1話 後編
【声劇用台本】
【上演時間 各話約15分~20分】
『里中ハルの不思議なジョウキョウ日記』第1話前編
作:伴野久兵衛
■登場人物
里中ハル(サトナカ ハル) :田舎から上京してきた素朴な女の子
豊島ナナミ(トヨシマ ナナミ): 垢抜けた女子大生でハルの隣人
アズリエル
■パート1
ハル 「4月3日。
当初の予定では、赤羽の町を散策しながら、昨日に続いて買い物の予定。
ただ高津さんの様子が気になり、午前中に一度、様子を覗いてみる事にする。」
ハル 「おはようございまーす!」
ナナミ「あっ、おはよう」
ハル 「お忙しいですか?」
ナナミ「ううん。今、ちょうど洗濯してたとこ」
ハル 「天気良いですもんねぇ。私もすれば良かったかなぁ」
ナナミ「いや、もう着るモノ無くなっちゃって…さすがに、そろそろしないとね」
ハル 「それはマズイですねぇ。手伝います?」
ナナミ「良いよ。すぐ終わるから、ちょっと待ってて」
ハル 「はーい」
ナナミ「ふぅ、終わった終わった」
ハル 「お疲れ様でした」
ナナミ「疲れるね、意外と」
ハル 「まだ体に慣れませんか?」
ナナミ「うーん…やっぱり身長とか体力とか、男と女で違うからなぁ」
ハル 「あっ、やっぱり感じます?」
ナナミ「そりゃね。
今も物干し竿に余裕で届くだろうと思ったけど、意外に高くてビックリしたよ」
ハル 「あっ、なるほど。今までの慣れとのギャップですか?」
ナナミ「そうそう。今朝、ゴミも捨てたんだけど、思ってた以上に重く感じたなぁ」
ハル 「そう言えば、台所もスッキリしましたね」
ナナミ「ホント、この5日間は、何もしてなかったからね。
これからどうなるか分からないけど、少しはちゃんとしようと思ってさ」
ハル 「なかなか良いことだと思いますよ」
■パート2
ナナミ「里中さん、今日の予定は?」
ハル 「あっ!そうだ!」
ナナミ「え?どうしたの?」
ハル 「あのですね、昨日の夜に考えたんですけど…」
ナナミ「何…を?」
ハル 「その、もし良ければ、里中さん・高津さんって呼ぶの…やめません?」
ナナミ「どういうこと?」
ハル 「あの、何て言うか…せっかくお知り合いになれたんだし。
その、色々と気軽に話せるような関係になるためにも、えっと…」
ナナミ「もうちょっと、砕けた呼び方が良いってこと?」
ハル 「あ、はい。もし良ければ…ですけど」
ナナミ「別に構わない…けど。その、例えば、なんて呼んだら良い?」
ハル 「そうですね。えっと、友達は、ハルって名前で呼ぶんですけど…」
ナナミ「あぁ… その、ハル…だけ?」
ハル 「えっ? あっ、あぁ!その、ハルちゃんとかでも。えぇ、全然良いですよ!」
ナナミ「あの、その、ホントにゴメンね!
俺、女の子を下の名前で呼んだ事とか、今まで一度も無くて!
その、なんて言うか…」
ハル 「いえっ!あの、全然構わないです!
私だって…親以外の男の人に名前で呼ばれたこと、一度も無いですしっ!」
ナナミ「じゃ、じゃあ。そのハル…ちゃんって呼ばせてもらいます」
ハル 「お願いします。
じゃあ、私は何て呼びましょうか?
リョウさんかなぁ?それともナナミさんの方が良いですか?」
ナナミ「うーん…ナナミの方が、都合の良い場合もあるんだろうけど。
俺が呼ばれ慣れてないからなぁ。」
ハル 「そうですよねぇ。じゃあリョウさんにしましょうか?」
ナナミ「女の子でもおかしくない…かな?」
ハル 「大丈夫ですよ!高校の時に、リョウコって名前の先輩いましたし。
それに見た目が美人さんだから、誰も女の人としか思いませんって!」
ナナミ「…なんか微妙な心境」
■パート3
ハル 「それで、さっきリョウさん、何か言い掛けませんでした?」
ナナミ「あっ、うん。その、ハル…ちゃん、今日は買い物に行ったりする?」
ハル 「行きますよ。駅前のショッピングセンターとスーパーくらいですけど」
ナナミ「あの…さ。ついでに買い物、お願いできたりしない?」
ハル 「え?別に良いですよ。なに買って来たら良いですか?」
ナナミ「えっと…取り合えず、何か食べ物と飲み物。あと…その、下着を…」
ハル 「下着っ!?それは人に頼まないで、自分で買った方が…
その、サイズとか好みとかも色々とありますし」
ナナミ「いや、そうなんだけどさ。そのね、実は、外に出るのが怖い…んだよね」
ハル 「女性の体で外に出るのが、恥ずかしいってことですか?」
ナナミ「いや、そういう意味じゃなくて…
でも、まぁ恥ずかしいのは恥ずかしいんだけど…」
ハル 「別な意味ですか?」
ナナミ「うん。正直なことを言うとさ、この豊島ナナミって人のことを俺は何も知らないじゃない?」
ハル 「まぁ、知ってるのは名前とか年齢とか。
お財布の中にあった免許証くらいしか、手掛かりは無かったですもんね」
ナナミ「そう。でもきっと彼女には、学校とかバイトとか、ちゃんと日常があったわけじゃない?」
ハル 「あぁ!外で学校やバイトの知り合いに会っても、こっちはそれがどこの誰かって分からないですからね」
ナナミ「うん。だけど相手は豊島さんを知ってるから、挨拶もされるだろうし声も掛けてくる…よね?」
ハル 「確かに、そうですね。」
ナナミ「もっとアレだと、彼氏が居るかもしれないし、ストーカーに追われてるかもしれないし、犯罪の容疑者かもしれないし…」
ハル 「可能性は低いでしょうけど…でも、無いとは言い切れないですね」
ハル 「分かりました。じゃあ、買い物してきますよ。どうせ、ついでですし」
ナナミ「ありがとう!ホントに助かります!」
ハル 「あ、でも下着は、サイズがちゃんと知りたいんで。
その、今あるのを見せてもらって良いですか?」
ナナミ「あの…それ、なんだけどさ」
ハル 「はい?」
ナナミ「えっと…その、下だけ…が欲しいんだよね」
ハル 「つまり、ブラは要らないってコトですか?」
ナナミ「あっ、うん、えっと…ね。ブラ…は、その、付け方がよく分からなくて。
あの、そのさ…付けてみようと思って、その、一度はチャレンジしたんだけど…」
ハル 「あっ!きつかったんですね?」
ナナミ「うん、そう…なんだよね」
ハル 「じゃあ、ずっとノーブラだったんですか?」
ナナミ「そうですね…」
ハル 「さすがに外に出るときは、しないとダメですよ!
ナナミさんスタイル良いですし、色んな意味で危ないです!」
ナナミ「そうは言ってもさぁ」
ハル 「後でちゃんと付け方、教えてあげますから!
それに大抵の女の子は、きついの我慢してるんです!リョウさんも我慢してください!」
ナナミ「はい…」
ハル 「じゃあ、下だけ買ってくれば良いんですね?それならサイズは、普通のMで平気かな?」
ナナミ「あの、それで…」
ハル 「まだ何かあるんですかぁ?」
ナナミ「その、形なんだけど…」
ハル 「形…?」
ナナミ「あのね。その、何て言うか…
女の人が、よくはいてるのってさ。あの、ツルツルした三角のじゃない?」
ハル 「ん…?あぁ、はい!確かに三角!そうですね、ツルツルした三角ですね!」
ナナミ「あの、それじゃなくてね。
その、えっと、さっき洗濯して干したんだけど…
男がはいてるみたいな、こういう形のヤツが良いんだけど」
ハル 「はいはい。ボクサータイプですね」
ナナミ「あっ、女の人でもボクサーって言うのか」
ハル 「最近、女の子でもボクサーはいてる子、結構いますよ」
ナナミ「へぇ、そうなんだ!」
ハル 「でも、主流は三角ツルツルかなぁ?ナナミさんも、そっち派っぽいですけどね」
ナナミ「一応、はいてはみたんだよ?けどね、なんて言うかさ。肌触りが慣れなくて…
あと、その。何て言うか、お尻が落ち着かなくてさ」
ハル 「あの…いや、見た目も声もナナミさんだから、何も問題は無いんですけど。
ただ、喋り方がリョウさん男だから、何て言うか、その感想は…」
ナナミ「あっ、いや、まぁ、そのね。うん、正直に言うと…
その、もの凄く恥ずかしいんです、三角ツルツルをはくのが…」
■パート4
ハル 「それじゃ、買い物行ってきます!」
ナナミ「うん、お願いします」
【ドアチャイムの音(ぴーんぽーん)】
アズ 「すいませーん!宅急便でーす!」
ハル 「リョウさん!宅急便みたいですよ」
ナナミ「えっ!宅急便!?どうしよう!」
ハル 「私が出ますか?」
アズ 「豊島さーん!宅急便ですよー!」
ハル 「リョウさん!どうします?」
ナナミ「ハンコ!ハンコどこだろう?ないなぁ…どこだろ?」
ハル 「えぇっ?無いんですか?なんか引き出しとか…」
ナナミ「いま探してるけど…」
アズ 「豊島さーん!豊島ナナミさーん!」
ナナミ「あぁぁぁ!!もう居留守使おう!」
ハル 「良いんですか?」
ナナミ「良いよ、もう!そのうち諦めて帰るでしょ」
アズ 「豊島ナナミさーん!高津リョウさんからのお荷物ですよー!」
ナナミ「えっ!?」
ハル 「いま、高津リョウさんからって…」
アズ 「高津リョウさんから、お荷物ですよー!開けてもらえないなら、ドア壊しますよー!」
ハル 「やっぱり…」
ナナミ「聞き間違いじゃないね」
アズ 「ドア壊しまーす!お近くの皆様、速やかにドアから離れるようお願いしまーす!
繰り返しまーす!速やかにドアから離れて…」
ナナミ「あの、豊島ですけど…」
アズ 「なーんだ!やっぱいるじゃーん!って、まぁ知ってたけどなー!
はい、豊島ナナミ…いや、高津リョウ、ゲットだぜっ!」
ハル 「謎の宅急便屋さんの言葉を聞きながら、
リョウさんはピカとかチューとか言わないんだけどなぁ…
なんてことを、私はなぜか冷静に考えていた。
そしてこのサトシ…じゃなくて、謎の宅急便屋さんのせいで、私は買い物に行けなかった。
仕方ないので夕飯は、私の部屋の買い置きで一緒に食べた。
リョウさんは、夜中にお風呂で下着を洗うことにしたらしい。
ともあれ、この謎の宅急便屋さんと出会いは、
きっと死ぬまで…いや、死んだ後でも忘れられない出来事のような気がする」
第1話 了