宝物庫の装備品
王宮の宝物庫の装備品が届きます
初めは3つだけ貰えるという話しでしたが、少し数が増えそうです
地図を描いて見ました、もう少し広域の地図もありますが
細部が決まっていないので、まだ非公開です
猫耳戦士達が帰ってきて、お土産の串焼きを貰った。串焼きを齧っていると、近衛隊長が来たという知らせを受け、慌てて飲み込んだ。
出迎えに行くと、近衛隊長は数人の近衛兵を引き連れており、幾つもの箱を持って来ていた。我々の借りている部屋に荷物を運び入れてもらった。
箱の中身は王宮の宝物庫にあった武器や防具だった。実戦で役立つものを選んで、持って来てくれたようだ。剣がやや多かったが、その他に斧、槍、弓、ワンド、盾、鎧、籠手、ベルトがあった。ひとつひとつに装備品の由来や性能を記した解説書がついていた。
一番目立つのは両手持ちの大剣だった。刃渡りが2メートル近くある、アダマンタイト製の巨大な両刃剣だ。オーガキラーの剣と言うらしい。3000年近く前の英雄のために、当時の名工が鍛えた逸品だそうだ。両手剣使いのターボが、興味深げに手に持ってみていたが、がっかりした顔で手放した。重すぎるし、長すぎるので、とても使いこなせないそうだ。私も試しに持ってみたところ、重さはそれほどでもなく、振り回すことに問題は無さそうだったが、長すぎて扱いづらい。この剣は候補から外すことにした。選べるのは3つだけなのだ。
二番目に大きい武器は、やはりアダマンタイト製のハルバートだ。通常のハルバートに比べて短めで、柄から穂先まで1.8メートル程しかない。その代わりに斧刃は、刃渡り60センチ程のがっしりした物がついている。解説を見ると、2000年程前のドワーフの名工が作ったらしい。振り回し、たたき割る、という使い方に適した、ドワーフ好みの武器で、ストーンゴーレムやミスリル製の鎧をたたき割っても、刃こぼれ一つしないそうだ。ダリルがうなっている。これは候補に入れておこう。
猫耳戦士が手にとって睨んでいるのは、オリハルコン製の小さめの両刃剣だ。柄から剣の腹の半ばまで、青い装飾文様が付いている。サンダーエッジという名前らしい。解説書によると、雷魔法の威力増強、命中補正効果と、微量ながら装備者のスピードアップ効果まで付いているそうだ。猫耳戦士のためにあつらえたような武器だ。選ばなかったら猫耳戦士が暴れそうな気がする。候補に入れざるを得ないだろう。
剣の中には、嫌な感じの気を発しているものもあった。解説を読んでみる。「狂戦士の剣。装備者は理性を失うが、比類無い力を得る。・・」過去にこの剣を装備した者達の、悲惨な末路が書いてあった。この剣は候補から外すことにした。
神秘的な力を感じるものもあった。弓とワンドだ。解説書を読んでみると、どちらも3300年以上前に、神が作ったとされる装備品だった。つまり神魔戦争時代、神々が直接戦争していたという、物騒な時代のものだ。とんでもない性能の装備品なのかと思ったが、性能は分からないと書いてある。使用者を選ぶ小生意気な装備らしい。使いこなせた者がほとんど居ないようだ。『実戦で役立つ』装備品を、選んで持って来たんじゃないのか?
弓の方は『リリステジアの弓』という名前が付いていた。神魔戦争時代の獣人族の英雄、リリステジアのために、風の神が作った弓だそうだ。嵐を呼び、山を崩すという、伝説が残っているが、神魔戦争後は1人の勇者が弓の力の一部を使ったという記録しかないらしい。
ワンドの方は『治療者のワンド』という名前だった。見た目は、やや太めの、古びた木製のワンドだ。しかし、解説書には、『ワンドの力を使いこなすには、毎日一定以上の時間、ワンドと対話を続け、ワンドに使い手として認められる必要がある』という、めんどくさい説明が書いてあった。歴史に名の残る、3人の高名な治療士が、このワンドを使ったらしい。『ワンドと対話』?。まさかしゃべるわけではないと思うが。
疑問を感じたので、ワンドを手に取ってみた。治療魔法のためのワンドだと思うのだが、魔術構築式が書き込まれている様子がない。試しにヒールを使ってみようとすると、頭の中に知識が流れ込んできた。治療魔法についての知識。いや、もっと広範な知識だ。体の構造や、怪我や病気、自然治癒の仕組みまで含んでいる。これは、思念伝達なのか?流れ込んでくる膨大な知識に、頭がクラクラする。これ以上は耐えられそうも無いと思った時、知識の流入が止まった。
呼吸を整えつつ、今起こったことについて考えた。『ワンドと対話』というのは、おそらく今起こったことなのだろう。これを毎日続けるだけなら、それほど難易度が高いとは思えない。問題は、どうすれば『ワンドに使い手として認められる』かだ。『ワンドと対話』を続けた結果、認められるという流れだとすると、流れ込む知識を理解し、記憶する必要があるのかも知れない。だとすれば、ものすごく難易度が高い。今流れ込んできた知識について思い起こしても、理解出来ない内容は無かったとはいえ、完全に記憶しているのは、せいぜい2割程度だ。1度に全部記憶することが必要条件だとすれば、既に失敗していることになる。私が『ワンドに使い手として認められる』ことは、無理かも知れない。
しかし、『ワンドに使い手として認められ』、ワンドの力を使いこなすことが無理だとしても、これだけ膨大で体系的な知識を得られるならば、それだけで大きな価値がある。知識を得ただけでも、治療魔法の技量をかなり上げられそうなのだ。得られた知識を出来るだけ記録するように、努力すべきだろう。と思ったら、既に、アベリアとレスリーとローズが、メモを取り始めていた。メモだけですべて記録ですることは難しいとは思うが、やらないよりはましだ。
近衛隊長に、装備品を選ぶ前に、しばらく借りて、検討することは可能かどうか確認すると、もともとそのつもりで持って来たという話しだった。2週間程度手元に置いて、十分に検討して貰ってかまわないと言われた。『治療者のワンド』は使いこなせない可能性もあるので、知識を得た後で、他の装備を選択する余地があるならありがたい。
それに、ヒューとクロエが愛の神の神殿で、拉致監禁されてしまっているので、決定は2人が帰ってきた後にしたいと考えていた。ダメかも知れないが、リリステジアの弓は、クロエに試させてみたい。
実際に装備品を使ってみるなら、訓練場の方が都合がよいだろうと言われ、貸して貰えるという居住施設と、近衛隊の訓練場に案内して貰うことになった。近衛隊長は国王から、今日中に、居住施設の案内も済ませておくように、指示を受けていたらしい。
案内されたのは、王城の南西側にある、近衛隊の第2訓練場に隣接した建物だった。石造りで5階建ての、かなり大きな建物だ。その建物の、1階が借りられるようだ。建物の1階は、管理人が使用するスペースと共用スペースを除く全体が、1つの居住スペースになっていた。
近衛隊長が持参した鍵でドアを開け、我々を招じ入れる。入ったところは、広々とした玄関ホールで、左右に続く廊下があった。中に進むと、左手の廊下に開け放たれたドアがあり、その中に冒険者風の男が2人居るのが見えた。長椅子に座ってお茶を飲んでいたところらしい。
振り返った男達の顔をよく見ると、1人はローランだった。王宮で会議をしていると思っていたが、なぜ冒険者の格好でこんなところにいるのだろう?もう1人の男も、最近見た顔だ。誰だったかなと、考えていると、親しげな様子で、見覚えのある男が声をかけてきた。
「少し待ったぞ。おお、そうだ。自己紹介をしておこう。俺の名前はカール。冒険者だ。」
この声はまさか。
「・・国王陛下?」
「冒険者のカールだ。間違えてはいかんぞ。」男は満面の笑みで、答えた。
「冒険者のカールだ。」ローランが、幾分引きつった笑みを浮かべて繰り返した。
「冒険者のカールだ。」デリウス近衛隊長も、真面目くさった顔でくりかえした。一見平然としているようだが、頬の当たりの筋肉がピクピク動くのが見えた。笑い出すか怒り出すかするのを、我慢しているように見える。
「冒険者の、・・カールか。」なんだか良く分からないが、そう言うことにしておかないといけないらしい。
「うむ。カールだ。これからよろしくな。レディク。」
「あー。うむ。こちらこそよろしく。」何をよろしくすればよいのか、良く分からなかったが。とりあえず我々は握手を交わした。
「ところでライオネル、鍵の掛かったドアについては、もう話してあるのか?」自称カールが、デリウス隊長に、謎の言葉を投げかけた。
「いえ。まだこれからです。」
「鍵の掛かったドア?」
「はい。このあたりの建物には、王宮から秘密の地下通路が通じている、という噂があるのですが、地下通路の出口には厳重に鍵の掛かった、頑丈なドアがあるらしいのです。」
「この建物にあるのですか?」
「このあたりにあるらしいと言う噂です。」
「この建物のどこにあるのですか?」
「浴室の隣のドアあたりが怪しいかも知れません。」
「浴室はどこですか?」
「玄関のすぐ右がトイレで、その隣が浴室になっています。」
私は部屋を出て、玄関から二つ目のドアの中に浴室があることを確認した後、その隣のドアを調べた。確かに妙に頑丈そうなドアだ。試しにドアを開いてみると、あっさりと開き、中には地下に降りる階段があった。部屋の中には近衛隊の兵士が2名待機していた。
「普段は鍵が掛かっているのですが、今日は陛下がこの通路を使われていますので、開いているのです。」後から付いてきたデリウス隊長が、小声で説明してくれた。
「陛下は好きな時に、この家に出入り出来るのか。」
「はあ。確かに現状では、そのように・・」
「陛下ってもしかして暇?」
「いえ。決してそのようなことはございません。常日頃、少しでも国を良くするために、心を砕かれて居られますし、今は魔王との戦いに備え、情報収集や他国との連絡、防備の見直しなどで忙しくされています。ただ、お若い頃から冒険譚を好まれ、お忍びで出歩かれることがお好きでして。」
「このドア、こちら側から釘付けにして、開かないようにしちゃダメ?」
「緊急時の移動経路として用意された通路ですので、それはご勘弁願います。」
「考えてみれば、我々がここを借りて使わなければ、別に問題ないのか。」
「陛下は、是非レディク殿に、ここをお使いいただきたいとお考えです。レディク殿が渋るようならば、宝物庫の装備をもう一つ提供するという条件で、説得するように指示を受けています。」
行動は少し馬鹿っぽいが、妙なところで周到な国王だな。英邁な国王という噂は伊達ではないのかも知れない。
「宝物庫の装備をあと二つという条件でどうだろう?」試しに吹っ掛けてみた。
「承りました。それで結構です。」
「二つでも良いと、前もって指示されていたようだな。」
「そのとおりです。」
「一応確認して置くが、陛下が毎日この家に入り浸るなんてことは、ないんだろうな?」
「陛下もそこまでお暇ではありませんので、週に1回程度ではないかと。それに、こちらに来られる前には、必ず事前連絡を送られるはずです。その点に関しては、ご安心いただいてよろしいかと思います。」
我々が話しているところに、自称カールとローランが、他のメンバーと雑談しながらやって来た。ザザイが、「カールは何級だ?」とか「シリンの近くだと稼げる場所が少なそうだが、どんな仕事をしているんだ?」とか質問するのに対し、自称カールは嬉しそうに大嘘をついて答えている。カールは3級冒険者で、商人の輸送隊の護衛をしているという設定らしい。ローズは、そのやり取りを後ろからジト目で見ている。胡散臭いと思っていることは、表情からも丸わかりだが、突っ込んではいけない状況らしいことを理解して、我慢している。
「レディクはまだ近衛隊の訓練場を見ていないのだろう?見に行かないか?」自称カールが声をかけてきた。
「ああ。確かに見て置いた方が良さそうだな。」
私も色々突っ込みたいことはあるのだが、宝物庫の装備品のためにも、ここは我慢しておこう。
裏口から外に出ると、すぐそばに4メートル近い高さの頑丈そうな壁があった。その壁に設けられた、鉄の扉を開くと向こう側は建物の中だった。壁に隣接して建てられた、警備員詰め所のような場所らしい。中に数人の近衛兵が居た。
「集合。」デリウス隊長が声をかけると、瞬く間に近衛兵が整列した。
「やあ、邪魔するよ。」自称カールが、軽い調子で声をかける。
「やあ、カール、良く来たな。」近衛兵達もフレンドリーに言葉を返した。ただし、全員直立不動のままなので、とてもシュールな光景だ。
近衛隊長が我々を近衛兵に紹介し、王都に滞在する間は訓練場を使用することがあると説明してくれた。
そのあと、訓練場内の用品庫などを案内して貰った。用具類も自由に使って良いそうだ。
「レディク。今日は訓練しないのか?」自称カールが聞いてくる。訓練を見たいのだろうか。しかし、私が答える前に近衛隊長が、自称カールの耳元で囁いた。
「そろそろ、お時間が・・。」
「む。もうそんな時間か。やむを得ない。レディク。用があるので今日は帰るぞ。そうだ、訓練する予定がある時は、ローランに伝えて置いてくれ。都合が付けば見に来たい。では、また会おう。」自称カールは足早に去っていった。
我々も、今日はローランの屋敷に戻ることにした。住み処を変えるにしても、荷物を運ばなければならないので、今日直ぐにというわけにはいかない。




