重力操作魔法
重力操作魔法を身につけて、ますます速く動けるように
そして、ゴブリンの村に出かけます
一休みした後、アベリアは再び遺跡に行っている間の食事の用意を始めた、レスリーとローズも手伝う。11人で5日分だと160食分以上になるからたいへんそうだ。
私は幻影魔法と探査魔法の練習をするつもりだったが、その前に、重力魔法が使えるようになっていることに気がついた。能力強化は双方向に働くらしい。すばらしい技術を手に入れたのかも知れない。単純に嬉しくなるが、一歩間違えれば大変なことになっていたかも知れないことを思い起こし、自分を諫める。猫耳戦士とレルミスの能力、心、体におかしな影響が残っていないか、少なくとも数日はよく観察し、見極める必要があるだろう。場合によっては、この技術は二度と使わないことになるかも知れない。人の能力や体に、直接干渉する魔法の応用には、慎重であるべきだ。
重力魔法が使えるようになったことは、単純に喜んでも良いだろう。早速練習に取り組む。小さな水球を出して、上向きの重力をかけてみる。発生させた上向きの重力が、本来の重力と同じ強さになると、水は空中にふわふわと浮くが、静止するわけではない。ごくわずかな空気の動きで、ふらふらと移動していく。不思議な感覚だ。
横向きの重力が発生させられるかも試してみると、思った通り可能だった。水球は横向きに落ちていった。壁に当たる前に逆向きの重力を発生させて引き戻す。重力魔法では、加速度の操作しかできないので、細かい制御は難しい。
重いものを動かす時にも、軽いものを動かす時にも、消費する魔力は変わらない。重力操作で消費する魔力の量は、主に発生させる加速度の大きさで変わる。つまり、軽いものを動かす時には、めんどくさくて効率が悪いだけの魔法だが、重いものを動かす時には、非常に効率の良い魔法になるようだ。重力操作だけで物を浮かせるには、100キロ以上の重さの物でないと効率が悪いようだが、加速度を半分にすると、消費魔力は4分の1くらいになる。人間くらいの重さの物を浮かせる時には、重力操作と水魔法を併用すると効率が良さそうだ。
庭に出て、低空での素早い動きの練習をしてみた。50センチほど浮き上がった状態で、4-5メートルの円を描くように、最初はゆっくりと飛行し、連続的に重力操作の方向を変えていく。慣れてきたら次第にスピードを上げて行く。慣性を打ち消す方向に重力を発生させると、体への負荷も低減されて、良い感じだ。以前よりもシャープな動きが出来るかも知れない。限界を見極めようと、どんどんスピードを上げて行った。
しかし、限界に達する以前に、体の周囲に結構大きなつむじ風が発生していることに気がついた。しまった、町中ではまずい。すぐに動きを止める。頭上10メートルほどの高さに巻き上げられた土埃に気がつき、幻影魔法で見えないようにする。
屋外で訓練していた、ヒュー、クロエ、ロジル、ターボ、ザザイの5人が集まってきていた。
「つい練習に夢中になって、少し派手な状態になってしまったようだ、今のはだいぶ目立っていたと思うか?」一番近くにいたヒューに、たずねてみる。
「つむじ風が大きくなってからは5秒も経っていないですから、大丈夫だと思います。」
「今のは、トルネードを組み合わせた複合魔法でしょうか?威力を抑えているとはいえ、町中でトルネードを使うのはいかがなものかと思いますが。」ロジルが言う。以前にもレスリーに、トルネードとか言われた覚えがあるが、そんな魔法は知らないのだが。
「飛行魔法の練習をしていただけだ。少し素早い動きの練習をしていて、スピードを上げすぎたようだ。」
「な・・何を言っているのかわからねーぜ。少し素早いとか、そんなちゃちなもんとは思えねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を見た。というか、速すぎてほとんど見えなくなってたんだが。」ザザイが言う。
慣性を打ち消しているせいで、体感的にはそれほどスピードが出ている感じがしなかったが、重力操作と水魔法の併用は、予想以上に効果的だったようだ。
飛行魔法の練習は、やはり町中では危ない気がしたので、ヒューに手伝ってもらい、幻影魔法と風魔法を組み合わせて、遠く離れた状態で会話する練習をしてみた。やってみると、すごく難しいことがわかった。自分の映像を遠くで幻影として投影する魔法、遠くの映像を近くの幻影として投影する魔法、遠くで音を発生させる魔法、遠くの音を聞き取る魔法、の4つを同時に発動させるのだから、難しくて当然ではあるが、初めのうちは映像が消えたり、ずれたり、ぼやけたりするし、音が大きくなったり、小さくなったり、途切れたり、ハウリングが発生したりで、なかなかうまく行かなかった。しかし、1時間半ほど練習を続けると、ある程度は会話が続けられる程度まで上達した。
考えてみれば、いきなり会話の練習は無謀だったか、初めは遠くの映像を幻影で表示する程度の練習をするべきだったかも知れない。そろそろ夕食の時間だと思うが、新たな練習課題を思いついたので、こっそり寝室に行き、厨房の映像を幻影として表示させてみた。アベリア、レスリー、ローズが夕食の準備中だ。音声も聞こえるようにする。アベリアがローズに、パンとサラダを食堂に出して欲しいと頼んでいる。
映像を拡大して、幻影が鮮明で美しくなるように集中する。アベリアのうなじや、レスリーの背中から腰のライン、ローズの足を鑑賞した。やはり、こういう映像を見る練習をした方が、集中力が増して、練習効果が高そうだ。視点をローズの足下に移動して、上向きの映像を表示させた。白のレースか。
ローズがスカートを抑えて、振り向き、見下ろしてきた。勘が鋭いな。たいしたものだ。ローズは首をかしげて、「レディク様?」とつぶやき、それからクスリと笑うと、自分でスカートをたくし上げて、中を見せてくれた。
「もうすぐ、ご飯ですよ。」ローズはそう言って、食堂にサラダを運んでいった。
アベリアとレスリーは、何が起こっているか気がついていないらしく、ローズの言葉を聞いて不思議そうな顔をしている。アベリアの黒のレースと、レスリーのクマさんも鑑賞した後、食堂に移動した。
夕食後に風呂に入り、食堂で冷やしたハーブティーを飲んでいると、猫耳戦士がやってきた。バスローブを着ている。アベリアに貰ったのだろう。少し顔を赤らめているが、吹っ切れたような表情をしている。
隣の椅子に座り、身を寄せてきた。
「耳を触って見たがっていることは、知っているにゃ。何時でも好きな時に、触っても良いにゃ。」耳元に囁きかけてくる。
猫耳戦士が考えていることが、私に少し分かったように。私の考えていることも、猫耳戦士に筒抜けだったようだ。今更遠慮することもないか。たっぷり触らせてもらった。柔らかくて気持ちが良い。ぴくぴく動くのがかわいいな。
「ふにゅ・・にゅにゅ・・ふ・ふに・・ふにゅんん・・。」猫耳戦士も気持ちよさそうな顔をして、変な声を発していた。少し手を休めると、我に返った様子で、さっと身を離す。
「さすがヤリチン大魔神だにゃ。やばいにゃ。ちょっと触られただけで、気持ちが良すぎて、気が遠くなったにゃ。」
「尻尾も触って良いか?」
「さ・触りたいなら仕方がないにゃ。」顔の赤みが強くなったが、こちらにお尻を向けてきた。バスローブの裾から、ゆらゆら動く尻尾が覗いている。尻尾を下からすくい上げるようにすると、バスローブの裾がめくれて下着が見えた。不思議な下着も貰っていたのか。やる気満々らしい。しかし、このまま食堂で続けるのはまずそうだ。
「続きはベッドの上でしようか。」猫耳戦士の手を引いて、2階に移動する。
「ベッドに連れて行ってどうする気にゃ?さてはやりまくる気だにゃ?大変だにゃ。貞操の危機だにゃ。ヤリチン大魔神に襲われちゃうにゃ。」猫耳戦士は嬉しそうについてきた。
猫耳戦士がぐったりした頃に、アベリア、レスリー、ローズの3人がやって来た。タイミングを計っていたのかな?見ると3人とも猫耳を装着している。
「レディク様が、猫耳と尻尾をお好みのようでしたので、私たちも装備してみました。」アベリアがバスローブを脱ぐと、尻尾もついていた。
「尻尾を付ける練習が、大変だったですー。」
「レディク様に喜んで頂けるように。練習、頑張った。」
せっかくなので、3人の練習の結果を、じっくりと確認させて貰うことにした。
翌朝は、夜明け頃に目が覚めた。昨夜の運動が少し長引いたので、いつもより遅めだ。
朝食を食べながら、予定の再確認をする。今回は5日の予定だが、主目的は遺跡の謎の解明なので、状況によっては前後する可能性がある。冒険者依頼をクリアするだけなら、2-3日で十分だろう。
朝食後。前日のうちに用意してあった荷物を、2台の大型馬車に積み込んで出発した。
北門を出て30分ほど進み、周囲に人の気配が無くなったところで、レスリーとローズを連れて先行することにする。レルミスも一緒に飛んで行くというので、少しの間一緒に飛んでみたが、スピードが全然違った。レルミスは50キロ前後のスピードで飛ぶのが限界のようだ。置いていくのもかわいそうなので、レルミスも氷の船に乗せた。重力魔法を併用出来るようになり、以前よりも少ない魔力で、高速で飛ぶことが出来る。200キロくらいのスピードが出ていそうだ。
泉のそばの休憩所で、いったん地上に降りて、休憩所の扉を開くようにする。その後、再び空を飛び、ゴブリン族の村に向かった。
灰の森の上空を飛ぶのは初めてだ。鬱蒼と茂った森の木々の下は、上空からは全く見通せず、どの当たりを飛んでいるのか、全く見当がつかない。ちゃんとゴブリン族の村にたどり着けるかどうか、少し不安になる。しかし、高度を上げて周囲を見渡すと、森を大きく切り開いて作られたゴブリン族の村は、かなり離れた場所からでも、容易に見つけ出すことが出来た。




