氷の矢尻
魔法の設定っぽい話が多いです。好きなんですが。
目が覚めると朝日が昇ったところだった。昨日はよく眠れた。強い空腹感は感じるが、疲れが取れている。とりあえず今朝も、火を付けられるかどうか試してみて、無理そうだったら生肉か。嫌悪感は感じるものの、もはや空腹感が強すぎて、食べられるものなら何でも良いという気分になってきている。
水を飲もうと水の玉を出す。水の玉が朝日を浴びてキラキラ輝いているのきれいだったので、しばし鑑賞する。水を飲みながらふと気がつく。もしかするともっと別の使い方も出来るかも。
あたりの様子をうかがい、危険がなさそうであることを確認後、木を降りて日当たりの良い場所に行き、大きめの水の玉を出す。さらに水の玉を変形できるかどうか確認。変形可能なようだ。水玉を変形して直径50センチほどの大きなレンズを作る。しばしの間レンズの局面や角度を調整し、集光性能を上げていく。10分ほど試行錯誤を繰り返すと太陽光で枯れ木に火を付けることが出来るようになった。なんとか生肉は回避できたようだ。
火を付けた後でレンズをどうするか、少し迷う。多めの水なので捨ててしまうにはもったいないし、全部飲むには多い。水球射撃練習に使うにもちょっと多いので、力を使いすぎるかもしれない。ちなみに普通のウォーターショットの時には、水球の発生と射出に同じくらいの力を使う感じだが、威力を強めたい場合には生成よりも3倍以上強い力が射出に消費される感じがする。生成した水を再び吸収して、力に還元できればいいのだが、と考えながらレンズに触れると、何となく出来そうな感じ。念じるとあっさりと水が吸収されて、少し力が増すのを感じることが出来た。
昨日手に入れたウサギをようやく焼くことが出来た。刃物がないので丸焼きである。中まで火が通るようにじっくり焼く。表面は焦げ焦げだが皮は食べないので問題ない。火から下ろして少しさました後で手で引き裂いて食べる。焦げ臭いし生臭いしあまりおいしいものでもないがともかく食べられる。食べ終わってようやく人心地ついたところで、これからどうするか考える。たいして選択肢があるわけでもないが。
こんな危険な場所にいつまでもとどまるわけにはいかないし、荒れ地に戻れば飢え死にするだけ。森に踏み込むのは危険そうなので、昨日に引き続き森の周辺部に沿って進み続けるくらいしか思いつかない。運が良ければそのうち人里にたどり着くかもしれない。運が悪かった場合のことは考えないでおこう。
空を見上げて今は午前の半ばくらいの時刻かと、見当を付ける。立ち上がり、槍代わりの棒を手にして歩き始める。周囲に注意を払いながら慎重に。
歩いても歩いても代わり映えのない景色が続く。右手には灰褐色の荒れ地が広がり、左手には緑濃い森が続いている。時々遠くの方に鳥や小動物が見えるが、遠すぎて魔法を当てられる気がしない。
今日はまだ大型の肉食獣を見ていない。大型肉食獣の生息密度はやはり低いのかもしれない。昨日はウサギを持っていたので臭いに惹かれて集まったのか。いや、昨日のオオカミとヒョウの行動から見て、このあたりの大型肉食獣は人間に対する警戒心が薄いようだ。人間のにおいを獲物と認識している可能性がある。しかし、昨日のヒョウは少なくとも怪我が治るまでは戦いを挑んできたりはしないだろう。他の肉食獣が居ないとは限らないので警戒を怠ることは出来ないが、しばらくはわずかながら危険度が低下したかもしれない。
さらに歩き続ける。おや、前方に鹿のような動物が居る。あれを手に入れれば何日か食べ物に困らないかもしれない。しかし、40メートルくらいまで近づくとこちらに気がついて森の中に逃げ込んでしまった。今日はまだ何も獲物が捕れない。木の上を飛んでいる鳥を見ながら考える。練習して飛んでいる標的、遠くの標的、小さな標的にもうまく魔法を当てられるようになれば、食べ物に困らなくなるかもしれない。練習と割り切って、小さな水球を使えば力、魔力の消耗も少ないはず。すこし練習してみるか。
小さめの水球を出そうと念じてみる。直径4センチほどの水球が出た。水球を消して、もっと小さい水球、と念じてみる。今度は直径2センチほどの水球が出た。しばらく水球を出したり消したりを繰り返し、出したい大きさの水球を一度に出せるように練習する。一度に複数の水球を出せるかどうかも試してみる。複数の水球も可能だったが2個、4個、8個、16個と数を増やしていくと難しくなる、魔力の消耗ではなく、集中力と経験値が影響するらしく、16個の小さな水球を出したり消したりを繰り返していると次第に楽に出せるようになり、32個の水球も出せるようになった。
30メートルくらい離れた場所を飛んでいる鳥を標的に、2センチくらいの小さな水球当てる練習をする。最初のうちはほとんど当たらなかったが、何度も練習するうちに飛ばした後でも水球の飛行コースを変えられることに気がついた。それ以降は次第に命中率が上がり、午後の半ば頃には7割以上の命中率になった。その上小さいとはいえかなりの速度で水球が命中するため、当たり所が悪い時には羽などが折れた鳥が落ちてくる。期せずして晩ご飯の食材も調達できた。
午後の遅めの時間。まだ十分な日射しがあるうちに、ねぐらになりそうな大木が見つかったので、枯れ木を集めて火を付け、鳥を焼く。鳥は小さいので満腹にはほど遠かったが、何もないよりはましだ。それに、今日の終盤の命中率から見て、明日以降ならいくらでも鳥が捕れそうだ。問題は天気だな。曇りや雨の日だと火を付けることが出来ないので、火種の運ぶ方法とかも考えておかないと危ないかもしれない。
木に登った後も、寝るまでの間しばらく魔法の練習を続けた。たくさんの水球を出したり消したり。小さな水球を大きな円を描いて飛ばし続けたり。水球を連続して打ち出したり。疲れすぎない程度に練習した後で寝た。
目が覚めるとまだ夜明け前だったが、すでに空はかなり明るくなっている。水を飲んで顔を洗う。あいかわらず空腹だが、体調は悪くないようだ。風呂に入っていないので体がべたべたしてむずがゆいのが気になり、体を洗ってみることにする。大きめの水球を出して全身を洗う。石鹸がないのは残念だが、多少はましな気分になった。さらに下着も洗う。洗い終わった後で使った水を吸収すると、下着も体も一瞬で乾いた。足下に垢や汚れが落ちている。これは便利だ。
引き続き森の周辺部に沿って歩き続ける。歩きながら魔法の練習に1センチくらいの小さな水球を出して、くるくる円を描いて飛ばしたり、8の字を描いて飛ばしたりし続ける。周囲の様子にも気を配る。午前中に少し鳥を捕って食べたいので獲物も探す。
ふと気がつくと飛ばし続けているはずの水球が見あたらない。魔法で水球を飛ばし続けている実感があるのだが見えない。見えないが何かが飛び続けているようだ。水球が飛んでいるはずの場所に手を伸ばしてみると、空気が通り抜けた。もしかして水が蒸発して水蒸気になった?水蒸気になっても動かし続けることが出来る?試しに水蒸気を吸収することを念じると、問題なく吸収されたようだ。改めて小さな水球を作り、くるくると回して水蒸気にしてみようとする。自然に蒸発するのを待つまでもなく、水が水蒸気に変わることをイメージすると同時に水球が消えた。水を水蒸気に変えることも出来るのか。ということは逆も?
水蒸気を再び水に戻すことを念じると、水球が現れた。さらに水球を氷に変えることを念じてみると、若干大きめの力を消費したが、水球が氷球に変わった。触ってみると硬くて冷たい。氷球を水球に戻し、水を尖った矢尻型に変形し、改めて凍らせる。近くにあった木に向かって氷の矢尻を飛ばすと矢尻は木の幹に突き刺さった。突き刺さった矢尻を調べるとかなり深く突き刺さっている。これなら水を飛ばすよりも遙かに殺傷力は高そうだ。矢尻を作る際には水球よりも多めの魔力が必要だが、軽めの矢尻でも十分な殺傷力があるので、高速で飛ばすための魔力は少なくてすむ。攻撃力あたりの魔力消費は遙かに少なく出来そうだ。
さらに、氷のナイフも作ってみる。金属製のナイフほどの切れ味はないが、なんとか肉や皮を切り裂くことは出来る。はじめは全体を氷で作ったが、手で持ち続けると冷たくて凍傷になりそうなので、握りの部分は20センチほどの木の棒を使用し、その先に氷の刃を付ける方法に変えた。
午前中は移動を続けながら、さらに様々なテストや練習を続ける。昼前までに5羽の鳥を氷の矢尻で撃ち落とした。大漁だ。氷のナイフで首を切り落として血抜きし、腹を割いて内臓を取り出す。細かい処理までは出来ないので結局はほぼ丸焼きなのだが、血抜きしたせいかだいぶ味が良くなった気がする。量もたっぷりあったので、はじめて満腹感が味わえた。
満腹感のせいで少し眠くなるが、こんな場所で昼寝するわけにはいかない。この生活に慣れてきて、少し緊張感が薄れているようだ。油断しないように気をつけないと。
昼からも魔法の練習をしながら進み続ける。複数の氷の矢尻を一瞬で作れるようになった。鳥を狩るのも容易になったので、大きめの鳥を2-3羽だけ狩ることにする。午後になると雲が多くなったため、午後の半ば頃、少し早めに火をおこして鳥を焼いてしまい、その場で少しだけ食べる。翌日のことを考えて、残りは念のため残しておいた。
夕方までに大きい木を探してねぐらを準備し、木に登った後、寝る前に魔法の練習をする。練習中に気がついたが、魔法を使い始めたばかりの頃よりも明らかに魔力が大きくなっている。どのくらいの大きさの水球が作れるか試したところ1メートル以上の水球が出来た。しかもまだ若干余力がある、使い続けると魔力が大きくなるのだろうか。毎日限界近い大きさの水球を作ってみれば、変化がわかるかもしれない。
翌日夜明け前に目覚めると、やはり空は曇っていた。冷えてしまってまずいが、昨日焼いた鳥を食べる。少し残しておくかどうか迷うが、腐ってしまうかもしれないので全部食べてしまうことにする。
今日も同じ方向に歩き続ける。人も、人家も、人の活動している気配も、相変わらず見つからない。しかし、進行方向の遠くの景色が少し変わってきたように見える。あれは丘陵地帯だろうか。
晴れ間が現れないかと期待しながら歩き続けたが、昼過ぎには雨になってしまった。大きな木の下で雨宿りして、雨がやむのを待とうかとも考えるが、どう見ても当分やみそうもない空模様だ。水魔法で落下してくる雨滴を操れないかと試したが無理だった。いったんはあきらめて、ぬれながら歩き続ける。しかし、練習用の水球を出したところで、水魔法が傘を作ることを思いつく。大きめの水球を頭上で平たい円盤に変形させてみる。ちゃんと傘の代わりになるようだ。水の傘を広げたまま歩き続けることにする。
午後の半ば頃になると雨脚が強くなるが、水の傘は練習もかねて直径3メートルほどの大きな円盤にしてあったので、ほとんどぬれずに歩き続けることが出来た。しかし、しばらく歩き続けるといつのまにか魔力消費が大きくなっていることに気がつく。何があったかと頭上を見ると、厚さ1センチほどで作ったはずの円盤の厚みが5センチほどにもなっている。円盤がかなり重そうだったため、ほとんど無意識のうちに円盤の水の一部を魔力に還元した。円盤の厚みが2センチほど薄くなったところで魔力が完全回復し、それ以上水を吸収できなくなった。
そこで、今何かおかしなこと、よくわからないことが起こっているようだ、と気がつき、しばらく考える。今までは、水魔法で操ったり吸収したり出来るのは水魔法で作った水だけだと考えていたが、そうではないらしい。水魔法で作ったのは厚さ1センチの円盤だったが、雨滴が混ざって厚さ5センチに増えた円盤も水魔法で頭上に保持し続けていることが出来ている。さらに吸収して魔力に還元することも出来た。つまり自然の状態で存在する水でも、水魔法で作った水を混ぜれば操ることが出来るらしい。
早速実験してみる。直径2センチほどの水球を作って近くの水たまりに投入、水たまりの水と混合した後、球状に戻るように念じてみる。浮かび上がった水球は3センチ弱くらいで、水たまりの水のほとんどは反応しなかった。
もしかすると時間がかかるのか?と考え、再び直径2センチの水球を投入した後、今度は30秒ほど待ち、水球に戻す。今度は直径4センチほどの水球が出来た。やはり時間経過とともに操れる水が増えている。
つまり、周囲に多量の水があるところでは、操れる水も多くなるし、いくらでも魔力を回復することが出来る、ということだ。良い機会なので、魔力消費の大きい魔法の練習をしようと考える。手始めに頭上の円盤の直径を10メートルに拡大し、さらに歩き続けながら魔法の練習を続けた。
その日は結局夕方になっても雨が降り続き、ぬれずに休めそうな場所がなかなか見つからなかった。大きな木の枝もびっしょり濡れている。雨に濡れながら寝ることが出来るだろうかと考えながら、少しでも良い場所がないかと探し続けた。日没間近、ほとんどあきらめかけていた頃に、大きなうろがある巨木が見つかった。中を覗くと少し狭いがほぼ乾いている。何とか寝られそうだ。その日はそこで休むことにした。
翌朝、夜明け前に目を覚ますと、雨は上がっていたが曇り空だった。今日も火を使うことが出来ないかもしれない。狭い場所で寝ていたので体のあちこちがこわばっていたむ。
火を使う以外に、水魔法で調理する方法はないだろうか?と考える。肉を乾燥させることは出来そうだ、しかし香辛料も何もない乾燥肉っておいしいのだろうか?凍らせて食べる調理法もあったと思うが、あれは生で食べておいしい食材でないとダメそうな気がする。そういえば、水魔法で冷たい氷が出来ると言うことは、熱い湯を作ることも出来るのか?
水球を作りだして、温度を上げるように念じてみる。氷を作るのと同様にそこそこ魔力を消費するが、熱湯を作ることに成功した。さっそく鳥を1羽狩り、肉を切り取って木の棒に刺し、熱湯で調理してみる。味は薄いが十分食べられる。小さめに切って軽くゆでた方がおいしいようだ。つまりしゃぶしゃぶのようなものか。これで、晴れの日でなくても食事にありつけそうだ。




