エルフの少女?
エルフ登場です
ちょっと残念だったり、かわいそうだったりします
28層も一つの大きな部屋らしかったが、見通しが効かないため、よく分からなかった。起伏の多い地形に、大きな樹状構造物が多数生えて、視界を塞いでいた。樹状構造物は見た目は木に見えた。しかし、ダンジョン内に木が生えるとは、考えにくいので、木に似た何か別の物ではないかと思う。頭上の隙間から、天井が高く、明るい様子は見て取れた。
28層からは、ダンジョンパンサーが居るはずだ。我々が受けたメインの依頼のもう一つは、ダンジョンパンサーの皮の収集だ。
ダンジョンパンサーには会ったことがないが、キラーパンサーと同じように、待ち伏せをしそうな気がした。
28層に入ったところで、いったん立ち止まって、周囲を探った。思った通り、50メートル先、右側の岩陰に1頭隠れている。170メートル程先の樹上にも隠れている。近くにバンパイアも隠れていた。こいつら、冒険者が来るまで、ずっと隠れ続けているのだろうか。ふと、疑問に思った。
少し待ってから、最初の1頭に近づいた。飛びかかろうとした瞬間に、頭の内部を凍らせる。キラーパンサーよりやや小型の黒豹が、岩の上から転がり落ちてきた。
「ヤリチン魔王は虫取り香みたいだにゃ。近づいただけで、モンスターがころころ落ちてくるにゃ。」猫耳戦士が黒豹をつついている。ちなみに、虫取り香とは、蚊取り線香のようなものだ。
「ダンジョンパンサーは黒豹なのか。キラーパンサーみたいな模様の豹かと思っていた。」
「キラーパンサーを見たことがあるのか?」ダリルが問う。
「遺跡の北側の丘陵地帯で仕留めたことがある。あっちの方が大きいな。」
「大きくて強いが、皮の質も良いらしいぞ。」
ダンジョンパンサーの皮を剥ごうとしたところ、普通の皮剥用ナイフでは容易に刃が通らないことが判明した。
「こりゃあ、ナイフが持たないかも知れねえ。」ダリルが悪戦苦闘している。
ウォータージェットで切り開いてみることにした。極細の水流で、初めは慎重に力加減を見極めながら切断した。水流の当て方を少しだけ斜めにすると、きれいに切断出来るようだ。
数頭のダンジョンパンサーを狩り、皮と魔石を回収したところで、荷物整理をした。だいぶ荷物が溜まってきたので、今までの収穫物を調べる。スケルトンの武器は、価値の割に重いので、大部分を捨ててしまうことにした。荷物の種類と重量、魔法のバッグの機能と空きスペース、各人が分担出来る重量を検討し、あと十数頭程度ダンジョンパンサーを狩って帰ることにした。
魔法のバッグは、今まで盗賊の隠れ家で手に入れた物を、適当に使っていたが、ダンジョンに入る時の効率を考えると、もっと高級品をそろえた方が良さそうだ。容量が大きく、重量低減効果が高く、できれば『保存期間延長効果』も付いたものが、もっと欲しい。町に帰ったら調べてみよう。
さらに数頭のダンジョンパンサーを狩ったところで、遠くで冒険者パーティーが戦っていることに気がついた。24層以降では冒険者を見かけなかったが、やはり少しは冒険者が居るようだ。不用意に飛んだりしなくて良かった。
3人組の冒険者が、戦いながら少しずつ後退し、こちらに近づいてきている。相手はダンジョンパンサーとバンパイアらしい。もしかすると、苦戦しているのだろうか。遠くから感知しているので、はっきりとは分からないが、冒険者の動きが悪いように感じられる。
様子を見に行くことにした。今のコースで後退し続けると、別のバンパイアの待ち伏せ攻撃も受けそうだ。モンスターに出会わないように、迂回する経路を通って素早く移動し、3人パーティーの戦いを、横から見られる位置に出た。
3人とも怪我をしている。前で戦っている二人はかすり傷だが。後ろに下がっている一人は、利き腕がうまく動かせないようだ。
レスリーにヒールを掛けるよう指示し。ローズには待ち伏せているバンパイアが顔を出したら、魔法で攻撃するよう指示した。
レスリーのヒールが発動して、後ろにいた男の怪我が治る。男は驚いて周囲を見回し、こちらに気がついた。直後に、ローズが放った岩の杭が、バンパイアの頭部に突き刺さった。後ろから襲いかかろうとしたバンパイアは、痙攣するような動きの後、3人の前に落下した。冒険者達も驚いたが、モンスターも一瞬気を取られたようだ。
最後尾にいた男が、前に飛び出し、バンパイアの翼を切り裂いた。動きの悪くなったバンパイアの胸を獣人族の男の剣が貫いた。バンパイアが死ぬと、3対1になったため、まもなくダンジョンパンサーも仕留められた。
「ありがとうございます。助かりました。」腕に怪我をしていた男が言った。
「いやー。正直危なかったぜー。後ろにもう一匹いたとは。」獣人族の男は、ダンジョンパンサーのとどめを刺した後、疲れ果てた様子でばったり倒れていたが、我々が近づくと身を起こした。
「ご助力感謝する。後一歩で、我ら3人あの世行きであったやも知れぬ。」両手剣でダンジョンパンサーと戦っていた男が言った。3人の中では一番腕が立つのだろう。まだ余力がありそうに見えたが、ヘルメットを外した顔は汗びっしょりだった。
「たまたま近くにいて良かった。しかし君達、そこそこの腕はあるようだが、3人ではきつくないか?あまり稼げないような気がするが。」気になっていたことを聞いてみた。ダンジョンパンサーも倒せてはいるが、皮がぼろぼろで売り物にならないような気がする。
その時、上空を接近する者を感知した。バンパイアかと思ったが、魔法を使っている?まさか、魔人か?いや、この気配は少し違うような気もする。
「いや。これには少々事情が・・」怪我をしていた男が、答えかけたが、空を見上げた私の様子に気がつき、釣られて空を見上げた。
上空から何者かが、ゆっくりと降りてきた。風魔法と、他にも、私の知らない魔法を使っているようだ。襲いかかるような動きを見せたら、すぐにも攻撃するつもりで、複数の魔法の準備をしていたが、目の前に他の冒険者も居るので、少し様子を見ることにする。
まず、気がついたのは、風にたなびく白銀のマント、それから金髪。そして、声。
「あなたたち。さっきの場所で待っているように、言ったはずで・・きゃっ」怒りを含んだ少女の声が響いた。3人の冒険者の知り合いのようだ。しかし、言葉の途中で悲鳴が上がる。マントが木の枝に引っかかって、バランスを崩したのだ。
3人の冒険者の動きは素早かった。少女の落下地点へダッシュして受け止める。
「リーダー。障害物の多い場所では、気をつけてくださいと、いつも言っているのに。」
「俺たちが間に合うとは、限らないんだぜー。」
「あ、あの、ごめんなさい。ありがとう。」
リーダーだったのか。
それから、4人が早口のやり取りを始めた。少し離れた場所なので、よく聞こえない。「えっ!そんなことが?!」とか「ごめんなさい。」とか、わずかに聞こえる内容から推測するに、リーダーなのにパーティーを置き去りにして、飛んで行っちゃダメだとか、お説教されているのか。
しかし、今は3人の男の陰に隠れて見えないが、さっき、ちらっと見えた感じでは、小柄な少女だった。いくら魔法の腕が立つからと言って、リーダーがつとまるのだろうか?
話し合いが終わったようだ。少女が3人の陰から抜け出し、こちらに歩み寄る。耳が長い?!もしかしてエルフか?初めて見たがエルフっぽい気がする。美少女だ。そして、童顔で小柄だ。15才以下にしか見えない。しかし、エルフなら、年上という可能性もあるのか?
「ご挨拶が遅れまして。失礼いたしました。」少女が立ち止まって話し始める。いきなり魔法発動の気配。何をするつもりだ?警戒度を最高に・・使っている魔力が弱いな。
少女はふわりと浮き上がり、くるりと回った。緩やかに立ち上る風が、少女の白銀のマントと金髪をたなびかせる。小さなライトが4つほど、少女の周りをくるくる回りながら登っていき、頭上で1つに合わさると、数十の小さなライトが飛び散って消えた。
「わたくし、冒険者パーティー『光の勇者』のリーダー。レルミス・ルティネールと申します。パーティーメンバーを助けていただき、どうもありがとうございました。」
空中で、優雅なお辞儀をした。
エフェクトなのか?!しかも、相当練習していないか?
3人の冒険者が、パチパチパチ、と拍手をしている。
レスリーとローズも拍手している。気に入ったようだ。
「残念天才美少女だにゃ。」猫耳戦士が小声で言う。
「うむ。いろいろな面でな。」ダリルも苦笑しながら答えた。
「ところで、少しお聞きしたいことがあるのですが」挨拶を済ませた後で、レルミスが切り出してきた。
「はあ、何でしょう。」
「才蔵という方をご存じないですか?」
「才蔵というと、この前魔人と戦った方ですね。マスクをしているとか聞いています。残念ながらまだお会いしたことはないですね。レルミスさんと同じように、空を飛べるらしいですよ。まさか、ここで才蔵さんを探していたんですか?ダンジョンにいるという情報でもありましたか?」ギクッとしたが、しらばっくれる。思わず饒舌になってしまった。
「いえ。そう言うわけではないのですが。えーと。あのー・・ヤリチン王・・と言う名前に。心当たりはありませんでしょうか?」レルミスが言いにくそうに、不穏な言葉を口にした。
パーティーメンバーの目が一瞬、こちらを向く。
「えっ・・何かの冗談ですか?そんな名前の人がいるとは思えませんが。」
「そうですよね。・・では。愛の戦士・・という人には。心当たりありませんでしょうか?」
思わずヒューを見てしまった。
「そんな、・・なんというか、その、・・恥ずかしい名前を名乗っている人は、居ないのではないかと思いますが。」ヒューがこわばった笑みを浮かべている。
「やっぱり。そう思いますよね。はああ・・」レルミスはため息をついていた。
「あの。いったいなぜ、そんな変な名前について、知りたいのでしょう?」一応、確認しておく必要がある。慎重に探りを入れないと。
「わたくし。実は森の女神の託宣を受けているのです。」
「女神の託宣ですか。・・それはつまり、才蔵とヤリチン王と愛の戦士を捜して、共に魔人と戦えとか、そんな感じの?」また託宣か、と思ったが、なんだか変だ。
「いえ。戦えということではなく・・。そんな内容なら良いのですが。・・才蔵という名前は託宣には出てきていません。・・だいたい森の女神様の託宣は、分かりにくいものが多いのです。それに、女神様の託宣ですので、無視することも出来ず、エルロン王国に来て、ヤリチン王という人を探しているのですが、・・実はわたくし、託宣に従うのは、気が進まないのです。何で見も知らない人と・・・」レルミスは託宣の内容に、不満があるようだ。
「やりたくないんなら、無理にやらなくてもいいんじゃねーの?」『光の勇者』の獣人がお気楽そうに言う。ザザイという名で、オオカミ系獣人らしい。
「やるとか言わないでください。」レルミスが顔を真っ赤にして怒った。
「ヤリチン王なら、近づいただけでやられちゃうかも知れないし、がんばって探さなくても、なんとかなるかも知れねーぞ。」ザザイは、全く気にしない。
「やめろよザザイ。泣いちゃうぞ。」腕を怪我していた、ロジルという男がザザイに囁いた。
「あー。もしかして、その託宣は、ヤリチン王とか言う相手を探して寝ろ、とか、そういう内容なのか?」
「・・そうです。」
「そりゃあ、ちと酷だよな、こんな小さな女の子に、その託宣は。」
「私はもう27才です。結婚だって出来る歳です。」レルミスがむっとした顔で言う。
「あー。そうなのか。」やっぱりエルフは成長が遅いらしい。
「ただ。相手が見も知らぬ人で、しかも・・ヤリチン・・って、大勢の女性と、節操なく、されている方ですよね。せめて、才蔵様のような勇者様がお相手ならと、思ったのですが。」勇者ならヤリチンでも良いのか。
「しかし、ヤリチンを探して寝ろとか、何が目的なのか、意味不明な託宣だな。」
「森の女神様は豊穣神・子宝の神。セックスしろとか、孕ませろとか、その種の託宣は珍しくない。生まれる子供が重要な役割を果たすのかも知れない。」ローズが解説してくれた。
「わたくしも、もしかしたら、そう言うことなのかも知れない、とは思うのですが。」
「ところで、ダンジョンで人捜ししている理由が、よく分からないが。」現に私と出会ってしまっているし。他にも託宣があったのだろうか。
「女神様の託宣に出る程の人なら、ダンジョンの下層に入れる、実力者ではないかと、思いましたので。」そんな理由かよ。しかし、実際に出会っているしな。恐るべき直感と判断すべきなのか?




