エドリン散歩
しばらくエドリンに滞在することになりました
暇つぶしに散歩します
「重傷者全員が助かったそうだな。レディク。ありがとう。有能な警備兵5人を失わずにすんだ。」ローランが嬉しそうに礼を言ってきた。
「重傷者のうち二人は、確かに危ない状態だったな。間に合って良かった。治療の後で、少し話を聞いてきたが、襲撃者の中に腕の立つ魔法使いが居たようだ。魔人かも知れない。その気になれば、輸送隊を全滅させることも可能だったと思う。そうしなかったのは、魔人の死体と魔道具の奪取という目的を、迅速かつ確実に達成したかったからだろう。」
「すでに70名の警備兵を、襲撃現場周辺の捜索に派遣していますが、おそらく何も見つからないでしょうね。」アンドール卿が言った。
「死体は既に遠くに運ばれているだろうな。見つかるのはポーションの容器くらいか。」
「ポーションの容器?」
「盗賊達はポーションをたっぷり用意していたらしい。戦闘中の怪我をポーションで回復していたそうだ。だから襲撃現場で空き容器が見つかると思う。容器が見つかれば、一部の盗賊を捕まえる手掛かりになるかも知れないぞ。」
「ポーションの容器が、手掛かりになるのですか?」アンドール卿が不思議そうに尋ねる。
「ポーションの容器は手作業で作っているから、工房ごとに特徴がある。見慣れた人なら、どこの工房で作った容器か、判別出来るだろう。アスターで作った容器なら、レスリーに見せれば判別出来そうだな。たくさんのポーションを持っていたなら、襲撃の前に、アスターかエドリンで調達した可能性が高い。高級品でない限り、有効期限はそれほど長くないからな。」レスリーの意見も思念伝達で確認済だ。
「なるほど。最近大量のポーションを購入した客の顔ならば、店員が覚えているかも知れませんね。」
「だが、シリンかシリンの手前の町で、購入した可能性もあるな。」オダムが指摘した。
「その通りだ。だが、輸送隊の移動予定を把握していたことから、襲撃者の一部が、直前にエドリンにいた可能性は高いと思う。」
「なるほど。輸送隊の前後を移動しながら、監視していたのかも知れないな。」
「確信はないのだが。輸送隊を監視していた襲撃者のメンバーは、この町に戻ってくるかも知れない。」
「戻ってくる?それはまた何故ですか?」
「魔人と取引したがる人間は、あまりいないと思うのだ。相手が魔人だとすると、手駒として使える人間の確保は、簡単ではないだろう。襲撃者の人数は10人と少ししか居なかったようだし、ポーションをたっぷり用意させている。私が操りの魔道具を破壊したために、魔人が手駒として使える人間の数が、少なくなっていて、これ以上減らしたくないのでポーションを用意させた、と考えるのは、穿ち過ぎだろうか?」
「それは、十分にあり得ることだと思うのう。襲撃者が、戦闘を短めに切り上げたかった理由も、説明出来る。そして、襲撃が成功した後、貴重な手駒を何に使いたいかと言えば、魔人にとって、重要な関心事である、『才蔵』の動向の調査だろうな。アスターとエドリンで、情報収集させる必要があるわけだ。」ヘルミ博士が引き取って、説明した。
「私だけでなく、ヘルミ博士も監視対象になっていると思いますよ。」博士の名前が、暗殺対象リストに載っていることを、忘れないように、釘を刺して置いた。
「やはり、護衛の人数を増やした方が良さそうですね。」
「用心しておくに越したことはないだろうな。」
「この町に魔人が居る可能性もあるのでしょうか?」
「それは無いと思う。周囲600メートルくらいの範囲に魔人が居れば、私は感知出来るし。最近試作した、魔人を検知する魔道具でも、周囲1キロの範囲で、魔人は検知されていない。」
「魔人を検知する魔道具?!」オダムが驚きの叫び声を上げた。そこまで驚かれるとは思わなかったので、私も驚いた。
「そんな物があるのか?」とローラン。
「作ったのか?」ヘルミ博士も問いかけた。
「まだ試作品だ。テストが出来ないからな。鑑定の魔道具の魔術構築式に、魔人の鑑定に使用される魔術構築式があることが分かったので、それを探査魔法の魔術構築式と組み合わせて、検知範囲を広げたものだ。原理はそれほど難しくない。」
「でも作るのは大変。レディク様以外作れないと思う。」ローズが嬉しそうに自慢している。
「いや、私1人では作れない。ローズと2人で協力して作ったものだ。」
「その魔道具を分けていただけないでしょうか?」
「試作段階で動作保証のない物で良いなら、作って置いていこう。」
「すまんが、アスターで使う分もお願いしたい。」ローランも便乗した。
魔人を検知する魔道具は、エドリン用と、アスター用に各2個、作ることを約束させられた。本来の予定では、翌日エドリンを発つはずだったが、数日遅らせることになった。
アンドール卿が、ポーション容器を確保するように、捜索隊に伝令を送ることと、翌日以降エドリンに入る者を調べるための手配を、すぐに始めたいというので、今日の話し合いは終えることになった。残りのメンバーは、話し合いに参加していなかったうちのメンバーも含めて、オダムに夕食に招待された。
夕食の準備が出来るまで、少し掛かるようなので、いったん客室に案内して貰い、部屋の位置や部屋割りを確認した。貴族の来客をもてなすための、立派な続き部屋で、専用の居間や、応接スペースまであったので、驚いた。うちのメンバーは全員、居間でまったりしていた。
夕食時に、オダムが、アスターでの魔人との戦いの話しを聞きたがった。私があまり気乗りしない様子なのを見るや、ローズが「では、私から、お話しする。」と言い。『偉大なるレディク様と魔人の戦い』の講釈を始めてしまった。やめさせようかとも思ったが、ローランもリンドも応援しているし、本人も楽しそうなのであきらめた。 意外なことに、すごく話がうまい。若干脚色があるものの、かなり細部までくわしく再現している。しかも、お話の中の私は妙にかっこいい。知らない英雄の話を聞いてるみたいだ。ローズにこんな才能があるとは知らなかった。そう言えば、戦いの後でローズに色々質問された。思い出していると、私の記憶に呼応してローズの思念が流れ込み、ローズが私の伝記のような物を執筆中であることが判明した。
翌日は暇だったので、みんなで町の散歩に出かけた。前回エドリンに来た時は、町の中を探索したいと思ったが、ほとんど見て回る時間がなかった。1月ぶりのリベンジだ。
町の全体的な雰囲気は、アスターとそれほど変わらなかったが、馬を扱う大きな商社や、羊毛製品を扱う店が目に付いた。羊毛製品の店を覗いてみると、なかなか質の良い毛布が安く売っていた。エドリン周辺は牧畜が盛んで、馬と羊毛の産地として知られている、という話が聞けた。商売用に買って行っても良いかも知れない。あとで、商業ギルドにも行って、調べてみよう。
町の中央付近に円形の広場があり、広場に隣接してかなり広い露店市場があった。野菜、果物、食器、古着、雑貨など、様々な物が売られている。美味しそうな果物が、安く売っていたので、少しだけ買い溜めした。もうすぐ冬だが、冬場でも果物は食べられるのだろうか、という私の疑問に、アベリアが、1年中食べられるが、旬の時期を過ぎれば値段が高くなると教えてくれた。
市場の一角に、調理した食べ物を売る露店が集まっていて、良い匂いが漂っていた。遅めの朝食を買う客で、食べ物の露店はそこそこ賑わっている。
「羊肉の香草焼きが美味しいです。お勧めです。」レルミスは食べたことがあるらしい。強くお勧めされたので、串焼きの露店で香草焼きを買い、みんなで食べた。羊肉の特有の香りに、香草の香りが絶妙にマッチして確かに美味しかった。アベリアが早速材料の香草を調べ、レシピを検討している。
市場を出て、通りを東に進むと、ハーブも売っている薬草店があったので、覗いていくことになった。アベリアが香草焼きに使うハーブについて、店員に質問している間に、レスリーは薬草を調べている。
「レディク様ー。この店すごいですー。同じ種類の薬草が、こんなに色々ー。」レスリーが呼ぶ声を聞き、薬草を並べた一画を見に行ってみる。天然に自生した薬草と栽培した薬草、栽培した物でも、栽培条件が違う物が分けて売られていた。それぞれの薬効の違いも、売値と共に書いてある。
同じ薬草でこんなに違いがあるとは知らなかった。効果を早めたい時とか、効果を高めたい時とか、効果を持続させたい時とか、用途によってポーションを作る材料を変えた方が良いのかも知れない。レスリーと材料を使い分けた場合に、どういうポーションが作れそうか、相談しながら検討してみた。
「あんたらポーション作成師かい?出来上がったポーションがあったら、売っていかないか?警備隊から大口の注文があって、ポーションが品薄になりそうなんだ。」店主らしい男が、声をかけてきた。
「ハイポーションなら少しありますよー。」思念伝達での瞬時の相談の後、レスリーがハイポーションを取りだして見せた。
「ちょっと見せて貰えるか。」男が受け取ったハイポーションを、カウンターに持っていき、道具を使って調べている。ポーション鑑定専用の魔道具のようだ。
「上品質品じゃないか。たいしたものだな。出来ればもっと欲しい。」
20本程のハイポーションを売った後で、薬草の薬効をどうやって調べているのか聞くと、薬草鑑定専用の魔道具があるそうだ。
「ひいじいさんが、手に入れたらしいけど、どこで手に入れたかは分からないんだ。かなり珍しい魔道具だってことと、ひいじいさんが60年くらい昔に、この町で薬草店を始めた時には、既に持っていたことくらいしか知らないな。」
ダメ元で譲って貰えないか聞いてみたが、やはり断られた。まあ、当然だろうな。他で手に入らないか、探してみよう。
創業が60年前という話しに、ゴブリン族の村で貰った熟成薬草を思いだした。
「ところで、全く別の話なのだが、50年くらい前に、このあたりに居た、すごく腕の良いポーション作成師の話しを、聞いたことがないだろうか?」
「50年前?そりゃ薬聖サブリ様じゃないのか?伝説の治療薬を作ったって言われている。」
「伝説の治療薬?有名なのか?」
「薬関係の仕事をしている年寄りなら、だいたい知っているだろうな。伝説の中にしか存在しないと思われていた、すごい治療薬を作ったんだ。それで有名になってシリンに行ったけど、盗賊に殺されちまったらしい。サブリ様が死んだ後、その治療薬を作ることに成功した人はいないって話しだ。」
「レシピは残っているのか?」
「古い本には書いてあると思うぞ。シリンの図書館なら見つかるんじゃないか?」
シリンに行ったら、図書館で調べてみよう。
薬草店を出た後も散歩を続けると、12神の神殿という立派な建物があり、隣接して治療院があった。12神とは、神話に記されている40程の神々の中で、慈悲の神や愛の神などの人気のある12の神々だそうだ。シリンのような大きな町には、愛の神の神殿のような、個々の神を祭った神殿があるが、地方の中規模までの町では12神の神殿しかないのが普通らしい。
中に入ってみると、大きな円形の部屋で、壁沿いに12の神像が等間隔に並んでいた。意外にシンプルな作りだ。神像の前で祈りを捧げる人がちらほら見られる。変わった匂いがする。神像の前で香が焚かれているようだ。
入り口脇で香を売っている。レルミスとターボが、その近くにいた神官に話しかけていると思ったら、神官がなにやら祈り始めた?神殿に寄進して、祝福を授けて貰っているらしい。意外に信心深いのかと思ったら、神の祝福を授かると、時間制限付きだが、防御力が上がるなどの、現実的な御利益があるそうだ。
私も祝福を授けて貰うことにした。「どの神の祝福をお望みですか?」と、尋ねられたので、いつもお世話になっている、水の神の祝福を希望する。神官の祈祷の後で、ほんのわずかだが、魔力が増したようだった。
せっかく来たのだから、水の神の神像にもお祈りしていこう。『いつもお世話になってます。今後もよろしくお願いします。南無南無。』声に出さずに、お祈りしたのだが、女達には筒抜けだった。頭の中で、クスクス笑う声が響いた。
昼になったので、ロジルのお勧めの店に行き、昼食を食べた。初めて食べる、スパイスをふんだんに使った料理で、なかなか美味しかった。
その後もしばらく散歩を続けた。本を売っている店を始めて見つけたが、残念ながら品揃えは悪かった。
帰りがけに、魔道具材料の工房を見つけたので、魔人を検知する魔道具用の材料を、少し多めに注文して置いた。




