砂塵のワンドとサンダーエッジ
久しぶりに実戦訓練を行います
昼食を食べた後で、お茶を飲みながら、魔道研究所での話し合いの内容を、全員に話して置いた。
「それは、新しいパーティーメンバーが増えると言うことですか?」
ロジルから質問が出る。
「一応、安全のためにパーティーメンバーには加えるつもりだが、頼んでいるのは研究専門の人員なので、戦闘に加わることはないと思う。」
「研究が終わるまで、シリンに留まることになるのでしょうか?」
「いや。治療技術を一通り習得するだけでも、長い時間が掛かると思うし、病毒の魔人に対抗する技術を研究するには、数年以上の時間が掛かるかも知れない。予言の内容を調べるためにも、エルフの国には早く行きたいので、旅をしながら研究も続けるつもりだ。魔道研究所にも、旅に同行して貰える人を頼んでいる。」
「なるほど。では、研究員と神官長の2人が、新たに同行することになりますね。後は、・・神官長の随員も何人か同行することになるでしょうから、馬車は神殿側で手配するとは思いますが、念のため打ち合わせをして置いた方が良いかも知れませんね。」
「随員かあ。それは考えていなかったな。」
言われてみれば、確かに、神官長のような要職にある人間が、1人で長旅をするなどあり得ないのか。
「馬車はこちらで用意した方が良いんじゃないか?」
こんどはダリルが言い出した。
「それは、何故?」
「レディクの作る馬車は、足回りがしっかり作ってある上に、軽量化の魔道具まで付いているんで、早く快適に移動出来るが、普通の馬車はそうは行かないんだ。シリンに来るまでの道中でも、俺たちの馬車だけならもっと早く移動出来たんだが、他の馬車に合わせて走ったから、かなりスピードを落としていた。エルフの国までの道中は、これまでよりもっと長い旅になる。ちょっとしたスピードの差でも馬鹿には出来ないと思うぞ。」
「なるほど・・そうかも知れないな。」
「それとな。これはスピードとは関係ないが。神官が乗る神殿所有の馬車には、神の紋章を付けることがあるんだ。神官長の許可が貰えたら、俺たちの馬車にも紋章を付けちまったら良いんじゃないかと思うんだが、どうだろう。」
「ああ、なるほど。全員が神殿関係者の振りをするのか。それなら、派手な大きな馬車に乗っていても目立たないし、『才蔵』が神殿関係者に混じっているとは思われないだろうな。良いかも知れない。・・明日神殿に行って、神官長さんと話しをしてみよう。ダリルとロジルも一緒に来てくれないか。神殿で使っている馬車のデザインを調べておきたいし、こちらで馬車を用意するなら、随員の人数の他に荷物の量も把握して置いた方が良さそうだ。」
軽く打ち合わせた後、訓練のために訓練場に移動しようとした。だが、出かける前に、玄関に人の気配があることに気がついた。来客のようだ。
応対に出てみると近衛兵だった。息が荒い。急いで来たらしい。急用だろうか。
「間もなく陛下・・いや、カールがこちらにお邪魔します。」
近衛兵は、開口一番、そう言った。何か緊急事態かと、心配して損した。この前言っていた、事前連絡というやつか。
「訓練場に行こうとしていたところなんだが。」
「はい、うかがっています。それで、訓練の様子を見たいということで、急遽こちらにお邪魔することにしたようです。」
「ああ、なるほど。そう言うことですか。」
その時、背後の、地下通路のある部屋の方に、人の気配を感じた。まさか、もう来たのか。
「なんか、地下通路から、人が上がって来ているようだけど、事前連絡って1分前なのか?」
「申し訳ありません。今回は急に決まったものですから。馬を飛ばしてきたのですが、王城からここまでの道がかなり曲がりくねっているのに比べて、地下通路はほとんど真っ直ぐですので、ぎりぎりになってしまったようです。」
「馬なんか使うより、地下通路を走ってきた方が早かったのでは?」
「おっしゃる通りだと思います。次回はそうします。」
そんなやり取りをしているうちに、地下通路のある部屋のドアが開いた。近衛兵が現れて、周囲の状況を確認し、こちらに黙礼してくる。その後から国王が現れた。
「やあ、レディク。訓練を見せてもらいに来たよ。」
「やあ、・・えっと、カール。暇なのか?」
「今日は会議・・じゃなくて、依頼の仕事が早く終わってね。時間が出来たんだ。レディクが訓練をすると聞いていたから、急遽、見に来ることにしたのさ。」
まさか、訓練を見物するために、会議をはしょって来たわけではあるまいな。
気がつくと、王の後から、近衛隊長とローランが顔を出した。続いてヘルミ博士とリンドも。驚いたことに、研究所長と宰相まで現れた。
王族専用の地下通路だと思っていたのだが、こんなに大勢で通っちゃって良いのだろうか?
訓練場に移動して、ウォーミングアップを始めている間に、近衛隊の兵士達が慌ただしく動き回り、椅子やテーブルを並べ始めた。立派な椅子だ。明らかに王族用の物だ。
この前訓練場を見て回った時に、あんな物は無かったはずだが、いつの間に用意したのだろう
テーブルと椅子を並べ終わり、見物客達が席に着くと、侍従長がメイド隊を引き連れて現れた。テーブルや椅子も、侍従長の差配なのかも知れない。
などと思っていたら、あっという間に、テーブルの上に茶器と茶菓子が並べられ、訓練場のひと隅に、優雅な茶会場が現出した。
「レディク様。課題。出来るようになった。」
ローズに声をかけられて、我に返った。ちょっと呆然としていたようだ。
ローズの指さす方を見ると、30メートルほどの距離に、大きさ、形状の異なる複数の岩の塊が、様々なスピードとコースで旋回している。
「ほう。良いじゃないか。見事な魔力制御だ。もう少し時間が掛かるかと思っていたが、予想を上回る上達ぶりだ。良く頑張ったな。」
頭を撫でてやると、ローズは嬉しそうに微笑んだ。
「レディク様のご指導のお陰。」
「いや。ローズの努力の成果だろう。ローズは難しい課題でも、諦めずに頑張ってやり遂げるからな。」
「次は何をすればいい?」
「うん。次の課題も考えてはいるが、その前に少し試して欲しいことがあるんだ。」
ローズを連れて宝物庫の装備品の置き場に行き、1本のワンドを取り出した。
「砂塵のワンドというものだ。土魔法が得意なローズ向きの装備だと思う。まずは使ってみて、使い心地を確かめて見てくれないか。」
そう言って、ローズに手渡した。
「わかった。これで練習する。」
ローズは頷いた。
「レスリーに試させている霧の盾という装備品と、似た性格の装備らしい。霧の盾の解説を読んでいて、霧を使う魔法が非常に有用であることに気付かされたんだが、砂塵についても同様なことが言えるかも知れない。ただ、残念ながら、そのワンドには詳しい解説書が付いていないんだ。霧の盾よりも作成時期が古くて、2500年以上前に作られている。使用者が、7色の砂塵使いと呼ばれていた伝承しか残っていない。」
「砂の色を変える?」
ローズが首をかしげた。
「砂の色を変えることは特に難しくない。だが、色だけを変えても、さしたる効果があるとは思えない。多彩な砂塵の使い方をしたという、比喩的な表現の可能性もあるが、どちらかといえば、特殊な材質の砂を作り出して、様々に効果を生み出していたのではないかと思っている。例えば、こんなものだ。」
指先の空中に、小さな粉塵の塊を作り出した。
「黒い粉?」
「石炭の粉塵だ。石炭は元々良く燃えるが、細かい粉塵にして、最適な密度で空中に拡散させると、爆発的に燃焼する。コントロールはやや難しそうだが、火魔法を使うよりも少ない魔力で、広い範囲を焼き払えるかも知れない。」
粉塵の塊に、小さな火を近づけて着火し、一気に燃え上がる様子を見せた。
「すごい!」
「他にもいろいろな使い方があると思うが、具体的な使い方については、色々と工夫を重ねて、見つけ出して行くしかないだろう。」
ローズはコクコクと頷いた。やる気に満ちた目をしている。
ローズは砂塵のワンドを手に、早速訓練場の端の方に行き、砂塵を作り出す練習を始めた。やはり、今まで使っていたワンドより、砂塵を作りやすいらしく、大量の砂塵が素早く生成される。
何度かやり直した後で、黒い粉塵を作ることに成功した。早速石炭粉塵を作ってみたようだ。ん?粉塵の黒雲がどんどん大きくなっている?
「ちょっ・・ローズ!危ない!・・」
「ドーン」
訓練場に爆発音が響き渡り、爆炎が数十メートルの高さまで吹き上がった。近衛兵達がぎょっとした顔をしている。私も冷や汗を掻いたが、咄嗟に氷の防壁を張ったので、誰も怪我はしていなかった。ローズも無事だ。
うかつだった。ローズは頭は良いけど、けっこう過激な性格をしている。爆発の魔法とか教えたら、全力で試すに決まっていた。
とりあえずローズには、安全に気を配り、もう少し小規模な練習から始めるように、念入りに注意しておいた。
レルミス達『光の勇者』の4人と実戦訓練を行った。始めてすぐに、少し鈍っているなと思った。4人も私も、動きが悪い気がする。ここしばらく、あまり訓練時間が取れていなかったことが、響いているようだ。
やはり、訓練は毎日少しずつでも続けないとダメだ。これからは気を付けよう。以前は毎日もっと真剣に取り組んでいたが、戦いのない平和な日が続いたので、気が緩んでいるかも知れない。
「鈍っているニャ。練習不足だニャ。」
猫耳戦士が、腰に手を当てて、ふんぞり返りながら批評した。ちっ、やはり気付かれたか。
「私も混ぜるニャ。活を入れてやるニャ。」
猫耳戦士はサンダーエッジを手にして、レルミスの横に立った。新しい武器のせいで、能力が高まったので、調子に乗っているようだ
「宝物庫の装備の中の、どれを選ぶかはまだ決めていないし、その武器、サンダーエッジを猫耳戦士に使わせるかどうかも、まだ決めていないのだが。」
「そ・そんニャー?!」
猫耳戦士が驚愕の表情を浮かべた。彼女の中ではすでに、サンダーエッジが自分の武器になることが確定していたのだろう。
「まあ、その武器を十全に使いこなせることを、証明して見せて貰えるなら、考えても良いぞ。」
「やるニャ。絶対に負けないニャ。」
だいぶやる気になったようだ。
それにしても猫耳戦士は面白いな。思念伝達で接続された状態なので、ちょっと私の頭の中を覗いてみれば、私もサンダーエッジを猫耳戦士に使わせるつもりであることくらい、すぐに分かるはずなのに、何故か猫耳戦士の頭は、そういう風には働かないようだ。
『光の勇者』に猫耳戦士を加えた5人を相手に、実戦訓練を始めた。
猫耳戦士の動きが速い。体の動きは少し早くなっている程度だが、魔法の発動が素晴らしく早く、鋭くなっている。しかも、普段の訓練に比べて、本気度がめちゃめちゃ上がっている。ちょっと煽りすぎたか。
これはやばいかも知れない。雷魔法を避けるのが大変だ。だが、ここで簡単に負けるわけにはいかない。猫耳戦士を増長させかねないし、他のメンバーに対しても示しが付かない。
仕方がないので、強化魔法に使用する魔力を増やした。普段の訓練よりも2割くらいは、速くなっているはずだ。だがまだ足りない?猫耳戦士の反応も良くなってきている。サンダーエッジを使い慣れてきているのか。動く目標への反応が、今なお向上し続けているようだ。
瞬間的に重力魔法も併用して、さらにスピードを上げた。さすがにこのスピードには付いてこられないようだ。『光の勇者』の4人は、既に私の動きを目で追い続けることも難しくなっている。彼らには少し厳しすぎる訓練になってしまったようだ。
だが、猫耳戦士はまだ諦めていない。必死に食い下がろうとしている。緩急の差やフェイントも織り交ぜ、突破口を見いだそうとしている。今までに見たことのない、トリッキーな動きも見せ始めた。
それを見て、なんだかとても申し訳ない気分にさせられた。思念伝達で接続されているので、不意打ちとか意表を突くタイプの技が、成功するはずがないのだ。努力も技も評価出来るものなので、なるべく思念を読まないようにしたが、それでも何かやろうとしていることは、何となく分かってしまう。
すべての技が不発に終わり、さすがに猫耳戦士の顔にも疲れが見え始めた。だが、まだ諦めていない。また何か思いついたようだ。
一気に距離を詰めてきた猫耳戦士がサンダーを発動する。当然回避する。ん?!今、サンダーを2発、一度に発動させたか?しかも、1発は回避地点を予想して発動させたようだ。こんな事まで出来るようになったのか。だが、惜しむらくは、先読みの精度が低い。
さらに距離を詰めた猫耳戦士は、剣で攻撃するモーションを見せつつ、実際は背後の2カ所にサンダーを発動。後ろに下がると予想したのか?だが、私は斜め前方に回避した。
その時、猫耳戦士が、何も持っていない左手を伸ばしてきた。しまった!さては、これが本命の攻撃?スタンか?!
猫耳戦士は以前からスタンを使っているが、接触状態でないと発動出来なかった。だから警戒していなかったのだが、スタンという魔法は、射程が短めではあるものの非接触でも発動出来るし、発動が非常に速い。
全力で回避した直後に、空中で火花が爆ぜ、髪の毛が逆立った。危なかった。ぎりぎりで回避出来たようだ。




