Trade.3
「はあー……」
「あー、ユイちゃん、しあわせ逃げるよー」
ユイちゃん、と呼んだのは、クラスメイトのリント。
にへら、と人懐こい笑みを浮かべている。
「ミユのやつ、こんな美人と仲良くなったのかよー。ズルい。オレにも紹介しろ。
あ、オレ、リント。
リンちゃんって呼んでー」
中島倫人。
ミユの幼なじみで彼氏、と紹介された。
脱色しすぎて傷んだ金髪は、ライオンのたてがみみたいにキラキラしてる。
でも、ちっとも迫力がない。
どっちかというと、ダンデライオン。
タンポポだ。
ちょっと垂れ目で、童顔。でも、背は高め。
語尾をのばしたしゃべり方。
ミユが柴犬なら、この子は気儘な大型犬かなあ。
入学したばかりなのに、さっそく制服を着崩している。
一言で言うと。
……チャラい。
「あーもう。
リント、ユイこわがってんじゃん!
ごめんねユイ、こいつこんなんだけど、すごいいいやつだから!
友達になってあげてー!」
「うん、もちろん。
椎本ユイです。
ユイって呼んでね。
よろしくね、リンちゃん」
「あー、ムリにちゃん付けしなくていーよユイ?ぜんっぜん流行ってないから」
「ミユおまえ、余計なことを!」
じゃれあう二人はすでに、B組の名物カップルだ。
なんていうか、ほほえましい。
私はクラスではミユとリント、三人でいることが多くなった。
で、冒頭にもどる。
今はランチタイム。
天気がいいから中庭で食べよう、とミユが言い出したので、三人でお弁当を広げていた。
リントは購買のパンだったけどね。
溜息を吐いた私の顔を、ミユとリントがのぞきこんだ。
「んー?どしたのユイ」
「嫌いなもん食った?」
「あ、ううん、ちがうの。
あのね、ふたりはもう部活決めた?」
昨日の帰り、ミナトくんに言われるまで、私は部活のことを忘れていた。
明日までに、入部届けを提出しなきゃいけないんだ。
「んん、私はまだ」
「オレも。てか、入部って絶対だっけ」
「今年から、高等部も部活入部必須になったっぽい」
「マジかー」
よかった。二人ともまだ決めてないらしい。
というか。
「ミユとリント、中学は何部だったの?」
「あたしは体操部。
けっこうマジメにやってたけど、高校生になったらバイトとかやりたいし、体操はキツイかなー」
「オレ、たぶん英会話部?」
「いや、なんではっきりしないの?」
「サボれればどこでも良かったっつーか……ユーレイだったんだよね」
「英会話部ってほとんど活動なかったんだよね」
確かにリントは部活とかマジメにやりそうもないなあ。
うんうん、と納得。
「ユイは?」
リントが訊いてきた。
「……テニス部」
「へー、似合いそう。
いや、意外かなー。
ユイちゃん色めっちゃ白いし」
「……リントっ」
ミユがすこし焦ったようにリントの袖をつかんだ。
やっぱり、ミユは『あのこと』を知ってるみたい。
そりゃそうだよね。
テニス部で、去年起きた事件。
けっこう噂になった。
「いーよ、ミユ。
ありがと。
リントには知っといてほしいから、私から話すよ」
「ユイ、ムリしないで……」
ミユは大きな瞳をうるませている。リントがあせったように、私たちを見つめる。
「え、なに。ゴメン!
オレ……」
「いーよリント、友達になったし、隠し事してるみたいになったらイヤだから、ちょっと話きいてくれないかな?」
「うん。オレでいいなら」
私はギュッと手を握った。
「私、さっきも言ったように、中等部ではテニス部だったの。
二年生まではうまくいってた。
ゴタゴタもあったけど、テニス好きだったし、友達もたくさんいて。
だけど、中三になって、私がミナトくん……高柳湊くんと付き合い始めたら、ちょっと状況が変わってきて」
「あたしも詳しくはわかんないんだけど、同じクラスのテニス部の子が話してるのきいちゃって」
「女テニ多かったもんな、お前のクラス」
「うん。リントのクラスあんまテニス部の子いなかったよね。まあリント、男だし、女子部の話題は知らなくてもムリないよ」
リントとミユ、中3の時はクラスが違ったらしい。
私は話を続けた。
「私のクラスも女テニの子、多くて。そのとき部長だった子も同じクラスだったの。
一緒にいるグループは違ったけど、まあ普通に話せる感じだった。
でもその子、一年の頃からずっとミナトくんのこと好きだったみたい」
「あー……」
「それからは、ちょっとずつ無視とか、コソコソいやがらせ。
へんな噂流されたり。
ラケット隠されたこともあったな。
私が仲良くしてた子も、なんかよそよそしくなって。
あとできいたら、部長が、『言うこときかないと次はあんただからね』っておどしてたみたい」
「……ひでーな」
「心配かけたくなくて、ミナトくんには黙ってたの。
結局バレて、めちゃくちゃ怒られたけど。
それから嫌がらせはピタッと止まったし、ふつうに過ごせるようになったけど、やっぱり、前と同じようにはいかないよね。
部活もいやになっちゃって。
高等部も、テニス部は中学からの持ち上がりの子が多いから、テニス部はやめときたいんだよね」
「なるほどね」
「完全に嫉妬だよね。
なんか、ユイ、見た目大人だし超キレイだからさ。
すごく冷たくて意地悪で、王子様を騙して手に入れたとか、噂流されて、結構信じちゃった子もいたみたい。
でも話してみるとぜんっぜん違う!ちょーいいこ!」
ミユはガバッと私に抱きついた。
「ありがとー。ミユ大好き」
「!!あたしもっ!」
「オレもっ!」
「こら、ドサクサにまぎれてノッてくんな!男は抱きつき禁止っ!」
私は笑った。ふたりの優しさが嬉しくて。
「じゃあさっ!」
空気を変えるように、ポンと手を打つミユ。
「部活つくろ?」
「へ?そんなことできるの?」
「うんうん、今ガッコーのサイト見たらね、部員四人以上で、顧問のセンセー見つけて推薦してもらって、申請?すればいいっぽいよ!」
「おー、いーねえ」
リントもにへら、と顔を崩す。
じんわり、胸にあたたかさが広がった。
あ、泣きそうかも。
「ほら、このページ」
ミユが、派手めにデコられたスマホを取り出して、画面を見せてくれた。
あ、ミユ、ネイルも変えたんだ。
ミユにしては大人しめなピンクのネイル。
押し花っぽい桜が指先に咲いている。
「ユイと、リントと、あたし。
あとひとりは王子でいーじゃん?
あたし、王子と話してみたかったんだあ」
「ん、たのんでみる」
私も自分のスマホを取り出して、ミナトくんにメッセージを送った。
『ミナトくん、今大丈夫かな。
部活のことでちょっとお願いがあるんだけど』
「ユイと、リントと、あたし。
あとひとりは王子でいーじゃん?
あたし、王子と話してみたかったんだあ」
「ん、たのんでみる」
私も自分のスマホを取り出して、ミナトくんにメッセージを送った。
『ミナトくん、今大丈夫かな。
部活のことでちょっとお願いがあるんだけど』きた。
場所をいうと、『了解』のスタンプが送られてきた。
「ミナトくん、来るって」
「マジ?きゃー、王子と初会話?的な?
てかすぐ来てくれるとか、めっちゃ愛されてんじゃん!
あーもうユイ、羨ましーな、彼氏ちょー優しくてさあ」
「オレも優しいだろ」
「えー、そーかなー?あ、こら、髪ひっぱんないでよ!」
「よーしよしよし!」
「ぎゃー、朝四十分かけて巻いた髪がー!!」
……うん、ふたりの方がらぶらぶだと思います。
私は遠い目をして、じゃれあうリントとミユを見ていた。
そのとき。
「お待たせ」
ミナトくんの声がして、後ろからぽんと頭に手を置かれたのがわかった。
ミナトくん、足も早いよね。




