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スカートめくりは貴重な経験に入りますか!?

 圧倒的な力の前に私は敗北した。

 磨き上げた剣技は、ダモクレス鉱石でできた剣をも砕くその拳の前には無用の長物であった。

 英知の結晶たる魔法は、天地を割り砕く魔導さえ傷を与えられないその身体の前で意味を為さなかった。

 勇者たる私と共に世界のために抗い続けた同胞は皆洗脳され、今もなお私に降伏を求めている。

 だが、まだ私は諦めるわけにはいかなかった。

 この美しい世界を、大切な人々をアレに明け渡すわけにはいかなかった。

 だから。

「流転せよ――――――――」

 私は呪文を口にする。

 それは、永劫の輪廻。

 世界を原初に戻す至高の一。

 唯一無二の魔導を唱えた後、ただでさえおぼろげであった私の意識は深い海へと沈み込む。 

 幸せだったあの頃に立ち戻っていく世界を遠く眺めながら、ふと思う。

 これで何度目だろうか。

 何度繰り返しただろうか。

 勝てない。

 どうしてもあの男に勝てない。

 だからこそ何度も世界を繰り返し、数多の試行を実践した。

 だが、アレはもはや規格外としか言いようがなかった。

 未知の異能や兵器を振るい、倒した我が同胞たちを洗脳し。

 一週間足らずで国の要所を叩き潰していく様は、まるで悪夢のようであった。

 もしも私に力がなかったなら、諸手を挙げて降参したことだろう。

 しかし、私には微力ながら力があった。

 国王から勇者として認められるほどには。

 だから、諦めるわけにはいかなかった。

 この世界を、諦めるわけにはいかなかった。

 あの悪魔から、輝かしい世界を救い出すのだ。 

 そう誓ってから幾千もの時が過ぎた。

 私もまた幾重もの繰り返しのうちの一。

 LVはまた1からだが、得た知識や経験は次代の私に受け継がれる。

「この世界をRPGゲームに落とし込めます。そうすれば、ニューゲームの概念によってあなたは何度でも蘇ることができる」

 魔導を授けてくれた人はそう説明してくれた。

「死に覚えゲーと言いますか、コンティニューなしのRPGと言いますか。なんにせよ、あなたというキャラクターはLv1に戻っても、あなたという名のプレイヤーはどんどん知識とコツを蓄えていきますので。いつかはきっと、勝てますよ」

 言っていることはよく分からなかったが、彼は勝てると言ってくれた。

 なら、それだけで十分だった。

 今は負けてもいつかは勝とう。

 必ず、必ず勝とう。

 たとえ幾度辛酸を舐めようと、たとえ幾度地に這いつくばらされようと。

 必ず私は、あいつを倒す。

 だから頼むぞ次代の私。

 次の回帰こそは我らの勝利で終えてくれ。

 今は見えぬ天上の星にそう誓い、私は静かに瞳を閉じた。

 瞬間、脳裏にゲームオーバーと声が響く。

 どうやら、私もここまでのようだ。

 ああ、此度もなかなかに疲れた。

 早くあいつを倒して、平穏な世界でゆるりと風呂に浸かりた―――「待てよ糞野郎」―――何?

 閉じられかけた世界で、悪魔の声が聞こえた。

「もう飽きたんだっつーの。いい加減お前の相手ばっかすんのも疲れたわ」

 思わず目を見開いた私の眼前、黒髪の悪魔はやれやれと肩を竦め、それから羽虫でも叩き落とすような気軽さで、

「よっと」

 流転の魔導、その中核を事もなげに砕き散らした。

「馬鹿な――――――――――!」

 身体中から血の気が引く。

 魔導とは世界の理だ。

 それによって傷を与えられないならともかく、あまつさえ破壊するなど―――――!

 規格外。

 この化け物は、いささか規格外すぎる。

「うし、これで繰り返しはもうねえな。やー終わった終わった。あとはこれでお前を潰せばハッピーエンドってこったな」

 安心しろよ、と下衆は邪悪な笑みを浮かべた。

「お前もすぐに、俺を好きになるからよ」

 ―――――――――――――――。

 その時、私の中の何かが燃え滾った。

 それは果たして何だったのだろうか。

 単純な怒りか、それとも、礎となってきた私たちの怨念か。  

「おおおおおおおおぉぉォォォ―――――――――――――!」

 咆哮と同時、私は自らを弾丸に変えた。

 音速を超えマッハ4。

 暴風さえも身を引く暴力の塊は、しかし。

「ホーッムラン!」

 悪魔によって軽く蹴り飛ばされた。

 その速度はもはや光速を容易に超越していた。

「ぐ、おおおおおおああああああああああああああああああああああああ!」

 あまりの速さに次元は歪み、私はこの世界から排出される。

 排斥の刹那、悪魔の声が微かながら聞こえてきた。

「あー、ちょっと強く蹴りすぎたか? やーあんまりいい具合に飛んでくるもんだから、つい」

「さすがです谷津田さん!」

「人を次元の彼方に飛ばすなんてなかなかできることじゃないよ」

「やっぱすげえな谷津田!」

 愛すべき同胞たちが悪魔に称賛を贈る声をどこか遠くに聞きながら、私の意識は途絶えた。 




 突如目の前で土下座を始めた同級生に対し神崎は何を思うだろうか、とリノリウムの床にでこを叩きつけてからふと思考をめぐらせた四月の中頃、皆様はどうお過ごしだろうか。

 あ、俺?

 俺は今言った通り廊下で同級生に土下座してる。

 詳しく語るならこうだ、錦戸にしきど学園旧校舎、人通り皆無な二階の廊下で去年に引き続き第二学年となった今年もニシコー美少女ランキング堂々の第二位を飾った『黒髪の令嬢』こと神崎澪の眼前で俺こと間宮宗一は土下座をしている。

 それも謝罪ではなく、懇願のために。

 何を言ってるか分からねえと思うが、これでも俺は必死であり本気だ。

 何せこの土下座は、半日ほどの試行錯誤の末取られた最終手段なのだから。

「………何?」

 胸の内に秘めた必死さを寸分の一程度は感じてくれたのだろうか、神崎は逃げることなく問いかけてくれた。

「土下座されても付き合わないよ?」

 違った、ただ慣れてるだけだこの子。やはりモテる女は違うな………。

 いや、確かに神崎は土下座してでも手に入れる価値のある、美人かつ可愛いという意味の分からない女の子だ。

 黒くて長い髪を湛えたその容姿はクール系の美女と噂されながら、時折見せる立ち振る舞いは可憐な乙女のそれ。

 俺が女だったら間違いなく靴に画鋲入れるレベル。

 そんな反則的な彼女を魅力的だと思わなかった日はないが、今はそういう話ではない。

「いや、違うんだ神崎。俺は別にお前に交際を申し込むために土下座しているわけじゃないんだ」

 角度的に見えるであろうパンツに心惹かれ、徐々に重力の束縛を解いていく頭を何とか床へ押しつけながら否定の意を口にする。

「それにあれだ、こういう時は土下座ではなく懸垂と相場が決まってる。主に俺の中で」

「間宮くんの中で私は苺パンツを履いてるの?」

 なんで通じてんのこれ。少年漫画ですよねあの漫画。

「先に懸垂されてたら考えなくもなかったかなー」

「マジで!? え、ちょ、じゃ、じゃあ今すぐ校庭行こう! いくらでもするから!」

「でもさっき交際を申し込むためじゃないって言ったよね」

「俺は過去を振り返らない男だ」

「じゃあさっき私が言ったことも無効だね」

「………ただし神崎との思い出は除く」

「へえ、もう友達以上の関係になったつもりなんだ」

「それなんて一週間友達………」

「そう聞くともっとこう薄暗いものに感じるよね。友達料金とか聞こえてきそう」

「ああ、一週間ってそういう………いやいやいや違う違う」

 慌てて首を振り、スカートの中身が見えないよう土下座体勢のまま後ずさった後俺は顔を上げた。

 正面では神崎が珍しくにこにこと微笑んでいる。

 とはいっても基本感情があまり顔に出ないタイプなので心もち、といった具合だが。

「やっぱり間宮くんと話すの楽しいな。皆がスルーするネタも拾ってくれるから」

「なんでだろう、褒められてもあんまり嬉しくない………」

「暗にオタクって罵倒されてるからじゃないかな」

「それブーメランじゃねえの?」

「うわ、ホントだ。傷物同士だね、間宮くん」

「女の子が傷物とか言ったらダメだと思うの………」

 はぁ、と嘆息。

 こいつと話すのは楽しいんだけど、その分かなり疲れる。

 なんというかこう、短距離走を駆け抜けるイメージ。

 今自分が可愛い子と話してるんだというプレッシャーも原因の一つだろう。

 もっとも向こうからすれば普通の友達感覚だろうが。

 いや、これでもありがたいことなのだ。

 ニシコ―広しといえど、神崎の男友達は俺だけなんでね!

 ………四方八方へ飛び交う神崎のトークについていけるのが俺しかいないということでもある。

「―――――――――ついて来れるか?(ネタに)」

「────ついて来れるか、じゃねえ。てめえの方こそ、ついてきやがれ───!(ネタに)」

 そんな会話をした入学式のあの日が早くも懐かしい。

 あれ以降神崎含む一部の女子以外からの視線がホント辛いんだけど、あれ? オタクって結構世間に認められ始めてたんじゃないの? 『俺オタクなんすよー』とかほざいてるリア充いるじゃないすか。あれか、ファッションオタクってやつか。よくもまぁうまく着こなしちゃって………俺なんてもう着膨れしてますよ。ファッションじゃすまないよこれ防寒具だよこれ。いやほら、世間冷たいから………。

「で、ホントは何の用なの? 土下座なんかしちゃって、間宮くん妹いたっけ?」

「いや、確かに俺妹は序盤土下座オチ多かったけども………」

 小首を傾げる神崎に、俺は頭をがしがしと掻きながら言った。

「あのな神崎」

「何?」

「お願いがあるんだ」

「だろうね。間宮くんが私に謝らなきゃいけないことなんてないし」

「俗に言う一生のお願いと思ってくれていい。それだけ切実なんだ」

「間宮くんがそこまで言うんだからよっぽどのことなんだね」

 うん、と神崎は平均よりやや透明な微笑みを浮かべた。

「いいよ。何でも言って。私と間宮くんの仲だもん」

「か、神崎………!」

「屁のつっぱりはいらんですよ」 

 感極まる俺に、神崎はふんすと鼻息を鳴らす。

 さっすが神崎!

 俺たちにできないことを平然と言ってのけるッ!

 ――――――――ああ、安心した。

 彼女からの信頼を浴びるほど感じながら、俺は一息にその願いを告げた。

「神崎、お前のスカートをめくらせてくれ」

「………は?」 

 返ってきたのは氷点下でした。

 いやむしろ俺が氷河期に帰ったというか俺と神崎の信頼度が零に還ったというか。

「できちゃったね間宮くん。私に謝らなきゃいけないこと」 

「ああ、できちゃったな………なんならこのままできちゃった婚とシャレこみたいくらいだ」

「…………………」

 無言のまま、神崎はす、と自身の足元を指差した。

 俺は黙って静々と土下座し彼女のおみ足に頭を差し出す。

 まるで土下座のバーゲンセールだな………。

「…………………」

 ふみ、なんて軽い擬音ではとても表現し得ない勢いで神崎は俺の後頭部を踏みつけ、俺の額は硬い床と合唱を奏で始めた。

 ご丁寧に靴を脱いで踏んでくるあたり神崎は分かってる。いや何が分かってるとは言わないけど。

「ごめんね間宮くん。でも、ここで怒っておかないといつか間宮くんが見知らぬ女子生徒の膝裏を突然舐めたりしそうだから」

「ああうん、神崎にとってスカートたくしあげといえば七咲なのか………いや、違うんだ神崎。俺は響先輩派だ」

「でも間宮くん、とりあえず全員攻略する派でもあるでしょ?」

「そりゃまぁ、美少女が俺呼んでるし………」

「そんな拗ねた風にぼそっと言われたらさすがの私でも引いちゃうよ?」

「たとえ神崎に引かれようと俺にはまだ凛子と真中がぁああああああああアアアアア」

 はは、二股に怒るなんて神崎はいい子だなぁ。

 その割にワンクールごとに嫁変わってる気がするけど。

 神崎の踵によってごりごりと頭蓋が削れるような痛みを感じながら、それでも俺は必死に弁解を試みる。

「落ち着け神崎! 別に俺は邪な理由でスカートをめくりたいわけじゃないんだ!」

「ならよこしまじゃない理由をどうぞ」 

「………こう、強くなる、ため?」

「√3点」

「ごっ、がァああああああああああああああああ!」

「こうして痛みに耐えてた方がよっぽど強くなると思うなー」

 やばいな、神崎思った以上にご立腹だ。卍解・激おこプンプン丸だ。

 いや、正直怒ることは想定内だったけども。  

 しかし俺にはもうこれしか手段がないのだ。

「頼む神崎! 後生だ! 以後お前の奴隷になってやってもいいからスカートめくらせてくれ!」

「女の子の下着見るのにそこまで本気とかマジひくわー」

「気持ち悪いのは分かってる! 自分でも正直どうかと思う! だが、それでも! それでもお前のスカートをめくるしかないんだ!」

 本気も本気、全力で俺は床にでこをめりこませる。

「何でも、何でもだ! 何でもするから俺にスカートをめくらせてくれええええええええええええええええええ!」

 もはや咆哮であった。

 やけくそでもあった。

 旧校舎全体に響き渡る劣情の爆発に、小さな溜息が一つ。

「………何があったのかは知らないけど」

 除けられた踵。

 顔を上げた先、不機嫌顔の神崎がいる。

 彼女はむすっと眉を下げ、しかし仕方がないといった様子で俺を見下ろしている。

「それは、私じゃないと駄目なの?」

「お、おお! そうだ、神崎じゃないとダメなんだ!」

「他の子に同じこと要求したりしない?」 

「いや、する意味がない」 

「っ………そ、そこまで、言うなら」

 もじ、と神崎は指を絡めた。

 来たかっ!

「めくってもいいのか!?」

「ただし条件が一つ」

 思わず立ち上がった俺に人差し指を立ててみせる神崎。

 彼女はおもむろに自らの制服のネクタイをしゅるっと外した。

「お、襲う気か!?」

「襲えるほど色気、ありませんので………」

 言いつつ視線を下げる神崎につられ、俺もまた視線を下げる。

 そこにあるのは大平原、ではなく神崎澪の胸である。

 え、ナイアガラ? とおちょくりたくなるほどの絶壁に神崎は疲れたような笑みを浮かべ、それから俺にマイネクタイを掲げた。

「ここにネクタイがあるじゃろ?」

「せやな」

「これをこうじゃ」

 言うなり、神崎は俺の首元に腕を回した。

 そのままネクタイを後頭部の後ろに通し、目隠しとして俺に巻いてきた。

「これなら、スカートめくるだけでパンツは見られずに済むね」

「ああうん、せやな………」

 頷きつつ、しかし俺は夢心地であった。

 先程のシチュエーションを説明しよう。

 一つ! いきなり迫ってくる神崎の端正な顔!

 二つ! 身長差ゆえしなだれかかるようにして密着する神崎の身体!

 三つ! ネクタイからさえ香ってくる神崎のいい匂い!

 三つ揃っちゃったもんだから俺のオーズもコンボ形態ですよ………。

 夢クリエイティブされた俺は呆然と現実を見失ってしまう。

 そんな俺の手を、神崎は取った。

「ほら、ここ」

 言ったと同時、手に触れたのは未知の布の感触。

「これがランジェリーってやつなのか………」

「今ここで助け呼んだら間宮くんどうなるかなぁ」

「すいません調子に乗りました」

 しかし、下着でないとなると、これがまさか………。

「どう? スカートの触れ心地は」

「………思ってたより、ひらひらしてる」

 何これすごい。

 下着の上これしか履いてないの?

 遊戯王だったら真炎の爆発で蘇生できるレベル。

 しかもこれ、人によっちゃ短くしたりするんだろ? 

 神崎だってそれなりに短いけど、クラスの女子とか普通にパンツ見えちゃったりしてるもんな。

 女子すげえ………オシャレへの執念すげえ………。

 いやいや待て待て。

「スカートの感想とかはまた今度にさせてもらう。今はそう、神崎のスカートをめくる時だ」

「うわぁ、キンクリしたい………」

「早く終わらせたいのは俺も同じだ。………ホントに悪い、神崎」

「………………めくるなら早くめくって」 

 声にいつもの余裕がない。

 当たり前だが負担がかかっているのだ。

 申し訳なくて死にそうになる。

 変態とはいえ俺とて紳士、女子が嫌がることはしないのが信条の一つ。

 ゲーム中のπタッチだって一日三回までと制限している俺がここまで迷惑をかけているのだ、早急に終わらせなければ。

「いくぞ………」

 震える手で、俺は右腕を上げ始めた。

「………っ」

「も、もうめくれたか?」

「ま、まだまだ………」

 神崎の呼吸が浅く荒くなっていくのを感じながら、それでも恐る恐る高度を上げていく。

「も、もうそろそろか?」

「まだ、半分も………」

 ………なんだろう、この背徳感。  

 なんか時折神崎が「ひっ」とか「うぅ」とか声漏らすせいで気が気でない。

 下手をすると変な気になってきそうな勢いだ。

 落ち着け間宮宗一、KOOLになれ。

 焦った時は素数を数えるんだ。

 1、3、5、7、9………。

 ガーッハッハッハッハ!

 奇数だこれ!

「ん………そろそろだよ、間宮くん」

「お、おお、そうか………」

 やっとか、結構かかったな。

 しかし腕の位置やたら高くないかこれ。 

 スカートめくりといってもせいせい腰くらいまでしか上げないし上げさせないと思うんだが………この位置だと控えめに見ても神崎がアッコさんばりの長身ってことになるんだけど大丈夫なのかこれ。神崎確か160cmくらいだったはずなんだが。

 まぁ当の神崎からは特に何も言ってこないし、深く考える必要もないだろう。妙に息上がってるような気がするけど。

「そ、そこまでっ」

 艶のある声と共に、俺の手からスカートの裾が離れる。

 同時、


 てれれれってってー


 と、間の抜けたSEが脳内に鳴り響き、更新されたステータス画面が表示された。

 ………ホントに、スカートめくりで”レベルアップ”しちまった……………。

 げんなりとする俺の視界が解放される。

 眼前、俺からネクタイを回収した神崎は緊張ゆえか上気した頬をそのままに、目を輝かせて俺の手を握る。

「間宮くん」

「おう………どうした神崎………」

「スカートめくり、意外といいものでした」

「痴女じゃないですかやだー………」

 俺のせいで親友が危ない。

 もしその道に走り出した時はお供してやるとしよう。や、ほら、親友だから! 放っておくとか友達失格じゃん!? 友情とか素敵やん?

「………間宮くん?」

 うん? と神崎は首を傾げ、俺の顔を覗き込んできた。

「なんか、落ち込んでる?」

「ああ、まあな………」

「………やっぱり、パンツ見たかった?」

 そう言ってちらりとチラリズムを御遊びになさる神崎様。

 胸はないのに太腿が妙に肉感的なんだよなこいつ………。

 あ、なんかちょっと元気出てきた。いや下半身がではなく。

 俺ってつくづくエロで生きてる日本人だな………。

「見たい、今すぐ見たい」

「そんなこゝろ風に言われても見せられないけど………大丈夫?」

 ………なんでスカートめくってきた男に心底心配できんのかね、こいつは。

 嬉しくて泣きそうになる。

「大丈夫だ。ただなんつうか、出鱈目って言葉の振り幅に驚いてただけだ」

 本心から心配は無用だと告げた。

 それを彼女はちゃんと受け取り、笑顔を見せてくれる。

「そっか。じゃあ、今日のパンツの色くらいはって思ったけどそれもいらないね」

「え、何土下座?」

「土下座は単位じゃないよ間宮くん」

 いつものように軽口を交わせば元通り。

 どんなに喧嘩しても最終的には仲直りできる。

 感謝の念! 抱かずにはいられないッ!

「………お」

 ふと、チャイムが鳴った。

 昼休みが終わる五分前を告げる予鈴だ。

「教室戻ろっか、間宮くん」

「ああ、俺トイレ寄ってくから先行っててくれ」

「大丈夫だよ、私もトイレ寄るから」

「旧校舎の女子トイレ、花子さん出るらしいぞ」

「やだなぁ間宮くんお化けがいるのは二次元だけだよ? それはそうとして私用事思い出したから先に新校舎戻るねグッナイ!」 

 言うが早いか、神崎は黒髪を振り乱しながら新校舎へと続く渡り廊下へと駆けていった。

 グロ系のゲームとか余裕なのになぜかお化けだけダメなんだよな、あいつ。

 さて、と。

 俺もトイレ行くか。

 廊下を歩みだした俺の脳裏で、声が響いた。

『ふむ………』

 落ち着いた声は、その声色だけで熟練の戦士を描き上げる。

 声の主はむぅと不満げな声を漏らしつつ、俺に言葉を投げかけてきた。

『女子に土下座で頼み込むというのは男子としてどうなんだ。仮にもお前はこの私、勇者ギルティアの後継しゃ』

「お前が神崎のスカートめくれっつったんだろうがあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」 

 間宮宗一、十六歳。

 錦戸学園高等部二年。

 現在、異世界の勇者ギルティアと同居中。

 そして、『貴重な経験』を糧としてレベルアップに勤しむ新人勇者なのであった。


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