双剣のリンド
エドリンで足止めされたため、練習などをして過ごします
リンドが有名な冒険者であったことが判明します
エドリンの町で、9日間も足止めされることになった。襲撃者の調査、街道の安全確認、近隣への連絡、護衛の増員の手配などで、時間が掛かったのだ。アンドール卿は忙しそうだったが、我々は暇だったので、魔法の練習と実戦練習を毎日、少し長めの時間をとって行うことにした。
オダムの館は建物も庭も立派だったが、練習に使える広い空き地がなかった。ギルドの訓練場が使えないかと思い、リンドに相談してみた。
「もちろん、ギルドの訓練場は、冒険者ならば誰でも使えるが、それほど広くないし、利用者もそこそこの人数が居る。毎日使うとなると、狭くて不便だと感じるかも知れない。それに、レディク達の練習が、普通の冒険者の練習と、同じとは思えないのだが、その辺はどうなのだ?目立つのは、気が進まないのではなかったのか?」
訓練中は、それほど特別なことはしていないような気もするが、我々の練習は目立つのだろうか?自問していると、頭の中に猫耳戦士からの突っ込みが入った。
『ヤリチン大魔神の練習が、目立たないわけがないにゃ。もっと自分の異常さに自覚を持たないとダメにゃ。武器を持った複数の2級と3級の冒険者を、素手でコロコロ転がすとか、普通あり得ないにゃ。魔法使いが6人もいて、みんなで水球クルクルしているのも、絶対驚かれるにゃ。』
猫耳戦士の意見では、ほとんどの魔法使いは、素早く、強力な魔法を放つ以上の練習をしないし、出来ないという。魔法を使う回数が、魔力の量で制限されるし、魔法の使い方を教える優秀な指導者が少ないことも原因らしい。
町の外で練習しないとダメかも知れないと、考え始めていたところ。リンドがアンドール卿に話しを通して、警備隊の訓練場の一つを借りられるように手配してくれた。警備隊員が大勢出かけているために、使用頻度も下がっていて、しばらくの間は午後一杯貸し切りにしても、問題ないそうだ。
さっそく、訓練場で練習を始めたところ、見物人がやってきた。私同様に暇をもてあましているローランと、今は忙しくないらしいリンドはともかく、アンドール卿までやって来るとは思わなかった。警備隊の幹部まで連れてきている。忙しいと聞いていたが、大丈夫なのか?
「この機会を逃せば、レディク殿の戦う姿を目にする機会は、なかなか得られないと思いましたので、万難を排してやって来ました。」アンドール卿がわくわく顔で言う。なんで、そんなに嬉しそうなんだ?戦わないよ。練習するだけだから。
普段通りの魔法の練習と、実戦練習行った。レルミスの魔力制御や、状況判断が、だいぶ良くなってきた。『光の勇者』が私と対戦している最中に、何度か良いタイミングで重力操作を発動させ、私の動きを制限することに成功した。レルミスの成長に伴い、『光の勇者』全体の連携も良くなった。隙が少なくなり、戦況に応じて、巧みに位置取りを変えながら、攻撃を続けることが出来るようになった。
猫耳戦士のサンダーの射程距離と命中率も改善され、有効な武器になりつつある。もっとも、魔法が発動する前に、魔力を検知して避けてしまう私には当たらない。猫耳戦士は「ずるいにゃ」といって悔しがっている。ヒュー達4人との中では、クロエの先読み射撃も驚きの進歩を見せた。私の動きを5割以上の確率で予想し、矢を飛ばしてくる。3回程避けきれず、矢を払いのける必要があった。恐るべき才能だ。
練習を見学していたアンドール卿が、我々にも指導して欲しいと言い出した。何故かアンドール卿と警備隊幹部の4人パーティーを相手に、対戦訓練をすることになってしまった。対戦してみると、全員基礎はしっかりしており、集団で戦うことに慣れている。防御がうまくて、隙が少ない。なかなか強かった。しかし、攻撃を正面から、盾で受けようとするので、受けきれずにひっくり返ったりする。魔神や魔獣のような、力の強い相手との戦いを想定していないのかも知れない。強い攻撃を正面から受けると、腕が折られたり、はね飛ばされたり、最悪死ぬ恐れもあることを説明し、盾を斜めにして受け流す練習をして貰った。
アンドール卿達との対戦が終わった後、リンドまで対戦してみたいと言い出した。元冒険者だという話は聞いたことがあるが、随分前に引退したはずだ。戦えるのか?と疑っていたが、実際に手合わせしてみると、リンドは強かった。スピードは速くないが、体裁きが恐ろしくうまい。2本の剣を使った変幻自在な技、巧みな受け流し、あらゆる場面で仕掛けてくるカウンター攻撃、武器だけを使う相手としては、間違いなく今までに出会った中で最強だった。だが、20分程対戦を続けたところで、まだクリーンヒットを受けていないにもかかわらず、リンドがギブアップした。
「今でも鍛錬は続けているのだが、やはり現役時代のようには動けないな。レディクの相手を続けるのは、これくらいが限界のようだ。」
「さすが『双剣のリンド』ですね。我々の相手をしていただいた時より、明らかに速いレディク殿の動きに、あそこまで追随出来るとは。今日は良い勉強をさせていただきました。」アンドール卿が感動の面持ちで、話しかけてきた。
後で聞いた話だが、リンドは元1級冒険者だったそうだ。1級冒険者は数人しかいないはずなので、元とは言え、世界最強の男の1人だったようだ。
毎日練習を続け、魔道具と薬の研究も続けたが、遠出をすることは出来なかったので、全体的にはのんびり過ごした。
調べ物のために、ギルドの資料室も利用したが、残念ながら、エドリンの冒険者ギルドの資料室は、アスターに比べて蔵書量が少なく、あまり参考になる物がなかった。ダンジョンのあるアスターに比べると、冒険者の数が少なく、あまり予算が取れないらしい。
しかし、資料室で、暇つぶしに良さそうな、面白い本が見つかった。なんと『双剣のリンド』というタイトルの本があったのだ。中身は、冒険者時代のリンドの、血湧き肉躍る冒険譚だった。期待以上に、面白かった。思念伝達で、私の読んでいる本の内容に気がついたローズが、情報を広めたため、うちのメンバー全員が資料室にやってきて、本の内容で大いに盛り上がった。資料室で騒ぎすぎると怒られるかなと、心配になったが、資料室にいたギルド職員は、苦笑しているだけで、特に注意はしてこなかった。もしかすると、良くあることなのかも知れない。
リンドと顔を合わせた時、本を読んだことを伝えると、仏頂面をしていた。
「俺としては、あんな本を資料室に置きたくはなかったが、処分しようとすると、職員も冒険者も反対するんだ。ギルド本部に嘆願書を提出するとまで言われて、やむを得ず置いている。」
ちなみに、著者はロカナンを中心とする、昔のパーティーメンバーらしい。
今までは、食事の準備や家事全般で忙しくしていたアベリアが、特に暇をもてあましているようだったので、何度か治療院に行き、治療魔法の実技練習をさせて貰った。治療院は人手が不足気味のようで、歓迎された。
時々散歩にも出かけた。我々同様に暇そうだったローランも、冒険者風の服に着替えて同行した。ローランは色々と変装用の服を持っているようだ。
馬を4頭買った。乗馬の練習もしてみたかったのだ。馬の目利きも出来るというロジルを伴って、馬を扱う商社に行ってみると、良い馬が安めの値段で手に入れられるようなので、乗馬用としても、馬車の換え馬としても良さそうな馬を購入した。
警備隊が慎重に調査を続けた結果、エドリンの町で、2人の札付きの冒険者と1人の商人が、魔人の協力者として捕縛された。冒険者の2人は、襲撃の5日前にエドリンの町で多めのポーションを買っており、輸送隊と同日にエドリンを出発し、8日後に帰ってきたため、早い時期から警備隊にマークされていたそうだ。
3人とも、操られた状態ではないが、金で雇われただけではなく、何らかの精神魔法の影響下にあるらしい。今のところ、詳しいところまでは分からず、王都に連行して調査することになった。
護衛の人数は、初めは30名程の予定だったのを、アンドール卿が少し増員する手配をしていた。しかし、ソロン城塞都市から、エルロン王国中西部方面軍の騎兵200名が派遣されてきたため、護衛の人数は240名に膨れあがってしまった。国王から、ソロン城西指令に、我々の一行に便宜を図るよう、前もって連絡されていたらしい。街道で襲撃事件があったことを知らされたソロン城西指令が、街道警備と襲撃犯の捜索に1000名、護衛に200名の兵を派遣したそうだ。
エドリンについて10日目の朝、ようやくエドリンを出発することになった。リンドとヘルミ博士が旅の仲間に加わったので、2人を食事に招待すると、アベリアの料理が気に入ったようで、それ以後の食事はほとんどいつも、我々と一緒に食べるようになった。
旅の間、暇なので、しばしばお互いの馬車を訪問して、雑談したり、いろいろなことを教えて貰ったりしていたのだが。ある時ヘルミ博士が、子供向けの昔話にも詳しく、話すのもうまいことがわかった。ヘルミ爺ちゃんは、すっかり子供達の人気者になり、毎日2つか3つはお話をねだられるようになった。ヘルミ博士もまんざらでもなかったようで、我々の馬車に入り浸るようになった。私も一緒に昔話を聞いたので、この世界の神々や、世界観に多少詳しくなった。
我々が、王都シリンに到着したのは、アスターを発ってから22日目、11月も末近くのことだった。




