魔道研究所
魔道研究所で話を聞きます
簡単な精神魔法を習得します
「何故、出版が禁止されて居るのでしょう?国が禁止しているのですよね?」
「主要国のほんんどで、禁止しています。禁止する理由は、出版物が多くの人の目に触れると、著者や研究者が殺されるからです。」
そういうことか。実際に、魔人の持っていた暗殺対象者のリストを目にしているので、所長の答えは納得出来るものだった。
「では、精神魔法についての研究は行われていないのでしょうか?」
「いえ。研究は行われています。しかし、研究が行われている事実は、秘匿されています。禁術部という部門も、対外的には存在しないことになっています。マッギン部長の表向きの所属は資料評価部です。知っているのは研究所の幹部と国王陛下など、国内では10人に満たない人数です。このような、秘密裏での研究と、知識の継承は、1500年以上前から行われているようです。」
「研究者を守る必要があることは理解出来ますが、知識をすべて秘匿してしまうと、魔人との戦いが始まった時に、魔人の使う魔法や魔道具に対抗する、知識や技術を持つ者が少なくて、困ることになりませんか?」
「確かに、困りますね。おっしゃる通りです。人材が少なく、なかなか研究が進まないことも悩みの種です。知識を隠さずに、広めてしまった方が良いのではないか、という意見も以前からあり、過去に試したこともあるのです。しかし、魔王の眷属と戦うための知識が広まると、魔王側でも必ず対抗策を用意して来ます。最近では、やはり秘密裏に研究を進め、魔王と戦う時の切り札にしよう、と言う考え方が主流になっています。」
「魔王と戦う際に有効な魔法や魔道具が、既に色々開発されているのですか?」
「実のところ、それほど多くの研究成果はないのです。800年前から1000年前の期間に、毒と病気を治療する広域魔道具が開発され、その後キュアマインドの魔法が、500年程前にキュアマインドの広域魔道具が開発されていますが、それ以後に画期的なものは開発されていません。」
「精神魔法の効果を治療することは出来ても、効果の発生を抑えることは出来ないのですね。」
「確かに、それが出来ればよいのですが、今のところ精神魔法を防ぐ方法はありません。レディク殿は、やはり魔人との戦いで、精神魔法を防ぐ技術が必要と、お考えなのでしょうね。」
「それもありますが、今はまず、遺跡の調査を進めるために、精神魔法対策を必要としています。」
所長達に、遺跡であった出来事を話し、何故精神魔法対策が必要なのかを説明した。虫ゴーレムが使用する未知の精神魔法や、遺跡の加護については所長達も興味をひかれたようだった。話している途中で、ローランが国王に報告を送ったことを思いだし、研究所に情報が回っていないのかと質問すると。大量の報告書が送られてきていて、まだ目を通し終わっていないと、マッギン部長が恐縮していた。
キュアマインドが使用出来ることが分かったので、エドリンで捕縛され、シリンに連行された魔人の手下に、キュアマインドを使うのか、質問したところ、検討中だそうだった。キュアマインドを使用出来る人間の所在など、魔人側に悟らせたくないという思惑があるらしい。
私は、魔人が使用している精神魔法の詳細や、キュアマインドの効果に関心があったので、キュアマインドを使用するなら、使用する現場に立ち会いたいと思っていたのだが、そう説明すると、「それならば、キュアマインドのワンドを差し上げましょう」という話になった。自分で調べろと言うことか。確かに、『才蔵』がキュアマインドを使用するなら、『使用出来る人間の所在』は不明のままだ。魔道研究所にとっても、都合が良いのだろう。
キュアマインドのワンドの他にも、研究用に開発された、簡単な精神魔法のスクロールを貰えることになった。また、精神魔法や魔人の使う魔道具についての、様々な資料を所蔵している、禁術部の資料室の閲覧許可も貰った。閲覧許可に伴い、資料評価部の臨時研究員という肩書きの、身分証明書も貰えることになった。
研究所にも精神魔法を防ぐ技術はなかったが、精神魔法についての研究は進められそうだ。
我々の方からは、魔人を検知する魔道具の試作品と、使用している魔術構築式を提供し、使用法を説明した。
実際に禁術部の資料室を見せて貰ったところ、『資料室』という控え目な呼び名がそぐわない、立派な施設だった。魔道研究所本館のとなりに立っている、長さ50メートル、幅30メートル、地上6階、地下2階の石造りの建物の半分以上が、禁術部の資料室として使用されていた。ちなみに、この建物の名前は、『魔道研究所図書館』なのだが、図書館として使用されているのは、建物の4分の1程度だそうだ。
資料室には膨大な量の、資料が保管されていた。魔法関係の本が多かったが、旅行記、神話・伝承、童話、園芸、釣り、料理など、雑多な本が混ざっており、個人の日記、ノート、製本されていない紙の束、落書きにしか見えないメモなども、保管されていた。試しに料理本を開いてみた。スパイスを多用した料理の本らしい。見たところ、調理法を解説しただけの本に見える。なぜ禁術部の資料室に収蔵されているのかわからない。
どういう基準で、資料を集めているのか、マッギン部長に尋ねると、精神魔法に関するものや、魔人が収集していた資料で、著者が殺されているなど、しかるべき基準にそって収集しているそうだ。部長に教えられ、資料に添付されていた紙を調べると、この料理本も800年程前の魔人が収集していた本の複製品と書いてあった。しかし、なぜ魔人が料理本に関心を持っていたのかは、分からないという。
アベリアに料理本を見せて、意見を聞いてみた。
「変わった料理法ですね。スパイスや薬草を多用しています。ああ。健康回復や病気の予防のための料理の本ですね。」
薬膳料理だったのか。言われてみれば、ところどころに、聞き覚えのある薬草の名前がある。料理の効果については、ろくに書かれていないが、本の前半には風邪の時やおなかの調子が悪い時などの、一般的な病人食がいくつも載っているそうだ。
レスリーの意見も聞いてみると、本の後半には、名前も聞いたことがない薬草が幾つも載っているので、調べてみたいと言っていた。やはり、禁術部の資料室に収蔵されるだけの内容があるようだ。
資料室には、文字の資料だけでなく、魔道具なども保管されていた。広域魔道具というものも見せて貰ったが、1人では持ち運べない程の大きさの魔道具で、大型の魔石を魔力源として使用し、周囲2キロもの範囲内の人の状態異常を治療出来るそうだ。効果範囲を拡張する方法に興味があったので、魔術構築式や魔道具材料などを教えて貰った。
さらに、厳重に施錠された地下2階の保管庫には、過去の戦いで魔人が使用していた魔道具まで保管されていた。大部分はバラバラに破壊されていたが、ほぼ原形を止めている魔道具もあった。形状はアスターで見た魔道具と似ていなかったが、禍々しい気配は記憶にある魔道具に似通っていた。1000年以上前に見つかったものだが、人間がうかつに手を触れると、気が狂ってしまうこともあり、ろくに調べることもできないらしい。
昼食は、研究所の職員食堂でごちそうになった。なかなか立派な食堂で、料理も美味しかった。研究三昧で、放っておくとろくに食事もしない研究員も居るので、それなりに気を使っているそうだ。
昼過ぎから、少しだけ魔道具研究部も見学させて貰った。新しく開発されて試作された魔道具は、役に立つんだか立たないんだか微妙なものが多かったが、魔道具材料や魔術構築式のデザイン技法には興味をひかれるものがあった。魔道具研究部では、長年新しい魔道具材料の研究を行っていて、ここで開発され、現在広く利用されている魔道具材料が色々あるそうだ。複数の素材を組み合わせて、魔道具の性能を高める研究や、使用者の適性に合わせて素材を変える研究など、最近の研究成果を教えて貰えた。
シリンの町のお勧めの魔道具店や、魔道具材料の工房も教えて貰ったが、変わった魔道具を作るなら、材料の準備は是非任せて欲しいと言われた。研究員にも良い刺激になるというということらしい。
近々また、資料室を利用させてもらいに再訪することを告げて、魔道研究所を辞去した。ローランの屋敷に戻ったのは、午後2時半頃だった。
ローラン達はまだ戻っていなかった。会議中なのだろうか。猫耳戦士は、ダリル達と昼過ぎまで武器工房で長話をした後、港近くで見つけた露店街で食べ歩き中だった。新鮮な海産物を薄焼きパンに挟んだもの、海産物のスープ、スパイスをふんだんに使った串焼き肉が美味しいそうだ。思念伝達だと食べ物の味まで伝わってくるのが困ったもので、昼食を食べてからたいして時間が経っていないのに、食べたくなってしまった。宝物庫の武器・防具を見たかったら、そろそろ帰ってくるように伝え、お土産に少し串焼きを買ってきて欲しいと頼んだ。
研究所でもらった精神魔法のスクロールは、スリープとコンフュージョンの2種類だった。どちらもそれほど高い効果はなく、集中している人を眠らせたり混乱させたりするのは難しいそうだ。両方のスクロールを使用して魔法を身につけたあと、よく居眠りするレスリーにスリープを掛けてみたが、さすがに寝なかった。
「私そんなに居眠りしてないですー。」と、文句を言っている。
しかし、魔法を掛けた直後に、少し注意力が低下したことは感じられた。キュアマインドも掛けてみると、少し注意力が上がったので、効果は持続していたようだ。
こっそり魔法を掛けられそうな相手が居ないかと、窓から外を見ると裏庭の日だまりで休憩中のメイド達が居た。4人のうち2人はおしゃべりに興じており、1人は何かを読んでいるようだが、もう1人は何もせずにぼんやりしている。ぼんやりしているメイドにスリープを掛けてみた。見事に眠ったようだ。次にキュアマインドを掛けると、目を覚ましたようだった。
試しに自分自身にもスリープを掛けてみた。思った通り、自分自身に掛けると、効果がわかりやすかった。スリープの魔法は注意力と意志力を低下させると同時に、眠気を強くする効果があるようだ。魔法が発動すると3分程の間効果が持続し、だんだん眠気が強くなる。魔法の効果が切れても、すぐに眠気はなくならず、時間の経過と共に少しずつ回復する。キュアマインドを使うと、魔法の効果が持続中であっても切れた後でも、すぐに眠気が無くなった。
スリープを掛けていない状態で、キュアマインドを使用してみたところ、精神魔法を解除する以外の効果があることもわかった。意識がクリアになり、思考力が上昇し、精神疲労が回復するようだった。




