能力強化
遺跡とゴブリンの村に行く準備をします
魔力増強中に、異常事態が発生してあわてます
翌朝。朝食後に武器工房に行った。ダリルに同行してもらう。
始めに槍を見た。長柄の武器は、大型のモンスターと戦うときに役に立つので、一定の需要があるそうだ。長柄の武器の中でも扱いやすい槍は、よく売れるらしく、在庫もかなり多かった。ゴブリンでも使いやすそうな、やや小振りの槍の中から、質の良い物を探す。鋼鉄の槍8本とミスリルの槍1本を買うことにした。
期待したほど普通の槍の数が揃わなかったので、形状の異なる槍や、槍以外の長柄武器も調べた。手頃なトライデントを見つけたので購入する。槍以外の長柄武器では、ハルバートとグレイブもあった。ハルバートは槍と斧を組み合わせたような武器、グレイブは長柄の先に片刃の剣を付けた、薙刀に似た武器だ。
「ハルバートは強力な武器だが、重いし、使い方にこつがある。ゴブリンには使いこなせないかも知れない。グレイブもやや重いが、使いこなしはそれほど難しくない。槍代わりにも使えるし、斬撃武器としても使える。」という、ダリルの意見を聞き、グレイブも少し買っていくことにした。
その他の装備品として、ショートソードとハンティングナイフも、10本ずつ購入した。
「ゴブリン用の装備として、他に良さそうな物はないだろうか?」ダリルに質問する。
「ゴブリンの装備の好みは知らないが、クロスボウはどうだろう。連射は効かないが、不器用な人間でもそれなりに使えるし、威力も大きい。」
そういえば、弓矢はうまくないと言っていた気がする。良いかもしれない。小型のクロスボウを探し、手で引くタイプと、強力な機械式とを3つずつ購入した。クロスボウ用のボルト(矢)も300本買っておく。
他に持っていって喜ばれそうな物はないかと、ゴブリン達の生活を思い浮かべ、しばらく考えた後、武器以外の金属製品も買っていくことにした。雑貨屋に行き、斧、のこぎり、鎌、砥石、鍋なども購入した。
家に帰ると、ヒュー、ロジル、アベリアの3人も帰ってきていた。ギルドでの依頼の確認・受注と、市場での買いだしを頼んでいたのだ。
受注出来た冒険者依頼の内容を聞いた。
「ガーゴイルとリビングアーマーの素材の、収集依頼が2件ずつありました。ガーゴイルの方は心核8個の依頼と、心核40個以上の依頼です。40個以上の方は、上限なしで、いくつでも引き取ってくれるようです。」ヒューが説明する。
「ほう。都合の良い依頼があったな。しかし、大丈夫なのかな?」
「40個以上とか、そんなにたくさん大丈夫でしょうか?」ロジルが若干不安そうに言う。
「いや、私が『大丈夫かな』と言ったのは、200個以上持っていっても、ちゃんと引き取ってくれるのかな、と言う意味だが。」
「大きい商社からの依頼ですから、大丈夫だと思います。前回我々が売った心核も、その商社が、まとまった数買い取っているらしいです。グリムドールへの輸出も考えているらしいですね。ロジルさん、我々は1回の遠征で、170個以上のガーゴイルの心核を収集したこともありますから、40個なら余裕ですよ。」
「余裕ですか。レディク様のパーティーなら、そうかも知れませんね。」
「ガーゴイルとは戦ったことがあるのか?もしかして剣を壊したか?」
「ええ、まあ、そんな感じです。動きが速いのは、リーダーがなんとかしてくれましたが、硬いのですぐに剣が、折れはしませんでしたが、ボロボロになってしまって、後が大変でした。」
「ガーゴイル狩りには、ちょっとしたこつがある。分かってしまえばすごく簡単だから、心配する必要はない。」
「リビングアーマーの方は、心核2個以上、上限なしの依頼と、両腕1対の収集依頼がありました。」
「腕とは変わった依頼だな。」
「防具職人が、研究に使いたいらしいです。」
「ああ、なるほど。あの腕は良く動くな。間接の作りとかが、優秀なのかも知れないな。」
アベリアは今回も留守番の予定だが、遺跡に行っている間の食料の準備などは頼んでいた。レスリー、ローズ、クロエに加え、実はダリルとロジルも、それなりに料理は出来るのだが、アベリアほどの腕はない。そこで、普通の保存食の他に、調理済の食べ物や、下ごしらえ済の食材を、大量に魔法のバッグに準備してもらえることになった。
アベリアと、手伝いのローズとクロエが、厨房で調理中だ。3人で働いていると、厨房が狭く見える。この家を借りたときは、家全体も厨房も余裕たっぷりに見えたのだが、人数が倍以上に増えて、手狭になってしまった。次に家を借りるか買うかする時には、もっと大きい家にしないとダメだろう。しかし、これ以上大きい家だと、豪邸になってしまいそうだ。
レスリーは冒険者ギルドの資料室で、薬品や薬草について調べている。既にハイポーションの上質品も、コンスタントに作れるようになっているため、その他の治療薬や強化薬、さらに私のリクエストで毒薬の類も作れるように、準備を進めているところだ。
ゴブリン族の村に持っていくお土産の、整理と確認を済ませた後、私もギルドの資料室に出かけた。幻影魔法の研究と練習をしている時に、もっといろいろな応用が出来そうな気がしたので、参考資料を探したかった。
資料室では、以前に幻影魔法ついて書かれた本を、見かけた覚えがあった。記憶を頼りに書架を探すと、『幻影魔法の理論と応用』という、結構分厚い本が見つかった。本を開いて、拾い読みする。これはよい本だ。魔法の発動条件、魔術構築式、応用の具体例などが詳細に書いてある。
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●幻影魔法の応用範囲
初期の幻影魔法は、映像を拡大・縮小・変形する程度のものであった。遠くの物を見たり、敵に変形した映像を見せ戦闘を若干有利に運ぶ、などの用途に用いられていた。
ニケーヤ歴1600年代に現れた、幻影魔法の天才ラドテリオスによって、幻影魔法の技術は長足の進歩を遂げ。応用範囲も広がった。
ラドテリオスの第1の功績は、幻影魔法専用の、3種類の機能を持つ魔道具を開発したことである。第1の機能は、画像を保存・再生する機能。第2の機能は、画像を作成・加工する機能。第3の機能は、現実の光景や、保存された画像を組み合わせて、複雑な幻影を、違和感なく発生させる機能である。
これらの魔道具により、幻影魔法は、情報の記録・伝達や、隠密活動などにも利用できるようになった。もちろん、違和感のない高度な幻影は、戦闘時にも、従来の幻影魔法とは比べものにならない、大きなアドバンテージを使用者にもたらした。
40歳前後の、最盛期の頃のラドテリオスは、常に幻影魔法を発動し続けており、変幻自在・神出鬼没と言われていたようである。顔つきや服装が、見ている間にも変わっていくだけでなく、しばしば姿を消して、離れた場所に自分の幻影を発生させた、という逸話が残っている。風魔法を使った遠話も得意だったため、幻影魔法と遠話を組み合わせ、離れた場所にいる相手の、すぐそばにいるように見せかけて、会話することも可能だった。・・・・・・・・・・・
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『画像を作成・加工する』魔道具は、なんだかグラフィックワークステーションみたいな物らしい。魔術構築式はそれほど複雑ではないが、ガーゴイルなどの心核を組み合わせて作る必要があるようだ。
メモを取ったりしている間に、昼近くなっていた。レスリーを探して声をかけ、一緒に戻った。
昼食を食べ、少し休憩し、『光の勇者』のメンバーには、ガーゴイル狩りのこつについて話した。しかし、どうも半信半疑のようである。遺跡に着いてから、実際にやって見せれば納得するだろう。
今日は、昼過ぎから練習と魔力増強を行った。
猫耳戦士とレルミスは、初めから赤らめた顔をそらし気味にして、目を合わせようとしないが。少しずつ近寄ってきている。恥ずかしいけど期待している、という感じか。練習と魔力増強をするだけなんだが、こんな態度を取られると、何かいけないことをしているような感じで、やりにくい。特にレルミスは、実年齢はともかく、見た目がロリだし。
気にしない振りをして、練習を進めるが、魔力増強を始めると、猫耳戦士とレルミスが腕に抱きついてきた。昨日みたいに体に抱きつかれるより、多少はましか。今日は、昨日よりさらに感触が柔らかくなり、たくさんの魔力が入るので、魔力増強は順調だ。
練習も魔力増強も十分進んだので、そろそろ切り上げようかと思ったら、猫耳戦士とレルミスが異議を申し立てた。
「もっと、気持ちよ・・じゃなく、魔力増強。魔力増強が必要にゃ。いっぱい、思いっきりして欲しいにゃ。」
「そ・そうですわ。魔力増強のためですもの。昨日みたいに、ぐいぐいぐいぐい、気が遠くなるほど、レディク様のものを入れて欲しいです。」
ようするに、欲求不満なのかな。あまり力を入れなくても、十分魔力増強出来ているから、今日は昨日ほど力を入れていないし、時間も短めだった。
仕方ないので、最後に思いっきり、魔力を入れてやることにする。昨日どのくらい力を加えたかを思い出しながら、力を込めて魔力を押し込んでいくと、びっくりするほどたくさんの魔力が入っていく。それを何度も繰り返す。時間を掛けてしつこいくらいに、魔力を入れ続ける。おや、魔力を入れる時の抵抗が、さらに弱くなっているな。
いきなり、魔力を入れる時の抵抗がまったくなくなり、大量の魔力が流れ込む。ギクリとした。まさか、何かを壊してしまったのか。ビニール袋にたくさんのものを入れすぎて、袋が裂けてしまった状態を連想する。慌てて二人の状態を確認するが、外見的には異常がない。苦痛の表情も見られない。それどころか、二人が快感を感じていることがわかる。
いや、二人が感じている快感が、少し感じられるような気がする。何が起こっているのか分からず、混乱する。二人が、抱きしめて欲しいとか、キスして欲しいとか、頭を撫でて欲しいとか、しっぽを撫でて欲しいとか、いろいろ考えていることが感じられる気がする。無難なところで、レルミスの頭を撫でて、猫耳戦士のしっぽを撫でてやると、二人が幸福感・快感を感じていることがわかった。
おっと、こんな事をしている場合ではなかった。すごくおかしいことが起こっているが、正確に何が起こっているかはわからない。対応を誤ると、二人の身に悪影響が残る可能性もある。
魔力を使って慎重に探り続けると、二人が身につけている魔法に関する技術が、手に取るように分かることに気がついた。猫耳戦士は、魔法の発動速度だけは、そこそこ優秀だが、魔力制御能力はほとんどない。レルミスも、比較的優秀な魔法の技量と経験を持っているにもかかわらず。魔力制御に関しては未熟だ。このままでは、魔力増強で多量の魔力が使えるようになっても、十分に使いこなせないだろう。
レルミスの持っている重力操作魔法の魔術構築式も、見ることが出来た。ライトとヘヴィーという、二つの魔法があるようだ。レルミスはライトの魔法と風魔法を組み合わせた、空を飛ぶための複合魔術構築式を用意していた。自分で複合魔術構築式を作ることが出来る、という点では優秀だが、複合魔術構築式に頼りすぎたために、魔力制御の訓練がおろそかになっていたのかも知れない。
昨日と今日の2日間の魔力増強で、二人の魔力は大幅に増えているはずだ。二人の今の魔力の量は・・・と、考えて、二人の魔力が感じられないことに気がついた。魔力を失ってしまった?いや、二人の中には確かに魔力が存在している。ただし、その魔力はさっきから、全面的に私が制御している状態なのか。ようやく、何が起こったのかが分かってきた気がする。一度に大量の魔力を入れすぎたため、魔力量が二人の制御出来る限界を超えてしまったのかも知れない。本来ならば、二人の中に入った時点で、私の制御から離れるはずの魔力が、私の制御下にある状態で、二人の内部に入り込んでしまっているのだろう。
正確なところはわからない。そもそも、二人の『中』って、どこなのかもわからないし。魔力がどういうものなのかも、はっきりとは分からない。解決策もよく分からない。入れすぎた魔力を抜いて、少なくすればいいのかと思ったが。それだけでは、魔力制御は回復しないようだ。
二人の持っている魔力制御能力を調べる。自分の持っている能力と比較してみた。おかしな状態になった影響か、自分の能力も以前よりはっきり分かる。私の持っている能力のすべてを、二人に身につけさせることは、キャパシティー的に不可能だと思うが、魔力の継続的制御とか、段階的制御とか、複数魔法の同時制御とか、魔力による感知能力とか、最低限身につけさせたい能力を、頭の中で数え上げていく。再度二人の能力に意識を向けると、二人の能力が変化していた。いや、変化しつつある状態なのか。少しずつ能力が強化されていく。同時に二人がストレスを感じていることも分かった。精神的に負荷が高いのかも知れない。あまり無理をさせない方が良いだろう。
魔力制御能力は、少し強化されたと思うが、魔力制御は回復していない。魔力制御能力は、普通ならば常時発動している。寝ている時にさえ、多少は能力が働いている。能力を持っているのに、発動していない状態は、考えられない。一種のショック状態なのだろうか。魔力制御能力が働くように念じてみる。うまく行かないようだ。二人の魔力制御能力を介して、魔力を動かそうとしてみる。うまく行きそうな感じだ。
二人の魔力制御能力が再び発動すると、二人の中の魔力はすぐに二人の能力の制御下に入った。いったん、私と二人の両方の能力から、同時に制御されるおかしな状態になったが、私がゆっくりと制御を手放すと、完全に正常な状態に戻ったようだ。
気がつくと、アベリア、レスリー、ローズの3人が、心配そうに見つめていた。私は十数分ほどの間、無言で固まっていたらしい。二人は眠っているようだった。精神的な疲労で、しばらく目を覚まさないかも知れない。
毛布を持ってきてもらい、二人はその場で寝かせておくことにする。我々は、食堂に移動して休憩した。お茶を飲みながら、3人に何が起こったかを話す。もしかすると、かなり危険な状態だったのかも知れないが、強力な能力強化の技術が手に入ったという解釈も出来そうだ。
ともあれ、二人が目覚めるのを待って、状態を確認する必要があるだろう。




