愛の戦士
飛行練習は終了です
ヒューに新たな称号?が付きました
昼まで練習を続け、昼食を食べた。
ヒューとクロエは昼過ぎに馬車で出発した。我々はもう少し練習してから、飛んで移動し、夕方アスターの少し手前で合流する予定だ。
午後の初めには、用意した4つのスクロールの魔法を試した。ファイア、ファイアボール、ウィンドハンマー、エアカッターの4つで、どれも派手なことが起きそうなので、町の近くでは試したくない魔法だ。
レスリーとローズは少し離れたところに座って、見物する体勢だ。花火見物みたいなものかな。
火事を起こさないように、すぐに水魔法が使えるように心の準備をした後、まずファイアを使用する。
「ファイア」
目標に設定した木ぎれから、10メートル近い高さの炎が吹き上がった。15メートル離れたここでも熱気を感じる。一応、発声なしで、威力を弱めて発動出来ることを確認する。
次はファイアボールだ。危なそうな気がしたので、目標は30メートルほど離れた場所に作った氷の固まりにする。
「ファイアボール」
60センチほどの大きさの炎の玉が発生し、一瞬で目標に衝突、轟音とともに爆発した。炎が周囲10メートルほどに飛び散り、爆煙が空高く吹き上がった。コントロールが難しそうだし、あまり使い道が無さそうだと思ったが、無発声での発動を確認する。火事になるといけないので、周囲に水を撒いておいた。
ウィンドハンマーとエアカッターは、近くの立木を目標に発動してみた。ウィンドに比べれば、狭い範囲に強い力を集中出来るので、少しはましだったが、威力と魔力効率から見てあまり使い道は無さそうだった。空気の攻撃なので、見えないところが唯一の利点かも知れない。無発声での発動は確認しておいた。
その後は、火魔法と風魔法を同時に使うテスト、風魔法と水魔法を同時に使うテスト、エアカッター発動中に、ウォータージェットで切断するテストなどを行った。
自分の魔法の練習と実験が終わった後は、しばらく、レスリーとローズに練習をさせた。主に午前中の実戦練習を踏まえた、改善と強化の練習などだ。要点を伝え、いくつかの簡単な練習をさせ、短めに終わらせた。
予定していた練習は終わったが、帰る前にまだやってみたいことがあった。ヒューとクロエが居るとやりにくかったが、今なら問題ない。
「さて。帰る前におまえ達にも、少し私の飛行の練習につきあってもらいたい。」
「・・目つきがいやらしい。エッチなこと考えてる?」ローズが鋭い。少し首をかしげていたが、見抜かれてしまったようだ。
「ダメか?」
「ダメじゃない。」にっこり笑って答えてくれた。
「エッチな飛行魔法ですかー。」レスリーも興味津々のようだ。
レスリーとローズのために用意した、水タンク付きのブーツとベルトを渡し、服を脱いで身につけるように言った。
二人と一緒に泉の上に浮かんだ状態で運動した。この運動は今まで以上に繊細、かつ複雑なコントロールが必要だったため、少し難しかったが、工夫と練習を重ね、無事課題を達成した。
レスリーとローズもキャーキャー言っていたが、楽しんでいたようだ。積極的に課題に取り組み、創意工夫によって様々な技を身につけ、課題達成に貢献してくれた。
じっくりと、飛行練習に取り組んだ後、少し休憩し、アスターに帰ることにした。
帰りの飛行では、木製の手すり付き座席を用意し、これを氷の船に乗せて飛んだ。
明るい時に飛ぶとスピードがわかりやすかった。100キロを少し超えるくらいのスピードが出ているようだ。遠くから見えないように、やや低めの高度で飛んだ。
そろそろ町が見えるくらいの場所からは、さらに高度を落とした。道から少し離れた林の裏側を、周囲の様子を探りながらゆっくり飛ぶ。町まで残り2-3キロの場所で地上に降り、道まで歩いて移動した。ちょうど、ヒュー達の馬車がやって来る。合流して、残りは馬車で移動した。
家に着いたのは、日暮れまでもう少しという時刻だった。
午後にリンドからの連絡が来ていた。ヘルミ博士が到着したらしい。領主館に数日逗留するそうだ。
納屋の中に置いた作りかけの馬車が、ほとんど完成していた。ダリルが暇つぶしに、少しずつ手を入れてくれていたらしい。
ダリルに会いに行くと、ダリルと猫耳戦士が新しい武器を持っていた。防具より少し早く完成したそうだ。二人ともニタニタしながら、武器を眺めたり撫でたりしている。ちょっと気持ち悪い。アベリアの言によると、午後に武器を持ち帰ってから、ずっとこんな感じらしかった。
風呂に入ってから、夕食を食べ、ゆっくり休んだ。
翌朝。
軽い運動をして、朝食を食べた後、ヘルミ博士に会いに行くことにする。
ローズとクロエだけ連れて行くつもりだったが、他のメンバーも興味があるようだった。全員で出かけることになった。
メリーを学校に送った後、全員で領主館に行った。
領主館の門衛に来意を告げると、すぐに通してもらえた。我々が来ることが、伝えられていたらしい。
応接室でしばらく待つと、ローランがヘルミ博士とリンドを伴って現れた。ヘルミ博士には既に我々の来訪目的が伝えられているようだった。
「レディク殿は『偉大なる予言』の内容を知りたいそうですな。写しならばわしも所持しておるが、あいにくと今回は持ってきていない。王都の図書館にも写しがあるはず。王都に行かれるなら閲覧できましょう。ただし、『偉大なる予言』の内容は、既に写しとは異なっているかもしれませんぞ。」
「異なっている?それはいったいなぜ?」
「『偉大なる予言』は本の形をした魔道具なのでな。時が経つにつれて内容が変わるもの。3300年近く前。運命の神からエルフの賢者に授けられた時には、まだ大部分のページが白紙で、文字が書かれたページは、ほんのわずかだったと伝えられている。しかし、今では大部分のページに文字が書かれていて、白紙のページは残り少なくなった。あと数十年から二百年くらいの間に、魔道具としての役目を終え、力を失うだろうと、考えられている。」
「『偉大なる予言』の内容は、頻繁に変わる物なのですか?」
「頻繁とは言えない。過去には70年以上の間、変わらなかったこともある。わしの知る限りでも、最近30年ほどは、変わっていなかった。ただし、内容が変わっても、しばらくの間秘密にされることもある。過去の魔王との戦いの前には、何度も変化が見られた。わしは今回も、既に変わっているだろうと見ている。」
「なるほど。オリジナルの『偉大なる予言』を見れば、その中に私のことも書かれているかも知れない、ということですか。」
「ふふふ。いや。私の持っている写しの中にも、レディク殿のことは書かれていた。不覚にも私は、ここで起こった事件を知るまで、気がつかなかったが。予言の中に、こういう一節があった。『忘れ去られた水の神の眷属と友誼を結ぶ者、魔の使徒倒す。魔に操られし者を解き放ち、慈悲の神の加護を受けし者、愛の神の加護を受けし者を従者とする。』おそらく、ここにおられる方の中に、慈悲の神と愛の神の加護について、心当たりのある方がおられるのではないかな?」
ヘルミ博士の言葉を聞いて、ヒューとクロエが顔を見合わせた。
「はい。僕たちのことだと思います。」ヒューが答える。なぜか顔が赤い。
「ほほう。もしかして、君の得た加護とは、『友の守り』と『苦行者の鎧』かな。そちらのお嬢さんへの、愛の誓いを捧げたのではないのかね?」
「・・はい。」ヒューが観念した様子で答えた。
「まあ。愛ですか。」アベリアさんがうれしそうに言う。
「愛の誓い?」ローズが首をひねっている。
他の一同もだいたいは、意外な言葉に驚いていた。
「なんだ、君達は知らなかったのか?愛の神は、自らの命をかけて、愛する者を守る誓いをたてる者に、まれにではあるが、加護を授けてくれることがある。『苦行者の鎧』は愛する者を守るためなら、自分は傷つき続けても良いという、固い意志がないと、なかなか発動しないが、非常に強力な加護だぞ。」
「強力であることは知っていましたが。愛の誓いで発動しているとは、知りませんでした。」
「ヒューはすごいにゃ。愛の戦士にゃ。」猫耳戦士が、からかっているのではなく、真面目に感心した顔をしている。後で、からかいのネタにされることは間違いないと思うが。
「まあ、愛の戦士なんて、素敵ですわ。」
「愛の戦士。すごいですー。」
「愛の戦士・・。」ローズまで感心した顔をしている。女達には受けがよいようだ。
ダリルは笑いながら、ヒューの背中を叩いている。
愛の戦士のインパクトで、しばしの間何の話をしていたか、忘れてしまったが、ヘルミ博士が続きを話してくれた。
「わしが思うに、レディク殿は、魔王と魔王の眷属との戦いにおいて、これからも重要な役割を果たすだろう。『偉大なる予言』にもレディク殿が、知っておいた方が良い、新たな記述が現れている可能性がある。エルフの国は少々遠いが、レディク殿は『偉大なる予言』を読みに行くべきだ。」
その後もしばらく話を続けた。エルフの国までの旅程のこと、ヘルミ博士がエルフの知り合いに紹介状を書いてくれること、『忘れ去られた水の神の眷属』とはゴブリン族のことであることなどを聞いた。また、ゴブリン族が忘れ去られるに至った経緯は、詳しく話せば2-3日はかかる非常に長い話になるが、興味があるなら話しても良いと言われ、別の機会にお願いすることにした。
ローズが遺跡の碑文などを調べていることを話すと、祖父のエクセル博士の研究についてはヘルミ博士も聞き知っていたという。手掛かりになりそうな知識を持っている、アスターの研究者が居たはずなので、後で教えてもらえることになった。
領主館を出た後は、防具工房に行った、できあがった防具を身につけて、工房の親方の注文で、いろいろなポーズを取らされた。きついところ、動きにくいところが無いかどうかも質問される。
私とレスリーと猫耳戦士の防具を、少し直すことになる。2時頃までには仕上げるという話だった。
アベリアが一緒に来ていたので、アベリアに着せるための、旅行用の少し防御力の高い服のような者は扱っているか聞いてみる。その種の需要はかなりあるので、作っているという話だ。できあがった服を見せてもらうと、デザインも作りもよく、アベリアも気に入ったようなので、注文した。
家に帰り、昼食までの間に、ダンジョンへ行く準備について相談した。どんな冒険者依頼を受けておくか、日程はどうするかを決めていった。




