飛行練習
飛行の練習をします
飛行練習はまだ続きがあるけど、全部は書き終わらなかったー
翌朝。朝食の後。
レスリーとローズに、声を出さずに魔法を使う練習をさせた。初めてのことで、二人ともかなり苦戦していた。声を出して魔法を発動した後、イメージが鮮明なうちに、声を出さずに発動を試みる、という手順を何度も繰り返させる。
30分ほど練習した後でようやくローズが、その後間もなくレスリーが成功した。
小休止の後、次の練習課題を説明する。
始めに、直径1センチくらいの石、または水球を発生させる。次に、発生させた石、または水球を、自分の周りをぐるぐると、どこにもぶつからないように飛ばし続ける。飛ばし続けながら、再び石、または水球を発生させる。さらに、新たに発生させた物も、自分の周りを回して飛ばす。この手順を繰り返し、20個の石、または水球を飛ばせるようにする。
すぐに出来るとは思わないので、焦らずにゆっくり練習するように説明した。
二人に課題を与えた後、私は自分の練習を始めた。念のため強化魔法を掛けて、落ちる練習をする。
氷に乗って数メートルの高さに飛び上がり、飛び降りる。飛び降りたら即座に、足の下に氷を発生させ、出来るだけ柔らかく体重を受け止める。そこからも飛び降り、さらにその下に氷を発生させる。何度も繰り返し、慣れてきたら、足の下だけでなく、手の下、腰の下、背中などにも氷を発生し、体重を受け止める練習をする。足から飛び降りるのではなく、背中から倒れるように落ちても、うまく支えられるように練習する。さらに、いろいろな体勢で落ちて、氷で受け止める練習をする。氷は滑るので、時々本当に滑って落ちるが、あわてずに氷で受け止められるように、練習を繰り返す。何度か氷が強く当たったり、着地に失敗して足をくじいたりしたが、ヒールで治療して、練習を続けた。
落ちる時に体が回転していると、視覚や平衡感覚で自分の体の状態を把握することが難しくなったが、魔法による空間認識が役に立った。昼前までには、どんな体勢で落ちても大丈夫だろうという自信が付いた。
レスリーとローズの様子を見ると。レスリーは6個の水球を、ローズは8個の石を、同時に体の周りを飛ばせるようになっていた。
午前中の練習を終え、昼食にする。クロエが昼食の準備をしてくれていた。
午後。射撃練習用の標的を作っておく。
レスリーとローズには、引き続き午前中と同じ練習を続け、時々射撃練習もするように指示する。
私は、今度は、普通の飛行練習だ。左右に蛇行しながら飛ぶ練習、上下に高度を変えながら飛ぶ練習、小さな円を描くように飛ぶ練習、急加速と急停止を繰り返す練習を行う。氷の上に乗った状態では難しいので、水入りタンク付きの、プラスチック製ブーツのような物と、腰に取り付けられる水入りタンク付きベルトを作った。
動きに慣れてきたら、スピードを上げ、いろいろな動きを組み合わせて飛ぶ練習もした。
合間にレスリーとローズの練習の進捗を確認し、魔力の補充も行う。
飛行の動きに慣れてきたところで、いったん休憩にする。レスリーとローズにも休憩させた。剣と弓の練習をしていたヒューとクロエにも声をかけ、一緒にお茶を飲んだ。
次の練習に移る前にマスクの作り直しを行う。外見はあまり変わらない感じのままだが、頭部を守るヘルメットとしての機能を持たせた。布とプラスチックのクッション材の上に、鉄のフレームを乗せ、薄い鉄板とプラスチックを組み合わせた板で覆う。以前は開放状態だった目の部分も、厚手のプラスチックで覆った。
胴体と両手を守る防具も作っておいた。
林の中を飛んで通り抜ける練習をした。出来るだけスピードを落とさず、細かい枝まですべて避けるように飛び続ける。木々の間を蛇行しながら飛び抜け、どうしても避けられない枝は、手で払ったり、氷の盾で避けるようにした。
何度か避け損ねて木の枝にぶつかったが、防具と強化魔法の効果か、怪我らしい怪我もしなかった。
適度に木の間隔が狭い林を何十回も飛び抜けるうちに、瞬間的な回避行動の判断力と、素早く正確な飛行制御能力が向上していった。
夕方近くなったので、最後に、新しくスクロールで身につけた魔法を、試してみることにする。
初めは、ウォーターフラッシュだ、扇状の範囲に水を放射して、敵集団の動きを牽制する魔法らしい。試したことのない水の使い方なので、興味を感じてスクロールを買った。
「ウォーターフラッシュ」声を出して、魔法を発動する。
轟音をとどろかせて、前方の林に水が殺到した。水煙が収まると、前方扇状の範囲に立っていた木の8割方が、根こそぎ倒れるか、へし折れて、ずいぶん見通しが良くなっていた。なるほど、前方範囲の殲滅魔法として使えそうだ。
次にスタンも試してみる。これまでに使ったことがない雷系統の魔法だ。猫耳戦士が得意らしい。近距離の敵に弱い電撃を与え、一時的に行動不能にする魔法だ。
手近の木に近づき、手を伸ばして、数センチの距離から魔法を発動する。
「スタン」
発動した瞬間、木の表面に強い輝きが走り、輝きが収まると、黒く焦げた木から煙が立ち上っていた。
レスリーとローズはだいぶ上達しており、二人とも十数個を体の周りに回すことが出来るようになっていた。そろそろ次の段階に進めそうだ。
今日の練習は終わりにし、風呂に入って夕食を食べた。
「夕方近い頃に、林の方ですごい音がしましたが。」夕食中に、クロエが言う。
「うん。結構すごい音だったな。気にしなくても大丈夫だ。」とぼけておく。
「あれは、レディク様の練習の音。もっとすごい音がすることもある。」ローズが解説した。
「そういえば、レディク様が魔人と戦っていた時の音はすごかったですね。」
「一人で練習する時には、あそこまで大きい音は出ない・・と思う。たぶん。」
翌朝。
レスリーとローズに新しい課題を与えた。レスリーとローズに、各10本の杭の上に乗せた標的を用意し、目隠しをした状態で標的を打ち落とすように指示した。標的の位置は、昨日飛ばす練習をした小さい石と水球で探らせる。
私の方は、実戦形式の練習だ。少し飛び回ってウォーミングアップを済ませた後、遺跡に向かう。ガーゴイルの周囲を飛び回った。
ガーゴイルは、まっすぐに飛んだ場合の最高速度は、それほど速くないが、空中での細かい動きはかなり速い。接近すると、結構鋭い攻撃を繰り出してくる。これをなるべく、飛行の動きで回避する。避けきれない場合には氷の盾も使った。
初めのうちは、接近しては遠ざかるだけの繰り返しだった。我ながら単調な動きだと思ったが、接近したままの状態で、ガーゴイルの攻撃を回避し続けるのはかなり難しかった。少し横に避けただけでは、連続して振るわれるガーゴイルの両腕を避けきれない。
どうすれば、接近したままで、攻撃を回避し続けることが出来るか、しばらくの間いろいろ試してみた結果、連続攻撃の回避法が分かってきた。第1の方法は、回避の瞬間、素早く弧を描くようにして、ガーゴイルの背後まで、回り込んでしまうことだ。動きは大きいが、効果的だった。
第2の方法は、ガーゴイルの攻撃を回避する時に、ガーゴイルの次の攻撃を予想し、次の攻撃も回避できるように、体勢を整えておくことだ。たとえば、ガーゴイルが右手を振り下ろす攻撃を、私が左側に避けて回避すると、ガーゴイルはこちらの動きを追って、体を回しながら、左手を横に薙ぐように攻撃してくる可能性が高い。そこで、左側に避けた直後に、すぐに続けて左上に回避出来るように準備していれば、次の攻撃もだいたいは回避出来る。ガーゴイルの攻撃を、事前にすべて予測することは難しい。しかし、しばらく観察と練習を続けた結果、目の前のガーゴイルが繰り出す攻撃を、10回以上避け続けることも可能になってきた。
もっとも、ガーゴイルの最初の攻撃はほぼ100%回避出来るのに、2回目以降の攻撃をうまく回避出来ない理由を良く考え・確認してみると、最初の回避の後に体が不安定な状態になり、2回目以降の回避が遅れているようだった。魔法の発動の速度に身体能力が追いついていない、あるいは単純に練習が足りていないのだろう。
ガーゴイルの連続攻撃を回避するための、第3の方法は、ガーゴイルの体勢を崩して、攻撃を出しにくくすることだ。ガーゴイルの最初の攻撃はほぼ100%回避出来るので、少し工夫すれば、回避しながらガーゴイルの腕に横から軽い打撃を加え、体勢を崩すことはそれほど難しくはなかった。
2時間ほど練習を続けると、かなり疲労を感じたので、遺跡から出て休憩することにした。気がつくと汗をびっしょりかいている。激しい運動だっただけでなく。予想していた以上に、プレッシャーも大きかった。ヒューのスキルもあるので、直撃を受けても死ぬことはないと分かっているが、目の前のガーゴイルが振るう石の腕の攻撃は大変な迫力だった。
いったん防具を外し、水で汗を洗い流した。
レスリーとローズの様子を見に行くと、二人ともいくつかの標的を落とすことには成功していたが、魔力だけで物の位置を探ることが、なかなかうまく行かないようだった。
二人も休憩させる。
休憩所に行ったお茶を入れ、アベリアの作ったビスケットもあったので、お茶とともにトレーに乗せて、泉のそばの草地に行ってくつろいだ。
30分ほど休憩した後、レスリーとローズに練習を続けさせる。
遺跡に戻って、練習の続きをする。
常に素早い動きを止めないように、気をつけると同時に、身体能力不足を補うために、体の周りに複数の氷を発生させて、体の動きを支えた。休憩前に比べ、回避のスピード、安定性が上がった。
相手の動きを先読みする訓練と、相手の動きを崩す訓練も、役に立ちそうなので続けた。
昼前に練習をやめ、レスリーとローズの様子を見に行くと、だいぶ上達していた。もう少しで、全部の標的を落とせそうだった。




