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恋愛トレード  作者: yuri
3/14

Trade.3

「はあー……」

「あー、ユイちゃん、しあわせ逃げるよー」


ユイちゃん、と呼んだのは、クラスメイトのリント。

にへら、と人懐こい笑みを浮かべている。


「ミユのやつ、こんな美人と仲良くなったのかよー。ズルい。オレにも紹介しろ。

あ、オレ、リント。

リンちゃんって呼んでー」


中島倫人。

ミユの幼なじみで彼氏、と紹介された。

脱色しすぎて傷んだ金髪は、ライオンのたてがみみたいにキラキラしてる。

でも、ちっとも迫力がない。

どっちかというと、ダンデライオン。

タンポポだ。


ちょっと垂れ目で、童顔。でも、背は高め。

語尾をのばしたしゃべり方。

ミユが柴犬なら、この子は気儘な大型犬かなあ。

入学したばかりなのに、さっそく制服を着崩している。

一言で言うと。


……チャラい。


「あーもう。

リント、ユイこわがってんじゃん!

ごめんねユイ、こいつこんなんだけど、すごいいいやつだから!

友達になってあげてー!」


「うん、もちろん。

椎本ユイです。

ユイって呼んでね。

よろしくね、リンちゃん」


「あー、ムリにちゃん付けしなくていーよユイ?ぜんっぜん流行ってないから」


「ミユおまえ、余計なことを!」


じゃれあう二人はすでに、B組の名物カップルだ。

なんていうか、ほほえましい。

私はクラスではミユとリント、三人でいることが多くなった。


で、冒頭にもどる。


今はランチタイム。

天気がいいから中庭で食べよう、とミユが言い出したので、三人でお弁当を広げていた。

リントは購買のパンだったけどね。

溜息を吐いた私の顔を、ミユとリントがのぞきこんだ。


「んー?どしたのユイ」

「嫌いなもん食った?」

「あ、ううん、ちがうの。

あのね、ふたりはもう部活決めた?」


昨日の帰り、ミナトくんに言われるまで、私は部活のことを忘れていた。

明日までに、入部届けを提出しなきゃいけないんだ。


「んん、私はまだ」

「オレも。てか、入部って絶対だっけ」

「今年から、高等部も部活入部必須になったっぽい」

「マジかー」


よかった。二人ともまだ決めてないらしい。

というか。


「ミユとリント、中学は何部だったの?」

「あたしは体操部。

けっこうマジメにやってたけど、高校生になったらバイトとかやりたいし、体操はキツイかなー」

「オレ、たぶん英会話部?」

「いや、なんではっきりしないの?」

「サボれればどこでも良かったっつーか……ユーレイだったんだよね」

「英会話部ってほとんど活動なかったんだよね」


確かにリントは部活とかマジメにやりそうもないなあ。

うんうん、と納得。


「ユイは?」


リントが訊いてきた。


「……テニス部」

「へー、似合いそう。

いや、意外かなー。

ユイちゃん色めっちゃ白いし」

「……リントっ」


ミユがすこし焦ったようにリントの袖をつかんだ。


やっぱり、ミユは『あのこと』を知ってるみたい。

そりゃそうだよね。

テニス部で、去年起きた事件。

けっこう噂になった。


「いーよ、ミユ。

ありがと。

リントには知っといてほしいから、私から話すよ」

「ユイ、ムリしないで……」


ミユは大きな瞳をうるませている。リントがあせったように、私たちを見つめる。


「え、なに。ゴメン!

オレ……」

「いーよリント、友達になったし、隠し事してるみたいになったらイヤだから、ちょっと話きいてくれないかな?」

「うん。オレでいいなら」


私はギュッと手を握った。


「私、さっきも言ったように、中等部ではテニス部だったの。

二年生まではうまくいってた。

ゴタゴタもあったけど、テニス好きだったし、友達もたくさんいて。

だけど、中三になって、私がミナトくん……高柳湊くんと付き合い始めたら、ちょっと状況が変わってきて」

「あたしも詳しくはわかんないんだけど、同じクラスのテニス部の子が話してるのきいちゃって」

「女テニ多かったもんな、お前のクラス」

「うん。リントのクラスあんまテニス部の子いなかったよね。まあリント、男だし、女子部の話題は知らなくてもムリないよ」


リントとミユ、中3の時はクラスが違ったらしい。

私は話を続けた。


「私のクラスも女テニの子、多くて。そのとき部長だった子も同じクラスだったの。

一緒にいるグループは違ったけど、まあ普通に話せる感じだった。

でもその子、一年の頃からずっとミナトくんのこと好きだったみたい」

「あー……」

「それからは、ちょっとずつ無視とか、コソコソいやがらせ。

へんな噂流されたり。

ラケット隠されたこともあったな。

私が仲良くしてた子も、なんかよそよそしくなって。

あとできいたら、部長が、『言うこときかないと次はあんただからね』っておどしてたみたい」

「……ひでーな」

「心配かけたくなくて、ミナトくんには黙ってたの。

結局バレて、めちゃくちゃ怒られたけど。

それから嫌がらせはピタッと止まったし、ふつうに過ごせるようになったけど、やっぱり、前と同じようにはいかないよね。

部活もいやになっちゃって。

高等部も、テニス部は中学からの持ち上がりの子が多いから、テニス部はやめときたいんだよね」

「なるほどね」

「完全に嫉妬だよね。

なんか、ユイ、見た目大人だし超キレイだからさ。

すごく冷たくて意地悪で、王子様を騙して手に入れたとか、噂流されて、結構信じちゃった子もいたみたい。

でも話してみるとぜんっぜん違う!ちょーいいこ!」


ミユはガバッと私に抱きついた。


「ありがとー。ミユ大好き」

「!!あたしもっ!」

「オレもっ!」

「こら、ドサクサにまぎれてノッてくんな!男は抱きつき禁止っ!」


私は笑った。ふたりの優しさが嬉しくて。


「じゃあさっ!」

空気を変えるように、ポンと手を打つミユ。


「部活つくろ?」

「へ?そんなことできるの?」

「うんうん、今ガッコーのサイト見たらね、部員四人以上で、顧問のセンセー見つけて推薦してもらって、申請?すればいいっぽいよ!」

「おー、いーねえ」


リントもにへら、と顔を崩す。

じんわり、胸にあたたかさが広がった。

あ、泣きそうかも。


「ほら、このページ」


ミユが、派手めにデコられたスマホを取り出して、画面を見せてくれた。

あ、ミユ、ネイルも変えたんだ。

ミユにしては大人しめなピンクのネイル。

押し花っぽい桜が指先に咲いている。


「ユイと、リントと、あたし。

あとひとりは王子でいーじゃん?

あたし、王子と話してみたかったんだあ」

「ん、たのんでみる」


私も自分のスマホを取り出して、ミナトくんにメッセージを送った。


『ミナトくん、今大丈夫かな。

部活のことでちょっとお願いがあるんだけど』

「ユイと、リントと、あたし。

あとひとりは王子でいーじゃん?

あたし、王子と話してみたかったんだあ」

「ん、たのんでみる」


私も自分のスマホを取り出して、ミナトくんにメッセージを送った。


『ミナトくん、今大丈夫かな。

部活のことでちょっとお願いがあるんだけど』きた。

場所をいうと、『了解』のスタンプが送られてきた。


「ミナトくん、来るって」

「マジ?きゃー、王子と初会話?的な?

てかすぐ来てくれるとか、めっちゃ愛されてんじゃん!

あーもうユイ、羨ましーな、彼氏ちょー優しくてさあ」

「オレも優しいだろ」

「えー、そーかなー?あ、こら、髪ひっぱんないでよ!」

「よーしよしよし!」

「ぎゃー、朝四十分かけて巻いた髪がー!!」


……うん、ふたりの方がらぶらぶだと思います。

私は遠い目をして、じゃれあうリントとミユを見ていた。


そのとき。


「お待たせ」


ミナトくんの声がして、後ろからぽんと頭に手を置かれたのがわかった。

ミナトくん、足も早いよね。




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