愛の力?
神官長と遺跡について話します
神官長は愛の力について語ります
神官長に、私とローズと神官長だけで、内密な話しをしたいとお願いした。怪訝な顔はしたが、神官長は了承してくれた。
別室に案内された後、まずはじめに、なぜ内密にする必要があるかを説明した。我々が遺跡の調査をしていること、遺跡の調査に関わっていることが知られると、魔人の手先に命を狙われることを。さらに、忘れられた遺跡の機能には、魔王との戦いの結果を左右する力があるらしいこと、おそらく人間族は愛の神の眷属であること、『神官長の印』と『神官の印』は愛の神の遺跡の力を利用し、愛の神の加護を得るために必要な物であること、我々が遺跡を探しており、再び遺跡を利用出来るようにするために、遺跡に仕掛けられた魔王の罠を破壊していることも説明した。
神官長は、初めのうちは半信半疑と言うよりも、疑いのこもった眼差しで私の話を聞いていたが、次第に真剣に話を聞いてくれるようになった。私が一通りの話を終えると、神官長が質問した。
「レディク様は、西の方からいらしたのですか?」
「ええ、その通りです。」神官長が何を聞きたいのか、良く分からなかったが、嘘をつく必要はないかと思った。
「レディク様は才蔵という名前もお持ちですね?」
何故分かったんだ?私は余計なことまで喋っただろうか?しらばっくれた方が良いだろうか?いや、遺跡の力を引き出すためには、神官長の協力が必要だし、真実を告げて口止めした方が良いかも知れない。それに、私は今、かなり慌てた顔を見せてしまった気がする。否定しても、信頼度を低下させるだけかも知れない。
「何故分かったのですか?」
「アスターの町で才蔵様という方が、魔人と戦って倒したという話しは、噂話でお聞きしていましたが、実は私は、噂話で聞く以前から、才蔵様のお名前だけは知っていました。20年以上前。私がまだ若く、神官の地位に就いた頃からです。」
本当にそんなことがあるとしたら、神が関わっているとしか思えない。
「予言か神の託宣ですか?」
「はい。神官の地位に就いた夜に、私は愛の神の託宣を受けました。当時は・・いえ、レディク様にお会いするまでは、託宣の意味が理解出来ませんでしたが、今のお話を聞いて、やっと理解出来ました。私が受けた託宣は、このようなものです。
『おまえは将来、神官長の印を身につける。
そのおまえの元に、何時の日か才蔵と名乗る者が訪れる。
魔と戦うための、愛の神の眷属の力を磨き、その時に備えよ。
その時が来るまで、今日告げたことは心に秘め、余人に告げるな。
才蔵は魔人と戦い、魔人を打ち倒す者。
我が社に仕掛けられた、魔王の罠を打ち壊すだろう。
才蔵と共に死者の森を通り抜け、我が社に来たれ。
神官長の印を用い、再び加護の部屋の扉を開け。
加護の力を得て、分かたれた人々の心を繋げよ。
魔人の奸計を打ち砕き、愛の神の眷属の力を示せ。』」
適当に名乗ったつもりの偽名なのだが。20年以上前に既に知られているとは。さすがに神の力は侮れないな。
「愛の神の遺跡がどこにあるのか、ご存じなのですか?」
「知りませんが、推測することは出来ます。人間族の町の中でも、最も古くから栄えていた場所はノルセンです。愛の神の教団の本部も、昔はノルセンにあったことが、古い記録に記されています。そして『死者の森』という名前から、私が思い起こすことが出来るのは、ノルセン近郊にある、アンデッドのダンジョンだけです。愛の神の遺跡はアンデッドのダンジョンの森の裏側、森と霧に隠された場所にあるのではないかと思います。」
アンデッドのダンジョンの名前は、私も一応知っていた。ノルセンが、エルフの国に行く途中で通る町だからだ。ほとんどアンデッドしか居らず、素材収集に関しては面白味が無く、儲からないため、あまり人気がないダンジョンだ。神官長の話を聞く前は、立ち寄るつもりもなかった。
「アンデッドのダンジョンですか。調べに行く必要がありそうですね。神官長も同行していただけるのですか?」
「もちろんです。愛の神のお言葉ですから。」
「出発の予定日はまだ決まっていませんが、早くても2週間後になると思います。神官長もお忙しいのではないかと思いますが、予定は大丈夫なのですか?」
「10日以上先でしたら、予定の調整も問題ありません。出発の予定が決まったら、ご連絡ください。」
「わかりました。ではよろしくお願いいたします。」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。」
「ところで、託宣の内容について教えていただきたいのですが。愛の神の眷属の力とは何ですか?人間族に、他の種族にない特別な力があるとは、聞いたことがないのですが。」
「もちろん、愛の力です。」
「はあ?」
私は思わず間の抜けた声を出してしまったが、神官長は冗談を言っている様子ではなかった。
「人間族は、他の種族に比べて強い愛の力を持っていて、愛の技についての優れた才能を持っています。風の神の眷属が戦いの技に優れ、土の神の眷属が匠の技に優れ、火の神の眷属が魔法の技に優れるように。愛の神の加護を受けた人間族は、愛を育み、争いを調停し、愛に満ちた平和な社会を作る才能があるのです。」
争いを防ぎ、収める、調停者としての才能があるということか。もしそれが本当だとすると、確かに優れた力と言えるかも知れない。魔人は奸計を用いて争いを起こすと、ガラゴリン族長も言っていた。調停の能力は、魔人の奸計に対抗する武器になりそうだ。
だが、本当に、人間という種族に、そんな資質があるのだろうか?その点に関しては、強い違和感を感じた。現実にはこの世界でも、人間同士の争い、奪い合いが起こっている。愛に満ちた平和な社会とは言えない。遺跡の加護には特別な力がありそうな気がするが、神官長の言葉は、まともに受け取らない方が良いかも知れない。
その後は、遺跡にまつわる古い記録について、他に知っていることがないか神官長に聞いてみた。神官長は知らないが、調べてみようと答えてくれた。
神殿から帰る前に、次回の教導の予定について聞かれた。私はキャンセルしようかと思ったのだが、女達が今度は別のことをしたいというので、予定を合わせることにした。
いったんローランの屋敷に戻り、借家に荷物を移そうと思ったら、早めに戻ったダリルとターボが既に引っ越しを始めていた。元々、魔法のバッグに入れっぱなしの荷物が多く、片付ける物も少なかったので、すぐに引っ越しは終わってしまった。
今回の借家は部屋数が多く、全員に1部屋ずつ割り当てても、まだ部屋が余る程あった。アベリア、レスリー、ローズは個室はいらないと言っていたので、女達の共有荷物部屋を作ったが、その他に、作業部屋の隣に、レスリー用の薬部屋とローズ用の魔道具部屋も作ることにした。
その他の部屋の割り当てを考えていると、レルミスがやってきて、今日から私と一緒に寝るので、個室はいらないと言い出した。準備のために、愛の神の神殿で、愛の技の初心者用集中講座を、丸一日かけて学んだそうだ。レルミスはかわいいとは思うが、夜の運動の相手にすることを考えにくいので、断ろうと思った。ところが、アベリア、レスリー、ローズが是非相手をしてあげて欲しいと言い出した。レルミスは今日に備えて、十分な準備をしているので、一回やれば考えが変わるはずだと言うのだ。仕方なく、相手をする振りくらいはしようかと思った。するつもりだったけど、疲れてて出来なかったとか、そんな感じで行こうかな。
暫定的に部屋割りを決め、皆と相談して調整していると、リンドとローランがやってきて、2人も部屋が欲しいと言い出した。リンドはまだしも、何故ローランが?あんたは屋敷を持っているだろう。国王陛下が訪問するときには、ローランも待機する必要がある?そんな話しがあるのか。それなら仕方がないのか?
やむを得ず、地下道部屋の隣に、ローランの待機部屋を確保した。部屋割りが終わると、アベリア達は厨房に向かった。掃除して厨房を使えるようにし、夕食の準備に掛かるようだ。私は浴室に行き、アスターから持って来た浴槽を魔法のバッグから取りだして、入浴の準備をした。この家は浴室がやや狭いところが欠点だ。次に家を借りるか買うかするときには、浴室の大きいところにしよう。いや、注文して作ってもらうか、自分で作るかした方が良いかも知れない。心のメモに書き込んで置いた。
居間にいる連中に、風呂の準備が出来たことを告げた後、作業部屋に用具類を準備しておく。すぐに使わない物が入ったバッグは、物置部屋に放り込んで置いた。
家具類は初めから十分な量が用意されていたが、5人で寝られるベッドはさすがになかったので、今回は自分で用意することにした。ベッドと言っても、遺跡の休憩所で作った物と同じ、単純な構造だ。5メートル角の低い木製の台座の上に、厚手の布を20枚重ねて布袋に入れたクッションもどきを乗せ、肌触りの良いシーツで覆う。作ってしまってから気がついたが、5メートル角のシーツを洗うのは、かなり大変かも知れない。まあ、私が自分で洗えば大丈夫か。
出来上がったベッドに、横になってみると、なかなかの寝心地だった。昼間かなり運動したせいか、ちょっと眠い。だが、今日も治療者のワンドを使わないと。夕食後にするか。試しに猫耳戦士とレルミスにも使って貰おうか?しばらくぼんやりと物思いにふけっていた。
気がつくとレルミスが部屋に入ってきていた。いつもと雰囲気が違う。初めて見る服だ。なんだか色っぽい。服だけではないか。顔も、少し、雰囲気的には凄く違って見える。化粧しているのか?
「アベリアさんが、夕食までまだ少し掛かるから、初めは2人だけですると良いって、言ってくれました。」
横になったまま、ぼんやりとレルミスに見とれていた私に、囁きかけながら、レルミスが覆い被さって来た。私の体が反応してしまっている。レルミスの準備が的確であったことは、認めざるを得なかった。




