紛らわしい託宣
森の女神の託宣が明らかに
託宣の文面を考えるのに、思いの外時間がかかってしまった
盗品の件についての、話が終わったところで、リンドにダンジョンで出会った少女の話をした。
「また、女神の託宣か、レディクは女神に大人気だな。しかも『ヤリチン王』を探せか。たくさん子供を作りそうなところが、気に入られたんじゃないのか?」リンドが笑いながら言う。
「人ごとなら私も、笑っていられたんだがな。」
「いや、すまん。しかし、その託宣。・・ププッ・・おかしいだろ。」リンドは真顔に戻ろうとして失敗したようだ。
「確かにな。私だって、当事者でなかったら、絶対笑っていると思うが。」
「『光の勇者』に森の女神の組み合わせか。考えてみると、変な勘違いが起こっている可能性は、否定出来ないな。『光の勇者』のレルミスと言えば、『うっかり冒険者』とか『ちゃっかり冒険者』とか『残念冒険者』とかも呼ばれている。しばしば、勘違いでおかしな行動を取るらしい。2級冒険者なのに、あまり尊敬を集めていないが、かなり人気がある、異色の存在だ。森の女神の託宣も、わかりにくいことが知られているしな。」リンドは真顔に戻ることに成功したようだ。
「『光の勇者』って有名なのか。そんなに失敗続きで、よく2級に成れたな。」
「勘違いでおかしな行動を取るが、失敗しないどころか、かえって成功したり、人に感謝されたり、そんなエピソードが多いらしい。」
「なんとなく、想像はつく。」
「女神の託宣に従う者になら、正体を教えても問題ないだろう。勇者様なら当人の希望も満たしているようだし、遠慮無くやっちゃえばいいんじゃないのか?」
「人ごとだと思って、気楽に言っているな。」
「女神の託宣には、従っておいた方が良いだろう?」
「たしかに、託宣を無視しては、まずいかも知れないという気はするが。託宣の詳しい内容と、預言の内容も調べてから判断したいと思う。」
「まあ、手伝えと言うなら、手伝うが。私は『今調査中だが難航している』とか、難しい顔で、適当なことを言うだけでいいんだろう?」リンドのおどけた表情に、皆笑った。
その後で、しばらく、アスターの復興や、魔人の活動の調査の進捗について話を聞いた。
玄関に誰か来たようなので、レスリーとローズが応対に出た。レスリーがすぐに戻ってくる。
「レルミスさんが、来ちゃいました。」
「はて。この家の場所は教えていなかったと思うが?」
「素敵なお住まいですね。北門の近くの工房で聞いたら、教えてくれました。」レルミスが現れて、自慢げに言う。案内も待たずに勝手に入り込んできたようだ。
「あの。ご迷惑でしたでしょうか?」急に、自信なげな様子でたずねた。後から慌てて追ってきた、パーティーメンバーに、小声で怒られたようだ。
「今、君の話をリンドにしていたところだ。エドリンのギルド長のリンドは知っているか?」
「お見かけしたことはありますが、ご挨拶するのは初めてです。私は・・。」言葉をいったん切ると同時に、魔法発動の気配。またあの挨拶をするつまりか?でも、その場所では。
ふわりと浮き上がったレルミスは、食堂入り口のドアの枠に頭をぶつけ、空中で頭を抑えてうずくまる。その姿勢のまま、くるりと回った。
「失礼しました。冒険者パーティー『光の勇者』のリーダー。レルミス・ルティネールと申します。」涙目で挨拶した。
「頭大丈夫か?」一応ヒールを掛けておこう。
来てしまったものは仕方がないので、座らせて、お茶を出した。
レルミスには、今ちょうどリンドに、託宣に関わる人捜しを頼んだところだ、と話しておく。
「私も今は少し立て込んでいるので、すぐにというわけには行かないが、女神の託宣に関わることゆえ、協力したいと思う。有能で、信頼出来る者に調べさせるつもりだ。」リンドがまじめくさった顔で、もっともらしいことを言った。結構ノリノリじゃないか。ローズがプルプルしている。吹き出しそうなのを我慢しているのか。
レルミスが託宣の内容を紙に書いた物を持ってきたので受け取った。
リンドが、そろそろ帰らなくては、と言って席を立つ。見送りながら、目録に目を通したら、連絡するのでよろしくとお願いする。『光の勇者』のメンバーが、我々も帰ります、と言ってレルミスを引っ張って行った。レルミスはまだ帰りたく無さそうにしていた。もしかして気に入られたのか?
リンドの残していった目録を調べた。品目数が多いし、なんだかよく分からないものもあって、目を通すのが大変だ。調味料などの食材もあったので、アベリアの意見を聞いて、チェックを進める。面倒だから全部売ってしまおうか、とも思う。
などと思っていたら、目録に魔法のバッグが載っていた。さっき魔道具屋で見た物より高機能の、最高級品が4つある。さらに、保存期間延長効果はないが、大容量で重量低減効果の大きいバッグも4つあった。買わなくて良かった。
「レディク様。見て。この託宣。レルミスさん。勘違いしている。」目録を見ている途中、ローズに声をかけられ。レルミスが置いていった、託宣の内容を書いた紙を、押しつけるように渡された。
託宣は以下のような内容だった。
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エルロンの地におもむき、男を捜せ。
今はまだ名の隠されたる男なり。
予言の名を名乗る者なり。
男はヤリチン王と呼ばれることあり。
多くの女を従える者なり。
愛の戦士を従える者なり。
男は枯れること無き、たくましき力を持つ者なり。
その力を、日に幾度も従えたる女の器に注ぎ込み、器を押し広げ、高める者なり。
男に従う女、男の導きにより、より深く感じる術に目覚めたり。
汝もまた、男に従い、男の力を自らの器に注ぐことを請うべし。
年若きうちに繰り返し、男の力を器に受け入れたれば、汝の器は押し広げられ、汝目覚め、男と共に、高みに至らん。
男と共に技を深め、極めるべし。
汝の勤めが良き実を結びたれば、世の闇を払う光、もたらす助けとならん。
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「あー。なるほど。この託宣じゃ、勘違いするのも無理ないな。」
「女神がおかしい。」
「ローズの言うとおりだ。何を考えているのやら。いや、待てよ。女神にとっては、勘違いされても、結果が同じなら問題ないのか。」
「結果が同じ?」
「勘違いのままでも、もし私がレルミスを受け入れたら、レルミスは私の愛人のような状態になる。愛人なら我々の練習にも参加するだろう?」
「おお。確かに。結果は同じかも。」
「それに、託宣の内容が、誤解の余地のないものだと、私の能力が他の人間に知られる恐れもある。ということは、誤解されやすい言葉であることが、良かったのかも知れない。」
「女神の深謀遠慮?」
「どうなのかな。この託宣の内容。面白がって作っている気もするが。」
託宣の内容が、少女と寝ろとか、子供を作れとかではないのなら。心理的難易度はぐっと下がる。女神の託宣を受けている相手だし、魔力増強訓練を行うくらい、問題ないだろう。
しかし、長期間一緒に行動するなら、私の能力や魔人との戦い、預言のことも教えないといけないか。教えても問題ないだろうか?『光の勇者』のメンバーを思い浮かべる。残念少女と、少女を見守るお人好し集団か、残念ではあっても、人格的には信用出来そうだし、大丈夫かも知れない。
あとは、どういう風に話すかだな。ヤリチン王を探した結果、見つかりました、実は私です、とか言うと顰蹙を買いそうな気がする。もっともらしい話し方を考えないといけないな。あとは、リンドにも伝えておかないと。
ひとしきり、考えを巡らした後、目録の確認に戻った。今日中に確認し、明日にでもリンドに結果を伝えに行こう。
目録の中に幻影の魔道具が入っていた。隠れ家への道を隠すために、使われていた物だ。興味があったので、もらって調べることにした。
翌日の午前中。女達に、魔道具作成、ポーション作成、回復魔法の練習をさせながら、あいまに目録の再確認をしていた。練習が終わった後出かけるつもりだ。
お茶の用意でもしようと、階下に降りると、ちょうど来客があった。応対に出るとレルミスだった。
「昨日はあまり、ゆっくりとお話しすることも出来ませんでしたので、また伺いました。今日は1人です。」ゆっくりする気満々のようだ。話すこともあったし、ちょうど良いか。
「入ってくれ。今ちょうど、お茶の用意をしようとしていたところだ。君に話したいこともあったし。ちょうど良い。」
食堂に案内して座らせ、カップなどを出そうと移動する。
「ヤリチン大魔王!」突然、猫耳戦士が、大声を上げて飛び込んできた。
「ヤリチン大魔王。ヤリチン大魔王と寝ると、魔力が増えるって本当にゃ?!」レルミスが居ることにも全く気がついていないようだ。
「何か勘違いしているようだが・・」
「誤魔化そうとしてもダメにゃ。ローズとレスリーが言ってたにゃ。作業室にこもっているときに、魔力増強してもらっているって。」
「その通りだな。」
「ヤリチン大魔王が、作業室でやりまくってることは知ってたにゃ。しょっちゅう喘ぎ声が聞こえてたにゃ。『レディク様のが出たり入ったり』って、聞こえてたにゃ。でも、魔力増強できるなんて知らなかったにゃ。森の女神の託宣もそう言う意味だって聞いたにゃ。」
「ヤリチン大魔王?・・魔力増強?・・」レルミスが呆然としている。
「確かに魔力増強はしているが、勘違いして居るぞ・・」
「しらばっくれようとしても無駄にゃ。証拠は挙がっているにゃ。私ともやるにゃ。」猫耳戦士が服を脱ぎ始めた。そんなに魔力を増やしたいのか。
「私ともしてください。」猫耳戦士の勢いに飲まれたのか、レルミスまで服を脱ぎ始めた。
「お二人とも、レディク様に抱いていただくなら、ベッドに行きませんか?食堂でなんて、はしたないですわよ。」アベリアが登場した。レスリーとローズも食堂を覗き込んでいる。
「さあ、ベッドに行きましょう。」アベリアが二人を引っ張っていく。二人とも「えっ?」とか「にゃっ?」とか言いながら、脱ぎかけの下着姿で連れて行かれてしまった。仕方なく付いて行く。移動しながらもアベリアが、男の人を誘うには、もっと色っぽく脱がないとダメだとか。こういうポーズをすると良いとか。いろいろ話している。
ベッドの前に到着した。
「さあ、ここで続きをどうぞ。」とアベリアが言うが、二人とも真っ赤な顔で固まっている。勢いに任せて脱いでしまったが、我に返ったようだ。
固まっている間に、二人に魔力増強の方法について説明する。魔力増強のために、私と寝る必要はないことを理解したことを確認し、私と寝るかどうか、あらためて聞いた。
「ちょっと無理にゃー。」猫耳戦士は毛布の下に潜り込み、顔だけ出して言った。
「失礼しましたー。」レルミスは逃げて行った。
レルミスが身支度出来るよう、ゆっくりと食堂に向かうと、服を着終わったレルミスが、玄関から逃げていった。
そのうちにまた来るだろうと思ったので、気にせずお茶にする。
レルミスは10分後に戻って来た。
「魔力増強を、お願い出来ますでしょうか。」顔を赤らめて、頭を下げた。




