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不機嫌彼女とのファミレス談笑は貴重な経験に入りますか!?

 さて、唐突ではあるが皆さんは「ぼっちは仙人の始まり」という言葉をご存じだろうか。

 恐らくご存じないだろう。別にことわざでもなんでもなく、俺が勝手に言ってることだし。

 まず集団からハブられるなどして一人ぼっちと化した人間は何としてでもその集団、もしくはそれに準ずる集団に戻ろうと奮起する。

 一人ぼっちとか恥ずかしい。

 指差されて笑われるの怖い。

 そんな強迫観念に苛まれながら。

 つまるところ、その身を苛む孤独感から逃れようと躍起になるのだが、その期間が一定以上続くと痛みに慣れ始める。

 もう集団の中にいなくてもいいや………とある種の諦めがついてしまうのだ。

 そうなってしまうと後には安寧が待ち構えている。

 もはや解脱に近い。

 他者との煩わしい接触、嫉妬や苛立ちさえも持たないようになり、これまで他人へと向けられていたエネルギーが全て自分に向く。

 人間、案外自分に厳しい生き物なので他者という縋る対象、「俺は駄目だけどこいつはもっと駄目だから大丈夫だろ」と責任を擦り付ける対象がいなくなってしまうと知らず知らずのうちに自らを高める行動に出るようになる。

 鏡に映るだらしねえ身体を見て筋トレを始めたり、なんてこともザラだ。

 あまりにも暇なので哲学なんてものに手を出し始め、気がついた時にはやたら高尚なぼっちが完成してることも。

 そんなわけで、嘘つきは泥棒の始まりというように、ぼっちは仙人の始まりなのである。

 ………あれ、中二病の説明してる気分になってきたぞオイ。

 おかしいな、割と真面目かつ実体験に基づいた話なんだが………ああ、その実体験がちょうど中学二年の頃に行われてたからか。じゃあただの中二病じゃねえか………。

 なんにせよ、俺が伝えたいことはというと、その中二病のごときぼっち理念によって俺のステータスにおける力の項目が元からそれなりに高かったということである。

 7、と言われてもよく分からないだろうが、中堅サッカー部の準レギュラーぐらいと考えてもらえると程よいだろう。余計分かり辛いか。じゃあもうあれだ、ちょっと運動できるタイプと自称するギャルゲー主人公ぐらいと考えてくれればいい。あいつら自己申告かなり控えめにするからな。

 俺の力とやらがそれなりに高かったということを理解してもらった上で、今日の放課後の顛末を話したいと思う。

 神崎のスカートめくりによって俺のレベルは一気に4も上がった。

 同時に各種ステータスも4ずつ上昇したわけだが、沙奈との会話にもあったように、3から7へと上がった俺の賢さは常々赤点であった俺の数学のテストを平均点程度まで押し上げてくれた。

 スカートめくり程度で日頃の悩みのうちの一つが解決されてしまったのだからすごいといえばすごいんだが、所詮はその程度。

 力が上がったと言ってもまぁせいぜいジャックナイフができるようになるかなぁ程度の認識だったのだが………。

「まさか、現実世界でデュークホームランを見る日が来るとはな………」

 決戦を終えた後の、学校近くのファミレス。

 ドリンクバーで注いできたコーヒーをブラックのまま啜りながら、俺はげんなりとつぶやいた。

 昼休みの壁打ちを幻覚的なサムシングと判断した俺は、内心怯えながらもリア充グループが連れてきた他校のテニス部エースさんと相対し、そしてリターンエースを彼の鳩尾にぶちかました。

 どうもステータスは二次関数的に飛躍するらしく、ギャラリーの視線が一点に集まる中、エースさんは綺麗に放物線を描いて草木生い茂る花壇へと突っ込み、そのまま動かなくなった。

 その様子を見ていたチアガール神崎は一言。

『お前はただのテニス。わしは恐竜をも滅ぼすテニヌじゃ!』

 ああ、エースだけにってやかましいわ。

 お前テニヌ馬鹿にすんなよ。あれだ、超次元サッカーよりまだテニスしてるから。スタンドとか出してないから。唐突に分身して一人ダブルスしたりするけども。

 そんなわけで三分ほどで決戦を終えた俺は取り返したテニスコートをテニス部員に明け渡し、一応リア充グループにも『次奪ったらお前らもホームランするからな』と釘を刺した上で運動場を去った。

 いやー、いい仕事したわ俺!

 テニス部の子たちから「別に頼んでないんですけど?」とか「人気取りのために利用しないで」とか言われたけどいい仕事したわ俺! したよな? 俺悪いことしてないよな?

「デュークなんとかはよく分からないけど、いいことしたんじゃない? 間宮は」

 同じく珈琲を啜りつつくすりと微笑むのは我が三友神の最後の一角こと龍宮寺桜。

 腰まで届きそうなポニーテールにちょっと吊り目なコワモテ系女子だ。

 いや、何が一番怖いかって言ったら常時寄せられてる眉間なんだけど。

 やたら不機嫌そうにしているものだから、それなりに美人だというのに誰からも声をかけられず、高二の四月にもなって友人が俺と神崎、そして沙奈だけという可哀想な奴である。

 同様の理由で俺も可哀想な奴と言える。もう河合荘住んでいいレベル。シロさんとアホなことして一日過ごしたい。かめはめ波の撃ち合いとかしたい。

 ああ、言い忘れてたわけじゃないけど俺には男友達というものがいない。

 高校入るまでは沙奈以外知人すら皆無だったのでそれを求めるのはさすがに贅沢だと思うが、やはり男友達と猥談とかしてみたい年頃なのだ。

「だから龍宮寺、男友達的なノリで俺と猥談をしてくれ」

「え? とりあえずこのホットコーヒーぶっかけていいの?」

「お前の頭の中の猥談荒々しすぎるでしょうちょっと」

 なんで神崎といいこいつらはツッコミが冷たいの? 返事が全部妹子レベルで返ってくるんだけど。子津チューくらいの優しさを求めてもええやないの………。

「沙奈ちゃんとしてればいいじゃん。あの子下ネタでしょ?」

「いや沙奈そのものは下ネタじゃねえよ、歩く十八禁みたいに言うなよ………違うんだ龍宮寺。あいつに下ネタ振られる度赤面するのが癪だからお前と練習を重ねておきたいんだ」

「ふぅん………まぁ、どうしてもって言うならやってあげてもいいけど」

「ほ、ほんとか!?」

「代わりに一個質問。どうして神崎じゃなくて私に?」

「え? そりゃお前、神崎に下ネタなんて振ったらドン引きされるからだろ。俺神崎にドン引かれるの嫌だしぃいいいいいいいいいいいいいい!」

 爪先が! 俺の爪先が今ピチュンって言った! 今確かにピチュンって言った!

 レベル上がって耐久力もそれなりに上がってるはずなのにこの威力!

 やっぱあれだな、ミニスカ短めにしてるだけあって鍛えられてるんだな。

「もういい。期待した私が馬鹿だった」

 猥談ふっかけられたのが余程嫌だったのか、むすっといつもの不機嫌顔でコップ片手に龍宮寺が立ち上がる。

「おかわり入れてくるけど何がいい?」 

「やだ女子力高い………いや待て龍宮寺。それは俺にやらせろ」

「いいよ別に。さっきは間宮が入れてきてくれたじゃん」

「一回程度じゃ身につかん。思い出せ、わざわざファミレスなんてリア充の巣窟に足を運んでいる意味を」

「……………普通にご飯食べに来たんじゃないの?」

「ちっがああああああああああああああああああう! 全然違うぞ龍宮寺! ご飯食べるだけならお前か俺の家でもいいだろう! わざわざ金払って店に来てる理由はただ一つ!」

 小声で騒ぎ立て、びしっと周囲の席でたむろうリア充どもを指差す。

「あれを模倣するためだ!」

「………あー、そういえばそうだったね」

 そう。

 俺たちは週に何度かこうして二人でファミレスや喫茶店に来店しているわけだが、それは何も食事や談笑のためではない。

 そこに生息するリア充たちの挙動を観察しそれを模倣するために来ているのだ。

 前述のような過程の末、俺や龍宮寺は集団に混じらなくてもいいや、とぼっちーずの道を歩んでいるのだが、この道で歩き続けていると将来必ず困ることになるのは目に見えていた。

 俺たちは集団から放逐された狼。

 狼となってしまった理由はただ一つ、集団に溶け込めないということ。

 仙人ぼっちとして生きること自体は決して悪いことではないはずなのだが、このままいくと集団に溶け込めないという社会で生きる上でも一二を争う欠点を治すことなく大人になってしまうだろう。

 さすがにそれは駄目だろうと思った俺は婿として貰ってくれる人を探すのと並行して、集団に溶け込む術を学ぼうと考えた。

 しかし、これがなかなかにうまくいかない。

 というかそう簡単にいくものなら俺はぼっちになっていなかっただろう。

 世渡り名人こと沙奈にご教授願ったものの、それでもいまいち理解が進まない。

 ならば模倣しかあるまい、と俺は現在進行中の作戦を編み出したのだ。

 人間は模倣して学ぶ生き物である。

 上手い人のプレーを見て、己の中で究極のプレーを夢想し、それをなぞるように身体を動かすことはかなり有効な成長方法だろう。

 だからこそ、俺は上手くやれている人たちがたくさんいるファミレスにお邪魔し、必死になってノウハウを学ぼうとしているのだ。

 それなのに、これ程にも真面目に考えているというのに、相方である龍宮寺はそんなこともあったっけーと素知らぬ顔。

「ちくしょう、美人はいいよなぁ。最悪誰かにもらってもらえばいいんだもんなぁ」

「好きでもない人と結婚するぐらいなら独身でいいよ私」

「やだ、乙女回路全開じゃないあなた。シンデレラとか好きだろ」

「………まぁ、好きだけど。似たような経験したし。かぼちゃの馬車じゃなくてママチャリだったけど」

「魔法もへったくれもねえなオイ。つうかお前、今まで結構な頻度でファミレス行こうだの喫茶店行こうだの誘ってきたじゃねえか自分から。リア充の観察及び模倣目的じゃねえなら何のつもりだったんだよ」

「うるさいな。乙女の秘密に口出しすんな馬鹿」

「自分で乙女って言う奴初めて見たわ俺………そういうわけだから、ドリンクは俺に任せろ」

「あ………」

 龍宮寺の手からコップを奪い取り、俺も席を立つ。

「今さっき、向こうのイケメンリア充が率先してドリンク任されてた。あの気遣いが必要なんだろきっと」

「アンタがやってもパシリにしかならなさそうだけどね」

「いいんだよパシリでも。会社でこき使われようが家に帰れば可愛い嫁が俺を癒してくれる。僕はそんな日常に幸せを感じるんだ」

 そんな俺の言葉に龍宮寺は目を丸くした。

「へ、へぇ………お嫁さんもらう気でいるんだ」

「今も傍にいるけど」

「へっ………!?」

「ほら、俺の嫁こと凛子。ほらほらどうだぁ、可愛いだろぉって俺の3DSがぁああああああああ!」

 アイエエエエエエエエ!? 暴力、暴力ナンデ!?

 上画面と下画面が曲がってはいけない方向に曲げられ、画面の中の凛子もブラックアウト。

 何? お前らそんなラブプラス嫌いなの? いいじゃねえか別に。彼女いない歴=年齢な俺にも夢見させてくれよ………。

「弁償はしてあげるから、今は鞄の中に直して。踏み潰したくなる」

 脅迫じみた言葉に俺は渋々DSを制服の内ポケットにしまいこむ。

 まぁ、今のは二次元にあまり耐性のない龍宮寺にキス待ちの凛子見せた俺サイドにも非がある。

 俺と神崎、そして沙奈でジェットストリーム布教を行っているのだが、なかなか受け入れてくれない。

 いや、受け入れようとする気概はあるらしく何度か我が家にお邪魔し一緒にゲームしたりしたのだが、なかなか生理的に受け付けないとかなんとか。

 毎回別れ際に「やっぱり今回も駄目だったよ」とか言いつつ、それでも数日後には「もう一回頑張ってみる」と遊びに来る辺りいい友達を持ったと言わざるを得ない。

 こちら側も龍宮寺に歩み寄ろうと裁縫や少女漫画に手を出し女子力が着々と上がりつつある。

 俺が雄んなの子となるか、龍宮寺が二次元に慣れるか。

 ぜひとも勝ちたくない競争である。

「で、ドリンク注いでくるけど何がいい」

「いや、私も行くよ。アンタに任せたら変なミックスしか出てこなくなるし」

「変なとか言うな。あれはジーザスブレンドといって神が定めしありがたい調合比なんだぞ」

「普通にコーラ飲みたいからコーラで。うち仏教徒だし」

「え、じゃあクリスマスどうしてんの?」

「樅ノ木祭りしてる。プレゼントは樅ノ木おじさんが持ってきてくれることになってる」

「いったい何者なんだ、樅ノ木おじさん………」

 樅ノ木の周りで踊り狂ったりするのかなぁ、と考えつつ龍宮寺と二人ドリンクバーへ。

「………あれ?」

 注ぎ口に着く前に、ふと龍宮寺が声を漏らした。

「どうしたよ龍宮寺。元カレでも見つけたか?」

「いやいたことないんだけど彼氏………そうじゃなくて」

 あれ、と指差した先、ドリンクバー前で男女が何やら話している。

「ああ、リア充が意味もなくたむろってるのか。よしいったん戻ろう龍宮寺。あそこに突撃できるほど俺のメンタルは強くない」

「アンタのそのリア充アレルギーはどうにかならないの? しかもあれ、多分そういうのじゃないし」

「うん?」

 言われ、改めてイチャコラしてる男女を観察する。

「おいおい姉ちゃん、どうしてくれんだこのジュース」

「兄貴の一張羅が台無しじゃねえか、ああ?」

「そ、そっちからぶつかってきたんじゃない!」

 ふむふむ、なるほど。   

「ナンパだな。あれはナンパだ。ちょっと強引な手使ってるがナンパだ」

「アンタの理論でいくと誘拐もナンパって言えそうな気がする………」

「誘拐は犯罪としても、男は可愛い子に手を出さずにはいられない生き物だからなぁ………」

「何? あの子になんか恨みでもあるの?」

 やだなぁ、恨みなんてないよぉ。

 ただあの子、確か俺に「神崎さんへの点数稼ぎなんでしょ」とか言ってきやがったテニス部の女子なんだよなぁ。

 どうしたものかと頭で考えながら、脚は勝手に彼らの元へ。

「おーう何油売ってんだよ姫様」

 しゅばっ、と挙げられる片手に三人分の視線が集中する。

 それを確認しつつ、ちらりと周りを見渡す。

 すると、窓の向こうからこちらを覗いているテニス部連中の元気な姿が!

 会計そそくさと済ませて逃げやがったなあいつら。薄情なんだからーもー。 

 いや、確かにこの兄貴たち結構怖いけども。 

「あぁ!? 急にしゃしゃり出てきて何言うとんじゃワレェ!」

 二人のうち、舎弟っぽい方が怒鳴り声を上げた。

 ヒョウ柄のシャツが関西のおばちゃんっぽくてなんともお茶目。

 でもこれだけ大声出してくれたんだから店員さんすぐ来るだろうし安心ですな。

「いや、こいつ俺のツレなんで。ナンパはご遠慮願うというかなんというか」

 いやはや、と微笑みさえ浮かべて告げる。

「うわ、なんだこいつ顔怖え! 悪鬼羅刹の類か!?」

 うん、知ってた。

 仏頂面という単語がよく似合ういかつい顔に、ぎらりと光る三白眼。

 笑うと特に怖いらしいからあんまり笑わないように生きてきたから、余計に頬が強張ってしまいひどい有様らしい。

「ひぃっ………!」  

 ああ、助けに来ようとしてた店員さんがお逃げになられてしまった………。

 こうなりゃもう、俺が何とかするしかないのか。

 ………長丁場になるのは龍宮寺に悪いし、少しだけ裏技に力を借りるとしよう。

「お兄さん方。ここに百円玉があるじゃろ?」

 財布から取り出した銀の硬貨に、三人は首を傾げる。

「弁償金にしては、ちと安すぎるのォ………」

 そりゃそうだろうなぁ。

 でも。

「これをこうじゃ」

 脅すためなら十分だろう。

 ぐち、と嫌な音がした。

 人差し指と親指の間、圧縮された銀の塊を見て三人の目の色が変わる。

「散れ。さもなくばお兄さん方の指もこうじゃ」

 閻魔の如き笑みを浮かべ、告げられるのは死刑の調べ。

 ぽっと出ということで精神の間隙を突いたのだろう、お二方はしずしずと去っていった。

 ………やってること、向こうと変わんねえな。

 放課後のテニス対決だってそうだ。

 圧倒的な力をもって、同色の力をねじ伏せる。

 巨悪をもって悪を制すとはよく言うが、あまり気持ちのいいことじゃない。

 仕方ないとは分かってるんだけどなぁ………。

 はぁ、と溜息を吐いた俺に声をかける女子が………いない。

 絡まれてたテニス部の女子はすたこらさっさと逃げたらしい。

 今ちょうど窓の向こうで先に逃げてた子たちと合流した。

 こっちちらちら見ながらなんか話してるな。

 あれかな、俺に惚れちゃった的なあれかな?

 そんなわけあるかです………。

 また間宮に絡まれたーとか菌が移るーとか言ってんだろうな、きっと。

 いやさすがに菌はないか。あれは小学生限定だ。

 しかし、もったいないことをしてしまったな。

 硬貨を傷つけるのは法律に違反するんだっけ?

 いやでも、脳噛さんちのネウロさんはジャンプで五百円玉潰してたし………。

「お疲れ、間宮」

 ぽん、と肩を叩かれた。

「いや、お疲れって言うぐらいならフォローとかしてほしかったんですけど」

「かよわい乙女に何させるつもり?」

「………色仕掛け、とか」

 ぶつぶつと文句をくべる俺に、龍宮寺は溜息を吐きそれから柔らかく微笑む。

「何も得しないんだから、やらなきゃいいのに」

「損得勘定だけで生きてたら人間錆びるぞ」

「それはそうだけどさ………」

「つうかあれだ、明確に得になる行動なんてそうそうねえっつう話だ。席譲ったところで得られるのは感謝の言葉だけ。結局は自己満足しかねえんだから、俺が満足できるって事実が得なんだよ」

「満足できてるの?」

「おう。見逃さなくてよかった、ってな。無視されるのは辛いから」

「………そうだね。そういえばそうだった」

 ぼっちらしく、龍宮寺もまた頷いた。

「あの痛さはそれこそ痛いほど知ってるもんね。私も、アンタも」

「そうだとも。だから見捨てられねえ。在庫処分セールとかつい寄っちゃうのもそのせいだ」

「ああ、だから毎回キーホルダーが若干ダサいんだ………」

 苦笑を返しつつ、俺はコップにコーラを注ぐ。

「あれ? コーラ苦手じゃなかったっけ」

「あれだ、お前と同じもの飲んで『あー俺友達いるわー』ってな具合で傷心癒すんだよ」

「結局傷心してんじゃん」

「そりゃそうだろせっかく助けてやったのに何も言わず逃げられちまったんだから。善意押しつけるつもりはねえけど、さすがに傷つくってもんだ」

「ふぅん、自称ヒーローも大変だね」

「自称した覚えは………ああ、自傷の方な」

「当たり」

 龍宮寺はくすくすと楽しげに笑い、それからふと、

「………あ、ストローあるけどどうする?」

「どうするって、別にいらねえけど」

「さっきのリア充ストロー二本を一つのコップにさして飲んでたよ」

「模倣しなきゃ(使命感)」

 そうして、俺は龍宮寺と二人テーブルへと戻った。

 途中、

『………………………ふむ』

 何か納得したような、勇者の声が聞こえた気がした。

    


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