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治療院

ヒーローっぽい衣装を手に入れました

でも、こっそり着替えなければいけないので大変です

 治療院の前で馬車を止め、しばらく待つとローランの馬車がやってきた。扉を開けて、こっちに乗ってくれと、差し招く。馬車の中には衣類を詰め込んだ大きな袋があった。

 「これを着てみてくれ。」差し出されたのは白い、短めのローブだった。銀の縁取りがあり、薄い青の装飾が控えめに入っている。かなり良い生地を使っているようだ。

 「派手だな。」羽織ってみると、着心地は良いが、かなり派手な気がする。

 「まあ、ご立派です。」

 「素敵ですー。」

 「レディク様にふさわしい。」女たちには好評だった。

 「少し派手なくらいの方が、変装にはよいと思うぞ。その服装なら、誰も普通の冒険者とは思うまい。」

 「それもそうか。」袋の中には、白いズボン、白い靴、白いマントのセットが入っていた。その他に、明るい灰色のローブも3着あったので女達に渡す。白いマントはフード付きで4枚あり、すべて背中に紋章のようなものが描かれていた。

 「これは何かの紋章なのか?」

 「いにしえの勇者を導いたと言われる、運命の神の紋章さ。」

 「よくこんな物、持っていたな。」

 女達用のマスクを作り、3人に渡した。額から鼻の上くらいまで覆うマスクで木の上を薄い石の層で覆い、白っぽくしている。

 「後は、話をする時に困りますので、偽名も考えましょう。」ローランは妙にノリノリだな。

 「偽名か。そうだな。才蔵とでもしておくか。それと、アベリアは睦月、レスリーは如月、ローズは弥生にしておこう。」

 マスクを被って、馬車を降りた。

 「では、才蔵殿。こちらへ。」

 ローランの先導で、マスクと白マントの怪しい4人組が続く。リンドもにやにや笑いながら付いてきた。


 「院長。ヒーラーの方達をお連れした。お手伝いいただけるそうだ。」

 「おお。それはありがたい・・です。」ローランの言葉に喜んだ院長が、我々の姿を見て固まる。怪しいやつにしか見えないよね。

 「勇者様!」ちょうどその時、奥から出てきた女性が、我々の方に声をかけ、こちらに近寄ってきた。子供連れだ。

 「勇者様。ありがとうございました。おかげで、子供も私も無事です。流れ出していた、血の量から見て、治療が遅れれば助からなかっただろうと、治療院の方から教えていただきました。勇者様は息子の命の恩人です。」

 「ああ。崩れた建物の破片で、怪我をした方ですね。魔人と戦っている最中で、一瞬しか注意を向けられなかったが、助かって良かった。」

 「そういえば、魔人と戦った方は、マスクを被っていたと聞きました。あなたは勇者様でしたか。」院長が言う。多少不信感が薄れたようだ。

 「正確には勇者ではありません。勇者と魔王が現れるまでの間、魔の力の侵攻を食い止めるために、女神の導きに従い、戦う者。才蔵と申します。奇妙な装いだと思われるでしょうが、魔人と戦う私は、魔人に命を狙われても居ます。顔を覚えられないように、力を振るう時にはマスクをしているのです。」我ながら、なかなかの台詞だと思ったので、女達の反応を見る。マスクのせいで、少しわかりにくいが、ローズは明らかに喜んでいるな。

 「そう言うことでしたか。あの、少々、奇異なお姿と思えまして、狼狽してしまいました。失礼しました。ではそちらの方々も?」

 「こちらの3人は、将来に備えて、私が治療魔法などを指導している者です。まだ技量は低いですが、怪我人が多いと聞いていましたので、お役に立てるかと、連れてきました。」

 「助かります。ありがとうございます。では、こちらにどうぞ。」院長の先導で、奥に進む。


 かなり注目を集めており、あちこちから、我々のことを話しているらしい、囁き声が聞こえた。

 「勇者様?」「才蔵様とおっしゃるらしいぞ」「あのマスクの方が空を飛んで、魔人と戦っているのを見た」「運命の神の紋章」「ありがたや、ありがたや」

 おばあちゃん。拝んでも御利益はないよ。


 案内されて入った病室には、大勢の怪我人が、寝台の上だけでなく、床の上にも寝かされていた。私は主に重傷者を、女達3人は軽傷者を治療していった。女達には事前に、魔力が足りなくなったらサインを送るように言ってあり、その都度私が魔力を補充した。私自身も、治療院の井戸の水から魔力を補充し、休み無く治療を続けた。2時間ほど続けると、怪我人はほとんど居なくなった。痛みにうめく声が聞こえなくなり、家に帰れる者は返されたため、床に寝ている者も居なくなった。

 治療院で働く人たちも、疲れ果てた様子だが、ホッとした表情で一休みしていた。


 「才蔵様。ありがとうございました。重傷者の何人かは、助けられないかも知れないと思っていたのですが、まさか全員の治療を終わらせてしまうとは。それに、お連れの方々も、技量が低いどころか、どなたも大変な能力。さすがは才蔵様のお教えを受けた方々です。」

 女達のヒールの技量も、かなり上がったようだった。連続してヒールをかけ続けたので、私の技量も上がり、ヒールの魔術構築式についての理解が深まったため、声を出さなくても、ヒールが使えるようになった。


 治療院を出て、人目がないことを確認し、素早く馬車の幌の下に入って着替えた。変装した後で、どうやって着替えるかも、考えておかないといけないな。

 ローランとリンドは、先に他の仕事を片付けに行って、もういなかった。


 家に帰ると、猫耳戦士とダリルが戦闘の練習をしていた。ヒューとクロエは見物している。この2人だとなかなかの迫力だ。少し観戦したい気もしたが、疲れていたので休むことにする。ベッドに横になって少し寝た。


 夕食時に目を覚まし。夕食を食べて、風呂に入った。

 だいぶ回復したが、まだ疲れを感じる。魔人との戦闘でも、その後の治療魔法の連続行使でも、かなり精神的疲労が溜まったようだ。


 とは言え、そこそこ回復していたので、ベッドの上での女達との運動を、楽しんだ。遺跡にいる間はさすがに出来なかったので、久しぶりだ。女達も夜の運動不足だったらしく、とても喜んでいた。3人とも満足するように、念入りに運動不足解消に励んだ後で寝た。


 翌朝は夜が白み始める頃に目を覚ました。昨日は午後に少し寝たので、早く目覚めたようだ。女達はまだ寝ている。


 そういえば、今日何をするか、まだ考えていないな。お茶を飲みながら考えようかと、食堂に向かう。ちょうどヒューとクロエが起き出してきたので、相談に乗って欲しいと言って、お茶に誘った。


 これからやりたいことについて、思いつくままに話すので、意見を聞かせて欲しいと、説明した。

 「ギルドの試験は受けないといけないな。ついでに所持金の一部を、ギルドに預けてしまおうと思う。盗まれたりすることはないと思うが、用心のためだ。それから装備品。ダリルと猫耳戦士が、武器を新調したいと言っていたが、どんな武器かはもう決めているのだろうか。」

 「そんなにはっきりとは、決めていないと思います。それに、遺跡で予想以上に儲かりましたから、目星を付けていた物があっても、気が変わって、今は特注を考えているかも知れません。」ヒューが答える。

 「特注の場合は、どのくらい時間がかかるのかな?」

 「材質、武器の種類、鍛冶師の腕、忙しさで変わります。何ともいえません。早ければ2-3日以内だと思いますが、何週間もかかることもあります。」

 「その辺も含めて、ダリル達の話を聞かないとな。それから、他の装備品の話だが、ヒュー達の防具はあまり良い物に見えないし、私の装備も盗賊を倒した後で手に入った物をそのまま使っている。全員の防具を見直した方が良いのではないかと思う。」

 「確かに、我々の防具は皆安物ですね。それに、レディク様の装備は、魔法使い用の物に変えられた方が良いと思います。」

 「ああ、やっぱり魔法使い用装備があるのか。猫耳戦士は魔法も使えるようだが、そう言う場合は、どうするんだ。」

 「レスリーさんもそうですが、剣と魔法の両方が使える人は一定数いますので、そう言う人用の装備もあります。」

 「各人にどういう装備が必要か、値段はどのくらいか調べないとな。」

 「この町は冒険者用の装備品を扱う店が多いですし、品揃えと値段は店によって違います。そのあたりも調べておくべきでしょう。」

 「それだけ調べるとなると、大変そうだな。今日はヒュー達4人で、装備品の情報を調べてくれないか。丸1日掛けても、終わらないかも知れないが、昼食の時に戻って、どんな感じか教えて欲しい。その他に調べることは、予言のこと、碑文のこと、ダンジョンにも行きたいから、その時に受ける仕事のこと、この町を出た後の行き先のこと、これくらいか。『偉大なる予言』の原文は、どこに行ったら読めるのか知らないか?」

 「すみません。それについては知りません。」

 「そうか。王都に行ったら、図書館があるらしいから、調べられるかな。」


 話している間に、他のメンバーも起き出してきたので、一緒に話を続ける。朝食を食べながら、引き続き様々なことについて話し合った。魔法のこと、魔道具のこと、ポーションのこと、部屋割りのこと、馬車のこと、王都への旅のこと。

 クロエが話した内容についてメモを取ってくれた。几帳面な性格のようで助かる。

 「レディク様っていつも、こんなにいろんな事考えているんですか?」クロエが小声で、レスリーとローズに聞いている。

 「いつもですよー。」

 「レディク様だから、仕方ない。」ローズ。仕方ないって何だよ。


 朝食後、我々は冒険者ギルドに、ヒュー達は装備品を調べに出かけた。


 冒険者ギルドに入ると、ちょうど依頼を探しに来る冒険者が多い時間だったのか、いつもより人が多かった。冒険者達の話し合う声の中に、「勇者」とか「魔人」とか「才蔵」などの言葉が聞き取れる。「才蔵」の名前は既に広まっているようだ、少しは撹乱になるだろう。

 ほくそ笑んでいたら、「勇者の情報を集める・・」という、言葉が漏れ聞こえた。集めてどうするんだ?まさか。掲示板を調べると「勇者様の情報を求む」という依頼を発見した。しかも依頼元が『アスター新聞』と書いてある。迷惑な。後でリンドにでも相談してみよう。


 受付カウンターに行き、まずは手持ちのお金の一部を、ギルドに預ける。預けるのは、価値が高すぎて使いにくい白金貨だ。自分の口座に8枚預けておいた。

 個人名義の他に、パーティー名義の預金も出来ると聞いていたので、そちらにもお金を預けようとする。パーティー名義なら、メンバーの誰でもお金を引き出せるらしい。

 「パーティー名義の口座をご利用いただくには、パーティー名と、パーティーメンバーを登録していただく必要があります。」受付の女性職員が説明する。

 「えっ、そうなのか。パーティーの名前なんて、考えていなかったが、適当でもいいのか?へっぽこ8人衆とか。」

 「どのような名前でも結構ですが、名前は1度登録すると、変更することは出来ません。それと、登録された名前は、ギルドからの呼び出し時に利用されますし、文書にも載ります。毎回『へっぽこ8人衆のレディク様』と、お呼びすることになりますが、それでよろしいのでしたら。」

 それはそれで、面白そうかな。アベリアとレスリーも笑っているし。あ、でもローズが怒っているし、やめておくか。

 「それなら、もう少しましな名前を考えるか。しかし、あんまり強そうなのとか、偉そうなのは、趣味じゃないし。どうするかな。」ローズは不服そうだ。きっと強そうで偉そうな名前を、推したいのだろう。しかしここは、私の好みを優先させてもらおう。

 「そうだ、『旅の仲間』にしよう。」

 「レディク様はその名前に、何か思い入れがあるのですか?」アベリアから質問された。

 「ああ。好きな物語の中の、パーティーの名前ではなく、エピソードの名前なんだけどね。」自分の名前は覚えていないけど、こういう事は覚えているのが不思議だ。

 パーティー名と、メンバーを登録した。メンバーの登録には、冒険者登録証が必要なので、今はここにいる4人しか登録出来ないが、後から追加することは出来るそうなので問題無さそうだ。

 パーティーの口座にも預金し、アベリア、レスリー、ローズの口座にも、万一何かあったための用心のためと説得して、金貨2枚ずつ預金させておいた。

 預金はとりあえず、このくらいで良いだろう。後は、装備品の買い物が終わった後で考えよう。



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