Trade.9
「……長い回想終わり」
「あ、食べ終わった?」
リントが私に声をかける。
気がつくと、ミナトくんとミユも二回目のジェットコースターから帰って来ていた。
私がアイスを食べ終わるのを、待っててくれたみたい。
「あ、ごめんなさい」
「んーん、いーよいーよ!
ぼおーっとバニラアイス舐めてるユイも可愛かったよおー!」
いつもの三倍はテンションの高いミユ。
今日はいつもの制服姿ではなく、ピンクのミニワンピを着ていた。
女の私から見てもすごく可愛い。
「さーて、そろそろ行きますかっ」
「どこに?」
首をかしげると、リントがいたずらっぽく答えた。
「お化け屋敷。ホンモノ、出るって噂」
*
「いやあああああ!!」
「ぎゃあああああ!!」
「こわいよおおお!うわーん!こっち来ないでえええ!!!」
お化け屋敷に響き渡る声。
以上の叫びは、すべて須藤みゆきさん(15)のものである。
「こっちまできこえてくるよ、間隔結構あけて入ったのにさ」
「あの調子じゃ腰抜かしてヘタッてるかもね」
こちら、リント&ユイ ペア。
お化け屋敷に二手に別れて入ったのだけれど、先に入ったミナトくん&ミユ ペアのおかげで、というか泣き叫ぶミユのおかげで、お化けのひそむ位置が大体わかってしまう。
うん、全く怖くない。
とはいえ真っ暗だし、渡されたライトはひとつだけだから、私たちはピッタリくっついて手を繋いでいた。
こんなにリントと距離が近いのは、さすがに初めてだ。
お互いの息づかいを感じる。
話さなければ、心臓のドキドキまで伝わってしまいそうだ。
リントは、いい人。
たまにミユが羨ましくなるくらいだ。
優しくて、気をつかってくれて。
……あれ、私、誰と比べているんだろう。
「そろそろ、外出れるんじゃない?」
いつの間にか静かに黙っていたリントが立ち止まり、前の方を指差した。
確かに、かすかに光が見える。
「ほんとだ、やったね!あんまり怖くなか…」
すこし顔を仰向けて、リントの顔を見ようとした、そのときだった。
私の言葉をさえぎるようにして、
私の頭の後ろに手を回して。
リントが、
私に、
キスをした。
*
「うわあああんユイいいいい!!」
お化け屋敷を出ると、私めがけてミユが抱きついてきた。
せっかくのメイクも台無しだけど、ミユの泣き顔は赤ちゃんみたいに可愛かった。
「こっちまで声、きこえたんだけどー」
「すごい声だったよな」
リントとミナトくんが笑いながら話しているのを背に、私はミユが泣き止むまでその頭を撫で続けた。
*
帰りの電車のなか。
無意識に唇に手をやっていた。
あれから私は平常心を保つのに必死で。
どうして?なんで?
『恋人トレード』は遊びなのに?
リントはなんで私にキスをしたの?
唇が触れ合った瞬間、
「違う」と思った。
まとう香りが、違った。
味も違う。
あんなに苦いキスは初めてだった。
舌の痺れは、いつまでも残っている気がした。
結局私はその日、最後まで誰の顔もマトモに見れなかった。




