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ゴブリン族の伝承

ゴブリン族の伝承を教えて貰い

遺跡の調査に行きます

 上空から、ゴブリン族の村の中央近く、共用かまどのある広場に降下した。ここに来るのも久しぶりだ。1月ぶりくらいか。ゴブリン達が集まってくる。もっと騒ぎになるかと思ったら、意外と皆平然としている。顔見知りのゴブリンの若者が、声をかけてきた。

 「レディク様。よく来た。族長、今来る。大きな氷見えた。レディク様来ること知らせた。」

 大きな氷が見えたら私のせいか。確かに間違っていないな。そういえば、ゴブリン達の見ている前で、かなり氷の固まりを飛ばしている。覚えているゴブリンが、そこそこ居るのか。


 族長もすぐにやってきた。

 「レディク様、お久しぶりです。よくいらっしゃいました。お連れの方々も、ゴブリン族の村にようこそ。」

 「ガラゴリン族長。しばらくぶりです。お元気そうで何よりです。実は、今日は、教えて頂きたいことがあって、伺いました。ガンダリから渡された、ゴブリン族の友の印についての話しです。」首から下げた、ゴブリン族の友の印を示す。

 「ガンダリからレディク様に、友の印をお渡ししたことは聞いています。まずは、私の家に参りましょう。お茶など用意させますので。そちらでお話しいたしましょう。」

 族長の家でお茶をごちそうになり、飲みながら話した。我々が遺跡を調べていること、遺跡の碑文を解読しようとしていて、碑文と友の印に同じ文字が記されていることに気がついたこと、友の印の由来に、遺跡の謎を解く手掛かりあるかも知れないと考え、ゴブリンの村にやってきたことを説明した。


 「遺跡の碑文と言いますと、遺跡の大きな門柱に書かれている、文字のことですね。文字を読むことは出来ませんが、何が書かれているかは、言い伝えられています。」族長から告げられた言葉に驚く。

 「何が書いてあるか、知っているのですか?」

 「我々が遺跡を利用出来なくなってから、長い年月が過ぎていますが、遺跡についての伝承を受け継ぐことは、族長の重要な勤めです。門柱には、こんな言葉が記されていたはずです。」


『ここは水と慈悲の神の守護の砦

 印を持つ物だけが入って良い


 守護を望む物は族長の印を示せ

 光に沿って奥の部屋に行け


 道を使いたいときは眷属の印と友の印を示せ

 友の砦に至る道が開かれる』


 族長に教えて貰った内容は、ヨーダル博士とエクセル博士が解読した碑文の内容と一致していた。若干の意訳と省略があるようだが、意味は完全に通る。

 少しは手掛かりが得られるはずだと考え、ゴブリン族の村に来たが、いきなり碑文の内容が解明されるとは思わなかった。


 「では、この、友の印というものは、もしかして遺跡を利用するための?」

 「その通りです。神が遺跡を作られた時に。遺跡を利用するための印を下されました。族長の印、眷属の印、友の印、の3種類があります。」

 「遺跡を利用出来なくなった理由は?」

 「それは分かりません。2000年ほど前の魔王との戦いの最中、遺跡は利用出来なくなりました。正確に申しますと、遺跡を利用しようとして出かけたものが、誰も帰ってこなくなり、遺跡の利用をあきらめざるを得なくなったのです。」

 「魔王が何かしたと言うことでしょうか。」

 「おそらくその通りだと思います。しかし、何をしたのかが全く分かりません。しばらくの間は調査が続けられました。しかし、犠牲が増えるばかりで改善の糸口をもつかむことは出来ませんでした。無駄な犠牲を避けるため、当時の族長は遺跡に近づくことを禁止しました。もちろん、遺跡を使うことを、すぐに完全にあきらめたのではなく、他の種族とも連絡を取り合って、再び遺跡を利用出来るようにするために、幾度もの試みが行われました。しかし、試みは成功せず、遺跡を利用するための他種族とのやり取りも、次第に途絶え、あきらめとともに遺跡への関心も、失われていきました。」

 「『友の砦に至る道が開かれる』という言葉は、他の遺跡へ行くための道があって、それを利用することが出来るようになる、という意味でしょうか。」

 「その通りです。どのようなものか、私も詳しくは知りませんが、遠く離れた他の遺跡に、ごく短い時間で移動出来たようです。天空の道と呼ばれていました。」

 「われわれは、魔人が遺跡の研究者を捜し出して、殺していることに気がつきました。遺跡の研究の進展は、魔人にとって都合が悪いのでしょう。遺跡を再び利用されないように、用心しているとしか思えません。そのことから、遺跡を利用出来る状態に戻すことは、それほど難しくないのかも知れないと、私は思っています。われわれは、これから遺跡の調査に行くつもりです。ガラゴリン族長も同行して頂けないでしょうか。族長が、遺跡に入っていただく必要はありません。入り口で、助言を頂きたいのです。」

 「助言ですか?ご期待に添えるかどうか分かりませんが、レディク様のご要望とあれば、微力を尽くしましょう。」


 そのあとは、薬草採取のために、レスリーを村に滞在させる件もお願いし、快諾してもらった。レスリーと顔見知りの戦士と、周辺の薬草に詳しい案内役も付けてもらえることになった。

 持参したお土産の話しをした。量が多いので、村の共用倉庫の近くに移動する。武器類、道具類、食料品、布や糸、保存期間延長効果付きの魔法のバッグなどを並べていった。

 途中でガンダリが数人の戦士を引き連れて帰ってきた。周辺の巡回に出ていたらしい。挨拶を交わした後、ガンダリにはミスリルの槍を渡した。驚いていたが、気に入ってもらえたようだ。嬉しそうに様子だった。


 氷の船のサイズを大きくして、族長とガンダリと、他に2名の戦士にも乗ってもらう。こんなに大勢運ぶのは初めてだが、重力操作を併用すれば問題ないだろう。実際に飛んでみると、さすがに少し動きが重い感じだったが、スピードはそれほど変わらなかった。


 遺跡の南の入り口に降りた。

 馬車組も近くまで来ているはずなので、先に遺跡の調査を始めることを、連絡しに行こうとすると、レルミスが伝えに行ってくれるというので、お願いした。


 「族長。印の使い方を教えていただけますか。」

 「分かりました。印はあちらの門柱で使用します。」族長は、左側の門柱を示し、そちらに向かって歩き始めた。右の門柱の近くに降りてしまったので、左の門柱は80メートルほど向こうだ。

 「重要なのは、右の門柱だとばかり思っていました。」族長の後に続いて歩く。

 「実は私は、遺跡の入り口に立つのも初めてです。こんなに大きな道があるとは、知りませんでした。あちらの門柱には、円形の図が描かれていると聞いていますが、ご覧になっていますか?」

 「ええ、確かに、円形の図がありました。」

 「そうですか。正しい伝承が伝えられているようで、ほっとしました。前族長から、伝承を引き継ぐ時に、何度も繰り返して確認しているとはいえ。ゴブリン族が、前回遺跡で印を使ってから、控え目に見ても1400年は経っていますから。」


 左の門柱の前に到着した。記憶通り、表面には直径1メートル以上ある大きな円が浮き彫りされている。円の中には、さらに、丸、楕円、三角、四角などの単純な図形がたくさん、浮き彫りされている。図形の並び方も、大きさもが、バラバラで、一部は重なり合っている。何の意味があるのか、全く分からない。

 「ここで、これを使用します。」族長が、首から下げて、服の下に隠していたペンダントを取りだした。銀色だ。あれが族長の印か。

 門柱の浮き彫りと、族長の印を見比べた時、門柱に族長の印と同じサイズの凹みがあることに気がついた。もしかして、あれが鍵穴?

 思った通り、族長は、凹みに族長の印をはめ込んだ。しかし、何も起こらない。いや、門柱の内部で魔法が発動していることが、かすかに感じられる。やはり魔道具らしい。しかし、魔術構築式は全く分からない。方法は分からないが、魔術構築式を隠蔽しているようだ。

 「ここに、印を押し当てたまま、30秒ほど待ちます。」

 15秒ほど経過した時点で、門柱から広範囲に広がる魔法を感じた。これは、鑑定魔法か?

 30秒ほど経過すると、円形の浮き彫り全体が薄い青色に変わった。族長が凹みから印を抜き取る。円の内部の浮き彫りがすべて消えて、平らになった後、中央付近に3つの凹みが出来た。

 「この状態になった後で、あらためて印を使います。族長の印は、中央の印にはめ込みます。」言葉通りに、族長が印をはめ込むと。今度はすぐに魔法が発動した。凹みの上に、何か文字が表示されている。

 「守護の部屋に行くための道筋が、表示されます。あの青い線です。」族長が指し示す方向を見ると、遺跡の道の左側、歩道のようになっている部分に、幅30センチほどの青い線が表示されていた。道も魔道具だったのか。光魔法と、おそらく鑑定魔法が発動しているようだ。青い線は200メートル以上奥まで、伸びているように見える。

 「この線が表示されている間、印を持っている者と、同行している者は、ゴーレムに襲われることなく、遺跡内を移動出来るようになります。ただし、道筋の表示から30メートル以上離れてはいけません。また、同行者は、印を持つ者から30メートル以上離れてもいけません。」

 「そう言う仕組みがあったのですか。」

 「眷属の印と友の印も使ってみましょう。ガンダリ。眷属の印を左の凹みに。」族長が指示すると、ガンダリが進み出てペンダントを取りだした。黒に近い濃い青だ。凹みにはめ込むと、文字が消え、道に表示されていた線も消えた。

 「これは、ドワーフ族の友の印です。遺跡を利用して、行き来が出来た頃は、他にも、幾つもの友の印があったのですが。これ以外の友の印は、失われてしまいました。」族長は、懐から別のペンダントを取りだして見せた後、ガンダリに手渡した。

 「右の凹みへ。」ガンダリに指示する。

 眷属の印と友の印がはめ込まれると、凹みの上に新たな文字が表示され、道には黄色い線が表示された。

 「これが、ドワーフ族の遺跡に行くための道筋です。」

 ガンダリが、凹みから印を取り外しても、表示は消えなかった。

 「この表示は、凹みから印を取り外しても、3分ほどの間消えません。時間内に印を身につけた者が遺跡に立ち入れば、その者が遺跡を出るまで消えません。」族長が解説してくれた。


 ガンダリが、ドワーフ族の友の印も首にかけると、遺跡に踏み込んだ。

 「行こう。」ガンダリが振り返って言う。

 「えっ?!」予定にない呼びかけに驚く。

 「ガンダリの言うとおりです。遺跡を調べるためには、奥に入る必要があるでしょう。入り口で調べただけでは、どんな異常があるのか分からない、ということだけは、分かっているのです。もちろん、天空の道を使おうとするのは危険だと思いますが、まっすぐ奥に進むだけならば、あまり危険はないと思います。守護の部屋に行くにも、他の遺跡に行くにも、まっすぐ進んだ後、左に曲がり、少し先にある部屋に入る必要がありますが、異常が発生するのは、ほとんどの場合左に曲がった後です。」

 「入り口から見えない位置まで、進んだ後が危ないと言うことか。」

 「そう言うことだと思います。」

 「わかった。そういうことなら、曲がり角まで行ってみよう。ただし、ガンダリは、私の10メートル後ろを付いてきてくれ。それから逃げろと言ったら、すぐに逃げてくれ。私1人なら空を飛んで素早く逃げられるが、ガンダリがそばにいると、そうも行かない可能性がある。」

 「わかった。」ガンダリの同意を取り付けた後、2人で奥に向かった。



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