休憩所
建築に挑戦します
昼食を食べながら、午前中の戦果について、話し合った。ヒュー達は1日あたり5-7体のゴーレムが狩れるので、5日間で30体くらい、という目算を立てていたらしい。ところが、今日は午前中だけで、ゴーレム11体、ガーゴイル16体の心核が手に入っている。ガーゴイルの心核は、ゴーレムの心核より高く売れるので、金額的に見れば、すでに当初の目標を超えているそうだ。
「それじゃ、もう帰るか?」と、笑ってたずねる。
「帰るもんか。稼げるなら、5日間しっかり稼いで帰るさ。」ダリルが、にやりと笑って言った。
「たっぷり稼げば。斧も新調出来る。ハンマーも悪くはないが、やっぱり斧の方が、しっくり来るしな。」髭をしごきながら続けた。
「ところで、ゴーレムやガーゴイルを倒して、数を減らすと、どこかから新しく出てくるのか?減りっぱなしじゃあ無いと思うが。」
「3時間くらい経つと、遺跡の奥の方から、新しく出てくるらしいです。どこから出てくるのかはわかりません。」
「そうすると、午前中に減らした分は、3時頃には補充されているな。また大通りで狩るか。」
「狩るにゃ。」
「稼げるな。」
「ガーゴイル主体でいいか。常時依頼の対象じゃないけど。楽だし。高く売れるようだし。ゴーレムは、どうせ少しは付いてくるから、ついでに狩る程度で十分だろう。」
「ガーゴイルが、あんなに簡単に倒せるなんて、びっくりでした。レディクさんのおかげなんですけど。僕も何か、打撃系の武器を持ってくれば良かったです。メイスとか。」
「うーん。ガーゴイルを背中から叩くなら、小さめのウォーピックが一番良かったかもしれんな。売っているのはあまり見かけない武器だが。」ダリルは武器に詳しそうだ。
「はあ。私はなんか全然いらない子ね。見張りとか必要ないみたいだし。」クロエが、ちょっといじけている。
「子供達も居ることだし、後方も含めて全体の目配りをする者は、居た方がいい。私も注意はしているが、戦闘中はどうしても、攻撃対象に注意がさかれる。クロエは目が良いようなので、よろしく頼む。」
「あ。ハイ、わかりました。」クロエは少し笑っている。自分へのフォローだと思ったのだろう。もちろんそれもあるが、後方が心配なのは本当だ。
薬草の方も、午前の2時間で40キロ近い量が収穫されており、常時依頼の報酬目当てなら十分な戦果だった。ただし、6割以上がニオイアサトウという1種類の薬草で、ポーションの材料を集める、という目的から見ればバランスが悪かった。午前中は、限られた範囲で採集していたので、午後は少し川の方に移動しながら、採集してみようか、という話をした。
「ところで、ローズ。実際に遺跡に来てみて思ったのだけど、ローズのおじいさんは、遺跡のどのあたりを、どうやって調査するつもりだったんだろう。中に入るのはかなり危険そうだが。」気になっていたことを、ローズにたずねてみる。
「調査予定の場所の一つは、遺跡の正面入り口にある碑文。そこは問題ないと思う。でも、もう一つの調査予定場所が、外縁部の内側よりの構造物。危険そうな場所。私も不思議です。護衛をたくさん雇うとか、考えていたのか。」
「正面入り口の方は、帰る前に寄ってみよう。何かわかるかも知れない。」
「はい。」
昼食後は、東にある川の方に移動しながら薬草を採取した。ニオイアサトウ以外の薬草を優先して探す。
緩やかな下り斜面を過ぎて、密生した林が続く場所に来ると、ニオイアサトウが減り、他の薬草も多く見つかるようになった。しばらくその付近で採集を続けた。
3時頃に遺跡に移動し、ガーゴイルを狩った。今回は、狩りの間に、ローズに魔道具作成の練習、レスリーにポーション作成の練習をさせておく。
途中ダリルが軽い怪我をした、ヒューのスキルも発動しない軽傷だったが、練習になるのでアベリアに治療させる。ヒューの方も飛んで来た石が当たったり、木の枝に引っかけたりして怪我をしたので、練習台になってもらった。
少し疲れが見えてきたので、5時前には終わりにして野営地に戻った。
晩ご飯を食べて、寝る前に少し土魔法の練習をした。土魔法で出現させる岩石を、棒状にしたり、板状にしたり、岩石の素材を、石炭に変えられることを確認した。鉄は難しかったので、今日のところはあきらめて寝ることにする。
翌朝も夜明け前に目を覚ます。曇っていて、少し空が暗かった。
朝食を食べながら相談し、今日からは、朝と昼過ぎに遺跡で狩りをすることにした。
朝から2時間ほど、遺跡の大通りで、狩りやすい位置にガーゴイルが居なくなるまで、狩りを続けた。
狩りの後は、薬草採集に行く。薬草採集は、おおむね順調ではあったが、少しハルノカ草が少ないと言うことなので、また採集場所を変えてみることにした。
今日はまず、川の近くまで行った。川の近くでは、ヒイロスズランという、かなり珍しい薬草が見つかったが、ハルノカ草は取れなかった。次に、そこから北上して、灰の森の周辺部に入る。大きな木が増えてくると、ハルノカ草の群落が見つかったので、しばらくそこで、採集を続けた。野営地に帰る前に、川で魚を捕って行き、昼食の材料にした。
昼食後は、再び遺跡で狩りをし、3時頃に野営地に戻った。その後は夕方まで、採集した薬草の整理、魔道具作成の練習、ポーション作成の練習、魔法の練習をして過ごした。昨日に引き続き、土魔法の練習も行い、鉄を作ることも成功した。
雨が降りそうだったので、天幕を張って寝た。
夜半過ぎ頃から雨になり、夜が明けてからも降り続いていた。頭上に、直径40メートルほどの水の円盤を作り、雨を防いだ。私以外の全員が、頭上に広がる薄い水の板に、雨が降り注いで波紋を描く様子を眺めていた。
朝食後に遺跡に狩りに行ったが、雨脚が強くなっており、足下が滑りやすい上に、視界も悪い。5体ほど狩ったが、ダリルも猫耳戦士も1回ずつ滑って転び、戦闘中にダリルが軽い怪我をした。ヒューの仲間達は皆、危ないので、今日はやめようという意見になった。
しかし、私にとっては、雨は好都合だ。
「雨の日は、強い魔法を連発しやすいので、しばらく一人でやらせて欲しい。」と話し、遺跡に踏み込んだ。パーティーメンバーの上の水の円盤はそのまま残し、自分の上に新しく水の円盤を作る。
近づいてきたゴーレムもガーゴイルも、氷で固めて動けないようにし、狙いやすくしてから、ウォータージェットで穴を開け、心核と魔石だけ取り出す。取りだした心核と魔石は、氷に乗せて遺跡の外に運んでおく。魔力に全く不安がないので、今日は少し奥の方まで進んでみる。
大通りのゴーレムとガーゴイルは、ほとんど片付けてしまったので、大通りから左右に伸びる通路も覗いてみる。ゴーレムとガーゴイルが、数体ずつ並んで立っている場所を見つけたので、これも狩っておく。
長い距離を歩いて移動するのが面倒なので、氷の円盤に乗って移動してみる、上に乗った状態で制御するのが意外と難しい。氷の上が滑りやすいのも難点だ。しかし、楽だし速い。スピードを出しすぎないように、気をつければ大丈夫だろう。
遺跡に400メートルほど入り込んだところで、パーティーメンバーの上に残した水の傘の維持が難しくなってきた。ワンドを手に入れてから、操作距離がずいぶん伸びたが、今は400メートルくらいが限界のようだ。そろそろ戻ろうか。
遺跡の奥の方をもう一度見る。遠目にも、ゴーレムより少し小さいものが見えていたので、気になっていたのだが、鎧を着た人間に見える。しかし、魔法で感知出来る範囲には、小さな植物以外に生き物が居る気配はない。さらに、魔法で探ってみると、鎧の中には、ほとんど何も入っていないような感じがする。もしかして、リビングアーマーとか言うやつか?興味が湧いたが、まだ200メートル近く離れている。これ以上奥に入れないので、先方からこちらに近づいてもらうことにする。
やや小さめの氷の固まりを飛ばしてぶつける。頭にぶつかってひっくり返ったが、起き上がった。無傷のようだ。1体来れば十分だったのだが、2体がこちらに向かってくる。走ってくる、結構速いようだ。20メートルほど後ろに下がって待つ。ある程度近づいたところで、様子見に普通の氷の固まりをぶつけてみる。1体は避け、1体は盾で防いだ。反応も防御力も高いようだ。次は大きめの氷の固まりを、やや強く、スピードを上げてぶつけてみる。盾で防ごうとしたようだが、盾がひしゃげ、腕がもげて、本体も5メートルほど転がる。まだ動いて、起き上がろうとしているので、もう一発頭にぶつけて、頭ももぎ取ると動かなくなった。ものすごく強いと言うほどではなくて、良かった。
頭の外れたところから、胴体の中を覗いてみる。ほとんど空っぽの胴体の中程に、ガーゴイルよりさらに大きい心核と魔石がある。鉄のフレームのようなもので固定されている。心核を外そうとして、思いとどまる。胴体も鉄製で売れそうだし、このまま持って行ってもいいかもしれない。外れた部分もすべて、氷で運んだ。
遺跡の外で待つ、パーティーメンバーのところに戻ると、ヒュー達が引きつった顔をしている。腰も引けているようで。リビングアーマーは、ダンジョンの下層に現れることがある、危険なモンスターらしい。恐ろしく頑丈で、動きも素早いため、最上位レベルのパーティーでもないと、戦うのは危険だそうだ。
「この盾にしても、かなり上質で頑丈なはずだが。」ダリルがひしゃげた盾を見て、あきれていた。
あいかわらず雨脚が弱まらず。薬草採取も大変そうなので、野営地でしばらく休憩することにする。雨がかかることはないが、足下がビチャビチャで、地面に腰を下ろすと服も濡れてしまう。腰を下ろしたい者は、馬車の幌の中に引っ込んだ。
時間も余ってしまったし、もう少し快適な休憩所を作ってみる事にする。池の北側の、少し離れたところに、岩肌がむき出しになった急斜面があったので、ウォータージェットで横穴を掘った。岩に深い穴を開けるのは、さすがに魔力を消費するが、雨で魔力を補給すれば問題ない。複数のウォータージェットを同時に操り、岩を板状に切断して切り出す。10分足らずで、5メートルほどの深さの横穴があいた。
初めは洞窟を掘るだけの予定だったが、外に溜まった岩の板を見て、これも活用しようと、考えを変える。石造りの建物も造ってみよう。土魔法だと作ってからの修正が難しいので、まず氷を使って建物を造ってみて、設計を修正していく。
奥の洞窟部分は二部屋にして、手前に厨房を作る。右側に浴室、左側に馬小屋を接続。浴室には脱衣場も必要だな。ドアはどうしよう。鉄や岩では重いし。カーテンでも掛けておくか?木製の板が作れれば楽なのだが、そういえば木の板は作れないのか?試しに、木の板を作ろうとイメージしてみると、何かそれらしい物が出来た。質感が合板みたいで少し変だが、重さも堅さも木のようだ。これが作れるならだいぶ楽だ。ドアは木製の引き戸にして、屋根も鉄のフレームに木の板を乗せ、表面を石の薄板で覆った構造にしよう。ガラスは作ろうとしても作れなかったので、窓は穴を開けて長いひさしを付けただけの構造だ。
だいたい構造が決まったので、まず足下をざっと整地し、斜面の岩肌も少し削って成形し、建築に着手する。地面と岩肌に20カ所ほど穴を開ける。穴から鉄筋をのばし、建物の全体を荒い網状の構造で覆うように、鉄筋を成形する。多量の鉄を作ると、さすがに魔力の消耗が激しい。多量の水を消費して魔力を補充する。
土魔法で穴の中に岩を充填して、鉄筋を固定する。床に岩の板を並べ、高さを調整する。鉄筋を挟むように岩の板を並べる。岩の板の間に、土魔法で岩を充填し、壁用と床用の岩の板を固定する。同時に窓と、窓用のひさしも作る。外壁部分が完成すると、建物らしくなった。
岩の板で厨房の竈を作り、極薄の鉄板で煙突を作った。上部の鉄筋に融合させるようにして屋根を作る。外回りはだいたい完成だ。岩の板で風呂桶も作る。風呂桶を作っている最中に、排水のことを考えていなかったことに気がつき、排水口と配水管も作った。風呂場と入り口のドアを作り、厨房用の作業台も作っておく。奥の部屋の床には、木の板を敷いた。トイレとかはないが、簡易休憩所としては、このくらいで十分だろう。
最後に、内部を水で洗浄し、水を吸収して乾燥させ、風呂桶に湯を張っておいた。所要時間は全部で40分くらいか。土魔法もだいぶ上達した気がする。
ウォータージェットは結構派手な音がするので、私が穴を掘り始めた時から、皆で様子をうかがっていたが、家が出来るとは思っていなかったようだ。私も初めは、そんなつもりはなかったが。
「レディク様は建築もされるのですねー。」レスリーは平常運転だな。
「思いつきで適当に作っただけの、簡易休憩所だ。馬車よりゆったりしたところで休みたいからな。」
「十分立派な石造りの家に見えますが。」ヒューが、きょろきょろ見回しながら歩いていて、転んで怪我をした。今のはスキルのせいなのだろうか?
「うむ。がっしりした石壁だな。こんな事が出来る魔法使いなんぞ、聞いたこともないぞ。」ダリルが壁を叩いて確かめている。
「まあ。立派な竈が。」アベリアがうれしそうだ。やはりそこがポイントか。
「ヤリチン魔王の別荘にゃ。ヤリチン魔王はいろいろおかしいにゃ。おかしすぎだにゃ。」猫耳戦士が早速奥の部屋で、うれしそうにごろごろしている。
「お風呂があります。」
「クロエ。風呂に入ってくれ。どうせ暇だ。今のうちに風呂に入るといい。」
「ありがとうございます。ジニさんもお風呂はいろー。」
「うにゃー。」
「レディク様。もしかしてこれも練習?」
「ああ。確かに練習も兼ねている。鋭いな、ローズ。なかなか良い練習になったぞ。」ローズの頭をなでてやる。
「レディク様。さすがです。」うれしそうに笑った。




