オーク
ゴブリン以外が登場です
その日の夜遅くのこと。夕食も食べ、家で寝ていると、外で大きな音がして、目が覚めた。鐘を鳴らしているような音、ゴブリンたちの叫び声、遠くで何か重いものを叩きつけるような音もする。
ドアを開けて外に出ると、狩猟班で顔見知りのゴブリンの若者が走ってくる。恐怖で引きつったような顔をしている。
「レディク様、ガンダリ呼んでる、オーク来た、手助け欲しい」
「オーク?!」
村の門に向かって走った。走りながら水蒸気を展開する。
門に近づくと、けっこうしっかりした作りに見えた門扉が激しく揺れ動いていて今にも壊れそうだ。向こう側から何かが門扉にぶつけられている。門の向こう側まで展開した水蒸気を通して、40体以上の動物を感知する。
「ゴゴンッ」とひときわ激しい音と振動とともに、門扉が内側に傾いた。そしてさらにもう一度何かが叩きつけられると、ついに門扉が倒れる。門の向こうから現れたのは大きな槌を持った、がっしりした体つきの男・・。いや、人間ではない。肌は灰色で、牙と鋭い爪が生えている。あれがオークか。しばし呆然としていて反応が遅れた。
オークが槌を振り回すと、逃げ遅れたゴブリンがはね飛ばされた。オークは倒れたゴブリンに槌を振り下ろそうと、さらに襲いかかって行く。しかしその時、ガンダリがオークの腕に槍を突き入れた。オークは怒りの声を上げ、ガンダリに向き直る。
ガンダリとオークの戦いを見て、ようやく呆然とした状態から抜け出した。氷の矢尻をオークに放つ。矢尻はオークの目に突き刺ささり、オークは悲鳴を上げてよろめき、槌を取り落としたが、致命傷ではないようだ。ガンダリがオークの喉に槍を突き刺すとオークが倒れた。
倒れたオークの後ろから、2体のオークが現れる。右のオークが振り下ろした棍棒をガンダリがよける。右に気をとられている間に、左側のオークがゴブリンの戦士に飛びかかる。ゴブリンの戦士が攻撃を受け損なって倒れた。あわててオークの両目を氷で覆う、オークがよろめいている間に、倒れているゴブリンを見る。身動きしていない。死んでしまったのか。あれも狩猟班で知り合いのゴブリンだ。
門の方を見ると、さらに新手のオークがにやにや笑いながらこちらに向かってくる。なんだか無性に腹が立ってきた。この世界に来てからこんなに腹が立ったのは初めてだ。ゴブリンとつきあい始めてから、人間でない種族とも友達になれるとわかった。私の知っているゴブリンはみんないいやつだ。だがこいつらは違う。にやにや笑いながら暴力をまき散らす。残虐な存在だ。
いつの間にか、無意識のうちに周囲に複数の氷の矢尻、いや、矢尻よりもだいぶ大きい、短い槍のようなものを生成していた。複数の氷の槍を同時に射出する
と、「ドンッ」という音とともに、手前にいたオークの体を槍が貫通し、さらに後ろにいたオークの体に突き刺さり、門の外まで吹き飛ばした。
門の外に出る。まだ外に30体以上のオークが居る。門の外に出ると周囲から棍棒を振りかざしたオークが迫ってくる。残りの氷の槍をいっぺんに放ちオークを吹き飛ばす。かなり魔力を消費したので吸収できる水を探すと、手近にいるオークの体内の操作可能な水がかなり増えていることに気がつく。オークの体内から水を吸収する。数体のオークが絶叫をあげながら干からびて死んだ。残ったオーク達は逃げていった。
逃げ去るオークを見た後、少し頭が冷えてきた。人間に近い種族を殺すのは初めてで、さすがに気分が悪かった。
「レディクいなければ危なかった、皆死んだかもしれない、感謝する」ガンダリが隣に立っていた。
「私がオークを見たのは今日が初めてだ。今までは、異種族とはいえ人間に近い部分がある相手と、殺し合ったりしたくはないと思っていて、そのせいで反応が遅れてしまったが、あれはそんな考えが通用する相手じゃないようだな。」
「オーク、殺し好き、話通じない」
「どうせ戦わざるを得ない相手であるなら、徹底的にやるべきだろうな。私はオークを追撃しようと思う。」
「わかった、おれも行く」ガンダリが答えると、その後すぐに「おれも行く」と、複数の声が上がった。振り返るとゴブリンの戦士達が後ろに集まっていた。さらに族長も近づいて話しかけてきた。
「レディク様のこと。危険だからとお止めしても、行かれるのでしょうな。しかし、オークの拠点まで追跡することにでもなれば、行き帰りにかなりの時間がかかります。せめて携帯食や、多少の旅の道具はお持ちいただきたいと思います。すぐに準備しますので。」
「わかりました。お願いします。」
準備を整え、ガンダリを含む20人の戦士とともに出発したのは30分後だった。
はじめは、逃げ去ったオークが休んでいる場所を見つければ、それほどかからずにまとめて片付けられるだろうと考えていたが、あまかった。散り散りに逃げ去ったオーク達は、集まらずに1-3体で行動しており、しかもろくに休みもせずに逃げ続けているものもいた。結局、追跡・探索と少数ずつのオークの殲滅の旅は4日間続けた末、オークの拠点に着いてしまった。足跡などの痕跡から見て、4体ほどのオークが拠点に逃げ帰ることを許してしまったようだ。
オークの拠点から少し離れたところで、交代で見張りを続けながら休みをとった後、夜明け前のまだ暗い時間に拠点に忍び寄る。オークの拠点は村と言うよりも砦のような場所で、所々隙間がある粗雑な作りではあるが、太い丸太を使ったがっしりした壁で周囲を囲われていた。壁の外側にはさらに堀が掘ってあり水がためられている。堀の幅は4メートルくらいだが、門の前だけ2メートルくらいまで狭くなっている。橋のようなものは見られない。おそらく門を開いた後渡り板を渡すのだろう。門のわきには見張り台があったが、見張りは居なかった。壁の隙間を通して内側の明かりが見えるが、動くものの気配はない。拠点の広さは縦横7-80メートルくらいか。木造の大きな建物がいくつかある。
拠点に接近しながら水蒸気を展開し、拠点の内部と周囲の気配を探る。さらに堀の水をすべて操作可能な状態に変えていく。何日も限界近い距離までの索敵を続けた結果、水魔法の操作可能範囲が150メートルに達しており、少し離れた場所からでも、余裕で拠点全体を探ることが出来る。拠点中央の広場に2体、右側の大きな建物に7体、左側の建物に2体のオークが居るようだ。正面奥の大きめ建物は作りがしっかりしているようで、隙間が少なく、水蒸気が入り込みにくいため、まだはっきりわからない。
堀の前に到着した後少し待ってから、11人のオークの頭部を凍らせて殺した。門の隙間から見えるかんぬきを氷で持ち上げて外し、堀の上に氷の橋を架けて渡って拠点に進入した。広場のたき火跡の近くに2体のオークが倒れていた。たき火の周りで寝ていたらしい。あとは正面の建物だけか、内部に何体か居るようだが、個室がたくさんあるらしく把握しづらい。ゴブリン達に奥の建物の扉の左右に待機してもらい、さらに中の様子を探ろうとすると、一体が動き出す気配を感じた。外に出ようとしているようだ。氷の槍の発動を準備する。
ドアを開けて外に出てきた相手と目があった。オークではない、人相は悪いが人間のようだ。こちらも驚いたが、向こうも驚いていて、双方動きが止まる。
「おまえなんだ。冒険者か。」人相の悪い男が短剣を抜こうとするが、ゴブリンに槍を突きつけられ、再度動きが止まる。
「なんでゴブリンが・・・」
騒がれても困るので体温を下げると、男ががっくりと倒れる。
「縛って、声も出せないようにしておいてくれないか。何でこんなところに人間が居るのか聞き出したい。」
ゴブリン達がうなずき、人相が悪い男を縛り上げる。
開いた扉から中をのぞく、正面と左手に扉。右手には2階と地下に行く階段。その向こうは厨房だろう。2階にも何部屋かあるようだ。気配を探っていると2階の一部屋から何かが出てきた。人間か?しかしこの気配は、何か違和感がある。
「魔法使いか。そこそこの実力があるようだな。しかし、このオレ様に魔法をかけようとは、身の程知らずなことだ。」階段の上から声が響いた。黒いローブに黒いマント姿の男が降りてくる。赤いマスクをかぶっている。中二病っぽい人間か?いや、よく見ると角まで付けている。重症かもしれない。
「なんだその顔は。おまえ今すごく失礼なことを考えていただろう。見所がありそうなら、手下に加えてやろうかと考えていたが。オレ様を侮辱するなど許せん。後悔しながら死ぬがよい。ファイヤーボール!」
男が手をかざすと火の玉が出現し、こちらに向かって飛んで来た。これは火魔法か?!よけられないスピードではないが、よけると後ろのゴブリンが危ない。瞬時に判断し、氷の壁を出して火の玉を防ぐ。ついで、男の体温を操作しようとするが、男の体内に全く操作可能な水がないことに気がついた。違和感の原因はこれか。魔法使いだからか?
「小癪な。思ったより出来るようだな。ならば、これでどうだ。ファイヤーストーム!」男も氷の壁に少し驚いたようだが、新たな魔法を発動させようとしている。気がつくと足下から炎が吹き上がってきた。これはやばい。
足下に氷の板を出現させて炎を防ぐ。さらに部屋全体の温度を下げた。部屋全体が霧と霜で真っ白になる。次いで数本の氷の槍を出現させて打ち出す。しかし男は魔法の壁のようなもので、よろめきながらもぎりぎり防いだようだ。
「うおっ。速い。しかしこの程度ではオレ様を倒すことは・・」
ならばもっと強力な魔法を撃つまでだ。外の堀の水から魔力を補給しつつ、長さ3メートルほどの、丸太の先を尖らせたような、巨大な氷の槍を出現させ、全力で打ち出す。
「ゴゴンッ」建物全体が大きな地震にあったように揺れ動く。槍は男の体を引き千切り、建物の壁に大穴を開け、空の彼方に飛んでいった。
魔力の使いすぎでよろめく。堀の水で魔力を回復させた。久しぶりの全力だったが、やはり全力はダメだな。完全にオーバーキルだったし。もっと力加減の練習をしよう。建物の揺れに驚いて、人相の悪い男2号と3号が2階の部屋から飛び出してきたので、二人とも縛り上げておく。
死んだ男を調べてみると、マスクの下も赤黒い肌で、角も頭から生えていた。コスプレではなかったようだ。
「これ、魔人族、恐ろしい種族、生き残り居ると思わなかった」ガンダリが教えてくれた。
「生き残り?昔はたくさんいたのか?」
「300年前、魔王と6族の戦いあった。魔王の配下、魔人、魔獣、オーク。ゴブリン、他の5つの種族と協力した。戦いのあと、魔人居なくなった。」
「そうだったのか」
建物の中を調べると、1階の奥の部屋は牢屋になっていて、中に女が3人と子供が2人閉じ込められていた。大きな音と建物の揺れの後にゴブリンが現れたため、ひどく怯えていたが、何とかなだめて話を聞いた。彼女たちは街道でオークと盗賊に襲われて攫われてきたらしい。盗賊達は遠くの町に奴隷として売ろうとしていたようだ。彼女たちの家族や友人を含め、一緒にいた男達は全員殺されたという。
女達を牢から出して、縛ってころがしてある人相の悪い男達を見せ、彼女たちを襲った盗賊に間違いないことを確認した。盗賊達はとりあえず牢に放り込んでおく。
地下室を調べると大量の食料と、盗賊が商人その他の旅人から奪った、交易品や貴重品がため込まれていた。中に着られそうな服や石鹸、タオルなどがあったので少しもらって行った。朝食を食べながら話をしようと提案すると、女達が朝食の支度をするというのでお願いすることにして、その間に少し他の建物も調べた。馬が9頭と馬車が3台見つかった。風呂桶に使えそうな大きな桶もあったので持って行く。
朝食はベーコンエッグ、サラダ、パン、スープに紅茶までついていた。すごく普通の朝食だったので感動した。朝食を食べながら、これまでの経緯について話す。我々の方からは、人間とオークに襲われ、食料調達が困難になっていたゴブリン族の窮状。記憶を失って荒れ地をさまよった後、ゴブリン族に出会った私が食料調達に協力することになったこと。オークに襲われて撃退した後、逃げるオークを追ってここまで来たことを話した。
女達にも少し詳しい話を聞いておく。女達はいずれもアスターとエドリンという町を結ぶ街道で襲われたという。襲われた時期は、アベリアという名前の女とその子供二人が12日前、レスリーという名前の女が9日前、ローズという名前の女が8日前だった。全員目隠しされた状態で馬車に乗せられてきたので、ここに来るまでに通った道はわからない。盗賊達は襲撃を行う際に、襲撃現場にゴブリンの武器などを置き去って、ゴブリンが人間を襲っているという噂を流していたらしい。さらに、自分たちでゴブリン討伐依頼を受け、ゴブリンを殺して装備品を奪い取るとともに、ゴブリン討伐の報酬も受け取っていたようだ。
女達が顔を見た盗賊は、縛り上げてある3人だけだった。ただし顔は見ていないが、盗賊達に指示を与える男の声は聞いており、盗賊達がその男を恐れているらしいことも知っていた。また、彼女たちが盗賊達の会話を漏れ聞いたところによると、町の職員の中にも盗賊達の仲間がおり、金目のものを持っている旅人がいつ頃街道を通る予定か調べたり、他の犯罪組織と連絡役をしているらしい。実は、今日か明日の昼頃にも連絡役が来る予定らしく、その内容によっては女達が他の犯罪組織に売り渡されたかもしれない、という話だった。
今後どうするか相談する。まず、町から来る盗賊の仲間も捕獲したい。そのために、6人のゴブリンに拠点の外で見張りをしてもらうことになった。次に、つかまえた盗賊を町に連れて行きたい。持ち主に返却できる盗品も返却した方が良いだろう。しかし、町の職員に盗賊の仲間がいるという話は少々面倒だ、女達と相談すると、エドリンの町のギルド職員にローズの知り合いで信頼できる人がいるそうなので、盗賊の仲間に気づかれないように、ローズだけをつれてエドリンの町に行き、ローズの知り合いと対策を相談することにする。
その際に、魔人の死体も証拠として持って行きたいが、すぐに腐りそうだし重いのでどうするか思案する。ガンダリが首だけ切り取って酒に漬ければ良いというが、ローズが盗品の中に魔法のバッグがあるはずなので、それを使った方が良いと教えてくれた。魔法のバッグは魔道具の一種で、外見よりたくさんの荷物を収納できるようにする『容量拡張効果』と、収納した物の重さを軽くしてくれる『重量低減効果』が付与されている。高級品ではさらに、生ものを長期間腐らないようにしてくれる『保存期間延長効果』もあるらしい。後でローズに探してもらうことにする。
ゴブリンの村にも連絡を入れておく必要があるので、ゴブリンを4人くらい村に送ることも相談する。馬車を使えば多少は速く移動できるだろうし、ついでに食料も運べるだろうと提案すると、ゴブリンは馬を使わないと言う返答。そう言われてみれば、馬の世話なんて私もよくわからないな。しかし、レスリーが手伝ってくれると言うので、ゴブリン4人とレスリーに行ってもらうことにする。




