荒れ地
全体の構想がまだあいまいなので、かなり適当です
後で修正するかも
気がつくと荒れ地で倒れていた。
なぜこんな場所にいるのか思い出せない。
おぼろげに、なにかいやな夢を見ていたような記憶が残ってはいる。いやな感じの相手と会話していて、何かを要求されていたような。かすかな、怒りと不安の記憶。何かを拒否したような気がする。あれはいったい誰だ。
だめだ、思い出そうとすると頭が痛む。体もこわばって痛む、別に怪我などはしていないようだが、石だらけの地面に倒れていたためか。
気分が悪い。のどが渇いた。
立ち上がって周囲を見回す。目の届く範囲はすべて荒れ地だ。岩の多い灰褐色の地面に草地が点在し、わずかに小木が生えている。もっとも、周囲はやや起伏の多い地形で、それほど遠くまで見渡せるわけではない。
手近の岩がちの丘に登ってみた。登り切ったところで周囲を見回して、改めて失望することになった。少なくとも周囲数キロの範囲はずっと同じ灰褐色の景色が続いている。人家はなく、水場も見あたらない。遙か彼方にくすんだ黒褐色の山が見えるが、控えめに見積もっても20キロ以上はありそうだ。
空はよく晴れていて、ほとんど雲はない。太陽の角度から見て午前か午後の半ばか、あるいは・・・。そこまで考えて、昨日までの記憶が全くないことに気がつく。日付も季節もわからない。どういう場所に住んでいて、どういう生活をしていたのかもわからない。自分の名前も・・・、いや・・・、レディク?、そんな名前だった気がする。
山が見える方向に背を向けて見渡すと、遠くにかすかに黒っぽく見えるものがある。あれは緑地だろうか、もしかして水場があるかもしれない。のどの渇きに突き動かされて、そちらに向かって進んだ。
歩きながら考える、事故にでも遭ったのだろうか。でも、どんな事故に。体のどこにも怪我はないようだ。頭を強く打ったのならこぶくらいありそうなものだが、頭を触ってみても特に何もない。そもそもどうしてあんな場所に一人で倒れていたのかわからない。攫われて記憶を失う薬でも打たれて放り出された?そんな薬あるのか?倒れていた場所の周囲に車のタイヤの跡とかあっただろうか?わからない。わからないことだらけだ。答えのない疑問ばかりがぐるぐると頭に浮かぶ。頭が痛む。のどが渇いてひりひりする。
目眩がして倒れかかり、岩に手をついて体を支える。もしかしてのどが渇いて死にかかっている?さっきより太陽の位置が高くなり、気温も上がっている。でも、猛烈に暑いと言うほどではない。数時間水を飲まないくらいで死ぬとは思えなが、・・・そういえば最後に水を飲んだのがいつだかわからない。本当に死にかかっているのか。のどがからからだ。舌も乾いてごわごわして感覚がない。水がほしい。
唐突に頭の中に言葉が浮かんだ。「水・魔・・」、「水魔法選択す・・」、頭の中で何かのスイッチが入ったような感覚。次の瞬間、目の前に拳大の水の玉が浮いていた。おそるおそる手を触れてみる。冷たい水の感触。直接口を付けて飲み込んだ。確かに水だ。乾いた舌に、のどに、水が染み渡る。あわてて飲み込んだため、少し咳き込む。
今何が起こった?遅ればせながら考える。「水魔法?」言葉とともに水を呼び出して操る力のイメージが思い浮かぶ。「魔法・・・」呆然としてつぶやく。どうやら魔法が使えるようになったらしい。何となくわかる。これは水を呼び出して使用する魔法だ。水の固まりを飛ばして標的にぶつけたりするのだろう。試しに5メートルほど先に立っている枯れ木に向かって水を飛ばしてみる。
「ウォーターショット」頭の中に浮かんだ言葉を口にすると、水の玉がかなりの速度で飛んでいき、枯れ木に命中した。しかし枯れ木が折れるほどの威力はないようだ。攻撃手段としてはそれほど役には立たないかもしれない。
「いや、まてよ」つぶやいて、考える。水の量とか、飛ばすスピードとかは加減できそうな気がする。今魔法を発動した時に、体から気力のようなものが抜けていったことを感じたので、これを加減できればもしかして。
まずはより多くの水を呼び出すことを念じる。と、目の前に出現した水の玉がどんどん大きくなり、直径30センチほどの水の玉になった。5リッター以上はありそうだ。見ているうちにまだかなり喉が渇いていることを感じたので、口を付けて二口ほど水を飲む。次いで枯れ木に向かってより大きな力で水を飛ばすことを念じてみる。
「ドバンッ」という腹に響く音とともに、枯れ木が根こそぎ吹き飛び、30メートルほど離れた岩山にぶつかって砕け散った。同時に体から大量に力が抜ける感覚。たまらずよろめいて膝をついた。魔法を使うと魔力だか精神力だか、何かそのようなものを消費して、使いすぎると体調に影響があるようだ。
「これは、力の加減をおぼえないとダメだな」しばらく休まざるを得ない状態になった。近くにあった岩陰まで移動して腰を下ろして休憩した。
体感的には30分くらいだろうか、少し楽になるまで休憩した後、移動を再開する。水の不安はなくなったものの、こんなところに居てはいずれ飢え死にすることは間違いない。次は食糧を確保しなければならない。
夕方まで歩き続けると、前方に見えていた黒っぽいものがどうやら森らしいことが判別できるようになった。人家か食べ物が見つかるかもしれない。そのまま暗くなるまで歩き続ける。完全に日が落ちると真っ暗になってしまった。月も出ていない。岩だらけの荒れ地を進み続けるのが難しくなったので寝るのに良さそうな場所を探した。はじめは平らな岩の上に横になってみたが、夜になると岩が冷たくなって体が冷やされ、とても寝ていられないことに気がついた。手探りで草地を探して移動する。半ば枯れた草の上に横になってみると、だいぶましなようだったので、そこで寝ることにした。よく眠れず、寒さと不安から夜中に何度も目を覚ました。
浅い眠りの中で奇妙な、断片的な夢を見た。誰かにこんな風に話しかけられた夢だ『あなたがこの世界で生き抜くために、一つだけ武器をあげましょう。・・・・一つ選んで・・・・・・・・は、使いこなせればどれもそれなりに強力・・・・・・よく考えてから・・・・・選択すると他のものを選び直すことは・・・・・・・』
翌朝空が白み始めた頃に目を覚まし、起き上がる。夜中に何度も目を覚ましたが、昨日一日歩き続けてあちこち痛みを感じていた足も少し楽になったようだ。夢のことについて考えてみる。あれは実際にあった出来事なのだろうか。しかし、考えても頭が痛くなるだけで、よくわからない。
昨日から、あるいはもしかするともっと前から、何も食べていないので空腹感が強いが、食べるものがないので水を飲んで空腹をごまかす。水だけはたくさん出せるので顔も洗うと幾分すっきりした。
丘に登って森の方向を確認する。少しもやがかかっていてよく見えないがかなり近づいているようだ。再び森を目指して歩き始めた。
昼近くまで歩き続けると、森まであと少しのところまで近づいた。足下は丈の短い草地が多くなり、歩きやすくなった。しかし、あいかわらず人家はおろか、人の活動した痕跡が一切見あたらない。もしかすると人跡未踏の辺境で、人里まで100キロ以上歩かないとたどり着けないような場所なのだろうか。食べ物を見つけることが出来なければ飢え死にするかもしれない。あたりの様子を見るために手近な丘に登る。
登り切る前に何かの物音が聞こえた。これは、動物の争う声?丘の上から向こう側の様子をうかがうと、山猫のような動物とオオカミのような動物が争っていた。オオカミはしっぽを含ない体長で1.5メートルくらい、山猫は1メートルくらいありそうだ。かなりでかい。やばい、食べ物を探すことは考えていたが自分が食べ物になる可能性は考えていなかった。
ウサギのような小さい動物を魔法で狩ることは出来るかもしれないと考えていたが、あのでかいオオカミと戦って勝てるだろうか。全力でぶつければ殺すまで行かなくてもかなり大きなダメージを与えられることは間違いないが、全力の魔法を撃った後はこちらも身動きが取れなくなる。もしも命中しなかったらこちらの死亡は確定だ。猛獣が二匹以上居る状況でも死亡確定。それに、うまく仕留めることが出来ても、回復するまで安全な場所に隠れて休んでいないと、他の獣に襲われる危険がある。
そもそも安全な場所などあるのか?考えてみれば恐ろしい話だ。昨晩は、のほほんと草地で寝転がって寝ていたが、あんな場所で寝ているときに襲われたら助からなかっただろう。日が暮れる前にどうやって安全を確保するか考える必要がある。とりあえず思いつくのは木の上くらいだろうか。安全な高さまで登れて上で寝ることが出来そうな大きな木と、寝ている間に落ちないように体を固定するための蔓植物のようなものも欲しい。あとは、木の棒程度でも、何か武器になるものがあった方がよい、水の魔法だけでは連発できないし、咄嗟の場合に心許ない。
考えをまとめている間に、山猫とオオカミの争いは終わったようだった。山猫が捕らえていたウサギのような獲物を、オオカミが奪おうとして争っていたらしく、山猫があきらめて逃げていくと、オオカミは獲物を加えて意気揚々と去っていった。
辺りを見回して、他に危険な動物がいないことを確認したあと、武器になりそうなものを探し始めた。しばらく歩き回ると倒木が見つかったので、枝を折り取ってみた。一本ずつ折り取っては、武器として使えそうかどうか、頑丈さ、重さなどを確かめる。脆すぎてすぐに折れてしまったり、重すぎて持ち歩きが難しそうだったりで、良い枝が取れず、十数本も折ったり振り回したりと試した末、使いやすそうな棒が手に入った。長さ2メートル弱でほぼまっすぐ。先端が良い感じに尖っており、槍のように使えそうだ。
棒が手に入ったので、その後は大きめの木を探した。森の中まで入り込むと、見通しが悪く危険な気がしたため、森の周辺部に沿って、慎重に周囲を確認しながら進んだ。
しばらく進み続けると、前方の茂みの中に何か動くものが見えた。ギクリとして、息を殺して様子をうかがう。念のためいつでも魔法を発動できるように心の準備をする。小さな動物が茂みから姿を現した。ウサギだ。まだこちらには気がついていないようだ。距離は30メートルくらいか。
このくらいの距離なら、なんとか魔法を当てられそうな気がする。水の玉の大きさを、直径10センチくらいにし、全力の8割くらいの力を込めて飛ばしてみた。水の玉はかなりのスピードで飛んでいった。もしかして200キロ近く出ている?風切り音が聞こえたのかウサギは振り向いたがよけることは出来ず、「バシッ」という音とともに吹き飛び、そのまま動かなくなった。
ウサギに近づいて確かめると死んでいた。骨が折れているようだ。自分が殺したと考えると少し気分が悪かったが、生き延びるためには仕方がない。それにしても、どうやって食べよう。火を付ける道具も、解体する道具もない。どうしようもなければそのままかじる?想像したくないが。
まずは安全確保を優先し、大きな木を探してそのまま進み続けることにする。それにしても、今の魔法はうまくいった。力もかなり使った気がするが、昨日のように猛烈な脱力感を感じるほどではなく、この程度なら2-3発は続けて魔法を撃てそうだ。しかし、力加減と威力の関係がまだよくわからない。どのくらい連続で使えるかも確かめる必要がある。そうだ、安全な場所で寝る前なら立てなくなるほど魔法を使っても問題ないか。寝る前に練習してみよう。歩きながら考えを巡らし、予定を立てておく。しかし、まずは安全確保だ。それから火が欲しい。木をこすりあわせて火を付けるとか、出来るのだろうか。
今夜の宿に出来そうな大木を見つけたのは、夕方近くなった頃だった。森から少し離れた位置に立派な大木が立っていた。幹の直径は1メートル近く、高さは20メートル以上、いや30メートル近くあるか。太い枝がたくさん張りだしていて寝る場所も何とかなりそうだ。途中で見つけた植物の蔓を肩にかけて木に登ってみる。地面から10メートル弱まで上ると、何本も太い枝が張り出して寝るのに良さそうな場所が見つかった。蔓と柔らかい木の枝も組み合わせて即席の寝床を作ってみる。試しに横になってみると予想を上回る快適さだった。これならば十分寝られる。寝心地に満足し、いったん木を降りる。
次は火の確保を試みる。まずは枯れ木を集めてきて、その中から擦りあわせるのに良さそうな木を探す。やや大きめで平らな面のある木片とこすりつけるのに良さそうな棒きれを見つけ出し、後はひたすら棒きれを木片に擦り付ける、擦り付ける、擦り付ける、・・・・。手が痛い、疲れた。もう日が落ちる。今日はあきらめた方が良さそうか。空は夕焼けに赤く染まっている。
あたりを見回すと森の中から何かがやってくるのが見えた。あわててウサギを持って木に登る。
木の上から下を覗くとやってきたのはオオカミだった。しかも二匹いる。気がつくの遅かったら危ないところだった。オオカミはこちらを見上げてうなり声を上げている、かなりのジャンプ力で下の方の枝までなら飛び上がることが出来るようだが、さすがに木登りは出来ないようで、木の周りをぐるぐる回っている。魔法で狙い撃ちしてみようか、ここにいればオオカミに襲われる心配もないし、全力で魔法を使っても問題なさそうだ。
魔法の使用を検討していると、オオカミの様子が変わった。森の方を向いてうなり声を上げている。何かを警戒している様子だ。まさか、オオカミが警戒しなければならない猛獣が居るのか?たしかに森の方から何かが接近してくる。夕闇の中から現れたのはヒョウに似た大型の獣だった。しかし、普通のヒョウよりもがっしりした体つきで体長も2メートルくらいある。オオカミとヒョウはしばしの間にらみ合っていたが、戦うことはなく、意外にも二匹のオオカミがあっさりと退散していった。あっさりあきらめるなよ、オオカミ。オオカミなら木に登れないだろうと安心していたのに、ヒョウなら上ってくるんじゃないか?しかもオオカミより強そうだ。これはやばい。槍代わりの木の棒は、木の下に置いたままだし魔法で戦うしかない。
全力を使って身動きできなくなるのは怖いので、直径20センチくらいの水に9割の力くらいか?自信はないがやるしかない。腹をくくって魔法の発動を準備する。ヒョウは木の下から上を見上げると、ひょいっと一番下の枝の上に飛び上がり、さらに向きを変えて次の枝に飛び移る。その動きを見つめて、枝に飛び上がった直後なら攻撃を回避できないだろうと見当を付ける。次の枝に飛び上がる瞬間を待ち、魔法を発動。
「ドパンッ」とかなり重い音とともに「ギャウッ」とヒョウの声。さらに一瞬遅れて「ドサッ」と地面に落ちた音が聞こえた。「グルルルルッ」うなり声を上げながらヒョウが身を起こすがふらふらとしている。魔法と落下の衝撃でかなりのダメージを与えたようだが、まだ生きている。こちらのほうも、今の魔法でかなりの力を使った感じだが、倒れるほどではない。もう一発なら行けそうだ。しかし次は全力が必要だろう。いつでも魔法を撃てるように油断なく構えて、ヒョウの動きを見る。ヒョウは怒りのこもったまなざしで木の上を見上げていたが、ゆっくりと数メートル後ずさるとくるりと向きを変え、よろよろと森に向かって立ち去っていった。
何とか生き延びたようだ。重い息を吐いて腰を下ろす。気がつくと背中にやな汗をかいていた。喉が渇いたので水を飲もうとしてためらう、他の猛獣が来たときのために力を温存しておいた方が良いか、と少し考える。しばしあたりの気配を伺う。すっかり暗くなって、ほとんど何も見えないが、虫の声が響くばかりで危険な気配は感じられない。どちらにしても一晩中起きているわけにはいかない。何か来たらその時はその時か。半ば投げやりに考えて、水を飲んで寝ることにした。




