守護の力
守護の部屋の効果が発動します
そしてガンダリの身に予想外のことが
数分が経過し、再び扉が開くと、そこには見慣れたガンダリの姿はなかった。
代わりに見慣れない姿の者が立っている。ゴブリンより大きく、身長は人間くらいだが、人間ではない。ただ者ではない雰囲気がある。魔人ほどではないが、かなり強そうだ。
「これは?!」族長が驚きの声を上げる。
「何者だ?」
その者は特に襲って来ることもなく、何を聞かれているのか分からない、という様子で首をかしげ、後ろを振り返ったりしている。余裕の態度なのか?武器を構えもしない。
ん?あの武器は、ミスリルの槍?よく見ると、首に眷属の印をぶら下げている。まさか。
「ガンダリ・・なのか?」
「さっきから。何言ってる?」ガンダリらしい者は、入り口から歩み出た。
「レディク。族長。小さくなった?!」再び首をかしげた。
「おまえが大きくなったのだ。」
「守護の力の効果は、体が大きくなることなのですか?いや、単に大きくなっただけじゃないな。顔つきにはガンダリの面影が残っているが、体つきは全然違うし、力も強くなっている気がする。」
「すっかり失念しておりましたが、訓練を積んだ戦士が守護の力を受けると、上位種に進化することがあるのです。ガンダリはホブゴブリンになりました。」
「守護の力って、そんなものすごい効果があるのですか?私は防御力が少し高くなるとか、その程度のものかとばかり思っていました。なるほど、種族全体の力がそこまで上がるなら、敵対する魔王がその力を使わせないようにしようとするのは当然ですね。」
「全員に大きな効果があるわけではないですが、力が弱い者にもそれなりの効果があります。」
曲がり角で待っていた、他のメンバーと合流する。当然のことながら一騒動あった。
「誰?」とか、「何者だ?」とか、「ガンダリさんはどこにー?」などと、問い合わせる声に答え、状況を説明するのに少し掛かる。
「人間族も、遺跡で進化するのであろうか?」ターボが私に質問する。むしろ私が知りたいが。進化するとどうなるんだろう?新人類?超人?
「獣人族も進化するにゃ?」猫耳戦士は族長に質問した。やはり進化に興味があるようだ。猫又になるのかな?
「守護の力は、遺跡によって異なると聞いています。しかし、詳しいことは言い伝えられておりません。」
そもそも人間族の遺跡がどこにあって、族長の印がどこにあるのか、分からないことだらけだ。この場で議論しても、何かが分かるとは思えなかったので、町に戻った後で調べてみることにする。
ゴブリン族の残りのメンバーも守護の部屋に入った。同行した二人の戦士もホブゴブリンになったが、族長は変わっていなかった。
「私はもはや老齢で、力がありませんから。しかし、守護の力で体力が増していることは感じます。」と言って、微笑んだ。
守護の部屋が利用出来ることを確認したので、次は『天空の道』も調べるべきだろうと考えたが、少し問題があった。『天空の道』を使ってみる、ということは、おそらく、ドワーフの国にある遺跡に行くことになる。行く先の遺跡にも精神魔法を使う『虫ゴーレム』が居た場合、いきなり、精神魔法の影響圏内に、入り込んでしまう危険がある。『天空の道』がどのような移動手段なのか、まだ分からないが、接近した状態で、精神魔法の効果を打ち破る手段がない現状で、移動先に『虫ゴーレム』が待ち構えているかも知れない、『天空の道』を使用することは自殺行為だろう。
検討の末、今回は『天空の道』の入り口を調べたところで調査を中断し、『天空の道』を使用する前に、精神魔法への対応策を研究することにした。
通路を少し引き返し、黄色い線をたどって『天空の道』の入り口へ進んだ。守護の部屋より少し小さい建物が、左右に幾つも並んでいる。入り口の扉を開くと、守護の部屋同様、入り口以外にはドアも窓もない部屋だった。『天空の道』というのは、もしかして転移魔法のようなものなのだろうか。
床、天井、壁にはやはり、魔方陣のようなものが描かれている。それを見て、ローズが首をひねっている。一瞬は、魔術構築式かと思うのだが、よく見れば全く違うものなのだ。真の魔術構築式は、隠蔽されていて、よくわからない。
遺跡の入り口に戻った。回収した『虫ゴーレム』を、魔法のバッグにしまう前に鑑定してみると、『未知の魔道人形』と表示された。やはり、ゴーレムではないらしい。どう違うのかよく分からないが。ついでにこっそりゴブリンの戦士も鑑定してみると、『ホブゴブリン』と表示された。ガンダリを鑑定してみたら、『ホブゴブリンウォリアー』と表示される。ウォリアーって種族じゃなくて、職種じゃないのか?族長を鑑定してみても『ゴブリン』と表示されるだけだ。自分自身を鑑定してみたら、『人間?』と表示された。なぜ?マークが付くのだろう。なんだか、鑑定の機能が信用出来なくなってきた。
遺跡の入り口近くで昼食を取った。保存期間延長効果のある魔法のバッグから、出来立て同様の料理を取りだして食べた。魔法のバッグは便利だ。
食事をしながら、今後の遺跡の調査のために、他の遺跡の所在地や、精神魔法について、何か知っている者が居ないか聞いてみた。精神魔法については、誰も知らなかったが、遺跡はここ以外にも、エルフの国にあるという話しを、レルミスとローズが知っていた。ただし、ごく限られたもの以外、立ち入りが禁止された場所にあるらしい。見たことがある者は、ほとんど居ないらしい。エルフの国に行った時に、頼めば調べさせてもらえるだろうか。
伝説のレベルでは、他の地方にも遺跡があるという話しはあるようだが、はっきりした場所は分からなかった。ヘルミ博士なら何か知っているかも知れない。博士はそろそろエドリンに出発しているはずなので、すぐに話を聞くことは出来ないが、王都に移動する途中に話は出来るだろう。
食後にゴブリン達とレスリーをゴブリンの村に送った。レスリーは明日の夕方、迎えに行く予定だ。
遺跡に戻り、いつもの狩り場、東側の大通りに行った。馬車組が到着するまでの間、しばらく重力操作を組み合わせた飛行の練習をしようと、ガーゴイルの鼻先をかすめるように飛び回る。しかし、しばらく飛んでみて、既にガーゴイルでは物足りなくなっていることに気がついた。やはりリビングアーマーくらいでないとダメか。奥まで入ってしまうと、馬車組の到着がわかりにくいかも知れないので、練習の続きは馬車組が到着した後にする。
ガーゴイルが狩りやすいように、ゴーレムを大通り右手の奥の方に集めてしまい、片足を砕いて移動出来ないようにしておく。次に左右の脇道の奥の方からもガーゴイルを誘導し、入り口近くで翼を砕いておいた。40体ほど集めたところで馬車組が到着したので、心核と魔石の回収を始める。
「獲物が一杯にゃ。」
「このあたりのガーゴイルは、普段地上を歩いているのでしょうか。」レルミスがおかしなことを言い出す。
「翼が砕かれておるな。レディク殿が砕いたのであろうか?」
「こうしておけば、簡単に心核を取り出すことができるからな。」
「一つやって見せようか。」ダリルが早速ウォーピックを取りだして、ガーゴイルに近づく。
「このように、背中側に回って、コンコンと叩いてな。」手際よくガーゴイルの背中に穴を開ける。
「ほれ、取れた。簡単だろう?」ダリルが取りだした心核を見せた。
『光の勇者』のメンバーも実際にやってみて、ようやく納得出来たようだ。慣れてしまえば、人数も増えているので、作業スピードは速くなる。集めておいたガーゴイルを、すべて片付けるまでに、さして時間は掛からなかった。
ガーゴイルが片付いた後、練習をかねてリビングアーマーを狩りに行くと言うと。他のメンバーも見学したいというので、一緒に行くことにした。ずっと奥の、リビングアーマー地帯まで、大通りに危険なものは見あたらない。
全員でぞろぞろと、大通りを進む。600メートルほど進んだ当たりからが、リビングアーマー地帯だ。直前で立ち止まり、他のメンバーにはそこで待って貰って、低空飛行を始める。30メートルほど向こうにいるリビングアーマーに、練習相手になって貰おう。
リビングアーマーの攻撃を避けながら、しばらくの間、重力操作を組み合わせた急加速、急停止、反転、旋回の練習をする。複数の魔法を同時に使い、体も動かしているので、魔法の発動のタイミング、方向、強さ、体の動かし方を調整するだけでも、かなり大変だ。試行錯誤を繰り返しながら、動きを改善していき、魔法の組み合わせ方も感覚的に身につける。
以前に比べると、リビングアーマーの動きが遅く感じられる。重力操作を組み合わせたことによる運動能力向上と、慣れのせいだろう。慣れてきたとはいえ、リビングアーマーが時々繰り出してくる連続攻撃は、気をつけないと危ない。氷の盾で防がなくても避けられるようになったが、初めのうちはかなりぎりぎりだった。
しかし、練習を続けるうちに、少しずつ動きが速く、鋭くなっていくことが自分でも分かる。今なら、リビングアーマーの体勢を崩さなくても、頭を殴ることが出来そうな気がする。攻撃を回避しつつ、カウンター気味に打撃を繰り出すイメージか。
実際にやってみると、そう簡単には成功しなかったが、もう少しな感じだ。飛行のコースや姿勢を少しずつ改善して行く。途中で、重力魔法が使えるのだから、頭が上、足が下の体勢にこだわらない方が良いと気がついた後は、飛行の自由度が増えた。練習を繰り返すうちに、とうとうカウンターで頭を殴ることに成功する。一度成功すると、こつがわかったようだ。次の攻撃も頭部にクリーンヒットし、リビングアーマーの頭が外れてしまった。
やはり、頭は外れやすいようだ。次は、じっくり練習するために、胴体を殴ることにしよう。切断部から内部を覗き、心核を切り離して、動きの悪くなったリビングアーマーは倒しておく。
練習の難易度を上げるため、2体のリビングアーマーを同時に相手にする。水球を当ててリビングアーマーを誘導した後、しばらくの間2体からの攻撃を回避することに専念する。回避だけなら全く問題無さそうだ。
攻撃を回避しつつ、カウンターでリビングアーマーの胴体を殴る練習もした。頭より的が大きいので楽だ。もう少し難易度を上げるために、3体同時にした方が良いだろうか。しかし、3体同時に連続攻撃を出されたりすると、さすがに避けきれる自信がない。少し迷いながら、2体のリビングアーマーを交互に殴り続ける。ボディーの内部が空洞のためか、殴ると「ゴーン」と、結構大きな音がする。
クリーンヒットすると、リビングアーマーがよろめいたり、ひっくり返ったりするのは、バランスが崩れているのだろうと、初めのうちは考えていた。しかし、しばらく続けるうちに、胴体が一部へこんでいることに気がついた。あそこは、さっき殴ったところか?胴体はかなり厚みのある鉄板で出来ていたはずだ。防具をはめただけの手で殴ってへこむなど、普通ならあり得ないはずだが。つまり、普通でないことが起こっているのか?
リビングアーマーの胴体をよく観察して、へこんでない部分を思いっきり殴ってみる。やはり、リビングアーマーがひっくり返り、殴った部分がへこんだ。もう一体のリビングアーマーの背後に回り、背中側からリビングアーマーを持ち上げてみた。簡単に持ち上がる。リビングアーマーは、『アーマー』という名前が付いているが、普通の金属鎧よりもはるかに重い。100キロは確実に超えていると思う。初めて倒した時に、頭や腕だけでもかなり重いことを経験している。少し前なら、絶対に持ち上げられなかったはずだ。強化魔法の効果が上がっているのだろう。
そういえば、強化魔法の効果を計測することを、すっかり忘れていた。計量器具を購入して調べた方が良さそうだ。腕力、瞬発力、体の頑丈さがかなり強化されているようだ。
持ち上げたリビングアーマーを投げ落とし、道路に叩きつけると、頭部と腕が壊れて動かなくなった。起き上がって来たもう一体の、腕をつかんでねじり上げてみる。あ、腕が外れた。やはり、関節部分は少し脆いようだ。頭部も力を込めてひねると、「ゴキンッ」という音と共にはずれ、リビングアーマーは動かなくなった。




