありませんから。」

 「あ、ああ、そうでしたね。失礼しました。・・では、これをどうぞ」ようやく自分がカードを持ったままであることを思い出したらしい。

 「ではお時間のある時に是非研修を・・」

 「暇な時なら受けてみるかもしれません。おっと、そんなことよりこれを、渡していただけませんか。こちらの職員の方宛の手紙を預かっているんです。」カードを受け取り、かわりにローズが書いた手紙を渡す。

 「職員宛の手紙ですか。」怪訝な顔で受け取る。

 「では、よろしくお願いします。」言い置いて、ギルドを出た。


 魔法の研修がどんなものなのか、関心はあったが、こんな人通りの多い場所で馬車に待たせたままローズを長時間放置することは気が進まなかった。ローズと合流して、住宅地の方に移動する。

 「予想より時間がかかった。何かありました?」ローズが聞いてくる。

 「魔道具の調子が悪かったみたいだな。」

 「そんな話は初めて聞きました。登録証は?」

 「ああ。出来たよ。」ローズに登録証を見せる。

 「年齢不明、出身地不明でも作れるんですね。」ローズが笑っている。

 「そのようだな。」

 「・・えっ?!これは何?・・・SSSって。」

 「SSS?」なんだそれ?

 「ここ、一番下の項目。」

 見ると、登録証の一番下の方に『魔法適正 水魔法:推定SSS』と記入されている。

 「登録用紙にこんな事を書いたおぼえはないぞ。」

 「魔法適正はギルドの魔道具で調べられ、調べた結果が記入されます。」

 「なるほど。で、何かおかしいのか?」

 「魔法適正は普通、ABCの3段階。」

 「あー、やっぱり魔道具が壊れてるんだな。」

 「えっ?そうなの?・・・・いえ、違います。レディク様がすごいから。」

 「そのレディク様、ていうのやめないか?」

 「ゴブリンの方達も、レディク様って呼んでいる。それにガンダリさんが、大魔法使いだって言ってた。」

 「あー、ゴブリンは魔法使わないから、魔法使えばみんな大魔法使いに見えるかもしれないぞ。」

 「そんなことない。魔法で氷の槍を出す、という段階であり得ない実力。魔人を倒すなんて伝説の勇者級の強さ。レディク様が壁に大穴を開けた建物、木造に見えるけど、裏側は厚さ50センチくらいの石壁です。」

 「あの魔人馬鹿っぽかったし、すごく弱い魔人だったんじゃないか?」

 「ファイヤーストームを使ったって聞きました。上級の魔法です。ただの馬鹿じゃありません。」

 「そーかー、すごい馬鹿だったのかー。」ちょっとめんどくさくなってきた。


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