輸送隊救援
魔人の死体を運んでいた輸送隊が襲われたことを聞きます
輸送隊の重傷者の治療に行きます
2日後の午後、遅めの時間にエドリンに付くと、警備の兵士の動きが慌ただしいように見える。町の門からすぐに、エドリール男爵の館に案内され、そこで何が起こったかを聞いた。
広い応接室には、既にエドリール男爵とリンド、アンドール卿、ヘルミ博士が集まっていた。うちのメンバー全員を連れて行くと、多すぎて大変そうだったので、ローズ、クロエ、ヒュー、レルミスを連れて行き、他のメンバーは館内の客室で休ませて貰った。
「ローラン、レディク、着いてそうそうですまない。緊急の連絡があったのだ。」挨拶も早々に、リンドが口を開いた。
「私が知らない間に、なんだか随分親しげに話すようになっていませんか?」エドリール男爵が驚いた顔で、ローランに問いかける。
「エドリール卿。私から頼んだのですよ。町を救った勇者から、敬語で話しかけられるのは、居心地が悪いもので。」私が曖昧な笑みを浮かべている間に、ローランが説明する。
「いやいや、私の方が居心地が悪かったですよ。年長の、町の要職にある方から、敬語で話しかけられるのは。エドリール男爵もご無用に願います。」
「むう。私だけ敬語で話しかけられたのでは、それこそ居心地が悪いですぞ。私に対する敬語も無用にお願いしたい。私のことはオダムと呼んでくれませんか。」エドリール男爵も仲間に入りたいらしい。この辺の貴族には、こういう性格の人が多いのか?
「私もですか?」リンドが問いかける。付き合いが長いだけに、ためらいがあるのだろう。
「もちろんだ。リンドは私が子供の頃から、町の要職にあって、昔は私のことを『悪ガキ』とか呼んでいたではないか。」なるほど、そう言う関係だったのか。
「わかった。オダムだな。これからお互い敬語なしと言うことで、よろしく頼む。ところで、緊急の連絡とはなんだ?」なかなか話が進まないので、誘導した。
「おっと、その話だったな。アスターからシリンに輸送中だった、魔人の死体と破壊した魔道具が奪われたのだ。ここから街道を4日程進んだところで、先行させていた輸送隊が襲撃された。輸送隊には14人の警備兵を付けていたのだが、襲撃者側に強力な魔法使いがいた。魔人の疑いがある。夜間の戦いで、姿ははっきり見えなかったが、襲撃者の人数は十数名。ほとんどは盗賊のような姿だったらしい。戦闘は一方的で、短時間の戦闘の間に、警備兵に死者3名、重傷者5名の大きな被害が出た。昼過ぎに、伝令が着いたばかりだ。輸送隊は怪我人を搬送して引き返してくる途中だ。」オダムが説明した。暢気に敬語の話しとか、している場合ではないだろう。
「怪我人の容態は?」
「かなり悪いようだ。さっき、治療師を向かわせたが、何人かは間に合わないかも知れない。」
「私が行こう。私なら2-3時間以内で輸送隊に合流出来ると思う。」
「さすがにそれは・・馬で1日以上かかる場所にいるかと・・」アンドール卿が困惑した顔で言う。
「レディクが行ってくれるなら、重症者の命が助かるかも知れない。すまんが、よろしく頼む。」ローランが言った。
「出来る限りのことはしよう。」請け合いながら、白いローブとマスクを取りだした。ここにいるメンバーなら全員、私が魔人を倒したことを知っているから、問題ないだろう。
「怪我人を治療したら、いったんこちらに戻るつもりだ。ローズ。ヘルミ博士に遺跡で見聞きしたことを、話しておいてくれ。」ローブを着替えながら、ローズに指示しておく。
「わかりました。」
「窓から失礼する。」マスクを被り、窓を開いて、幻影魔法で姿を消してから飛び出した。
「消えた?!」誰かの驚きの声が聞こえた。
姿を消したまま高度を上げ、町の東門から伸びる街道を確認する。時刻はまだ4時前だろう。急げば暗くなる前に、輸送隊を見つけられるかも知れない。治療と、帰りの飛行に使う分の魔力を考慮に入れても、3-4割の魔力を飛行に使ってしまって、問題ないはずだ。
単純に速く飛ぶだけのために、大量の魔力を注ぎ込んだ。重力操作を併用しているにもかかわらず、激しい風圧で体が振動する。スピードを上げるのが難しくなったので、やむを得ず体の周囲に氷の防壁を展開した。重くなってしまうが、防壁があった方がスピードを上げやすい。視界は幻影魔法で確保した。しかし、さらにスピードを上げると、5分も経たないうちに、激しい振動で氷の防壁がひび割れてしまった。
スピードを落として、防壁を作り直そうとするが、その前に前方に輸送隊らしい一隊を見つけた。先導する騎兵の顔は、アスターの領主館で見かけたことがある。まだ、10分程しか飛んでいない気がするが、輸送隊は町の近くまで来ていたのか?防壁を消して、降下した。
輸送隊は、幌馬車2台の前後を、各1騎の騎兵が挟むようにして進んでいたが、私が降下する前から停止して、騎兵も御者も私の方を見上げていた。かなり早い時期から、私の接近に気がついていたのかも知れない。近くまで降下すると、先頭の騎兵が声をかけてきた。
「才蔵様・・でしょうか?」
「そうだ。重症の怪我人を運んでいると聞いた。怪我人は馬車の中だな?」
「はい。重傷者は、前の馬車です。」
5人の重傷者はまだ全員生きていた。だが、全員ひどい怪我で、特に2人は、未だに生きていることが不思議な程だった。まず全員に、素早く軽いヒールを掛け、まかり間違っても手遅れにならないようにし、その後で、怪我のひどい者から順番に、治療していった。
「すごい!ちぎれた手が、再生されていく。」重傷者を看病していた警備兵が、驚きの声を上げた。
うんうん、回復魔法はすごいよね。こんなの私も初めて見たよ。たぶん、回復魔法を使った私自身、びっくりした顔をしていたと思うが、マスクをしていたから、驚いていることに気づかれなかっただろう。
重傷者の次は、もう一台の馬車に乗っていた軽傷者も治療した。よく見ると、騎兵も御者も、看護役の警備兵も軽い怪我をしていたので、結局全員を治療した。
「才蔵様。ありがとうございました。才蔵様に治療していただけなければ、2人か3人は助からなかったでしょう。」輸送隊を先導していた騎兵は、輸送隊の副隊長だった。隊長は5人の重傷者の一人だったらしい。
「今日の午後に、エドリンからこちらに、治療師が向かったという話しだ。私が来なくても間に合ったかも知れない。ひどい怪我だと聞いていたので、念のため私も来ることにしたのだが。」
「なんと。才蔵様は今日の午後に、エドリンを発たれたのですか?では2-3時間程の間に90キロの距離を?」
「90キロ?エドリンまでそんなにあるのか。もう少し近いかと勘違いしていた。空を飛ぶと、距離感が狂うことがあるのでな。」10分で90キロと言うことは、平均時速500キロ以上か。最高速度は800キロ以上出ていたのかも知れない。
「空を飛ぶと、そんなことがあるのですか。」
「ところで、襲撃者に魔人が居た可能性があると聞いたが。」
「はい。姿は見えませんでしたが、強力な魔法使いが居ました。魔人かも知れないと、考えています。最初は、見張りに立っていた3人が、ほとんど同時に魔法で倒されたようです。私も含め、寝ていた者が気づくまでの間に、10名程の盗賊らしい姿の者に囲まれていました。盗賊達は、我々の動きを制限する牽制役のようで、たいして強い者は居ませんでしたが、囲みを破ろうとすると、遠くから魔法で攻撃されました。暗い中での、遠くからの攻撃にもかかわらず、恐るべき命中精度でした。馬車に侵入している者がいることには気がつきましたが、なんとか囲みを破ろうとしても、犠牲が増えるばかりで、手も足も出ませんでした。」
「なるほど。感知能力と魔力制御能力が高く、慎重な性格で、戦いにも慣れている魔法使いか。使っていた魔法は分かるか?」
「風魔法だと思います。魔法で切り裂かれたり、はね飛ばされたりしましたが、目に見える物はありませんでした。」
「盗賊達は、顔を隠していたか?」
「顔の下半分を布で覆って、顔つきを分からないようにしていました。」
「盗賊側にも怪我人はあったと思うが、死者も重傷者もなかったのか?」
「何度も盗賊に手傷を負わせることは成功していますが、追撃しようとすると必ず魔法で攻撃を受けました。それに盗賊達は、かなりの数のポーションを、用意していて、怪我もすぐに治療していました。最後は笛のような音を合図に、一斉に走って逃げていきましたから、全員たいして怪我は負っていなかったと思います。」
「ポーションか。用意周到だな。参考になった。ありがとう。」
「お役に立てて、光栄です。・・あの、・・才蔵様でも、危険な相手なのでしょうか。」
「相手の能力をすべて把握しているわけではないから、はっきりと分からないが、正面から戦えば、勝てそうな気がする。」
「おお。」
「だが、この敵は、そんな戦いはしないだろう。自分たちに有利な状況を作るために、慎重に準備を進めるだろうな。まず、私の動向を探り、私を倒すための策を巡らすことは間違いない。今すぐならともかく、今後危険な敵になりそうだ。」
「才蔵様は、ニズロン子爵様とお知り合いなのでしょうか。我々が怪我人を搬送していることはどちらで?」
「秘密だ。」
「秘密ですか。」
「私のこと、私と話したことも含め、出来るだけ秘密にして欲しい。魔人達に、私の正体、能力、動向を悟らせないためだ。」
「わかりました。」
「では、私はこれで失礼する。道中気を付けて行きたまえ。」
「はい。ありがとうございました。」
周囲の人目もあったので、帰りは北に向かって飛んで行く振りをして、街道から少し離れたところで姿を消した。その後は西にコースを変え、エドリンに向かって飛んだ。帰りは氷の防壁を出さなくても、問題ない程度のスピードで飛んだが、20分程しかかからなかった。
館の応接室の窓は、出て行った時のまま開いていて、まだ話し合いは続いていた。出て行ってから、ちょうど1時間くらいか。
実は治療に行っている間の話し合いの内容は、ローズを通じて伝わっていた。また、私が輸送隊の怪我人の治療を終えたことも、ローズから伝えられていた。思念伝達が90キロ離れた状態でも可能であることは、新しい発見だ。何故可能なのかは分からないが。
これまでの話し合いでは、ローズから遺跡での出来事を話した後、ヘルミ博士から人族、ドワーフ族、獣人族に関わる遺跡の伝承が語られた。残念ながら、各種族の族長の印の所在は分からないそうだ。精神魔法についての情報も得られなかったが、精神に影響を与える魔道具や治療薬の研究者は、魔人の暗殺対象になっているらしい。
魔人の死体を奪っていった理由を、ヘルミ博士は蘇らせるためではないかと推測していた。過去に死んだ魔人が蘇ったという伝承があり、何らかの条件で限定されるが、魔人を蘇らせる技術か魔道具があるらしい。
魔人の中にも、魔道具作成の技術を持つ者が居るため、壊れた魔道具を奪ったのも、修復するためだろう、という話しだった。
私が窓から室内に入ろうとすると、ローズが振り返った。
「お帰りなさい。レディク様。」姿を現す前に声をかけられたので、全員が振り返り、見えない私のいる場所を探した。
「ただいま。予想よりだいぶ速く、行って帰ってこられた。」幻影魔法を解除して答えた。




