Trade.5
「それで、何部にするんだ?」
マキ先生がふと顔をあげた。
あ。
何にも考えてなかった。
肝心の、部活動の内容を決めていなかった。
「週1でダベるだけの部活がいーでーす」
はいはーい、と手を挙げたのはリント。
「ちょっとリント!
でもまあ、あたしもバイトあるし。
そんなにガッツリは参加できないから、ゆる〜い感じがいいかも」
ミユが唇に手を当てて同意する。
「俺も他の部活の手伝いで忙しいから、それでいい」
ミナトくんに続けて、私も口を開いた。
「私も、週に何度か部室で楽しくお喋りとかできたらなって」
「でもそれだと、申請許可が降りないぞ。大体それ、何部だよ」
おお、マキ先生が今日初めてマトモなことを言っている。
うーーーん。
「よし、こうしよう。
部活名は、恋愛科学部」
「「「「は?」」」」
おお、キレイにハモった。
マキ先生、貴方は何を言っているの?
「いいか。
生きづらいこの時代。
俺たちが生きぬく上で、
1番大事なものは何か?」
ぽかんとしている私たちに構わず、先生はズビシ、と人差し指を突きつける。
「金か?
仕事か?
地位か?
名誉か?
いや、そうじゃない。
そんなセコいもんじゃない。
大事なのは……」
マキ先生はそこで口を切り、私たちの顔を見渡した。
「コミュ力だ」
「コ、コミュりょく……」
「そうだ、コミュニケーション能力だ。
どれだけ人の心を掴めるか?
それがカギなんだ。
コミュ力こそが社会をつくる」
「はあ……」
「お前らは高校一年生だが、これからどんどんいろんな人に出会う。交際の範囲は広くなるだろう。そこで役立つのがコミュ力。それを恋愛科学部で鍛えるんだよ」
「なんでコミュニケーションが恋愛関係限定なんだよ」
このホスト教師、リントの的確なツッコミも涼しい顔でスルーである。
「それで、恋愛科学部は具体的に何をするんですか」
「簡単なことだ。
恋愛を科学するんだよ。
恋とは何か?
相手との付き合い方は?
どうすれば上手く恋愛できるのか?」
マキ先生はニヤリと笑う。
そんな顔も無駄にセクシーだ。
「お前らは、それぞれ付き合ってるんだろ?
ふた組のカップルが、部活の間は一部屋で過ごすわけだ。
ここで実験だ。
お互いの恋人を交換してみたら、一体なにが起こるのか?
恋愛科学部、今月の課題は『恋人トレード』!」
*
「結局恋愛科学部になるなんて」
学校からの帰り道。
私は肩を落とした。
マキ先生に言いくるめられた形で、私達は恋愛科学部に入部することになった。
「ワケガワカラナイヨ……」
「ユイ、宇宙人になってる」
隣を歩くミユが困ったように眉を下げた。
男子二人は部の代表者として書類を出しに行くから、私たちは先に帰らせてもらったのだ。
マキ先生の「恋人交換」発言。
ありえない、と私は思った。
同意する人なんて絶対いないだろうと。
だけど。
「いいかもな」
「うん、いいかも」
「やってみよう」
なんと、私以外の人はみんな乗り気だったのだ。
ノリが悪いと思われるのもイヤで、私も渋々頷いた。
「ずーっと取り替えっこするわけじゃないよね?」
「もちろん。期間は一ヶ月。
その後、簡単なレポートにして俺に提出だ」
「げっ!」
レポートときいてリントはイヤな顔をしたけれど、ミユに睨まれて慌ててふつうの顔に戻った。
その後、みんなで話し合って決めたこと。
「恋人トレード(交換)」は学校にいる間だけ。
手をつなぐのはOK。
ただしキスはしない。
部員以外には、秘密にする。
「遊びとはいえ王子様と付き合えるー♪」
ミユはそんなふうに浮かれていて。私も楽しみなフリをした。
けれど。
辛くないの?
さみしくないの?
私が、他の男の子の隣にいるんだよ。
ミナトくんは、他の女の子にその優しい目を向けるの?
ミナトくん。
私は貴方がわからない。
「いやになっちゃったのかな、私のこと」
曲がり角でミユと別れて、家まで走った。
自分の部屋の中でひとり呟いて。
一ヶ月だけの、ガマンだ。
私はポスっと枕に顔を埋めた。




